リアクション
再び教導団世界樹班と魔王軍とブルタさん
教導団世界樹班と魔王軍、そしてブルタ。
前者二つは互いに思うところがあるために、歩みを止めていた。
後者のブルタは物理的に動けないだけである。
事前の情報通り、都市にはおそらくこの地の軍閥なのだろう頭巾の集団がいた。
この謎頭巾たちの数は2000。
ユーレミカ――いや、西王母に近付こうとする者たちを徹底的に排除するように動いているようだ。
土地の軍閥の戦闘を考えていない教導団の意に従い、まずメイベルたちが迂回路を探した。
が、見晴らしのいい雪原には身を隠す場所などなかった。
続いて、イレブンが妖しい現地訛りを駆使してコンロンの民を装ったのだが、これも空振りに終わった。
次の手をどう打つか考えている内に日が暮れ、一行は野営に入ったのである。
ぱちぱちとはぜる焚き火の音。
その音と火を見ながら、グロリアはぼんやりとしていた。
周囲では仲間達が次の策を練っている。
だが、その音は彼女の耳には届かない。
ただ、燃え盛る炎の色と生技がはじける音。
そして、どこからともなく聞こえる自分の声だけがその耳に響いていた。
(――全てを、この薪のように。火をつければ――)
「全てが燃えれば……きっと、ユーレミカへの道は開ける……そうよ。そうよね」
小さく呟くとグロリアは立ち上がる。その目の焦点はどこかおかしい。何かを見ているようで、何も見てはいない。
仲間から離れて、どこかへと向うその背中。
そして――
「ぼ、ボクをかわいそうだと哀れんで、さぞ君は気分が――」
ブルタがみなまで言い終わらないうちに、今まで彼を拘束していた縄がブツリと音を立てて切れた。
中性脂肪の塊は地面に落ちて、鞠のように弾んだ。
「感謝は――しないよ。ふふふ。ボクは――高見の見物をさせてもらうよ」
言うや否や、大きな羽音が空気を震わせた。
「「グロリア!!」」
そこに二人の少女の声が響いた。よく知る声とパートナーの自分さえ滅多に聞くことのない細い声。
瞬間、その目に光が戻る。
「え? あ? わ、私……」
だが、時既に遅し。
ブルタの身体はワイバーンによって手の届かない空の上にあった。
「誰かー!! 捕虜が逃げたわっ」
アンジェリカが大声で呼ばわった。
ややあって、軍師マリーの声で指示が飛んだ。
「逃げた?! 追え! 追うであります!! 奴を捕らえるであります!!」
「今が勝機!」
「はい。魔王様」
「ふ、ふはははははは」
哄笑を残して、ジークフリート率いる魔王軍は闇へと消えていく。
まずはブルタがワイバーンを駆り、上空から西王母を目指す。
続いて、混乱と闇に乗じて、魔王軍が頭巾たちをやり過ごし、町を抜ける。
そして、町の住人の衣服を奪い見事潜入を果たしていたナインが、そうとは知らず二人の後を追う。
それぞれが目指す先はユーレミカ――いや。世界樹・西王母。
三組がたどり着いたのはどことも知れぬ場所だ。
前後左右の判別もつかず、足元さえも覚束ない。
と、声が響いた。
「……汝、何者カ……我ヲ守護スルニ相応シイ存在カ……」
一方、ユーレミカは俄かに騒然となった。
残された世界樹班の面々はあっという間に謎頭巾たちに囲まれてしまう。
「く。わ、ワテらは争うつもりは――」
マリーが言い募ろうとするが相手に通じている様子はない。
ただ包囲の輪が狭くなるだけだ。
「ま、マリーさん、ここは一時、戦術的撤退を」
「いや、俺に考えがある! カッティ」
「秘密兵器だね! メイベルさん、セシリアさん!」
イレブンの言葉の意味を悟ったカッティが撲殺三連星を呼ぶ。
ピィ――カッティの指笛を吹くのと同時、左右からも同じように指笛が聞こえる。
その音にあわせて走りこんできたモフモフにそれぞれが飛び乗ったかと思えば、瞬時に隊列を組み替える。
「10時の方向ですぅ」
「いくよ!」
「「「騎狼ストリームアタック!!!」」」
突撃する騎狼の上からフレイル、メイス、モーニングスターが間髪入れずに振り下ろされ、一角が崩れた。
「よしっ。みんな雪山の頂上を目指すんだ!!」
その声に急かされ、一同は山というほど高くはない丘を登って行く。
背後には逃げ道はなく、下からは体制を立て直した謎頭巾たちが迫り来る。
一時窮を脱したものの、これでは袋の鼠だ。
と、イレブンが懐から小さな雪だるまを取り出した。
「行ってくれるか?」
主の手のひらの上で雪だるまはコクリと頷いた。
「そうか。桜の舞う季節に……会おう!!」
別れの言葉を受けると、小さなな英雄はイレブンたちの背後にピョンと身を躍らせる。
小さな身体は宙を舞い、1メートルほど上の斜面に着地した。
「あれ?」
ゴロゴロゴロ。
後方から何かが転がり落ちてくる音がする。
それは巨大な雪ダルマだった。
「「「ぎゃー!?」」」
「「「きゃー!?」」」
「お助けでありますー!?」
主とその仲間達を巻き込んで、坂道を転がり行く。
それは立ち塞がる謎頭巾たちも蹴散らして――ただ、一直線に世界樹に向って転がり続ける。
巻き込まれ、転がり行くマリーたち世界樹班の運命は。
否応なく流転する運命。まるで転がり続ける雪ダルマのように――
「誰がうまいこと言えといったであります―ふが」
(次回に続く)
皆様お待たせ致しました。
教導団キャンペーンシナリオ第2回のリアクションを公開させて頂きました。
今回より新体制での執筆によるリアクションとなっております。
執筆担当は以下のようになっています。
【1】【4】今唯ケンタロウ 第6、8〜12章
【3】瑞島 郁 第7章
【4】竜田大輔 別章(2)(3)
尚、判定からプロットは私・今唯が行っております。とは言え、両マスターのご裁量にお任せした部分も御座いますし、時にはイイ意味でプロットをぶっ壊して……(ぶっ壊したりぶっ壊れたり、私なんか時々してますもっとしたいですが、したところから新しい景色が見えたりして、それが良い瞬間なのですよね。書いている内、皆様のキャラクターが勝手に動いてプロットを壊しながらどっかマスターの知らないところまで連れてってくれる、なんていうのもそうですね。と、長くなりましたけども……)そんなこともたまには含みつつ?、丁寧に料理して彩ってとして頂き、今回のリアクション、とても良いリアクションに仕上がったのではないかと、全体の統括させて頂いた私は感じております。マスター一同、それぞれの持ち味と色を生かしつつ最大限に腕を振るわせて頂きました。
どうぞ、今回のリアクションの方じっくりと味わって、お楽しみ頂ければ、と思います。
基本的に、漢字や語句、名前の表記等はなるべく統一していますが、各マスター固有の表記法等はあえてそのままにしている部分もあります。
是非、ご意見・ご感想もお寄せください。
登場シーンについては、今回は章タイトルを付けましたので、そちらをご参考にしてください。複数章に分かれている場合も、御座います。
クィクモ、ヒクーロ、ミロクシャ方面の後半部分は最終章にあります。また、その他地域についても最終章に入れてあります。
次回・最終回のシナリオ公開に関する情報は、決定次第、私のマスターページの方に掲載致しますので、そちらをチェックしてください。
最後に、リアクションを執筆に協力頂いた瑞島マスターと竜田マスターからのコメントが届いておりますので掲載させて頂きます。
*瑞島マスターより*
お久しぶりです、あるいははじめまして。瑞島です。
まずは、今回の震災で被害に遭われた方にお見舞いを申し上げます。私は直接被害を蒙った地域には住んでおりませんが、やはり生活に若干の影響は出ておりまして、一日も早く当たり前の「日常」が戻ることを心から祈っております。
さて。今回より、今唯マスターのお手伝いということで、リアクションの一部、ミカヅキジマを舞台としたエピソードを書かせて頂いております。アクションの判定及びプロット作成は今唯マスターが担当され、それに従ってマスタリングをしたわけですが、瑞島は瑞島でしかないので、今唯マスターの書かれた今までのリアクションの雰囲気と瑞島色の折り合いをどうつけるか、が今回一番難しい作業だったように思います。(もちろん、ながねこは無問題でしたが。あと、ご飯とお茶・コーヒーは基本ですね)
ミカヅキジマにもイコンが届き、物資も揃いました。ゲームではいよいよ、本格的に非日常の世界に突入することになると思います。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
*竜田マスターより*
東日本大震災よりひと月が経とうとしています。
被災された方に心よりお祈り申し上げると共に一日も早い復興をお祈りいたします。
このリアクションで皆様にひと時の楽しみを提供できれば、こんなに嬉しいことはありません。
改めまして。はじめてましての方が多いかと思われます。MSの竜田大輔と申します。
第二回目より「第四師団コンロン出兵篇」のお手伝いをさせて頂くことになりました。
今回は「ユーレミカ方面」を担当しております。
皆様の力の篭ったアクションににやりとしつつ全力を持って執筆させていただきました。
戦闘とはちょっと縁遠い感じのリアクションになってしまいましたが、お楽しみいただければ幸いです。
また、アクション欄を利用して詳細に設定などお知らせくださった皆様。
本来ならば個別にコメント差し上げるべきなのですが、この場を借りてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
「コンロン出兵篇」は次回で一区切り。全力を尽くしますので、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
4/11*別章(2)(3)誤字・脱字修正、抜けていた部分を追加