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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
●アメイアと、リンネたちが乗る機動兵器の交戦地点
 
 イルミンスールとニーズヘッグが対峙する場所から南に行った先、広がる森を割くようにして、十数メートルの大きさに巨大化したアメイアが、イルミンスールに帰還しようとしていた機動兵器、中にリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)モップス・ベアー(もっぷす・べあー)フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)ルーレン・カプタが乗る機体を押さえつけていた。
(貴様らの力、私が頂いていくぞ――)
 振り上げた腕を、機体の頭へと振り下ろそうとしたアメイアはその直後、自身の頭に強烈な衝撃を受け、身体ごと大きく吹き飛ばされる。
 
「YES! YES! YES!」
 膝射姿勢でライフルを構えたアルマイン・ブレイバーの中で、六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)が興奮気味に叫んでいた。
「訓練では三キロ先の機晶姫をヘッドショットしていましたからね。
 その私の技量であれば、この距離、そしてこの『マジックライフル』なら、ヘッドショットなんて楽々なんですよ!」
 自身の腕を自信ありげに言いながら、構えていたライフルを銃口を上に両手に持たせ、その場を離れるべくブレイバーを動かす。
 狙撃の成功・失敗に関わらず、同じ場所から撃たないのは狙撃者の基本中の基本であるからであった。
「……鼎、怖い……」
 そして、鼎の背後を、水晶に手を触れながらハロルド・メルヴィル(はろるど・めるう゛ぃる)がぽつり、と呟く。
 
「……何!? 我をわざわざ呼び出しておきながら、用件は『出力アップの数合わせ』だと……!?
 ふざけるなぁ〜!
 我はあれか!? バッテリーか!? ブースターか!?」
「拡張パックですかね」
「……うわぁ〜ん! やるよ! やればいいんだろ!? 予想以上の結果出してやるよ〜!」
 
 そんなやり取りが交わされ、今に至る。
(……ま、こんなに人数がいれば、出力は大分強化されてるようですね。……狭くなりましたが、効果はてきめんです!)
 鼎が呟く、その背後にはハロルドの他、アメイアに色々されつつも助けられる形になったナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)、鼎の機体にライフルを届けた後、その場に居ては危険という理由でラムズとクロがいた。
 実質、地球人とそのパートナーが三組いることになるため、出力は理論上、通常の三倍。アメイアが一撃で吹っ飛ぶのも説明はつく。
「せめぇしwwwくせぇしwww」
「仕方ありませんよ、こうして無事に合流できたんですし、それでよしとしましょう」
 今にも飛び出していきそうなクロを、時折引っかかれつつラムズが宥める。一方反対側では、ナレディと小夜子が無言のまま、モニターに映る周囲の視界に目を配らせていた。
「ナレディ、あなたはあの人に助けられたのです。……家の掟、分かっていますね?」
 小夜子に告げられ、ナレディが静かに頷く――。
 
 そして、横合いから一撃を入れられたアメイアだが、既に受けたダメージは回復しており、今は地面に伏せ、次の一撃を免れようとしていた。
(こちらから位置が判明しない以上、不用意な動きは出来ぬ……くっ、やってくれる)
 気配を探ろうにも、距離が離れ過ぎている。イルミンスールの森は、アルマインを紛れさせているようであった。
(……おそらく、先程の機体は一機ではあるまい。となれば他の場所に潜んでいるか……)
 心に呟くアメイアのその予想は、外れでもあり当たりでもあった。
 何故ならこの時点では、アメイアを射程に捉えていたのは鼎機だけ(リンネたちの乗る機体は、未だ行動不能)であったからだ。
 アメイアの視界に、複数の機影が映る。まるで大型の蜂をさらに大きくしたような機体と、やはり蝶を大きくしたような機体が数機、真っ直ぐにアメイアへと向かっていた。
(……何!?)
 自身の推測が見当違いであったこと、何より、それらが正面から向かってきたことに、アメイアは驚くと同時に賞賛にも似た感情を抱く。
(……フッ、これは少し彼らを甘く見ていたようだ。私も改めねばならぬな)
 微笑を浮かべ、すっ、とアメイアが背筋を伸ばして立ち上がる。
 狙撃の脅威は未だ去らぬものの、正面から向かってきた相手に対して、こちらが伏せの姿勢を取るようでは無礼に価する。
 イルミンスール地下で、自身が彼らに告げたことと合わせれば、彼女として当然の態度と言えた。
 
「アメイアを捕捉した。……刹那、俺はアメイアに問いかけたいことがある。付いて来てくれるか」
『了解しました。正悟さんの背後に控え、お二人の会話の記録に努めます。話し合いが不調に終わった場合は、正悟さんの離脱の援護に回ります』
「ありがとう。……それじゃ、行くか!」
「ええ、正悟」(そっか、帝国の龍騎士といえども、騎士だもんね。守るべきものがあるかもしれない……それに、出来うるなら、無駄な戦いはしたくない)
 神裂 刹那(かんざき・せつな)の通信に頷いて、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)の乗るアルマイン・ブレイバーがアメイアへと向かっていく。
「あなたは『騎士』なんだろう!? 守るべき民も居るはずだ。
 なのに何故、この微妙なバランスで保っている平和を崩そうとする?」
『確かに貴様の言う通り、私は騎士だ。守るべき者もいる。
 だが騎士が全て、貴様の思うように動くわけではなかろう。
 私には私だけの動く理由がある、そして私は今、その理由に則って動いているに過ぎぬ』
「そうは言っても、下手をすればシャンバラ全体を敵に回しての戦争になりかねない。
 君は守るべき力なき人々の上に核やら様々な脅威を落とすつもりなのか!?」
『核に関して言えば、それは貴様ら次第であろう。戦争を起こす覚悟があるのなら、そうするがよい』
「……どうあっても、立ち止まるつもりはないと?」
『ない!』
 もう話すことはないとばかりに、アメイアがアルマインを迎撃する構えを取る。
(アメイア……あなたが一つの確固たる信念に基づいて力を手に入れようとしていることは分かった。
 ……だが、それは戦争の引き金を引いてまで手に入れなければいけない物ではない!)
 アメイアに対しそう結論付けた正悟が、手にした剣をアメイアへ突きつけ、宣言する。
「なら、このアルマインで、あなたを止めてみせる!」
『やってみるがいい!』
 直後、アメイアの身体が躍動し、振るった拳が眼前に迫る。
 それを正悟は上空に飛んで避け、追撃を見舞おうとしたアメイアへ、後方から刹那機のマジックカノンが襲う。
(まずは、この機体で牽制を行う……!)
 戦闘になった時に備え、刹那は校長室に待機しているイグニス・セイバーソウル(いぐにす・せいばーそうる)を通じて、『ブレイバーでの牽制、マギウスの援護射撃等によるアメイアの行動制限、及びマギウスによるカノンの一斉射撃』を提案していた。
「はい、はい、了解しました。ではそのようにお伝えします。
 ……刹那、イグニスから連絡が来ました。刹那の意見を尊重し、各機への伝達とサポートを行うとのことです」
 そのイグニスからの通信を受け取ったルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)の言葉に、刹那は頷きだけで返す。
 アルマインの操縦はこの時点では、入力装置を操作するのではなく、魔法を使う時のように(一般的な魔法の使い方について言っている)、したい行動が機体にフィードバックされる形式であり、集中の乱れは制御の不能へと繋がる。
「刹那、感じるのです。私を纏った時のように、このアルマインと自らを一体化する感覚を」
 ルナ同様、刹那のサポートに回っていたノエル・ノワール(のえる・のわーる)(搭乗時、自動的に魔鎧としての装備を解除されていた。どうやらアルマインでは、魔鎧は人間形態での存在を強制されるようだ)が、どこかアルマインは自分に似た存在ではないかという思いを抱きつつ、刹那にアドバイスする。
「私も、出来る限り補助を試みます。刹那は目の前の相手に集中を」
「……はい!」
 今度は返事を返し、刹那が前方に見える巨大な人影、アメイアを注視する――。
 
(ま、やっぱ戦闘になっちまうか。
 ……だが、手は既に打ってある。アルマインは初起動で初の実戦投入、一方アメイアはおそらく歴戦の猛者。
 数の有利をひっくり返しかねないほどの個体差……埋めるのは俺達のサポートだ)
 アメイアとアルマインの戦いを遠くに見ながら、静麻が各種探査器を装着した飛空艇を駆りつつ、得られた情報や即席で構築したプログラムなどを牙竜たちがいる校長室へ送る。
(イルミンスールの機動兵器に、機械の知識がどれだけ役に立つかは……ま、やってみないことには分からないからな。
 最悪、アメイアの挙動をデータ化するだけでも参考にはなるだろ)
 心に呟きながら、静麻が端末を操作する。そうして送られた各種情報は、牙竜のパートナー、リュウライザーが管轄する端末へと転送され、蓄積されていく。
「すまんのう、どうにも機械というものが気に食わなくてな、今のアルマインには取り付けておらなんだ。
 ……ま、ここで蓄積された情報を用いて、いずれそういった類の物も取り付けて、イルミンスール生徒以外も扱えるようにした方がよいかのう」
 アーデルハイトが呟いた通り、この時点では静麻の集めた情報を完全に利用することは難しかったが、いずれ全学校の生徒がアルマインを扱うような事態になった時には、それらは大いに活用されるであろう。
「分かりました。……いつか、アルマインが鬼鎧やイコンと連携することがあるでしょうか」
「ない、とは言い切れんじゃろな。何じゃ、もう先のことを考えておるのか?」
「……失礼ながら」
 既に運用方法などを構想しかけていたことをアーデルハイトに見抜かれ、リュウライザーが気恥ずかしさを言葉に込めて呟いた。