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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

リアクション


(・ダークウィスパー)


 【ダークウィスパー】
 DW―C1:ドラッケン天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)アルマ・オルソン(あるま・おるそん)
 DW―C2:ジャック高峯 秋(たかみね・しゅう)エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)
 DW―C3:アトロポスイングリッド・ランフォード(いんぐりっど・らんふぉーど)キャロライン・ランフォード(きゃろらいん・らんふぉーど)
 DW―E1:トニトルス狭霧 和眞(さぎり・かずま)ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)
 DW―E2:イーグリット・フレイヤ蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)蒼澄 光(あおすみ・ひかり)
 

* * *


 時間は作戦開始前に遡る。
「共闘相手の人達はどんな人だろう。怖い人達じゃなければいいね、アキ君」
「独立武装勢力対策『軍』ってくらいだから、やっぱり軍人気質な人達なのかなぁ……」
 高峯 秋とエルノ・リンドホルムにはやや不安があったが、F.R.A.Gはそんなに物騒な雰囲気ではなかった。
 最初に無線で言葉をかわしたところ、
『今回は互いに頑張ろうぜ、学生さん』
 と気さくな男の声が聞こえてきたくらいだ。もっとも、その後の若い女性の声は厳格なものだったため、少しびくっとなってしまったが。
 事前の打ち合わせは暗号通信なため、相手の声は聞こえない。
 ただ、F.R.A.Gの人達も今回の作戦に当たり、自分達と同様に本当に真剣な気持ちで戦いに向かい合っているというのは感じた。
 立場が違っても、自らの信念を貫いて戦った者達がいたことを、秋は知っている。彼らもまた、そうなのだろう。

『随分こちらに比べて数が少ないが、大丈夫なのか?』
 軽く挨拶を済ませた後、イングリッド・ランフォードはF.R.A.Gのメンバーに尋ねた。
 天御柱学院の二十機に対し、F.R.A.Gはわずか八機。最大規模と目されている基地を落とすというのに、たったそれだけというのはどうにも疑問だった。
 こちらは『覚醒』を含めれば、そのポテンシャルは十分に高い。クルキアータはどうなのか。
『機密に関わることなので機体のスペックを詳細に教えることは出来ない。ただ、鏖殺寺院の武器ではこちらのシールドに傷一つ付けられない』
 また、クルキアータのアサルトライフルは700メートルの距離からシュバルツ・フリーゲのコックピットを撃ち抜ける程度の威力はあるとのことらしい。そのためには、寺院のイコンの武器や装甲強度を知っていなければいけないが、どこでその情報を手に入れたかは不明だ。
「お姉ちゃん、不安なのは分かりますけどぉ、力入れすぎですよぉ」
 キャロライン・ランフォードに指摘されるものの、やはり完全に信用するのは難しい相手だ。
 F.R.A.Gの方は、こちらの武装やスペックをそれほど気にかけている様子もない。新設されて間もない武装組織がシャンバラのイコンを知っているとは思えないのだが……

『ええと、隊長のダリアさん、だっけ? 天御柱学院イコン部隊、ダークウィスパー隊のアルマ・オルソンよ、よろしく』
 一方、イングリッドと同じ小隊のアルマ・オルソンは、こういう微妙な状況にも関わらず、気軽に話しかける。
『あまり見知らぬ相手には、気を許さない方が身のためよ。一応忠告しておく』
「馴れ合うつもりはない、ってことね」
 天王寺 沙耶が呟く。
 むしろ、お互いの勢力を考えればそれが自然というものだ。

* * *


 そして寺院との戦闘に入る。
 ダークウィスパーはコームラント三機による、高火力援護が行えるのが強みだ。しかしそれゆえに、味方を巻き込まないように射線をうまく合わせなければいけない。
 いくら固まっている敵を一気に狙えるとはいえ、F.R.A.Gのクルキアータが飛び込んでいくタイミングと着弾が一致してしまう可能性だってある。
 そのため、前衛のイーグリットが敵機だけを味方の他小隊から引き離せるように誘導していく。
 その役目を担うのが、【トニトルス】と【フレイヤ】だ。
 十機以上はいるであろう隊列に向かってブースターを起動し、前進していく。
「いくわよ!」
 【フレイヤ】はビームシールドを構え、ビームライフルを放つ。同じく前衛の【トニトルス】もシールドで敵の攻撃を防ぎながら接近し、ショットガンを撃ち込む。撃った後はすぐに離脱、といった風に敵を掻き乱す。
 そうして隙が出来た機体に、後衛の【ジャック】がスナイパーライフルで狙いを定め、確実に敵機を撃ち抜いていく。
 それによって、無理せず一機ずつ仕留める。
「それにしても、やたらと数が多いわね……こうなってくると『覚醒』を使って一気にやっつけたいわね。
 ……駄目かしら?」
 蒼澄 雪香は無線を使い、小隊間で連絡を行う。
(さすがに、リスクがあるから……まだ使えないよね)
 蒼澄 光が反応を確認した。
 たしかに、覚醒状態になれば一気に敵を崩せるだろう。だが、エネルギーの消耗を考えると、まだ使用するには早い。
 高速機動、加速を生かして敵機を撹乱していく。機動性を考えれば、これだけでも敵機の連携を乱すには十分だ。

(キャロ、F.R.A.Gの機体は?)
 【アトロポス】は汎用機関銃で中距離支援射撃を行っていた。 
 敵のシュバルツ・フリーゲやシュメッターリンクが接近しないように、牽制していく。
(ここより低い高度で交戦中ですぅ)
 キャロラインがレプンカムイを介して状況を把握し、イングリッドに伝える。
(了解。位置的には誤射する心配も、「される」心配もまだなさそうだな)
 機体が密集した状態ならば、死角から狙われる可能性もゼロではない。だが、F.R.A.Gの方が敵の本陣の真っ只中にいる。
 こちらに対しての敵意は、本当にないようだ。
「しかし、本当にあの機体には寺院の攻撃が効かないようだな」
 クルキアータはシールドで敵の機関銃を全てガードし、間合いを詰めた上で撃墜していく。敵の数は百機以上だったはずが、F.R.A.Gのわずか八機によって、敵の三分の一近くが倒されている。
 クルキアータの性能だけではなく、パイロットの技術があってこそだろう。実力は本物であると認めざるを得ない。

 その機体の戦闘を、【ドラッケン】の沙耶も観察している。
 【アトロポス】と同様に、汎用機関銃での中距離支援を中心にして敵の連携を崩していく。
 もっとも、これまでの敵のように小隊での連携が上手い相手ではない。そう、敵は。
(F.R.A.Gの方は、チームワークも見事だね)
 赤い射撃型の機体が敵機を牽制し、その間に前衛の二機が敵機を薙ぎ払っていく。隊長のダリアと、副官であるランスを装備した機体のパイロットは抜き出ている。
 銃器に剣で挑むのは、一般的に無謀な行為だとされている。それはイコンでも同様だ。近接戦を行えるイーグリットがビームライフルを装備しているのは、確実に敵に近付くためだ。
 一方、ダリアや副官の機体にはそれがない。後衛を信頼しきっているのもそうかもしれないが、それ以上に銃が必要ないほどの実力を備えていることにある。
 かつて、そんな強敵がいた。
(あのエヴァン・ロッテンマイヤーがいた組織も、F.R.A.Gだったよね。やっぱり、偶然とは思えないな)
 しかし、F.R.A.Gのパイロットはどこでこれほどの技量を身に付けたのか。
 シャンバラにイコンが配備されたのは、2020年末のことである。それまでイコンを扱っていたのは、天御柱学院と鏖殺寺院だ。
 そして寺院の「今の」実力は、決して高くはない。
 だが、そこであることに気付いた。
 海京決戦以降姿を消したダールトン隊の生き残りはどこへ行ったのかと。
(まさか……)

 中距離支援の二機に対し、【ジャック】はビーム式のスナイパーライフルでそれよりも後方から援護射撃を行う。
 ビームキャノンよりもこちらの方が、命中精度が優れている。
 絶対に誤射をしない、という思いから確実に狙える武器を使用している、ということだ。
(アキ君、少し高度を落として敵の死角へ入り込むよ)
 わずかに高度を下げ、敵機を見上げる姿勢になる。そちらにF.R.A.Gの機体はないため、誤射の心配はない。
 味方のイコンによって隙が生じた指揮官機、シュバルツ・フリーゲに向かって引鉄を引く。
 敵の戦い自体は、数が多いとはいえ基本にそったものであるため、先を読むのはそれほど難しいことではない。
 指揮官機は一般機よりも後方に待機し、状況を見渡しながら機関銃での援護を行っている。だが、見ているのは正面だけだ。視野が狭い。
 そのため、簡単に死角へ入り込むことが出来る。
(よし……ロック、オン)
 味方が射線に入っていないことを確認し、トリガーを引く。
 こうしている間に、第一陣の敵部隊二十機――戦闘によって二十五機だったことが判明したが、それらは全て撃墜されていた。
 それでも、まだ五十を超える反応がレーダーにはある。捕捉し切れない範囲も含めれば、もっといるだろう。
 もう少し敵が減ったら『覚醒』で一気に決める、ということも視野に入れ、敵を狙い撃っていった。