リアクション
* * * (ユーキ、ユーキ!!) 最初に異変に気付いたのは、早紀だった。 BMIを介して彼とのやり取りを行っていたわけだが、途中から彼の声が途絶えた。にも関わらず、機体はそれまで同様に戦闘を行っている。 そんな早紀の中に、ユーキの意識が流れ込んできた。 (ユーキ、ダメ、自分を見失わないで!!) だが、早紀も次第に意識が混濁していく。 俺は弱くない。 落ちこぼれなんかじゃない。 全部、「俺一人」で倒してやる。 俺だけでいい。 俺が最強だ。 俺以外は必要ない。 みんな消えてしまえ。 強いのは俺だけで十分だ。 負けず嫌いであることが彼の本質だ。誰にも負けたくはない。そのためには、自分が最強であることを証明するしかない。 (違う、そこまでしなくていいんだよ!! もう十分証明出来たよ。だから……止まって! お願い!!) 目の前が暗くなっていく。 その中で、BMIのシンクロ率の数値を見た。 40%で止まるはずの数字が上昇していく。 50。 60。 70―― * * * 「あの機体、BMI20%以上出てるんじゃないの!?」 烏丸機の様子がおかしい。 杏がその機体を見た。 今のところ、敵と戦っているが、あれはイコンの戦い方ではない。 まるで、肉食獣が暴れているかのような無茶な戦い方だ。 「――――っ!!」 勇輝達の機体の一定範囲内に入ると、強い頭痛が起こった。 「何よ……これ……?」 まるで、精神波を受けているかのような感覚だ。 パイロットの持つ超能力が制御を失い、機体の外にまで影響を及ぼしているようであった。 レイヴンの漆黒の機体が、赤黒い光に包まれている。 覚醒もしているらしい。 そして、ビームライフルを敵の一個小隊へ向け、放った。 桁違いの威力だった。ライフルから放たれた光は、射線上にある敵機をまとめて蒸発させてしまう。 同じ覚醒状態のコームラントによる大型ビームキャノンの砲撃でさえ、そこまでの威力は出ないだろう。 「なんて威力だ……」 これがレイヴンに秘められた力なのか。 今度はその銃口が、クルキアータに向けられる。 「やめろ!!」 しかも、それは隊長、ダリアの【マモン】へと一直線に向かっていった。 コルヴス小隊では間に合わない。 「覚醒めて、アイビス!」 そこへ割って入ったのは、アスク小隊の【アイビス】と【ズルカルナイン】だ。二機とも覚醒を起動して、レイヴンのビームから【マモン】を守る。 【アイビス】の二挺拳銃によるライフルの威力に、コームラントの【ズルカルナイン】の大型ビームキャノンによる砲撃で後押しする形で。 「間一髪、ってところだな」 とはいえ、完全に威力を相殺出きたわけではない。覚醒したイーグリットとコームラントを合わせても、今の一撃の威力には及ばなかったのだ。 それでも、なんとかF.R.A.Gへ当たらずに済んだ。 『生憎、こちらの不手際で敵対することになるのは避けたいんだ。身内の始末は、身内でつける』 智宏がダリアに伝える。 『後で詳しく聞かせてもらうわ』 『今は、寺院の方は任せる』 また、もう一機の方のレオがヴィクウェキオールの力を借りてテレパシーを行う。相手はコルヴス小隊だ。 (一体何が起こってるんだい?) (烏丸機が「暴走」している。さっきから、テレパシーでも通信でも一切応答がない) 御空から報告を受ける。 その間も、暴走したレイヴンは寺院のイコンを蹂躙し続けている。 ビームサーベルを突き刺し、動力炉を貫く。すると、奇妙なことにレイヴンの光が強くなった。 (エネルギーを吸収してる……?) 破壊した敵の機体から、機晶エネルギーを吸い出しているようにしか見えなかった。そうすることで、エネルギーを補充し覚醒状態を維持しているのだ。 それはおぞましい光景だった。 (とにかく、早くあれを止めないと、取り返しがつかないことになる!) 「兄さん、烏丸さん達が」 「分かってる、あいつを助けるッスよ!」 【トニトルス】がレイヴンに向き直る。 だが、暴走した今の状態を止めるには、悔しいが自分達だけでは不可能だ。 『今からあいつを誘導する。その間に、頼むッス』 対処出来る機体は、レイヴンの暴走を抑えるため、烏丸機を包囲する。 (御空、あまり近付くとこちらも『飲まれ』ます) (分かってるよ。でも……) レイヴンの暴走を止められるのは、同じレイヴンだと思っていた。だが、近くにいけば暴走した精神的な力場に巻き込まれ、下手をすれば自分達も暴走する。 『やめろ、俺達は敵じゃない! 戦いに飲まれて自分を見失っちゃ駄目だ!!』 ビームライフルを狙って、スナイパーライフルで狙撃を行う、【ホークウィンド】。機晶エネルギーを吸収することから、そのエネルギー由来である大型ビームキャノンは使えない。 だが、銃弾は機体の周囲に展開された力場によって弾き返される。 その姿を見た、【ウィッチ】はブースターをフルにして烏丸機へと突っ込んでいった。 「見つけた……殺す、今度こそ、絶対に!」 なんとか自我を保ってはいるものの、茉莉はほとんどレイヴンに意識を飲み込まれていた。 烏丸機が、ベトナムで遭遇した青いイコンに見えている。 「死ねぇぇえええ!!!」 ビームサーベルを抜き、相手の力場の内側へと飛び込む。その際の加速は、本来20%で出せる性能を明らかに超えていた。 互いの力場が干渉し合い、二機は反対方向へと弾き飛ばされる。 茉莉はまだ気付いていなかった。 自分もまた、暴走しかけていることに。 リミッターがかかっているはずのBMIシンクロ率が30%を超えていることに。 * * * 「景勝さん、行きますよ」 同じレイヴンが烏丸機を引き付けている間に、リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が覚醒を起動しながら接近していく。 常時その状態を維持するのではなく、解除も行いながらメリハリをつける。 『おい、勇輝ちゃん。お前さん、おかしくなってるから一旦戻ろう? なっ?』 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)は呼びかけるだけ呼びかける。 だが、やはり反応はない。 無力化して、捕縛するしかなさそうだ。 『援護するぜ』 そんな景勝達を、笹井 昇(ささい・のぼる)とデビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)が援護する。 シールドにはさらに、実弾を反射する力が備わってしまっている。ならば、当てにいくのではなく、あくまで牽制。 (まさかこれほどとは。いや、むしろパイロットの意識がないのに、どうして機体が動いている?) 昇にとっては分からないことばかりだ。 (一体、学院は何を考えている? 私達はどこに向かおうとしている……?) 疑問を浮かべながらも、景勝の後ろから牽制を行っていく。 そのとき、レーダーに新たな反応があった。 「なんだ、あの機体は?」 レイヴンを押さえようと戦っている中、そこに新たな機体が現れた。 クルキアータの同型機に見える。しかし、それに比べわずかに曲線をかいたような女性的なフォルムで、レイピアを装備した白いイコン。 「F.R.A.Gの援軍か?」 寺院のシュバルツ・フリーゲやシュメッターリンクをものともしない様子で、撃墜しながら暴走したレイヴンに向かってくる。 確執が生まれるのも承知で、天御柱学院のレイヴンを止めに来たのか。 だが、暴走した機体の銃口は、その白いクルキアータに向けられている。 先にこちらが撃ったら、そちらの方が問題だ。 咄嗟に景勝の機体がビームの前に出る。その威力ゆえ、アサルトライフルとショットガンでは防ぎ切れない。 アサルトライフルを捨て、ビームサーベルに切り替えてレイヴンからの攻撃を両断した。 『早まらないでくれ。すまねぇが、あれでも仲間なんだ。助けられるなら助けたい。もう少しだけ、チャンスをくれねぇかなぁ?』 すると、相手は潔く引いた。 『相変わらず、お優しいですわね』 その声には聞き覚えがあった。だが、まさか…… 「景勝さん、暗号通信です。『これで助けられるのは二度目ですわね』。 間違いありません、あのパイロットはメアリーさんです!」 まさかの事態に、頭がついていかない。 「なんでメアリーちゃんが……?」 だが、F.R.A.Gに与しているとしても、今は敵じゃない。 とにかく、この場は勇輝達を何とかするのが先だ。 * * * (精神波が弱まってきましたね……チャンスは今、ですか) ただでさえ覚醒でエネルギー消耗が激しい上に、あれだけ超能力を使い続ければ精神がもたない。 今なら「飲まれる」ことなく、接近出来る。 (コルヴス1、援護するわよ) 【ポーラスター】が力場が弱まったことを感知し、コックピットへと狙撃を行う。だが、回避されてしまう。 そこへ、【ホークウィンド】が狙撃を行い、ビームライフルを破壊する。 そして、【コキュートス】がワイヤーで拘束し、電撃を送り込む。 だが、それだけでは完全に破壊し切れなかった。烏丸機がビームサーベルを抜き、ワイヤーを切断する。 『まだだ!』 そこへ、ようやく景勝達が到着した。 弱っているレイヴンの前にグレネードを投げ、ショットガンで起爆する。 だが、それはめくらましだ。 直後、ビームサーベルで烏丸機の腕を相手のサーベルごと斬り落とす。その上で、ワイヤーを使って捕縛する。 これでようやく、暴走は止まった。 そして、通信が入る。 『あたし達は……一体……どうなって……』 衰弱した早紀の声が伝わってきた。 『ユーキ? ねえ……しっかりして……ユーキ』 だが、パートナーの勇輝の声はいっこうに聞こえては来なかった。 |
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