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リアクション
間奏曲 〜Ego〜
「く……見失ったか」
カミロ・ベックマンはヴィクター・ウェストからの依頼を受け、シャンバラまで「あの機体」を追ってきていた。
「カミロ様。あの機体はイコンのレーダーにも映りません」
ルイーゼ・クレメントが指摘する。
「レーダーに反応あり。交戦中のようです」
「シャンバラが寺院の残党を潰しにかかっているという話だったな。あの男の言葉通りなら、そこに表れるかもしれん」
ヴィクターはこう言っていた。「あれは『暴君』ダ」と。戦いがあればそこに介入し、破壊の限りを尽くすだろうと。
「カミロ様、ですがこのまま行けば私達も寺院とみなされ、シャンバラからの攻撃対象となります。戦闘が沈静化してからでもよろしいかと」
「それでは『間に合わなくなる』可能性がある。利用出来るものは利用するだけだ」
海京決戦で天御柱学院に敗北を喫したカミロは重症を負い、しばらく療養していた。評議会の会議にも顔を出せず、気付けばF.R.A.Gなる組織が枢機卿の手によって発足させられている。
基本的に冷静沈着である彼だが、今は内心焦っていた。
何のためにイエニチェリの地位を捨ててまで、旧鏖殺寺院地球支部に与したのか。
瓦解後も、イコン部隊の司令として十人評議会の指示の下、反シャンバラ勢力の『軍』をまとめて上げてきた。
今は評議会の席に名を連ねてもいる。総帥からも『今、君を失うわけにはいかない』と告げられた。
だが、自分だけが置いてけぼりを食らっているように感じていた。しかも、イアン・サールの後釜となったあの女は、自分よりもシャンバラ情勢に精通している。
これ以上の失敗は許されない。
「……私はもう止まれんのだよ、ルイーゼ」
本人は意識していなかったが、今の状況は彼が薔薇の学舎を去る直前によく似ていた。
イエニチェリとしてジェイダス観世院からの寵愛を受けていた彼だったが、ジェイダスは次第に彼ではなく他のイエニチェリへと目を移すようになった。
彼は優れていた。だが不安は募っていき、最後には同じ学舎のある人物に諭されジェイダスと決別した。
今、彼の中には評議会から見放されるのではないのかという不安があった。あのときは自分から別れを決めても、行くあてがあった。
だが、今度はない。シャンバラに戻ることは、『負け』を認めることになるのだ。
彼の根底にあるのは、決して反シャンバラの理念への賛同ではない。もっと単純な想いがカミロを突き動かしている。
決してそれを悟られないよう、冷静さという仮面を被っているだけなのだ。