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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
「……で、あなたはどうしたいんですかぁ? このままドラゴンの天日干しにでもなるつもりですかぁ?」
『んなわけねぇだろ! ……チクショウ、フラフラしてきやがったぜ。この調子だと落ちちまうかもな。
 テメェの一撃、正直効いたぜ……』
 ぐらり、とニーズヘッグの巨体が揺らぐ。高度もどことなく落ちかけているようであった。
「そ、それは困るですぅ! あなたがここに落ちたら、大変なことになるですぅ!」
 エリザベートが慌てた声を上げる。
 何せ、ニーズヘッグは全長500mの巨体である。質量も大きさに見合ったものであると考えると、数十トンの質量がイルミンスールの森、もしくはイナテミスを始めとした集落に落ちることになる。
 いわば、巨大隕石落下に等しい事態が発生すると思えば、絶対に起こしてはいけない事態だというのは想像がいくだろうか。
「じゃが、こやつをユグドラシルに返すだけの力を与えては、イルミンスールが持たぬ。今更消滅させることも、もう出来んじゃろ」
「うーんうーん……皆さん、どうしたらいいと思いますかぁ?」
 自分では思いつかないのだったら、皆に聞いてみればいい。
 そんな思いでエリザベートが言葉を発すると、各地から反応が返ってきた。
『アーデルハイト様、話は聞かせていただきました。今後ももし、イルミンスールに暴走の可能性があるのなら、いっそニーズヘッグにも協力を願うのは如何でしょう?』
 通信を介して、風森 望(かぜもり・のぞみ)が自らの意見を口にする。さらには、
 
「俺に任せてもらおうか!」
 
 バサリ、とマントを翻し、ヴァルがエリザベートたちの前に降り立つ。
「帝王の名において、提案する。
 イルミンスールの契約者である校長と、ニーズヘッグを契約させるのだ!」
「あ、なるほど〜。その手がありましたかぁ。流石イルミンスールの生徒ですぅ」
「って、感心しとる場合か! ……ま、他の生徒も言っとったし、私も全く不可能というわけでもないと思っとる。
 じゃが、一対一の契約はエリザベートに負担をかけ過ぎに思える。エリザベートの親として、私は単独同士での契約に反対せざるをえんな」
「こんな時だけ親ぶらないでほしいですぅ」
 拗ねるエリザベートを視線で黙らせて、私の意見は伝えたとばかりにアーデルハイトがヴァルへ視線を向ける。
「ふむ……つまり、他にも契約を望むものがいれば、いいというわけだな?」
「……まあ、そうなるが、そんな物好きなヤツがおると――」
 
『あー、アーデルハイト様? その話ですが、結構いらっしゃるみたいです』
 
 急ピッチで回復させた通信を介して、地上から美央が言葉を伝えてくる。その背後には、美央の言う『ニーズヘッグと契約を望む者』が控えていた。
「……なんじゃおまえたち、ドラゴンの幼体であるドラゴニュートと契約できるからといって、ドラゴンと契約できるとでも思ったのか?」
『……おい、オレを勝手にドラゴンにするな』
「何とまあ……返す言葉が見つからないの。……よい、おまえたちの心意気、買おう。私も出来る限り協力してやるわい」
『無視かよ!?』
『ありがとうございます。じゃあ皆さんで、話をしてきますね。
 皆さん、色々と思うところがあるでしょうし、契約できるからといっても、お互い分かり合った上で契約したいでしょうから』
 美央が言って、通信が切れる。
「……さ、私らはその者たちの働きを見届けようではないか。邪魔が入らぬよう、厳重に警戒するのじゃぞ」
 
 そして、ニーズヘッグへ再び、生徒たちの一部が言葉を交わしに向かっていく――。
 
 
「初めましてニーズヘッグ様。ミスティルテイン騎士団の風森望と申します。
 ……かくかくしかじかと言う訳で、イルミンスールの暴走を止めるのに協力して頂けないでしょうか?」
『どういう訳だよ、オレにはさっぱり分からねぇぞ!? だいたいいつからテメェらオレに命令できるようになったよ!』
 
 望の言葉に、ニーズヘッグが憤慨している様子の言葉をぶつけてくる。
 しかし望は意にも介さず、言葉を続ける。
 
「いえいえ、命令ではなく切実な願いというものです。
 立っているものは、親でも兄でも主でも敵でも神でも毒竜でも使うのが私ですから」
『……あぁ、勝手にしろよ……チッ、言い返す気にもならねぇぜ』
 
 また少し、ニーズヘッグの高度が下がっていく。
 
「あら、それはいけませんね。……お嬢様、励まして差し上げなさいな」
「……はぁ!? 望、あなた何をおっしゃいますの!? 励ませって一体どうやって!?」
「それを考えるのがお嬢様の仕事です」
 にっこり笑って、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)に無茶振りを要求する望。
 その目は、下手なことをすればどうなるか分かっていますね、と言わんばかりであった。
「……えぇい、ままよ! ニーズヘッグ! 貴方も名のある竜なのでしたら、しゃんとなさい!」
『オレはドラゴンじゃねぇっつうの。……テメェに言われなくたって、無様に落ちるつもりはねぇよ』
 翼が若干動き、そしてニーズヘッグの高度が、先程の位置に戻る。
「あら、上手くいってしまいましたのね。翼で叩かれて、地面に人型の穴を作って終わりと思ってましたのに」
「……望、あなたわたくしを何だと思ってますの!?」
「そうですね……オチ担当?」
「何を言っているんですの!?」
『……今からでも、そうしてやっていいんだぜ? 二人まとめてな』
 恨みのこもった言葉をぶつけてくるニーズヘッグへ、最後まで望は不敵な表情を浮かべたまま、その場を後にする。
 
 
「さあ、行くわよ! 目指すはニーズヘッグの頭!」
『……おい、別にそっから行かなくたって、直接頭に行けばいいだろが。オレはもうほとんど動けねぇんだし』
「いいの、こういうのは雰囲気が大事なの。……それに、考えたいこともあるしね」
 
 今はイナテミスにて街のために働いているであろうパートナーが連れて来たワイバーンから、ニーズヘッグの背中へ降り立った四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が、肩に乗った霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)と共にニーズヘッグの頭を目指す。
「いやー、でっかいわねー。そういえば氷龍とかも見たこと無かったのよね」
「ボクが起きる前の話だね。……あれ、でも何か、別の生徒がニーズヘッグのところへ向かった時に、メイルーンが龍の姿になったとかなんとか」
「そうなの? あちゃー、見損ねちゃったわね。ま、いつでもなれるっていうなら、その内また見られるでしょ」
 予想していたよりも何も起きなそうな雰囲気に、しかし警戒を怠らないミネに守りを任せて、唯乃は歩きながら思慮に耽る。
(誰かと契約しちゃうのが手っ取り早いって思ってたけど、まさかこうなるとはね。……一対多数の契約って、成立するのかしら?
 ああそうか、ニーズヘッグから見れば、私がエルやフィア、ミネと契約してるのとおんなじことか。
 ……あれ、でもそうしたら、私がエルたちと同じ立場になるってことよね? じゃあエルたちはどうなるの?
 そもそも、エルたちの契約と、校長とイルミンスールやニーズヘッグの契約って、同じものなのかしら。
 ま、極端に痛い思いとか辛い思いとかしないんだったら、いいけどね。私、ドラゴン好きだし)
 あれこれと考えている間に、唯乃は首を伝い、ニーズヘッグの頭へと到達する。
『……満足したか?』
「まだよ。私のしたかったことは――」
 呟いた唯乃がしゃがみ込み、ニーズヘッグの頭をなでなで、と撫でる。
「……うん、目標達成! じゃ、もし縁があったら、これからもよろしくね」
『…………』
 満足気に頷いて、唯乃とミネが呼び寄せたワイバーンへ飛び乗る。
 
 
「やった……やったわ! これで私も名実共に、ドラゴンライダーよね!」
 
 飛空艇でニーズヘッグの頭近くまで寄り、その上に飛び乗った如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が誇らしげに胸を張る。
 
『……で、テメェもかよ。乗るのは構わねぇけどよ、オレはそもそもドラゴンじゃねぇっつうの』
「何言ってるの? キミ、どう見たってドラゴンじゃない。ドラゴンじゃなかったら何だっていうの?」
『あぁもう、分かった分かった、勝手にしやがれ。
 ……ついでに言っとくけどよ、ドラゴンライダーってんなら乗る場所ちげぇだろ。んな所乗ってたらあっという間に振り降ろされるぜ』
 
 ニーズヘッグがちょっと頭を動かしただけで、玲奈が危うく落ちかける。
 
「ちょっと、危ないじゃない!」
『乗りてぇってんならもっと頭使えよ、人間なんだろ? オレよりバカなんてことはねぇよな?』
「い、言ってくれるじゃない。いいわ、契約してしまえばキミは私の竜よ!
 そうなれば、頭の上に乗ることがドラゴンライダーの正しい乗り方として認められる日が来るはずだわ!」
『……テメェ、オレの言ったこと分かって言ってんのか?』
 
 その場のノリか勢いか、はたまた高尚な考えあってのことか、そんなことを口にしながら玲奈が『ドラゴンライダーとしての自分』に酔いしれていた。