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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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(・十人評議会)


 某国某所。
「イアンとエドワード、まさか二人も欠けるとは」
 会議室の円卓には、十の席がある。そのうち、四つが空席だ。
「カミロは療養中につき、欠席。もう一人は……まあ、もはや評議会の一員というほどではないか」
 会議を取り仕切るのは、第三席のマヌエル枢機卿だ。
「シャンバラは独立。海京の一件もあり、こちらの被害は甚大。しばらくは大人しく様子見をしなければならなそうだ」
 テロリスト塵殺寺院としても、反シャンバラ諸国としても、今は弱体化してしまったといわざるを得ない。
 シャンバラが一国となってしまったのも問題だ。
『で、枢機卿。彼女は入れなくていいのかい?』
 ホログラムで映し出された天住が口を開く。
「そうだな。改めて、新たなメンバーとして迎えよう――メニエス・レイン」
 会議室に、メニエスが足を踏み入れた。
「イアン・サールが死んだことによって空席になった第六席。そこに就いてもらおうと思うが、宜しいかな?」
「ええ、光栄ね」
 まさか、あの枢機卿がこの一員だったとは。
 知った名前に少々驚くものの、今度はメニエスから問いかける。
「あたしはあなた方ほどの財力や地位を持ってるとは言い難いと思うのだけれど、あたしが招かれた理由を聞かせて貰っていいかしら?」
「『パラミタを知っている』、それが最大の理由だ」
 シンプルな答えだった。
『まあ、僕達はなんだかんだで大陸で過ごさず、地球に留まって力をつけてきたわけだからね。旧塵殺寺院の一員としても、契約者としても優れた力を持っていて、さらにパラミタの実情をその目で見てきた。それに、地球勢力をパラミタから払い落としたいというのなら、僕達と利害が一致する。そういうことだよ』
「今ミスターテンジュが言った通りだ。我々の不足を埋めてくれると判断した、そういうことだ。もし、推薦出来る人物がいれば紹介してくれるとなお有り難い。席が足りないものでな」
 天住が別の人影を見る。
『で、同じ魔術師として何かあるんじゃないかな? クロウリー卿』
 クロウリーと呼ばれた人物がメニエスと目を合わせる。
「高名な魔術結社、一族の出自ではないにも関わらず、それだけの魔力を手に入れるとは。実に興味深い」
 それを見てふふ、と一人の上品そうな女性が笑った。
「相変わらずですわね、魔術師さん。それはともかく、久しぶりに同性の方が加わって下さり、非常に心強いですわ」
 ミス・アンブレラと彼女は名乗った。
 しかし、メニエスは少し前に海京で話題になっていた一人の女性と、彼女が同一人物であると気付いた。
 メアリー・フリージアだ。
 そして、
「この姿では初めまして、かな? メニエス・レイン」
 いつの間にそこにいたのかは分からない。
 一人の少年とも少女とも判断出来る子供が座していた。
「……総帥、お出でになられたのですか?」
 マヌエルが萎縮していた。
「この姿では?」
 メニエスが怪訝そうに問う。
「傀儡師、マスター・オブ・パペッツ、マキーナ・イクス、聞き覚えはあると思うんだけど」
 そんな人物が、かつていたことをメニエスは思い出した。
「へえ、貴方が」
 まさかまた知った名前が出てくるとは。
『へえ、総帥って実は架空の存在だと思ってたけど、ちゃんといたんだねー』
 くく、と天住が微笑を浮かべた。
「無理もない。総帥と面識があったのは、私とエドワード、それにローゼンクロイツだけだ。二年前に評議会入りした君や、三年前に加わったミス・アンブレラが知らないのも無理はない」
 とはいえ、マヌエルの顔は強張っている。
 空気の変化には、メニエスも気付いた。
 総帥、そして隣のローゼンクロイツから放たれている空気は、他のメンバーと比べても異質なものだったからだ。
「総帥、提案が。第二席の候補には当たりをつけてますが、まだ保留といったところです。ローゼンクロイツにしばらく臨時で第二席について頂きたいのですが……」
「いいよ。今度から僕も会議に出ることにするよ。ちょっと色々、面白くなりそうだからさ」
 そこへ、通信が入った。
「ウェスト博士からだ……」
 内容を確認する。
「サロゲート・エイコーンの次世代機が完成した。これまでのシュバルツ・フリーゲやシュメッターリングの性能を大幅に上回っている」
 そのスペックを表示した。
「それと、メニエス・レイン。君にメッセージだ。『復元が完了しタ。取りに来たまエ』とのことだ」
 それを聞き、メニエスは静かに笑った。

* * *


「クク、成功ダ」
 培養液の中には、赤い瞳の幼い少女が浮いていた。
 全能の書、その断片から復元した人型の部分だ。紙片であるため、本来の書としての存在に比べれば著しく弱体化しているが、それでも大元が相当な魔道書だったらしく、比較的強い部類に入るだろう。
 そして、ヴィクターは車椅子で近寄ってくる姿に声を掛けた。
「パートナーロストの影響で半身不随。パイロットとしての再起は絶望的ダ」
 それは、エヴァン・ロッテンマイヤーだった。
「るせえよ、外道」
「威勢だけは相変わらずいいナ」
 そして、彼に問う。
「デ、答えは決めたカ」
「条件がある」
 エヴァンは、それを告げた。
「あいつを自由にしろ。もう治療は終わってるはずだ。そうすれば、協力してやる」
「選択の余地があるとでモ」
「『実戦部隊の人間は同意書にサインしている者以外、実験体にしてはならない』。だから人権のないクローン兵を作っていじらざるを得ないんだろ。破ったらどうなるか知ってるから」
 ヴィクターは苦笑した。
「分かっタ」
「あいつの無事を確認次第、サインは書く。破っても逃げられないことくらいは知ってるさ」
 そして、エヴァンは去っていった。
「クク、あいつほどのパイロットなラ、08号のパートナーに相応しイ。楽しみダ」