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リアクション
「観念してください!」
美咲は遠当てで、黒髪のローブを纏った賊の体勢を狂わせると、飛びついて一緒に川へと飛び込んだ。
飛び込み体勢ではなかったため、受けた衝撃は強かった。
美咲はそれでも相手を放さなかった……相手は抵抗してこない。
「ぐ……」
底まで沈んだ2人だが、相手が川底を強く蹴ることで、水面へと浮上。
男は美咲にしがみつかれたまま、ふわりと身体を浮かせて河原へと降り立つ。
「投降してください。魔法で逃げようとしても、離しません!」
……男は何も言わず。
美咲を剥がすべく、手を美咲の肩に伸ばした。
途端。
美咲と男の顔の間に、木の葉が舞い飛んだ。
続いて、2人の足元に冷たい一撃が放たれ、地面が凍りつく。
「動くな」
隼人が冷線銃を男に向けている。
「私ごと、凍らせていただいて構いません」
「キミが男ならそうするんだけどな」
気丈に言う美咲に隼人はそう答えた。
木の葉が再び男の目の前を乱舞する。
隠れている河合 栄志(かわい・えいじ)のサイコキネシスだ。
「キミ、銀髪の少女と一緒にいたそうですね?」
使い魔のカラスを肩に乗せ、ホウ統 士元が言う。
男が口を開く。
その口から、発せられたのは聞いたこともない言葉。
途端、強風が湧き起こり、木の葉を空へと吹き飛ばした。
「うっ……あっ!」
美咲は強い風の力により吹き飛ばされる。
「敵対するつもりはない。今は」
もう1つ。
空からも相殺するように風が吹き下りてくる。
飛ばされた美咲の傍に下りたのは、女王に仕えていた元騎士のファビオだった。
「けど、逃げられたら困るんでな!」
隼人は銃を撃ち、男の足を凍らせた。
「変な術、もう使わせません!」
美咲は瞬時に再び飛びついて、ハンカチを男の口にねじ込んだ。
男は、隼人と士元に拘束されながら、ファビオの顔を訝しげな表情で見ていた。
「もしかして……覚えてる? 俺のこと」
ファビオは軽く、苦味のある笑みを見せた。
「ぶはっ、何……!?」
川に飛び込んだ賊達は潜って近づいた海豹仮面により、水中に引き込まれる。
水中で銃は使い物にならず、賊達の多くはなす術もなく海豹仮面に斬られる。
「これは盗品ですね〜? ダメですよ、ぬらしてしまっては〜」
賊の身体から荷物を引き離し、別々に河原へと投げ飛ばす。
「血の海……いえ、血の川になってしまいますねぇ。美味しいご飯が食べられなくなってしまいますので、斬るより殴った方がいいでしょうか〜」
そう呟きながら、海豹仮面は再び川に潜り、飛び込んでくる賊に水中から迫るのだった。
しかし、1人ずつ倒しているため、全員を一人で仕留めることはできなかった。
「通しません。捕縛させていただきます」
川から河原にあがった賊の前には、槍と盾を構えたロザリンドが先頭になり立ち塞がる。
「どけぇ!」
賊が剣を抜き、ロザリンドに振り下ろす。
ロザリンドはラスターエスクードで攻撃を受けた。
「通さないってば」
彼女を振り切って森の方へ走ろうとする賊を、ロザリンドの後ろに隠れていたテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が狙い撃つ。
「そっちも通さないよ。大人しくしてな」
反対側から振り切ろうとする賊の足をも、テレサは魔道銃で撃ちぬいた。
「容赦ない人もいるみたいだし、逃げるよりロザリーに捕まっちゃった方が楽だよ〜」
「投降していただければ、手荒なことはいたしません。さもなければ……」
ロザリンドが槍を振るい、逃げようとした男の足を突いた。
「動けない状態にするまでだね」
テレサも向かってくる賊達の武器を持つ手と足を狙い、銃を撃っていく。
「ユリアナ……らしき人物は、まだ中か!?」
「そのようです」
伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)の言葉に、魔鎧のオルガナート・グリューエント(おるがなーと・ぐりゅーえんと)が答える。
「よし、我等は逃走する賊を倒し、捕らえるぞ」
藤乃は気がかりなことがあり、ユリアナ探しに集中できずにいた。
全く別件について、仲間内に良くない噂が流れており、教導団や金団長の方に意識が向いていたのだ。
藤乃はパラ実生なので、本来ユリアナではなく、賊討伐の方に集中し、東のロイヤルガード側に貢献するのが筋なのだが、教導団の仲間と懇意にしているため西シャンバラの方に目がいっている。
そんな状況ではあったが、発見した賊に瞬時に近付いては、聖剣エクスカリバーを振り下ろし、アルティマ・トゥーレで賊に深手を負わせて拘束する。
「対岸に向かおうとする者がいるわ」
「行かせはしない!」
オルガナートが指摘し、藤乃は彼女の能力のサイコキネシスで賊の行く手を阻む。
物資の乱舞に阻まれた賊は、やむを得ずこちらに向かってくる。
藤乃はその身を蝕む妄執で恐怖に陥れて、接近し、剣を叩き込む。
そして、河原に引き上げると次の賊へと向かっていく。
「そちら、お願いしますっ」
高所へ上り、賊の動きを見ていたソアが声を上げる。
「了解!」
「少しは楽しめるかしら〜?」
リュシエンヌとウィンディが、森へと逃げ込もうとする賊達を追う。
「それらしき建物はないし……。聞き出すしかなさそうね!」
リュシエンヌは碧血のカーマインで、逃げる賊を撃っていく。
「ガキか!」
リュシエンヌが子供であること確認した3人の賊は、木の陰に隠れると、彼女に向けて銃を撃ってきた。
「私もガキかしらん?」
妖艶な笑みを浮かべながら、ウィンディがフェザースピアを手に走りこんで、賊が潜む木に強烈な一撃を叩き込む。
「ぐはっ」
ウィンディの一撃は木を大きく削り、賊の脇腹身体を貫いた。
「アジトの場所知りたいんだけど?」
リュシエンヌは撃ち合いながら、木々の間を移動してもう一人の賊に近付き、武器を撃ち飛ばした。
自分も肩に傷を負うが、そのまま賊へと走りこんで、組み敷き、格闘の上捕縛することに成功する。
「ここから南西……太陽の方向で、捕縛した賊を集めて治療と尋問を行うそうです。そちらに連れて行ってください」
高所からソアの指示が飛ぶ。
「話を聞かせてもらいましょうかね」
「まだまだ全然物足りないわ〜」
リュシエンヌ、ウィンディはそれぞれ捕まえた賊に縄をかけて、救護、尋問班の元に引っ張っていくのだった。
そうして船上や河原で拘束された賊達は、救護用に設けられた場所に集められ縄で厳重に捕縛された。
「今年の春頃からかしら、貴方達と行動を共にしている女性について聞きたいの」
アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、河原で倒された賊を、その場所に連れて行きながら問いかける。
「名前はユリアナ・シャバノフ。銀髪で、青い目の地球人の女性よ」
「銀髪の地球の女はいるが……名前はそんな名じゃない」
「多分偽名を使っているのね。彼女も賊行為をしていたの?」
アリアの質問に、その賊は普通に仲間として仕事……つまり賊行為をしていると答えた。
「いつから?」
「てめぇの言うとおり、春頃からだよ」
「何で彼女は貴方達の仲間になったの?」
「さあな、知らねぇ」
アリアは本当?と言う目で軽く睨みつける。
「本当だ。隠しても意味ねぇだろ」
撃たれた片足を引き摺りながら、アリアに連れられて男は仲間が集められている場所へと到着する。
すぐに、呼雪が近づき、ロープで彼の身体を拘束する。
アリアはその賊だけではなく、拘束されている賊達の怪我の状態を見て、傷が深い場合は手当てをしてあげながら、他の賊達にも同じように質問をしていくのだった。
「痛ぇ、魔法で治療しろよ!」
立場をわきまえず、賊達は怒鳴り声を上げる賊もいた。
「消毒、沁みたかしら……。でも自業自得よ。これに懲りて悪いことはしないでね」
アリアは怒鳴り返したりはせず、穏やかで優しい対応を続けていく。
治療をしながら、アリアが聞き出した話によると、銀髪の女性は沈みつつあるあの船の中にまだいるようだ。
「ユリアナさん、なのでしょうか」
でもなんで、賊行為に協力していたのだろうか。
アリアは船に心配気な目を向けて、乗り込んだ皆の報告を待っていた。
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