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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
「…………ちゃん」
「……ん……」
「……ちゃん、エリザベートちゃん」
「……なんですかぁ……私はまだ、眠ってたいんですぅ……」
「エリザベートちゃん、朝ですよ。起きてください」
 
 パッ、とエリザベートが目を覚ますと、自分を見下ろしてくる明日香の姿が目に映る。
「……あぁ、そうでしたぁ。そういう約束でしたねぇ」
「はい♪ アーデルハイト様とミーミルちゃんは、もう起きてエリザベートちゃんを待ってますよ」
 メイド服をなびかせ、明日香が部屋を出……ていこうとして、扉の前でくるりと振り返る。
「着替えさせてあげましょうか?」
「ひ、一人で出来ますぅ!」
 ぷんぷん、と声を荒げるエリザベートに、ふふ、と微笑んで明日香が部屋を後にした。
 
 自らの身を顧みず、結果としてエリザベートを救った明日香だが、同時にイルミンスールの生徒を手にかけた事実も残っていた。
 パラミタは地球ではないので、殺人罪(まあ、殺していないが)は適用されない。だが、全くのお咎めなし、では規律が保たれない。
 そこでアーデルハイトが提案したのが、『ほとぼりが冷めるまで、私の監視の下、エリザベートの護衛を行う』というものであった。本人の行動は大幅に制限されてしまうだろうが、その分、ほぼ全ての時間を、エリザベートの傍で過ごすことが出来る。
「あの、私たちも一緒でいいんでしょうか」
「構わんよ。わざわざ離れて暮らさせても、特に益はないでな。ま、不自由するかもしれんが、我慢しとくれ」
「はいですの。明日香様と一緒なら、それでいいですの」
 明日香のパートナーも、一室を与えられ明日香の近くでしばらくを過ごすことになった。
『……うめぇモンの匂いがするな。オレにもよこせよ』
「あなたがひとたび口にしたら、私たちの食事がぜ〜んぶ無くなるですぅ! あなたは食べなくてもいいんですよねぇ?」
 校長室の上、今は仮住まいのニーズヘッグから、声が飛ぶ。そこへ、着替えを済ませて現れたエリザベートが反論する。
『そりゃそうだが、うめぇモンは食いてぇぞ』
「えっと……目玉焼き一つくらいなら、すぐに作れますよ」
 ミリアの下で修行を積んできたミーミルが、エプロン姿でフライパンを持ちながらニーズヘッグに呼びかける。
『んじゃ、もらっていくぜ。……あぁ、オレはしばらくイナテミスにいるからな。ったく、こき使ってくれるぜ』
 
 そして、ニーズヘッグもまた、エリザベート及びイルミンスールの生徒たちと“契約”を交わしたことで、その生徒たちの存在なしには生きていけないという制約を負うことになる。
 ニーズヘッグは自らのため、彼らを守らねばならないし、彼らもまたニーズヘッグと共に在らねばならない。
 消滅させてしまうのは、今では直ぐに出来るだろう。だが、それではニーズヘッグの犯した罪を償わせることは出来ない。
 ニーズヘッグは契約を交わした時から、『死を運ぶ黒き竜』ではなく『生を守る守護竜』としてその身を捧げ、またニーズヘッグと契約を交わした生徒もニーズヘッグの契約者という形で、自らを捧げる。
 それが、ニーズヘッグの犯した罪を償わせる、現時点で最良の方法であるように思われた。
 
「はい、どうぞ」
 ミーミルが焼き上げた目玉焼きを、外に向かってフリスビーを放るように投げる。
 すると、天井が揺らぎ、500mから25mにサイズダウンしたニーズヘッグがその目玉焼きを咥え、飲み込む。彼は今後しばらくの間、イナテミスの要請を受けて各地を飛び回り、作業の手伝いをしたりすることになっていた。
『……っしゃ、仕方ねぇ、今日もやっか! うめぇモン、ごちそうになったぜ!』
「お粗末様です」
 声を飛ばすニーズヘッグに頷いて、ミーミルが料理をテーブルに運んでいく。こちらも朝食の支度が整ったようである。
「うむ、ではいただこうかの」
「エリザベートちゃん、ナプキンつけましょうね〜」
「だ、だから一人で出来るですってばぁ!」
「お母さん、ちゃんと両手を合わせて「いただきます」ってしないとダメですよ」
「分かってますよぅ! うぅ、前より厳しくなった気がしますぅ……」
 そして、エリザベートもイルミンスールの成長に合わせて、人間的に成長することが求められているようであった。
 
『いただきまーす!』
 
 イナテミスにも、朝の光が届けられる。
 一晩中続いた祭りの雰囲気も、訪れた朝の光と共に霧散していく。
「あらあら、まぁまぁ。こんなに散らかしちゃって、後片付けが大変ねぇ」
 広場にやって来たシャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)が、祭りの後の散らかりように決して嫌味ではない言葉を呟いて、後片付けに取り掛かる。
「あっ、いたいた。シャレンさん!」
 そこへ、数名の住民が駆けつけてくる。彼らの中には、『イナテミス市民学校』で手伝いをした者の顔ぶれもあった。
「シャレンさんならきっと、後片付けしに来るだろうなと思ってました! 俺たちにも手伝わせてください!」
「俺はテーブルを運びます!」
「じゃあ俺は椅子を重ねておきます!」
「えっと、洗い物なら手伝えるかな?」
 口々に、自分が出来そうなことを口にしていく住民たちに、シャレンがふふっ、と微笑む。
「ありがとうございます。では、皆さんで一緒にやりましょう」
 もう彼らは、自分があれこれ言わなくても行動を決めて動いてくれる。
 そんな一つの信頼を抱いて、シャレンが作業の開始を口にする。
「おーーー!」
 掛け声をあげて、住民たちがそれぞれの場所に散っていく。
「ああ、大赤字だ……また、【わるきゅーれ】グループ本社からの借り入れ金が増えてしまう……」
 彼らを横目に、帳簿をめくっていたヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)が、今回の件で持ち出した食材や調理用具の費用を計算して、頭を抱える。
 これが戦争なら、負けた相手から賠償金という形で補填されるだろうし、そうでなくてもイナテミスに請求することも出来る。
 だが、イナテミスは発展途上の街、まだまだ経済規模が小さい。
 ほぼ自給自足の生活を送っている街に、過度な請求はできないと判断し、断腸の思いで諦めたのであった。
 
 こうして、イナテミスの街にも平和な時間が戻ろうとしていた。
 まだ、ニーズヘッグ襲撃の影響はそこかしこに残っている。
 衝撃波で抉られた地面も、恐怖でささくれだった心も、元通りになるまでには時間を要するだろう。
 
 だが、この街の住民は、いついかなる時でも、不安を分け合い、自らの手を伸ばし、同胞を勇気付け、前に進んでいくことが出来る。
 幼き世界樹と、その世界樹と共に歩むことを決めた竜に見守られるこの街は、これからも無数の悲しみや恐れ、それらを打ち消して埋め尽くすだけの幸せを生み出すのだろう。
 
「おはよう、皆」
「おはようございます」
 
 カラムが町長室のある建物に入り、既に詰めていた職員たちと挨拶を交わす。
「本日の予定は以上のようになっております」
 秘書から、本日の予定をカラムが耳にする。『イナテミス港』を利用した交易ルートの確保(そこにはカナンやマホロバといった候補地が挙がっていた)、ゴーレムやガーゴイルを利用した警備システムの導入計画など、町長には考えるべき事柄が山積みであった。
「では、所定の時間になったらまた、よろしく頼む」
「はい、では」
 一旦秘書と別れ、カラムが町長室に足を踏み入れる。
 こじんまりとした部屋の中、壁の一部が不自然にぽっかりと空いていた。
(……完成を、楽しみにしているよ)
 そこには、今回の戦いに関わった生徒が寄贈してくれるという、絵が飾られる予定だ。
 いつの日か、今日という日が思い出として語られるその時に、当時のありのままを伝えてくれることを期待して、カラムは完成の時を静かに待つのであった――。
 
『チッ、この大きさだとテメェら全員乗せっと、重く感じるな』
「も〜、女の子に重いって発言は禁句だよ? ……あれ? ニーズヘッグさん、ここどーしたの?」
 
 ニーズヘッグの背に乗り、イルミンスールの周りを遊泳するるる、終夏、未憂。その時るるが、ニーズヘッグの首筋に剣で切られたような痕があるのを見つける。
『あぁ、気にすんな。大した傷じゃねぇ』
「そんなこと言われても、気になります。もうあなたは一人じゃないんですから」
「そうだね。教えてくれると、嬉しいかな」
『……チッ、分かったよ。話してやるよ』
 未憂と終夏に言いくるめられて、ニーズヘッグが事の顛末を語る――。
 
「……来たか。まずは申し出を受けてくれたこと、感謝する」
『気にすんな。テメェに同情したとかじゃねぇ、オレがこうするって決めたからだ』
 先日、激戦が繰り広げられたイナテミス郊外の平原に、なぶらとニーズヘッグが相対する。少し離れたところで、フィアナがなぶらの行方を見守る。
「この行動は、結局俺の自己満足でしか無いのかも知れない。お前は今でも強大で、俺の攻撃なんて屁でもないのかもしれない。
 ……それでも俺は、俺の持てる力の全てをもって、お前に俺のこの気持ちと、痛みを届ける!」
『あぁ、いいぜ、かかってこいよ。そこまで覚悟してんなら、テメェがどうなろうと構わねぇよなぁ!』
 翼を広げ、ニーズヘッグが咆哮をあげる。なぶらの構えた剣に、光が満ちる。
「最後に一つ、聞かせてくれ。お前は何故、あんな事をした?」
『色々理由はあんだろな。その中には、オレの考えが足りなかったってのもあんだろうけどよぉ……
 今はあえてこう言わせてもらうぜ。
 ……オレがそうすると決めたからだ!
 
 大きく口を開けたニーズヘッグと、なぶらの光輝く剣が交錯する――。
 
『……ってところだ』
 ニーズヘッグの言葉は、これまでイルミンスールが直面し、戦いを経てイルミンスールの一員になった者たちが等しく抱かれる可能性のある感情、そしてそれの『褒められたやり方ではないが認められるべきケリのつけ方』があることを示していた。
『あぁ、そいつは殺しちゃいねぇよ。しばらく動けねぇだろうがな』
 
 勝負は、一瞬だった。
 なぶらの剣がニーズヘッグの首筋に食い込むが、そこまで。一撃で切り落とせない以上、残った首から上の部分によってなぶらが吹き飛ばされるのは、必然とも言えた。
 空中に無防備な状態で舞うなぶら、追撃に移ろうとしたニーズヘッグの前に、フィアナが立ちはだかる。
『……パートナーとやらを守るため、ってか』
「ええ」
 恐れることなく、ニーズヘッグを見上げるフィアナ。その視界の中で、ニーズヘッグの殺気が萎んでいくのが感じられた。
『……決めた、オレはテメェらを攻撃しねぇ』
 自ら考え、今この時は攻撃しないことを宣言したニーズヘッグが、地を蹴って飛び上がり、同時に翼を羽ばたかせて飛び去っていく。
 その後ろ姿を見送り、フィアナが草原に落ちたなぶらを手当てするべく駆け出す――。
 
「……ほっ。良かったです……」
 話を聞いて、未憂がふぅ、と息を吐く。
 既に一部の生徒の結末については、他の生徒も知るところとなっていた。そんな状況の中、これ以上の問題事は、正直起きてほしくないと思うのが、ここにいる者たち以外にも、今回の騒動に関わった者たちの意見であろう。
「るるもね、超ババ先生に怒られちゃった! うー、まだ頭が痛いなぁ」
「アーデルハイト様のゲンコツ? あれは効いたね……」
 るると終夏、未憂が揃って頭をさする。
 三人は校長室に呼ばれ、一時的にではあるが行方不明になったことで心配をかけたことを叱責され、アーデルハイトの『お仕置き用巨大ゲンコツ』を食らったのであった。
「心配かけおって……この、馬鹿者がっ」
 しかし、最後にアーデルハイトが漏らした言葉と、直ぐに背を向けてしまったのでよく見えなかったが、泣いてる? と思わせるような素振りを見られたのは、珍しい経験をしたな、と思っただろう。
「よーし! このままユグドラシルまでひとっ飛びだよ!」
「るるさん、今日は絵のモデルを頼まれただけです、次勝手に行ったらお仕置きじゃ済まないかもしれませんよ」
「あはは……もうあのゲンコツは食らいたくないなぁ。
 ……うん、それに、きっとまた、行くことがあるだろうしね。その時の楽しみに、今は取っておくよ」
『ケッ、ラタトスクとフレースヴェルグに、なんて言われるか……考えただけで吐き気がするぜ』
 
 ニーズヘッグとイルミンスールの生徒との契約を見届けたラタトスクとフレースヴェルグは、ユグドラシルに帰っていった。
 彼らが何を思い、何を話したかは、今ではもう確かめようがない。
 だが、三人は、そしてニーズヘッグも、今この時だけは同じ思いに至っていた。
 
 多分、ラタトスクとフレースヴェルグも、ニーズヘッグがこうなることを望んでいたのかもしれない、と。
 
 賑やかな会話を交わしながら、三人がニーズヘッグと空の一時を楽しむ――。
 
「……うん、いい絵が書けそうね」
 そんな彼らを、キャンバスを前に、アスカが見つめ、ふふ、と微笑む。
 キャンバスには、どこまでも広がる“蒼空”と、そこに浮かぶ世界樹と守護竜が描かれていた。
 
 ――その絵は後日完成し、無事にイナテミスの町長室に飾られることになったと聞く。
 
 
 
 

――竜は、蒼き空をその翼で翔けながら、自身に生まれた“繋がり”を思う。
 イルミンスールの大冒険〜ニーズヘッグ襲撃〜 完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮・烈です。

まずは、三回のキャンペーンシナリオにご参加いただき、どうもありがとうございます。皆様お疲れさまでした。
なお、「勝手に動かしてしまってごめんなさい」と「こんな感じでよろしいでしょうか」のコメントは、今回参加された皆様だいたいに打つコメントだと思うので、ここにまとめて記させていただきます。
特に今回は、展開が展開なので。

【イルミンスール:ニーズヘッグの契約者】称号を付与された皆様(契約なので、原則MCのみとさせていただきました)は、それを付けている時、ニーズヘッグとLCのように、携帯を通じてどこでも話ができます。
基本料金払ってないとダメですよ?

ただ、ニーズヘッグに命令するなどの決定権は、エリザベートにあります(今後変わるかもしれません)。
また、称号を付与されていない皆様でも、面と向かってであればニーズヘッグと会話することは出来ます。

アルマインについては……済みません、現時点では確実なことは書けません。
その内マスターページに書いておきたいと思いますし、シナリオに出てくる際にはその都度、注意点を書いておきたいと思います。

称号に『イルミンスール』と付いているのは、イルミンスールのキャンペーンシナリオで付与されましたよ、という意味付けです。

まずは、無事年内にシナリオを完成させることが出来て、ほっとしています。
今後のイルミンスールについては、後日マスターページの方で報告したいと思います。

それでは皆様、メリークリスマス&よいお年を。