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リアクション
更に、このコンロン出兵における最大の戦力となるであろうイコンもすでにクィクモに届けられ、整備が始められている。
第三陣にてイコン輸送に携わってやってきた、叶 白竜(よう・ぱいろん)。精悍な顔立ちに、態度も至って真面目な軍人である。地球本国から志願してやってきたのもまさしく、イコンの導入、教導団の国軍化での体制の変化を見極めるため、だという。情報科の士官候補生として配属された。
コンロンに出兵することは、どれだけ慎重に動いたとしても帝国を刺激し、その兵たる龍騎士との戦いを招くことは予測されていたことだと、白竜は思う。それに対し教導団は、飛空艇や海軍の艦隊もあるが、また陸上にはパワードアーマー隊も加えられたものの、武装がまだまだ不足しているのではないか。契約者の個々の能力に頼るだけでは同胞の多くの犠牲を生み、重火器や戦車などの供給が難しいままであれば、やはりイコンを導入するしかない、と。
必要以上の争乱は避けねばならないが、戦力を対等にして初めて相手も話し合いの場につこうという意思が働くのではないかとの思いもあった。上層部がイコンを置くと決めたのなら、一士官候補生としてはそれに従うのみ、完璧に整備を行いたい、と。その上で白竜は現地に赴くまでの間、ずっと自分なりに考え詰めてきた。少なくとも、
「コンロンでの、イコンの使い方を誤ってはいけない……」
そうしてクィクモの港に並べられた数機のイコン。そこには……
「技術チームの姉妹というのは、あなた方ですね。お聞きしております。教導団のイコン整備を担当する叶 白竜です。機工士の免許を取り、日々学んでいるところ。私たちではまだわからない面も多いですが、よろしくお願いします」
「ええ。よろしくね!」
白竜らと同じく第三陣に加わってきた、この姉妹……久々に登場の朝野 未沙(あさの・みさ)らアサノファクトリーの面々だ。
「教導団、イルミンスール、天御柱学院のイコンは持ってるから、教えれ上げられると思う。蒼空学園や空京大学のイコンはイーグリット、コームラント焔虎がベースになってるから、全然判らないのはシパーヒーとキラーラビット、後は帝国のヴァラヌスくらいかな。その辺も基本は一緒だと思うから、見せてもらえればなんとかできると思う。
イコンに乗りたいけど、整備に自身がない人はあたしたちのところに持ってきてくれれば、面倒見るよ。でも、最後の細かい調整だけは、自分で出できるように覚えてね」といった次第だ。
「早速だが、松平岩造だ。教導団の次期新型イコンの開発を目途にやっていきたいから、イーグリット系やアルマイン系等の分析を行い、天学やイルミン等のイコンに負けないくらいにイコンの開発をしたいのだ! よろしく頼む」
「え、ええ。任せて!」アサノファクトリーは、これまで培ってきた機晶技術の専門性を買われ、イコン整備の技術チームとして第四師団から外注を受け派遣されてきたのだ。
「お姉ちゃんこれはこっちなのー」クレーンを操作して、イコンの部品をあっちにやったりこっちにやったりしている、朝野 未羅(あさの・みら)。バチバチ。電気を散らしながら、朝野 未那(あさの・みな)はすでにイコンの整備に取りかかっている。バキバキ。松平の嫁フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)は、イコンを分解中。バキバキ、ブチッ。
「未羅ちゃん、それはそっちよ。未那ちゃんは今度はあたしの手伝い、お願いね!」未沙がてきぱき指示を下す。「フェ、フェイトちゃん、それは分解しちゃっていいの、かな……?」
「はい! フェイトは、夫・岩造のために、イコンを万全に点検中なのであります!」バキバキ。ブチッ。
「わしも若いもんには負けんぞ」岩造の武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)。「むう。しかしこの年寄りにイコンのことはちと、わからんのう……」
「えーと。あ、未羅ちゃん。その一個はクレセントベースへ運ぶやつよ。だから内海の方まで持ってってくれる? 湊川さんっていう士官候補生の方がいるから、彼に渡して」
「はーい。なのー」
「さて、っと。あれれ、ティナさんはどこかな?」
魔鎧の製作者としてアサノファクトリーに雇われている悪魔、ティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)も同行してきたのだが……
「人様の物を勝手に弄くるってのもたまには面白いわね。どれ、一つ他の人がどんなイコンに乗るのか、見てみよかしら。面白そうなイコンは。っと、大体はクェイルか。むむ。『龍皇一式』。松平岩造専用イコンね。フーン。フーン、なるほど……」
「む。何をしている。怪しいやつ。武者鎧、イコンを盗もうとする犯罪者を取り締まるのが貴様の役目だ」岩造が武者鎧に命令する。
「はぁ! こら、待つのじゃ」
こうして、アサノファクトリーとガンゾーファミリーによるイコン整備合戦が急ピッチで進められた。
「イコン。これはまさに熱いですね……」白竜はハンカチで汗を拭う。
「あれなに」「イコンだよ」「うわぁイコンすげぇ」
「ん? クィクモの子どもたちか」
男の子たちが、イコンかっこいいぜぇぇぇと走り回っている。
「こ、こら。勝手に入っちゃいかん! とくに『龍皇一式』には触るな! 帰れガキども、しっしっ」武者鎧が子どもらを追っ払う。
「なんだこの武者鎧? だっせぇ」「いまどき、イコンだろイコン!」「あっちいけじじぃ。ほら、おいらイコンに触ったぜぁぁぁ」
「こ、こらぁぁぁ。お? おおぅ、どうした嬢ちゃん?」
男の子と一緒に来たらしい、一人の女の子。
「イコン、こわい…………うぇぇぇぇぇぇぇん」
「な、な、泣くんじゃない。ほ、ほら。『龍皇一式』だよ? 格好いいじゃろう。もっと近くで見てご覧。でも触っちゃいかんよ?」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん龍皇一式こわいぃぃぃぃぃぃ」
「こ、困ったのぅ。こんなに格好いいのに……。仕方ない。ちょっとくらいなら触っていいよお嬢ちゃん。岩造には内緒じゃが……」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんびぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
そこへ、音楽が聴こえてくる。
「世 羅儀(せい・らぎ)……」白竜がそちらを向く。ギターを抱えた、髪の短い優しげな男性だ。白竜のパートナーとして同行している強化人間である。優しい音色に、女の子が泣きやむ。
「コンロンに童謡とかあるのかな? 歌ってよ。演奏してあげる」
「う……うん」
立ち並ぶイコンの前で、ひととき、安らいだ時が音楽と共に流れた。朝野姉妹も岩造も武者鎧も、手を休めそれに聴き入っていた。だがこれらイコンは、どれだけの血をこのコンロンに流させることになるのだろう。白竜は、胸が痛む思いがした。クレア少尉に会っておかねば。彼は思い出し、ごった返す空港を歩いていった。
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