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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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◇風雲の章◇

 
風雲 1
旅人

 
 独自にコンロンを目指していた者たちもいる。
 教導団の前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)は、以前の戦いでの己の力不足を感じ、シャンバラ大荒野で一人、修練を行っていたのだ。
「俺はまだまだ強くなる……!」
 そんな折、荒野を来たというある流れの医者に、教導団がコンロンへ出向くという噂を聞いた。第四師団か、今度はコンロンへ……
「行くか」
 風次郎は、荒野の北を向く。
「大和」
 と、呼びかける。
「ふむ……」
 髭に手をあて、何をか思っているのか。腰まである長い白髪に、黒の作務衣が特徴の、初老の男。

 当世具足 大和(とうせいぐそく・やまと)の姿が、風次郎の後ろにあった。
 彼も、同じく北を向き、
「面白そうですな」
 とだけ呟いた。風次郎も大和も、戦いをすでに予感しているかのようだ。大和が面白そうだと言ったのも、戦いへの希求があるから。
 二人はゆっくりと歩き出した。
 

 
 荒野を流れてきたというある十七世紀仏蘭西騎士に、教導団がコンロンへ出向くという噂を聞いた。
 教導団……
 教導団が憎いって訳じゃねえ。
 と、彼は思う。
 だが、奴らがパラ実にキツイのは痛いほどよくわかってる。
 ――波羅蜜多実業高等学校所属、夢野 久(ゆめの・ひさし)
 パラ実研究家(※田中さん)とやらの言葉によりゃ、コンロンにだってパラ実はいるんだ。つーかドージェが修行してた煽りで寧ろ多い位なんじゃねのか。そいつらが、後から来た教導団の奴らにいびられてでかい顔されるってのは良い気分じゃねえ。
 久は、コンロン行きを決心した。
 このことを、同じパラ実である国頭武尊やナガン等一部の仲間とも話した。皆、久の話した内容に関心があり、それが是非叶えばとパラ実生なりの願いを持った。
 久は同じく不良ども勧誘するつもりだと言い、国頭も手勢を集める、と言っていた。ナガンはナガンのやり方でいくとだけ言っていた。
 国頭とはその後、会ってない。まだ、相当数の手勢を集めているのかもしれない。
 しかし、パラ実同士またきっとコンロンで会えるんじゃねえか、久は思い、準備もそこそこに整うと、パートナーを引き連れ出発したのであった。
「勧誘は道すがらやってきゃいいぜ」
「勧誘勧誘〜♪ 頑張るわよ☆」
 張り切っているのは、ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)
「パラ実生は基本単純だし、私の魅力で魅了するのがいちばん効果的よね?
 もちろん、性的な意味で!」
 おっぱいとおしりを突き出しながらルルールは(キリッ)と言ってみせた。
 いきなりの言動に繰り出された久の蹴りをヒョイと交わして、
「うふふふ〜私だってこんなことはしたくないけど、目的のためにはしょうがないのよ〜。
 ああ、なんて尊い自己犠牲」
 うふふふ、と超嬉しそう、なのである。
「うお」「!」
 いきなり、パラ実どもが寄ってきた。
「……」「♪」
 いちばん効果アリか。ルルールは自身の魅力に大得意となり、早速勧誘を始めるのであった。
「むう」
「いいんじゃない? この調子で、コンロンまで行けるといいね」
 こちらは生前、浮世絵師の英霊である佐野 豊実(さの・とよみ)
「そうだな。まずはコンロンへ行かにゃならん」
 ルルールの頭のなかはわからないものの、久と豊実は、今回のコンロン行きに彼らなりの意志を持ち、互いにそのことは確認し合っていた。
 エリュシオンのことだ。口に出しては言わねえが、……
 ともかく。豊美によれば、西シャンバラ側である教導団がエリュシオン帝国の間近に軍備を置くなんて……そりゃ教導団の今後の戦略的に有益と踏んでいるのかも知れないけど、刺激するにも程がある、と。だけど、帝国に恭順を示している東側のパラ実勢力がその間に入る、というふうに考えるなら、……
「いや、今は全ては語らなくていいぜ」
「……そうね。そうかもしれない」
 国頭や、ナガンらも、その内心まではわからない。本気で、教導が憎いだけ、かも知れない。ただ、目的は一致している。ひとまずはそれでいいんじゃないか、と久は思う。まずは俺たちパラ実同士、でっかいことがやれればいい。というのでもいいんじゃないか。思惑がそれぞれに違っていたとしても……
「教導とは場合によっては拳で語らなけりゃならなくなるかもしれんが、それも先を見据えてのこと。
 ただ、喧嘩をしにいくというつもりじゃあないぜ」
「ええ……ところで」
 ルルールのいきなりモザイクな勧誘行為がまだ続いていた。
「コンロンの情報ね、教えてくれた子には、何でもしてあ・げ・ちゃ・う・ぞ☆」
「……いや、まだここでコンロンの情報は早いだろ。って聞いてねえな。
 とりあえず、おかげである程度数は集まりそうだぜ」
 

 
 再び、荒野を行く風次郎と大和である。
 互いに、私服なので、教導団ということはまったくわからない(風次郎はこれまでの戦いぶりから武士や侍を連想するかもしれないが、割と現代的なファッションなのである。そして大和は作務衣)。
 口数少ない二人であったが、大和の方は、風次郎に関心をいだいている。
 彼が契約を結んだのは、――
 そう。自らに相応しい者を探し彷徨っていた。一心に、自己鍛錬するその男に勝負を挑むも、組み伏せられ、付いていくことを決意したのだ。
 ――彼のその強さに惹かれた点が大きいのだが、縁を感じている。
 一方の風次郎の方は、挑みかかってきたこの大和に敵対心こそいだいてないものの、まだ完全には警戒を解いていない。まして、信頼もしていないのである。契約したのは……彼もまた、縁を感じたから。ただそれだけ。
 大和はなかなか切り出せないでいるが、
「何だ。何か……」
 風次郎の方はそれを察してか、問いかけてみる。
「そうですな、風次郎殿、おぬしは何ゆえ強さを求めようと」
「……己にまだまだ、足りないものを感じている」
「ふむ。……」
 風次郎は決して大和に心を許す気配はなかった。
 が、この二人も互いに契約を交わした者。
 ふと辺りに、荒々しい殺気が満ちる。そう言えばそろそろ、国境に近いか。
「……ただのチンピラなら俺たちに構うのはよした方がいい」
「ひゃっひゃっはぁ」「あぁぁ〜ん?」「ははははーんん」
 ちっ。言ってもわかるようなやつらじゃなさそうだな。風次郎は雅刀の柄に手をかける。
 大和は、武器をとる気配もない。
「風次郎殿?」
「いや、こんなモブ相手にはおまえを纏う必要はない」
「ふむ……」
 蛮族どもが飛びかかってくる。風次郎は、刀を抜くのもやめて、ドラゴンアーツで二人いっぺんにふっ飛ばす。
 大和も、先の先であっけなく相手を倒した。
「やるな」
「ふむ。このようなところでしょうか。しかし」
 まだ、蛮族が十、二十と周囲に寄ってき始めていた。
「待て、おまえら。こんなところで目的もなく戦っていても仕方ねえぜ!」
 誰かがとめに入る。
 その男も、パラ実生のようであった。
「いいか、教導団の奴らが幅利かせに来てる。あいつら組織だから流石に多勢に無勢だ。固まろうぜ」
 夢野久である。
 誘い文句としちゃシンプルにこんなところでいいだろ。難しいこと言ってもわからねえだろうしな。主に俺が。
 などと思っていた久だが、パラ実の仲間と言え相手は支流域に住む蛮族のようなので、これでもなかなか通じないらしい。「く、おい、分かれよ!」
 ルルールの出番だ。「何でもしてあ・げ・ちゃ・う・ぞ☆」
 効いた!
「む、むう……
 ところで、おまえら、……? 教導団、ではない。旅人か。コンロンへ行くのか」
 久は、風次郎らに問う。
「ああ」
「教導団の奴らは、見かけなかったか」
「……」
 風次郎は一瞬相手の心を探るような目で、見返した。
「わからんな。もう先へ行ったのかもしれないし、まだ来ていないのかもしれない」
「そうか。それじゃあ、な」
「ああ、礼を言っておこう」
 風次郎は大和と、歩き出す。このまま行けば、コンロンに着くだろう。ただ、それからどうするか。おそらく、戦いのある場所へ赴く、のであろう。
 久は、実は以前にコンロンを訪れている。ミツエのメル友(とはドージェだった訳だが)を倒しに、とある寺院まで行ったことがあるのだ。今回もひとまず、そのルートを辿るつもりでいた。