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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
 手の空いている人は精霊塔への魔力供給を、という呼びかけを聞いて、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)の傍にいたルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)がすっ、と立ち上がる。
「ここはわしの出番じゃな。わしの作るスープで、皆の力になろう」
 魔女が作れる魔力を高めるスープを振る舞おうとするルシェイメアが、くるり、と振り返ってアキラに告げる。
「何かあれば迷わず出撃するのじゃ。己の力の使いどころを誤るでないぞ」
 言って、今度こそルシェイメアが精霊塔へと向かっていく。
 もう一人のパートナー、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)は『こども達の家』で子供たちの世話をしているので、今この場にはアキラ一人であった。
(……なんかなぁ。一大事なハズなのに、なんか呆れてる感じだ)
 アキラの視界では、
 ニーズヘッグが竜になった。
 イルミンスールが飛んだ。
 巨大なべっぴんのねーちゃんが現れた。
 空からなんか降ってきた。(これはルシェイメアに、ニーズヘッグに連れ去られた生徒たちだと教えられた)
 が一度に起こっていた。
 確かにそれだけのことが起きれば、もはや呆れるほかない、というのも納得できるだろう。
「アキラさん、あの、お疲れですか? 私、クッキーを焼いてみたのですけど……」
 そこへ、アキラたちに同行していたヨンが、香ばしい香りを漂わせる籠を手に現れる。
「ああ、そうだな……なんなんだありゃ、ってところ。
 もちろん、まだ外から脅威があって、張ってあるコクーンが破られそうになったりしたら、俺も出るつもりだけど、それまではじっと待機だな。やることはやったし」
「ふふ。アキラさん、頼もしいです。私が道に迷って困っていた時も、アキラさんの背中を見てて、不思議と安心できたんです」
「……ああ、あの時ね。別に、今もあの時も、はっきり説明できる自信があるわけじゃないけど。
 ただ、どうにかなるかなって気はしてる」
「私は、そういう人、好きですよ」
 クッキーをつまむアキラへ、ヨンの言葉が降る。
「私……自分に自信が持てなくて。でも、アキラさんと一緒にいたら、なんだか自分に自信が持てるような気がするんです」
 クッキーを咥えたまま振り向くアキラを、ヨンの真剣な視線が迎える。
「アキラさん。……私と、一緒に歩いてくれませんか?」
 それが何を意味しているのかを知ってか知らずか、アキラがクッキーを咀嚼してから答える。
「……俺、ヨン殿が思うような、大層な人間じゃないぜ? それでもいいってんなら、止めないけど」
「大丈夫です。アキラさんはきっと、私に自信を与えてくれる人です」
 そう告げて微笑むヨンの顔は、根拠はない、けれど確かに自信に溢れていた――。
 
「……子供の母親が見つかった!? 分かった、病院で合流だな!」
 【イナテミスの守り手】として、舎弟のパラ実生と共に救助・捜索活動に当たっていた姫宮 和希(ひめみや・かずき)の下に、『イナテミス総合魔法病院』の医師から連絡が入る。
 【VLTウインド作戦】周辺で救護活動を終え、病院に戻る最中、子供を探す母親の集団と遭遇し、話を聞いてみたところ和希が助けた子供の特徴と一致した、という内容であった。
(待ってろ、今会わせてやっからな!)
 病院に向かいながら、和希は『こども達の家』での去り際、自分を見上げてきた子供の顔を思い浮かべる――。
 
 その頃病院では、イナテミス各地から運ばれてきた怪我人の治療や、親や友人とはぐれた住民の手がかり探しに、生徒たちが奔走していた。
 イナテミス中心部はブライトコクーンの効果と、町長と精霊長、彼らに協力する者たちの存在もあって、戦闘による直接の被害や二次災害は食い止められていた。
 しかし、中心部から離れるに従って、そういった被害で怪我をしたり、精神に異常をきたしたりする住民が増えていっていた。この病院に運ばれてくるのも、普段は中心部の外に住む住民が殆どであった。
「さあ、着いたぞ。あと少しだ、気をしっかり持て」
「……うん、これでオッケー! 念のため、ちゃんとした診断と治療を受けてもらってきてね」
 今も、中心部の外から怪我人を運んできたセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)夕月 綾夜(ゆづき・あや)が、病院に詰めていたスタッフの誘導を受けて、飛空艇を急患用の入り口へと進める。
「ルナ!」
 セディ、綾夜と共に怪我人の確保と搬送に従事していたルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)を、セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)が呼ぶ。
「ここはもう人が一杯になっちまった。怪我の程度が軽い住民から、別の避難場所に移動させた方がいいんだろうが、場所とか分かるか?」
「分かった、連絡を取ってみよう。確かこの街の情報を管轄してるのは、刀真だったな」
 セシルに頷き、ルナティエールが同じ『アルマゲスト』の仲間でもある刀真に、病院は人が一杯であること、他に避難場所はあるかを尋ねる。
『分かりました。こちらで把握している情報をそちらに転送します』
 刀真の声の後に、ディスプレイに周辺地図と、避難場所が赤い点で示される。その情報をセシルもHCで受け取りつつ、場所と建物の名前、特徴を確認する。
「よっしゃ、まずはこの『イナテミス市民学校』ってとこ行ってみるわ!
 リリト、ルナ達との連絡を頼む。俺は中に行って、連れて大丈夫そうな住民から誘導するぜ!」
 背後にいた月の泉地方の精 リリト・エフェメリス(つきのいずみちほうのせい・りりとえふぇめりす)に指示をして、セシルが再び病院内へ走り出……そうとしたところで、ルナティエールに近付いて口を寄せる。
「やっぱ、お前の性格的にほっとけねぇよな?」
「もちろんだ、住民が危険にさらされてるのに放っておけるか」
 言った後で、恥ずかしさからかルナティエールが顔を赤らめ、視線を外す。そこへセシルがにかっ、と笑みを浮かべ、
「は、早く行けよ!」
 ルナティエールに蹴り出される。慌てて病院内へ向かっていくセシルを見送った直後、遠くから微かに、戦闘が行われているのだろう音と、地響きのような揺れが感じられた。
「ルナ〜っ……」
 耳を下げた、目に涙を溜めたエリュト・ハルニッシュ(えりゅと・はるにっしゅ)が、ルナティエールの背中にひっついてくる。
「ああもう、泣くな! 後でセシルにでも作ってもらって、美味いもん目一杯食わせてやるから!」
「ううっ……わ、分かった。
 ……そうだよな、こんな危なくて怖い思いしてる奴らを、ほっとけないもんな。俺、頑張る!」
 自分と同じ思いをしている人がこの街にはまだいるはず、その思いがエリュトを再び立ち上がらせる。
 そこへ、怪我人を収容し終えたセディと綾夜が戻って来た。
「行こう、まだ私達の手を必要としている人はいるはずだ」
 告げるセディに頷いて、ルナティエールが少し躊躇った後、セディを見上げて口を開く。
「セディ。ここからが、帝国と俺達の戦いだ。
 今回のことは、公的な関わりじゃないとはいえ、確実に帝国に繋がってる。
 これまで迷ってきたけど、答えも出した。……今日、ここで踏ん切りをつけて走り出そう。
 シャンバラと帝国が、いつか本当に友好的な関係を結べるように」
「……そうだな、ルナ。ここからが私達の戦いだろう。
 ずっと迷ってきた、その思いに、今日決着をつける。
 この救助活動をやりきったら、私もようやく正面から、帝国と向き合い戦えそうだ」
 ルナティエールの言葉に、セディも頷き答える。
「俺の笑顔で、励ましてやるんだ!」
「僕の治療で、痛みなんて直ぐに取り去ってあげるよ」
 エリュトと綾夜も、やる気満々だ。
「ここから頑張ろう!」
「あぁ。ここからが、私達の本当の舞台だ!」
 そして一行は、次なる場所へと乗り物を走らせていく――。
 
「よっ、と。アイツらはまだ来てねぇみてぇだな」
 彼らが飛び去った直後、病院前に和希が姿を見せる。その直後、爆音(といっても、周囲の住民に配慮してやや控えめ)を鳴り響かせて和希の舎弟が乗るバイクがやって来る。
「アニキ、ただいま戻りやした!」
「テメェら、よく戻ったな! で、子供の母親はどこだ?」
 腕を組んだ格好で彼らを出迎えた和希の問いに、舎弟の一人が答える。
「ウッス! もうすぐ見えるはずっす!」
 彼の言う通り、その直後、厳つい身体つきのパラ実生が幌車を引いてくるのが見えた。砂煙を上げながら走るパラ実生が、和希の目の前で減速して幌車を止める。
 ただ、少々急だったようで、幌車がガタン、と大きく揺れた。
「バカ野郎! 客人を乗せてんだ、もっと丁寧に振る舞え!」
「す、すいやせん、アニキ!」
 脛を蹴られて痛がる舎弟を置いて、和希は裏手に回り、幌を上げて中を覗き込む。
 そこには数名の女性が、皆不安そうな顔つきで和希を見つめていた。
「ウチの者が失礼した。俺は姫宮和希だ。あんたらの子供は今、安全な場所であんたらの帰りを待ってるぜ」
「ほ、本当ですか!? ……ああ、よかった……」
 和希の言葉を聞いて、僅かながら女性たちに安堵の表情が漏れる。
「今案内する、もう少し待っててくれ!」
 幌を下げ、和希は足取り軽く、幌車の先頭部分に飛び乗り腰掛ける。
「行け! 安全運転だ、誰も怪我させんじゃねぇぞ!」
「ウッス! 男磨かせてもらいやす!」
 再び幌車が走り出し、『こども達の家』へと向かっていく――。