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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
「マズイな、俺たちだけではアメイアを撹乱しきれない」
「そろそろ舞台から降りてもらいたいと思ったけど、流石は七龍騎士ね〜」
 赤城 花音(あかぎ・かのん)リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の乗るアルマイン・ブレイバーに同乗する形になった、師王 アスカ(しおう・あすか)蒼灯 鴉(そうひ・からす)が形勢の不利を悟る。
 『魔王』との距離を大きく離したことはよかったが、機動力の違いから今この時は、マギウスの援護射撃も影を潜めていた。加えてブレイバーの相次ぐ退場で、アメイアにも余裕が生まれていた。
「……どんなに目の前の状況が辛くても、ボクは諦めないよ!
 アメイアさんの背負う意志、ボクたちのイルミンスールを護り抜く意志……きっと認め合える!」
「そうですね。最後まで諦めず、戦い抜きましょう」
 花音とリュートが、最後まで戦う覚悟を固める。アスカと鴉も、二人に従うように覚悟を決める。
「アイ・アム・ミュージックファイター! これがボクの闘いだよ!」
 操縦を他の三名に託し、花音が自らの声で、唄で、アメイアを止め、アメイアをここまで突き動かしてきたものに触れようとする――。
 
 巡り行く季節の中 断ち切られた時間
 降り積もる現実 あまたの魂へ真実の声
 零れ落ちる雫に 舟を浮かべて
 精霊は歌う 枯れ果てた大地を潤す願い
 
 乾いた心 あなたは何を感じますか?
 失えない想い 悲しみに抱かれて聞こえる
 
 かざした手の平 広げて受け止めて
 大切な人へ贈る 言葉のカケラを集めて
 生まれる輝ける 希望の光
 出逢える 愛という名の 暖かな祈り

 
 『大地を潤す願い』と名付けられた唄が、残ったブレイバーに搭乗する生徒たちに、そして、アメイアに響いていく。
『唄……か。同胞も、人間の紡ぐ唄を好んで聞いていたそうだ。
 言葉の羅列に過ぎぬ代物が、何故これほどまでに心を動かすのか、そう言っていたと聞いた。
 私も各地で唄を耳にするが、結局よく分からなかったがな』
「一曲で分からなかったら、何曲でも聞かせてあげるよ!
 そうやって何度も、何度も言葉を交し合って、初めてお互いのことが理解し合えるんじゃないかな?」
 ブレイバーの連携が復活し、左右、上下からの波状攻撃が、再びアメイアを追い詰めていこうとする。
 
「みんな、お待たせ〜!」
 
 そこへ、後方からマギウスの集団と、リンネたちの乗る『魔王』が到着する。
『モップスとルーレンちゃんは、操縦をお願いっ!
 マギウスのみんな、リンネちゃんたちに構わず撃っちゃって! モップスが頑張って全部避けるから!』
『む、ムチャなんだな。後ろに目はないんだな』
『見るんじゃない、感じるんだよ!』
『これはアニメじゃないんだな!』
『まあまあ、何だか面白そうじゃない。やってみる前から諦めてたら、なんにも出来ないよ!』
『やってみようと思うだけで出来たら苦労しないんだな!』
『えっと……僕もやってみようと思います。やってみようと思う覚悟が、僕には必要なんだと思います』
『三対一なんだな! 多数決の世界は無情なんだな!』
 そんなこんなのやり取りが交わされ、結論が決まったらしい『魔王』が、重厚な動きで駆け出す。
『ねえねえ、でもさ、この機体、武器持ってなくない?』
『武器がなかったら、作っちゃえばいいじゃない! ほら、フィリップくんも手伝って!』
『ええっ!? あの、魔法撃つとかじゃなくてですか!?』
『違うよ〜、こういう時はおっきな剣って決まってるんだよ〜!』
『……もう、何も言わないんだな』
 もうどうにでもなれムードのモップスの後方で、リンネとフィリップの詠唱が響く。
 
 天界の聖なる炎よ、魔界の邪悪なる炎よ。
 人の内に秘めたる炎よ、そして精霊を始め、イルミンスールの下に集いし者の内に秘めたる炎よ。
 今ここに手を取り合い、立ちはだかる敵を塵と化せ!

 
 『魔王』の両の手に生み出された炎に、皆の想いが込められていく。
『新しい力と共に、僕は……アメイア、あなたに挑む!』
 フィリップの声が響き、そして『魔王』が二つの手を一つに合わせれば、天まで燃え盛る炎の剣が完成する。
 その剣を掲げ、『魔王』が地面を蹴って宙に飛び上がると同時、さっきまで『魔王』がいた場所を、マギウス全機による魔力の奔流が駆け抜ける。
 
「……よくも、よくも私のフィリップ君を誘拐して、やっと取り戻せたと思ったら今度は非常識な大きさで押し倒してくれたわね!
 騎士として恥ずかしくないの!? 騎士なら、誠意を持って交渉するのが筋じゃないの!?
 いくらフィリップ君が優しくて格好良くて素敵だからって、それはないんじゃない!?」
(……フリッカ、ドサクサにまぎれて結構凄いこと言っているのに、気付いていますか?)
 
 ブレイバーの相手と『魔王』の接近に気を取られていたアメイアは、その奔流を避けることが出来ず、防御せざるを得なくなる。
「……うああっ!!」
 おそらく初めてであろう、アメイアが女性らしい悲鳴を上げ、上半身を仰け反らせる格好で吹き飛ばされ、地面を数回バウンドする。
 身体を震わせながら身を起こしかけたアメイアを、上空から飛来する物体の影が覆う。
 
『これが、皆のイルミンスールを思う絆の力!
 ニュー・ファイア・イクスプロージョン!』

 
 『魔王』の構える剣が、アメイアを捉えんと振り降ろされる。
 それを、目を逸らすことなく見つめるアメイア――。
 
『……待ってくださいです!!』
 
 直前、一機のアルマインが、『魔王』とアメイアの間に割り込み、両腕を広げてアメイアを守るように立ちはだかる。
『わーっ!? 待って、待ってストーップ!』
『そ、そんなこと言われてもムリなんだなー!』
『ムリって言ったらそこでオシマイだからね! ……こうだっ!』
『あ、お、落ちるーっ!?』
 
 脚を前に突き出すことで、『魔王』が仰向けに落ち、剣でアメイアを切り裂くことは辛うじて免れた。
「貴様は……その声、イルミンスールの地下で……」
『……一度受けた恩は必ず返すのが、リンデンバウム家の掟です。だから、ナレディはあなたを助けるです』
 
 アルマインの操縦を担当するナレディが、アメイアに振り向かず、言葉だけをアメイアに投げかける。
(そうです、ナレディ。助けられたならその恩を返す。とても、大切なこと。
 ……ごめんなさい皆さん、後で必ず助けに行きますから……)
 ナレディを見守る小夜子が、ここに来る前に強制的に脱出させてしまった者たちのことを思い、心の中で謝る――。
 
「ナレディさん……操縦したいって言い出すから、コントロールを渡したらこのザマですよ、ハハハ……」
「……結局、我は何のためにここにいるのだ……」
「捨wwwてwwwらwwwれwwwたwww」
「おやおや……まあ、きっと誰かが、助けに来てくれますよ。それまで待ちましょう……」
 
 その、途中でナレディと小夜子によって機体の外に放り出される形になった鼎とハロルド、ラムズとクロは、後でちゃんと二人によって回収されたのだった。
 
「……何故だ!? 何故私を助けようとする!? 情けをかけたつもりか!?」
 屈辱に打ちひしがれるように、拳を地面に叩き付け、アメイアが激昂する。
『いやぁ、それがそいつの流儀っちゅうもんなんだろ。。そこに余計な口は、誰も挟めねぇし』
 アメイアの言葉に答えるように、ソード一本だけを手にした七刀 切(しちとう・きり)の乗るアルマイン・ブレイバーが近付いてくる。
『……ま、自分のしたことは責任取ってもらわねーとな。
 あんまし気は進まねーんだけど、やるからには本気でいかせてもらうかねぇ!』
 トランス・ワルツ(とらんす・わるつ)リゼッタ・エーレンベルグ(りぜった・えーれんべるぐ)、それに魔鎧化を解いた黒之衣 音穏(くろのい・ねおん)が水晶に触れ、瞬間、まるでテレポートでもしたように、切の乗るブレイバーがアメイアの背後に現れる。
 ナレディの乗るブレイバーが動くよりも早く、光を纏った剣がアメイアの――。
『ていっ』
「あっ」
 後頭部を軽く打つ。
『……ま、わての最優先は、アメイアさんに怪我させないこと。可愛い子に怪我させるなんてとんでもない。
 そうするくらいならそこの『魔王』なんてあげりゃいい』
『ちょ、ちょっと! 勝手にあげちゃわないでよ〜』
 リンネの抗議の声は、虚しく響く。
『ま、後のことはイルミンスールの生徒に任して、わいはこれでさよなら。見たところもう戦う気ないみたいだしな』
 周りには続々と、アルマインが集結していた。武装こそ解除していないものの、積極的に攻撃をしようとする生徒は、いないようであった――。
 
「あーあ、もしあのまま攻撃が入ってたら、結構いい感じで飛び散る血が見れたと思うのになぁ。
 あちこち血塗れだったし……ちょっと残念だったかも」
「恐ろしいこと言うなぁ。わいの性格知っとるくせに」
 リゼッタのごく自然に漏れた呟きに、切がそう口にしたところで、音穏がずずっ、と切に迫る。
「それよりもだ、切! ドサクサにまぎれて可愛いなどと抜かしおって……」
「だって、そうじゃん。……あ、もしかして音穏さんも、可愛いって言われたかった?」
「ば、バカ! そんなつもりで言ったのではない!」
 途端に動揺して、そっぽを向いてしまう音穏。
「そういうところが可愛いんだよなぁ」
「……バカ」
 チラリと音穏が視線を向け、にかっ、と笑う切にまたプイッ、とそっぽを向いてしまう。
「? ??」
 そんな様子を、よく分かっていない感じでトランスが、戦闘の終結を校長室にいる牙竜の下へと届けるのであった――。