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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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第四章 お世継ぎ1

 葦原明倫館分校でも、瑞穂藩弘道館分校の火事の件は伝えられた。
 そこで一戦あったらしいと言うことも。
 御花実になるのを諦めたという透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)が、パートナーのヴァルキリー璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)に確認をする。
「城の地下に行った人たちも無事なのか?」
「はい、そのようです。しかし、ティファニー様をはじめ、負傷者も出たようです。葦原と瑞穂の関係も……良くなるようには思えません」
「そうだな……」
 彼女にはまた、別の心配もあった。
「透玻様……また、大奥にお戻りになるのですか」
「私のことは安ずるな。それよりも御花実様の安全のほうが気がかりだ」
 透玻は急ぎ大奥に戻ると、房姫の緑水の間に向かった。
 彼女の耳には全て入れておいた方が良いと思ったのだ。
 その際に、思い切って心配事を房姫に尋ねてみた。
「房姫が托卵されなかったのは、将軍が房姫を大事に思ってのことだ。どうぞ、気を落とされませんように」
「ありがとう、私のことは大丈夫です。もう決めましたから」
 房姫は寂しげではあったが、すでに達観しているようでもあった。
 彼女は声を落として、透玻に言った。
「それよりも……貴女の言ったとおりです。御花実の安全は、大奥で、皆で守らなくてはなりません。私は……何か起こるのではないかとても不安なのです。貴女も、力を貸してくださいね」
「もちろん……」
 透玻は大奥に嵐が起きるのを予感していた。

卍卍卍


 大奥が急に慌ただしくなっていた。
 御花実様の出産準備に追われていたのだ。
 大奥の女官七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、御花実に真実を教えたい、生まれてくる子供はみんなで協力して守ると呼びかけていた。
「将軍様からの托卵には犠牲を必要とするの……失うものがあるってことを知って欲しい。御花実や大奥は、ただ跡継ぎのためだとか華やかなだけじゃないってことを……」
 托卵の真実は、最初は若い女官達には受け入れられなかったようだ。
 しかし、歩の真剣な説得や白姫の様子、また大奥取締役御糸(おいと)の肯定とも否定しない態度に、只ならめ雰囲気を感じ取っていた。
 このようなときになると女官達は妙な結束を持つ。
 徐々に彼女の言葉を聞き、仕事を手伝うようになっていった。
「歩、お前のお陰だ。私も、一時は安じていたのだが……」
 御糸は安堵したかの表情をみせたが、すぐに厳しい顔に戻った。
「私は将軍に仕える大奥取締役として、将軍家の不利になるようなことは言えぬ。しかし、誰かが真実を言わなくてはならない日が来ると思っていた」
「御糸様、できれば貞継様の『天鬼神』の血のことも、触れたいのです。あの血のせいで、人が傷つくのを恐れていたこと。それが、托卵をいつまでも拒まれておられた理由だと。それでもなお、托卵をされたいと望む女性がいれば、将軍様も受け止めてくれる人だから……ってそう選んだはずです」
「それは、私だけの判断では決めかねるな。大奥や貞継様が望まれても、果たして将軍家や、家臣達が許すかはわからぬ」
 御糸がそういったとき、大奥にどかどかと表の家臣と役人達がやってきた。
 皆、それなりに身分が高い者だ。
 御糸はことの事態に驚き、男達を一喝した。
「無礼な、ここをどこと心得ておられるか。将軍様の大奥ぞ!」
「その将軍様は東光大慈院でご療養中であられる。そしてこれは、大老楠山様のご命令だ」
 高級役人が書面を目の前にかざした。
 『御大奥取締役 贈収賄の罪にて取り調べ候』とあった。
 大奥取締役の顔が青ざめる。
 すぐに役人たちが彼女を取り囲もうとしていた。
「歩、きけ……」
「は、はい」
「私はこのままお役ご免となるかもしれん。お前が、大奥を引っ張っていくのだ」
「そんな! 私にそんな大役が務まるわけ……」
「いい訳はきかぬ。大奥は将軍様のお世継ぎを生み、育て、お守りする大事な役目がある。必ず、成し遂げるのだ」
 御糸は早口にそれだけ言うと、家臣達に連れて行かれた。
 歩は追い駆けようとしたが、役人達に追い返された。
 彼女にはそれを止める術がなかった。