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リアクション
宇都宮祥子チームとメニエス・レイン VS 謎頭巾
雪に囲まれた小さな街のその奥に深い緑の群れが見える。
コンロン最北に位置する場所にこの国の世界樹・西王母があるのだ。
だが、そこに向うことはできなかった。頭から頭巾をすっぽりと被った謎の一団が道を塞いでいるのだ。
それぞれ思惑は違うが、いち早く世界樹に迫った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)とメニエス・レイン(めにえす・れいん)は、謎頭巾の集団に取り囲まれていた。
「そういうことなの?――この頭巾の人たちが」
「ユーレミカの軍閥……世界樹を守っているというの?!」
ハッとしたように呟く祥子とメニエス。
例えそうだとしても、それがわかったところで何の解決策にもならなかった。
じりじりと迫りくる謎頭巾たち。
二人はそれぞれに頭をフル回転させ始めた。
* * *
「おねーちゃんに向ってくるなんて――あ゛ぁ゛? 死にたいわけ?」
ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)が、メニエスを庇いながら、迫る謎頭巾を威嚇する。
ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)もそれに倣う。が、こちらは冷静に相手の出方を窺っていた。
手こそ上げないものの威圧するように距離を詰めてくる頭巾たちを見やりメニエスは眉を寄せる。
(戦闘するようなことになる時は教導団の奴らとだと思っていたけれど……)
ユーレミカに向う直前に遭遇したマリー率いる教導団を少し挑発した。
勿論、仕掛ける気などはさらさらなく、ただ、向こうが自分達を攻撃してくれれば、ほんの少しだがこの地で動き易くなるだろう
と思っていた。
(教導団が武力を行使して、あたしがそれに応じず回避すれば、奴らの手段が狭まるくらいは期待していたのに……)
それもこの地の住人がまともであればという前提の話なのだが。
今の状態を吟味すれば、いささか自分の考えが甘かったのかもしれない。
(と言って、この頭巾たちに攻撃をするのは不利になるだけだわ。呼びかけを行う――くらいしか方法はないかしら)
「ミストラル、ロザ――手を出しては駄目よ」
「えぇ〜!? 変な人たちだから、殺しちゃいたいけど……おねーちゃんがそういうなら……」
ロザリアスが不服気に唇を突き出せば、ミストラスが問う。
「メニエス様、その方法は? 果たして言葉が通じるでしょうか?」
「わからないわ。けれど、今はそれしかない。そうね。ロゼ、あなたは念じなさい」
「はぁーい。おねーちゃん」
「ミストラルはロゼに問うべき内容を指示して。あたしはあたしで交渉してみるわ」
「わかりました。言葉が通じるようであれば、わたくしの方でも交渉を試みてみましょう」
「ええ。お願い」
三人はそれぞれの方法で謎頭巾に向って、交渉を始めた。
「話をしましょう。戦うつもりはないわ。まず、そうね。あなたたちは何者なの?」
* * *
一方、宇都宮祥子の方では。
セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)が迫る頭巾たちに、先日遭遇した龍騎士たちの姿を重ねていた。
あの時、セリエは恐怖と同時に龍たちに畏怖と親愛の情を感じていたことに改めて気付いた。
それは彼女がドラゴンライダー(龍の乗り手)であるからに他ならない。
だからこそ、今、戦う以外の可能性を模索することができた。
「戦うことは容易いですわ。けど、容易い手段ばかりとっていては目的は果たせない。
ここはそういう場所とそういう時――お姉様の判断を信じて身を委ねます」
隣では同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)がぶつぶつと何事かを呟いている。
彼女も試算の真っ最中だ。
目の前のメニエス一行、その背後に構えるユーレミカの軍閥。
せめて対峙しているのがメニエスたちだけなら、なんとかなったかもしれない。が、ユーレミカの軍閥は数が多過ぎた。
しかも地勢は見晴らしのいい雪原ときている。色々な要素が静かな秘め事の試算を潰していく。
「最も無難な手は箒の機動力に任せてユーレミカに突入することですが……万事窮したかしら
…情けない話だけど母様にお任せするしかないですわ」
祥子、セリエ、静かな秘め事を守るように一歩前に出るのは湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)だ。
最悪の事態に対する覚悟は出来ている。
大切なパートナーと朋輩を守って斬り死ぬ覚悟なぞは騎士となった時からいつもある。
だが、もし自分の身に死が訪れれば、守りたいと願った相手の身を傷つけることになってしまう。それだけが気がかりだ。
ランスロットは今の状況事態をそう深刻に捉えていなかった。
相手の実力が高かろうと数が多かろうとそんなことはさしたる問題ではない。
「――心つまりは士気。迷いがあっては通じないぞ? 確固とした意思で相対せよ。私達はそれに従おう」
三人パートナーはそれぞれに思いを決め、ただ祥子の言葉を待っていた。
そして、祥子は考えていた。何が最良であるかを。
(……あの頭巾たちは)
まず、眼前に迫る異様な風体の集団についての可能性を検討する。
謎の頭巾集団――ユーレミ科のズキーン。
普段は大人しいが縄張り意識が強い。受け入れて貰えれば危険性はほぼ無いが、警戒をとくまでが難しい。
縄張りが荒らされることを恐れて威嚇しているだけなので、安心させることが重要である。
/謎頭巾の秘密/空京大学どうぶつ王国(同好会)レポートより
(……って、ちっがーう!! それじゃ、某北国の動物博士じゃない!!)
唐突に脳裏に浮かんだ、ろくでもない情報を吹き飛ばす。
(彼らの立場になって――襲ってきた理由はユーレミカを守るためなのか、西王母を護るためなのか…多分後者。
コンロンの勢力争いに加わってないのは西王母の守護を優先させたからかも。
なら、彼ら自身にも西王母にも害意の無さを示すしかない。言葉が通じないなら、行動で……)
「セリエ、ランスロット、静香。武器を捨てて彼らの前に座り込むわよ」
きっぱりと言い切った祥子は返事も待たずに武器を放り捨てると雪の上に座り込んだ。
「お姉さま!?」
「母様!?」
セリエと静かな秘め事が異口同音に悲鳴を上げる。
「いい覚悟だ。祥子」
いい様ランスロットも武器を置くと、その隣に腰を下ろした。
「私たちに戦う意思がないことを示すためよ。武器を捨てて、抵抗の意思を見せないの。スキルを使おうとしちゃだめよ」
その言葉に顔を見合わせると、残された2人も信じると決めた祥子の決定に従う。
「――あとは信じるだけよ」
* * *
「く――やはり、言葉は通じないのね」
言葉による会話、念じるといった超能力的な会話を想定してあの手、この手を試したメニエスたちだが、効果のほどは全くなかった。
「あ゛ぁ゛〜!? なんなの? このキモ頭巾!! むかつく、でも……」
ロザリアスが埒のあかない状況に癇癪を起す。
メニエスも新たな手段を考えざるをえない状況となった。
「こうねれば、空から指導者らしい頭巾を探して――」
「メニエス様。ここは退きましょう。一度退いて、頭巾と教導団の動向を確認するべきです」
「――そう、ね」
ミストラルの進言にメニエスが頷いた時、押し寄せていた頭巾たちの動きがピタリと止まった。
「な、何?」
「ど、どうしたの?」
メニエスたちから少し離れた場所で武器を捨てた祥子たちの前でも同様のことが起こっていた。
まるで波が引くように下がる頭巾たちの間から、一人の頭巾が歩み出た。
姿形は他の頭巾となんら変わらない。
だが、対峙する者の背を正させる妙な気迫――いや、威圧感があった。
低い、だが男なのか女なのか。判別つきかねるくぐもった声が響いた。
「――問う。この者ら、試す価値はあるや、否や?」
次いで、返事の代わりに2000の足音が雪原を揺らした。
驚く祥子とメニエスを交互に見やると、その頭巾はこう言った。
「……そなたらを試す……」
「な、何? 私たちを……どういうこと?」
「試す、ですって? ……あなたたち、何者なの?」
頭巾はそれきり口を噤み、2人の問いに答えようとはしなかった。