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リアクション
・コリマにアタック(物理的に)
すっかり陽も暮れた後のイコンハンガーの中。
静まり返ったその場所で一人寂しく自分の機体を整備しているのは、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)だ。
「なんで誰もあたしと目を合わせないのよ……」
例えば、女優メアリー・フリージアのような上品で気品溢れる美女だったり、PASDの看板娘、エミカ・サウスウィンドみたい明るくかわいい女の子なら人気もあるだろう。
だが、モモはそうではない。目つきは悪く、未だ校内に親しい友人がいない。
「頑張って飛び級で自分のイコンまで手に入れたのに……」
その点でいえば、彼女は努力家だ。
「ぐぐぐ……あたしのことを分かってくれるのは機械だけ……あたしのコームラントカスタム」
自分の機体であるコームラントカスタムを見上げる。
「イーグリットや新型機なんかに負けるな! あたしが学院一……いや、世界一のイコンにしてあげるからねっ!」
グッとスパナを握り締める。
だが、どこか空しさが込み上げてくる。
(はぁ……でも、あたしもみんなみたいに青春したい……)
せめて、学生らしく。
「結局、世の中見た目なのね……」
ルックスがよければ。
怖い顔をしていても、幸せな人なんているのだろうか。
考える。
「いや、いた!」
たった一人、滅多に校長室から出ることなく静かに堂々と構えている男、コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)。
そうと決まればやることは決まっている。
ささっと手紙を書く。ラブレターだ。
「どれどれ、どんなラブレターを書いたの?」
機体の上からモモの様子を見ていたハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)が降りてきて、その文面を見る。
『コリマ先生へ。
どうしていつも校長室で怖い顔で睨んでるんですか?
背後霊が数万憑いてるって本当ですか?
最強の超能力でも頭の毛は生えないんですか?
先生のことを考えると夜も眠れません……
乙女の大事な物を奪ってもOKよ。
どこからでもかかってKOI☆ モモ』
沈黙。しばしの間の後、
「何これ?」
ギルティがなんとか声を出した。
そして、夜の学校に入る。
コリマもさすがにこの時間になれば、校長室を出るだろう。
「こ、これ読んで下さい!」
部屋から出たコリマにタックルし、恥ずかしそうに両手で手紙を差し出す。そしてそのまま一目散に駆け出していった。
そして途中の物陰から反応を窺う。
というか、夜の校舎の中で背中のクリスタルが淡く輝いていて、幽霊よりもコリマの方がずっと怖い。
「え、返事聞いてきて?」
ギルティがモモを見上げる。
「陰から見てないで、自分で行けばいいのにー!」
この後、教員に見つかり外へ締め出されたのは言うまでもない。
(この時代の人間は大体理解したつもりだったが)
コリマは考える。
(私の理解が及ばない事象はまだ残っているようだ)
呆れにも似た感情がそこにはある。
すぐにモモの手紙から別の思考へと移る。
(もう、気付いてますよね。一ヶ月前、我々に介入してきた存在の正体に)
(……無論だ)
(だけど、それならこの先もっと厳しいことになるよ)
(分かっておる。所詮五千年前の人間である私では……いや、お主達の力を借りてようやく並べるかどうか……)