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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・PASDの午後


「こんにちは〜」
 秋月 葵(あきづき・あおい)は、PASDの本部へと足を運んだ。
「たっだいまー、って葵ちゃん、来てたんだー」
 そこへ、ちょうどエミカがショッピングから帰って来る。
「これからみんなで食事会だから、そろそろ集まって来る頃だよ」
 エミカに案内され、奥へと入っていく。
「おや、いらっしゃい」
「お久しぶりです♪」
 司城と顔を合わせる。相変わらず、男か女か分からない中性的な風貌だ。
「おや、少しずつ賑やかになってきましたね」
 今度は長身の眼鏡青年、リヴァルト・ノーツ(りばると・のーつ)だ。
「ちょこっと遊びにきました〜♪」
 そんなわけで、可愛いラッピング袋を取り出す。中に入っているのはキャンディの様に包んだトリュフチョコだ。
 バレンタインデーには少し早いが、PASDの面々がこうも揃っているというのは滅多にない。
 決してバレンタインデー本番を前に練習がてら作った試作品だとかというわけではない。
「司城さんには感謝チョコでしょ、エミカちゃんのは友チョコだよ〜♪」
「わーありがとー!」
 ぎゅーっと、エミカが抱きついてくる。相変わらず元気な子である。
「あと眼鏡さんのは義理だからね〜」
 それでもありがたそうにリヴァルトが受け取る。
「よかったねー、リヴァルト。女の子からチョコもらえてー」
 エミカがからかうような視線をリヴァルトに向けている。どうやらエミカに、リヴァルトへの恋愛感情というのは一切ないらしい。
 まあ、二人は幼馴染で兄妹のようなものだから、それが自然なのかもしれないが。
「いやぁ、えれぇ目に遭ったぜ」
 今度は鴨が姿を見せた。
 着物がわずかに汚れている。口ぶりからするに、どこかで転んだりでもしたのだろうか。
「あ、鴨さんだ」
 実は、葵は新撰組のファンだったりする。
 目の前に本人(しかも、れっきとした英霊)がいるとなると、興奮せずにはいられない。
「すいません、サイン下さい!」
 チョコレートの包みと一緒に、サイン色紙も渡す。
「ん、ちよこれていと? さいん? んん……?」
 どうやら横文字に相当弱いらしい。
「筆で俺の名前書きゃあいいのか?」
「んーとね、ここに葵ちゃんへって入れてください!」
 戸惑いながらも、サインを記入しようとする。
「変わった筆だなぁ」
 サインペンのことである。一応、葦原に半年いて、しかもあそこはアメリカが関わっているのだから、多少は文明の利器に触れていても良さそうなものである。
「ほらよ」
「ありがとうございます♪」
 だが達筆すぎて読めない。
「ちょっといいかい?」
 司城が鴨を呼び寄せた。
「実は、少し前に彼がここに来てね」
「……平助か?」
 平助? まさか藤堂 平助だろうか。
「久しぶりにシャンバラに戻ったんだから、食事でもしてったらと誘ったんだけどね。『龍騎士を倒せるようになった程度で、芹沢さんに会おうだなんて思わねー。それに、まだ色々とやることがある』ってことらしい。明日にもシャンバラを出るって」
「なんだ、どんだけ成長したか見てやろうと思ったのによぉ」

* * *


 一方、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)達は百合園女学院からPASDへと向かっている最中だった。
 同じ学校に通う、クリスタル・フィーアとヘリオドール・アハトも一緒である。
「戻るのは久しぶりですか〜」
 メイベルが二人に尋ねる。
「……うん」
「むー、久しぶりなのです」
 まあ、二人とも百合園に来たと思ったら、シャンバラが東西に分裂してしまったのだから仕方がない。
 こうやって統一され、ようやく気軽に一同に会せるというわけだ。
「しかし、皆さんに何を持っていけばいいんでしょう〜? 悩みますぅ」
 鴨には日本酒を持っていけばいいのだろうが、他はどうにも好みが分からない。もっとも、アメリカ出身のメイベルとしてはジャパニーズ・サケの銘柄も何がいいかという細かいところまではさすがに把握し切れていないが。
「むー、クッキーが美味しいのです」
 その隣で、クリスタルがクッキーを頬張っている。
「やっぱり、甘い物がいいと思うのです!」
「……悪く、ないね」
「じゃあ、買出してから行きましょう〜」
 というわけで、お菓子や食事会で使うための食材を探しに繰り出す。
 お菓子に関しては空京では手に入らない、ヴァイシャリーの銘菓を持っていく。クリスタルの大好物でもあるものだ。
 食材に関しては、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がフルーツを使ったお菓子作りに励むということで、空京で買うことにした。
 まったりクッキーをつまみながら話し、ヒラニプラ鉄道に揺られていると、あっという間に空京に到着した。

 同じように空京に向かって移動している者達がいる。
「お待たせー、ひなちゃん」
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)ジャスパー・ズィーベンと合流した。
「ひゃっはー、久しぶりにみんなに会えるー!」
「相変わらず元気じゃの、ルチル」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)ルチル・ツェーンも一緒だ。
「へりおも向こうで合流ってことで話はついてますー」
 そんなわけで、久しぶりにワイワイするのを楽しみにしているのである。
「そういえば聞いておこうと思ってたことがあるのですよっ」
「なあに?」
 食事会では無粋な話題になりそうなので、先に話しておく。
「最近は割りと平和に暮らしているんですけど、真の平穏って訳じゃですよね〜。争いの火花が再びジャスパーの近くまでやってきたら、そのときはどうしますかー? ましてやイコン戦だったりしたら……私と一緒に乗りますです〜?」
 確かに、今の平和はほんの一時のものに過ぎない。
「難しいね。わたしは戦いたくはないけど……ひなちゃんやみんなに危険が及ぶようなら、戦う。そのための力も持ってるからね。イコンか……うん、そうなったら乗ってもいいかもね」
 自分の友達を脅かすものがいるなら、その大切なものを守るために戦う。ジャスパーはそう言った。
「いきなり硬い話で申し訳ないのですよー、食事中には話せそうになかったので先に言っちゃったのですっ。でも、なんだか安心したのですっ」
 すっかり『狂気』などというものは彼女から消え去っていた。これも、半年の間ひな達と普通の少女として過ごしていたからなのだろうか。

* * *


 その頃、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は海京決戦で回収した敵の遺体の調査結果に目を通していた。
「想像以上の大物だったな」
 身元は判明した。
 エドワード・フレデリック・アルバート。イギリス王室に連なる本物の貴族。王位継承権も所持している。
 社交界での交遊も多く、世界各国にいる政財界の要人で彼のことを知らぬ者はいないほどだ。
(しかし、これほどまでに目立つ人物がなぜ反シャンバラ勢力の人間として警戒されていなかったのか?)
 評議会に関する記録は遺品からは見つからなかった。だが、ほとんど黒だと言って良いだろう。
 ――お前達は地球そのものを敵に回した。
 その言葉の意味を理解する。
 彼はヴァチカンのマヌエル枢機卿のように反シャンバラ発言を繰り返していたが、御神楽 環菜が暗殺された後、葬儀に訪れている。ろくりんピックも観覧していたという。そのことから、学校勢力に対する不信感を持ちつつも頭ごなしにシャンバラを否定はせず、尽力している学校の校長達には敬意を示していた……という印象を刷り込んでいたのだろう。
(これじゃ、本当の敵が誰か分からないじゃないか……!)
 裏を返せば、親シャンバラ派で支援を行っている有力者が、実は寺院をも支援している可能性だってあるのだ。
 表の顔を取り繕って。
 むしろ、それさえも敵の狙いなのかもしれない。疑心暗鬼に陥ってお互いに潰し合わせるために。
 だが、収穫がゼロだったわけではない。
(社交界……パーティの日取りか)
 各界の著名人が集うパーティーの日付がそこに記されていた。
「……ロンドン」
 問題は、どうやってそこへ潜入するかだ。西シャンバラロイヤルガードとはいえ、そんな場所に紹介もなく入れるとは思えない。
「飛行機のチケットだけは取っておくか」
 ネットに繋いで、予約手続きを済ませる。パーティまでは間が空いており、席を取るのは容易だった。
「正悟、何してるの?」
 そこへ、エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)がやってくる。
「何でもない、ちょっと調べものをしていただけだよ」
 社交界のことは伝えない。
「大丈夫」
 そして席を立った。

(本当に、このまま追わせていいのかしら?)
 エミリアは最近変わりつつある正悟の身を案じた。
 知らないうちに、単身イコンの戦場で無茶をしたらしいことを聞いている。エドワードの死体を手に入れられたのも、そのためだ。
 だが、彼は自分の目的のために手段を選ばなくなってきている。それどころか、善悪すらも。
 だからこそ危惧する。敵の目的が、彼の目的と一致した場合、今の正悟なら躊躇うことなく敵側につくだろう。利用しようとして。
 しかしそれは常に、利用されるというリスクも伴う。正悟はそのことに気付いているのだろうか。