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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

リアクション

「本当はどんな意図で、混浴などと言ったのか……」
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が、パートナーイングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)と共に、外で作ったテーブルをゼスタ達がいる部屋へと運び込んでくる。
「やる気にさせるため。何も嘘はついてない」
 ゼスタはそう答えた。
「今日はここと周辺の整備で終わりそうだが、訓練はどのような訓練を行うつもりだろうか。自分も加わりたいのだが」
「基礎訓練は主に体操とランニング。希望ごとに、魔術、魔法考古学、応急処置の講義を受けることが可能だ。あとは、戦闘訓練なんかも希望者がいたら、な。後期は演習もやってみたいが、反発が出るだろうからこの合宿では出来ないだろうなー。遊び半分でやるのなら、やらない方がマシだ」
 ゼスタは目を軽く光らせた。
「ま、様子をみて検討していくつもりだ」
 そして、彼はにやりと笑みを浮かべる。
 東側の実力を見たいと思ってた玲だが、状況を見るに、戦闘要員の合宿ではなく、一般学生の心身を鍛えるための合宿のようだった。
 ただ、近くに盗賊のアジトがあるという噂もあり、そちらの対処に動いている者達は、戦士としての自覚があるかもしれないが。
「では、整備が終わったらそれがしも訓練に加わらせてもらおう」
 玲としても東側の契約者達の戦闘能力だけが知りたかったわけではないので、料理や探索といった実習にも積極的に参加していくつもりだった。
「怪しい人物がいないかどうかも、気をつけておこう」
「ああ、頼むよ。危機感が薄そうな奴等多いしな」
 玲とイングリッドにゼスタはそう答えた。それからこう問う。
「ロイヤルガードのメンバーや、目指す奴等は盗賊のアジトを探しに出てる。神楽崎が言うには訓練の一環のようだ。こっちに加わるのもアリだと思うが?」
「……いや、今日は一般の契約者達の方にいるとするよ」
「我輩もだ」
 玲とイングリッドは少し考えるも、設備が整うまでは、こちら方面に力を貸すことにした。

「鈴子ちゃん、こっちは大丈夫だよ。皆頑張ってる! ライナちゃんも皆のお手伝いとっても頑張ってるよー。……え? ミルミはあまりやることない、かな。ほら、見回りとか、シドウとか必要だからねっ! 虫が怖いわけじゃないよ」
 テントの中で、ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)が、パートナーの桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)に電話をかけている。
 そのミルミの腕をくいっと引っ張って、リナリエッタは笑みを浮かべて自分を指差した。
「あ、リナリエッタお姉様がね、今日は一緒に休んでくれるの! 鈴子ちゃんのことも心配してたよ? ……うん、伝えておくね。それじゃまた後でね!」
 長電話を終えて、ミルミが終話ボタンを押す。
「鈴子ちゃん特に忙しくはないみたい。でも、いつ何が起こるかわからないから、こっちには来られないみたいだよ?」
「それは残念だわぁ。合宿所が綺麗になって、温泉も入れるようになったらぁ、休みに来られればいいのにねぇ」
「うん、そだね……。皆で一緒に温泉入ったり、一緒に眠ったりしたいなあ……。ミルミ、最近鈴子ちゃんとお泊まりしたことないしね。ライナちゃんはよく一緒に寝たりしてるみたいだけどね! あ、ミルミは子供じゃないから、そういうことする必要はないんだけどね、うん」
「今晩は私も傍にいるわよぉ」
 ミルミはわがままを言い、自分達用の頑丈なテントを建ててもらったのだ。
 今晩はこのテントで、ライナとリナリエッタと休むことになっている。
「ありがとっ。でも、こんなところで眠るの嫌だなぁ。ミルミ、わがままだから、合宿行けって生徒会に言われたんだろうな。……わがままとかってさ、我慢して我慢して我慢すれば直るのかな。苦しいだけじゃ、ないのかなあ」
「ライナちゃんの前ではあまりわがまま言ってないんじゃなあい? わがまま言える人が傍にいるから、わがままなのよぉ〜」
「そっかあ……。それじゃ、やっぱり我慢して混浴温泉も裸で入るべきかなあ」
 ふうとミルミは大きくため息をついた。
「それは我慢しなくてもいいかも〜?」
 リナリエッタはいつもと同じようににやにやと笑みを浮かべている。

〇     〇     〇


「人数的には大量に欲しいところだから、巨獣がいればありがたいんだが……」
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、魔鎧のルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)を纏い、ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)と共に、レッサーワイバーンに乗って、辺りを見回していた。
 シャンバラ大荒野にいるといわれている巨獣がこの辺りにもいないかと思ったが、今のところ特別大きな獣は見かけていない。
「となると、数を狩るしかないか」
 自分達だけの分と考えても、ワイバーンに食べさせる肉も欲しいから。
「ウィング、猪の群れだ」
 ルータリアが、泉の傍に猪の姿を発見する。
「10頭くらいか。全ていただこう」
 即座に接近し、付近でウィングとファティはワイバーンから飛び降りる。
 そして、別の方向から猪に近づく。
「意外と大きい」
 体格が良く、体重はファティの2倍は軽く超えていると思われる。
 ウィングは泉の西側、ファティは東側、ワイバーンが北側から猪へと接近する。
 仕掛けるより早く、猪達は人間の匂いに気付き、その場を離れようとする。
「逃がすなよ」
 言った途端、ウィングはアウタナの戦輪を2つ、猪に投げつける。
 直撃を受けた猪が2頭、その場に倒れた。
 落ちるチャクラムの軌道を、ウィングはサイコキネシスで変える。
 自分自身は光条兵器を手に、群れに駆け込んで、猪を斬り倒していく。
「右前方、逃走する猪2頭!」
 ルータリアが声を上げる。
「お任せ下さい!」
 ファティが矢を放って、猪の足を傷つけ、倒す。
 もう1匹の前には、ワイバーンが飛び出す。猪が進路を変えようとしたところにウィングが飛び込んで、背を光条兵器で斬り割いた。
 軌道を変えたチャクラムも、更に2頭の猪にダメージを与る。
「逃がしませんわ」
 ファティはサンダーブラストを放ち、逃げようとする猪の行く手を阻む。
 こちらに向かってくる猪は、まず目を射抜き、続いて急所を狙って仕留める。
「あと2頭……っ」
 ウィングは更に、チャクラムを操り、猪を打った後。
 光条兵器で次々に止めを刺していく。
「……運ぶのが大変そうだ。応援を呼ぶかの」
 ルータリアが、倒れた猪12頭を見てそう言った。
「そうだな。しかし、これだけあれば、しばらく肉には困らないが」
「猪だけでは飽きそうですよね」
 ウィングとファティは武器を下ろしながら軽く笑いあう。
 それから、可能なだけワイバーンの身体に猪を乗せていく。
 自分達は歩いて一旦合宿所に戻り、応援を呼んだのだった。

〇     〇     〇


「雲海では雲魚が釣れたけど、ここではどうかな?」
「肉体労働は好かんのじゃが、釣りは別じゃの。面白かったしのう」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、ミア・マハ(みあ・まは)と一緒に、川に釣りに来ていた。
「ミアとどっちが多く釣れるか競争だよ! 少なかった方が合宿所までの荷物持ちだからね」
「良い度胸じゃ。前回妾の方が大物を釣ったのを忘れたのかえ?」
「ここには大物はいなそうだから、数で勝負だね!」
 Tシャツに迷彩柄のレギンスといった格好のレキは、膝までレギンスを捲くると、迷わず川の中へと入った。
「女の子は足を冷やしたらいかんのじゃぞ〜。妾はここからのんびり楽しませてもらおうかの」
 ミアはちょうど良い大きさの岩を見つけると、腰掛けて、川の中に釣り糸を垂らしていく。
「慣れれば冷たいのなんて平気平気〜」
 レキは疑似餌をつけた糸を、魚が見えた場所へ垂らして動かしていく。まるで本物の小魚が動いているかのように。
「……おおっ!?」
 かなり早いタイミングで、レキの疑似餌に魚が食いついてきた。
「なんじゃ、もうか? 負けてられんの」
 ミアも意気込んでいくが、意気込んでも魚は寄ってはこない。
「やった!」
 魚の動きを見ながら、上手く竿を動かし手繰り寄せ、レキは見事1匹目を釣り上げた。
「ちっちゃいのう」
「普通の川魚はこれくらいだよ! 1匹目げっと〜」
 微笑みながら、レキはバケツの中に、釣った魚を入れていく。
「沢山釣れてるか〜?」
 声をかけられて、レキとミアは声の主の方に顔を向けた。
 責任者のゼスタと、百合園の生徒達、リーア・エルレンの姿があった。
「あっ、こんにちは」
「副団長のパートナーじゃな」
 レキは一旦川から上がり、ミアも腰を上げる。
「白百合団員のレキ・フォートアウフです。よろしくお願いします」
「レキのパートナーのミア・マハじゃ」
 レキは笑顔で挨拶をし、頭を下げる。
 ミアはじろじろゼスタを見てしまう。堅物っぽい副団長とは対照的な男だなあと。
「うん、よろしく。白百合団員といったら、俺の護衛隊のようなものだしなあ」
 手を伸ばして、ゼスタはレキの頭を撫でた。
「……んん?」
 レキはちょっとそれは違うんじゃないかと思うが、優子のパートナーで要人なら、守るべき対象なのかな? とも思う。
「それじゃ、俺達はスイーツ探しに行ってくるなー。こっちは頼んだぞ」
「はーい。皆も気をつけて」
「わかったのじゃ」
 ゼスタは見事に女の子だけを連れていた。
 とはいえ、皆彼に興味があるわけではなさそうだったけれど。
「それじゃ、競争再開! 負けないよー」
「こっちのセリフじゃ。っと、ひいとる、ひいとるぞー!」
 皆の背を見送った後、レキとミアは釣りを再開する。直後に、ミアの釣竿に反応があった。