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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

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(・出撃前)


「ゾディ、お疲れ様。……どうしたのよアンタ、まだレイヴンのこと考えてるの?」
 作戦の前日。
 授業後の休み時間に、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)は話し込んでいた。
「先日の天学見学会の折、偶然にもレイヴンとの模擬戦に担ぎ出されてしまいましたが……何かを引きずり出しながら戦うような、そんな気配を感じました」
「そぉね『覚醒』もそうだけ、あのシステムには難があるように思えてならないわ。脳の全領域を無理矢理使うような、そんな感じかしらね。降りてきたパイロットの子の表情、ちょっと見たけど、そう思えるわ」
 二人は確かに、違和感を覚えていた。
「【銃撃戦闘研究会】の白滝君の表情が、別人になっていましたね。
 ……ボクが手を出すべき力ではなさそうですね。丁度均衡が取れているこの状態が、保てなくなってしまいます」
 アルテッツァあピルケースから青い錠剤を取り出し、かじった。
「で、今回の作戦はどうするの? 『覚醒』以来、絶賛不調中のすばるに代わって、アタシが出る?」
「いいえ、レクイエム、ワタクシが出撃致します。
 ……マスターと共に死地を潜り抜けるのが、ワタクシの使命です」
 六連 すばる(むづら・すばる)の声が背後から響いた。
「『覚醒』の影響が、何だっていうんですか!! ワタクシは、生きるんです! 生きて、好きなこと、いっぱい、するの! 買い物とか、甘いもの、食べたりとか!」
 その様子は、どうにも安定しているとは言えるものではなかった。
 しかし、
「……ってあらま、聞いていたのね。はいはい、アタシはサポートに回るわ」
 とあっさりとレクイエムが引き下がった。
 ここで搭乗させない方が、かえって彼女を不安定にさせてしまうと考えたのだろう。
「それにしても……レイヴン、ねぇ。『小賢しい烏』って名前には、何か理由があるのかしら?」

 そして、作戦当日を迎える。

* * *


「終わりました!」
 葉月 可憐(はづき・かれん)は自機の整備、迷彩塗装を終えた。
「可憐ー、ヴェロニカさんの行き先、確認してきたよー」
 そこへ、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が駆けつけてくる。
「シャンバラの方ですか」
 自分達も今回は同じだ。
 ヴェロニカのことは、同じ年明けからの転入生として気になっていた。そこで、ミーティングに向かいながら、彼女の姿を探す。
 すると、トレードマークの青いスカーフを巻いた彼女の姿を発見した。
「こんにちは、ヴェロニカさんっ。初めまして……かな?」
 笑顔でヴェロニカに挨拶をする。
「こんにちは」
 柔らかな微笑みで可憐に応じてきた。とはいえ、まだどこか緊張の色が見え隠れしている。
「私も今年からの転入組ですよ。葉月 可憐です」
「え、あ、そうだったんだ」
 可憐は手を差し出し、握手した。ヴェロニカは同じ時期に転入してきたと知り、若干驚いた様子だ。
「確か初めてのイコン実戦……ですよね? 実は私もなんですよね」
 はは、と苦笑。
「もしよければ一緒に行きませんか?」
「うーん……」
 その誘いには、少し考え込む。
「イズミさ……科長から聞いたんだけど、基本はいくつかのグループごとに――小隊、を組むんだって」
「以前は厳密に分かれてたけど、今はあくまで目安だって聞きましたよ? 必ずしも連携する必要はなく、臨機応変に……って、それは戦い慣れた人のことですよね」
 小隊行動は義務ではない。だが、訓練でも模擬戦が小隊単位で行われていることから、推奨されているのは確かだ。
「確かに、現地に着いたときの状況にもよりますね」
 一緒になれればいいな、くらいに考えておく。
「あ、そうだ。ナイチンゲールにも迷彩塗装しましょうか? これでも整備科なので、少し自信があるんですよ?」
「気持ちは嬉しいけれど、その必要はないわ」
 ヴェロニカではない声が聞こえてきた。
「あのままでいいのよ。いいえ、あのままでなければいけない、というのが正しいかしら?」
 メイド服姿の女性、ニュクスだ。
「っと、さすがにこの姿だとあの教官長さんに怒られそうね」
 次の瞬間、彼女の服装がパイロットスーツに変化した。
「ニュクスよ。よろしくね」
「あ、宜しくお願いします」
 この人がヴェロニカのパートナーか。不思議な人、という印象だ。
「そういえば、TACネームは決まりましたか。私達は『アールグレイ』です」
 TACネーム『アールグレイ』、機体名【澪標】が彼女達の搭乗機だ。
「私達は、『白金(プラチナ)』」
 白金と白銀。
 その通称をそのままTACネームとした、ということらしい。
「では、また後で」

 ヴェロニカとニュクスが一旦可憐達と別れた後、彼女らの姿を見つけた館下 鈴蘭(たてした・すずらん)は声を掛けた。
「もう操縦には慣れた?」
「うん、まだ上手くいかない部分もあるけど……なんとか」
 パイロットはおろか、契約者となってからも日が浅い。まだまだ不安も戸惑いもあるのだろう。
「いよいよ、私もみんなと一緒に行くんだなって思うと……何て言ったらいいのかな? ほんとにパイロットになったんだって。こんな私でも誰かを守ることが出来るのかもしれないって考えると、上手く言えないけど、その」
「最初の出撃って、不思議な気持ちになるのよね。緊張しているような、なんだか遠い世界のことような」
 まさに今のヴェロニカの状態、というところだろうか。
 そんな様子の彼女に対し、ニュクスの方は落ち着いた様子だ。優しく微笑み、鈴蘭と目を合わせてくる。
 この子なら大丈夫よ、と言っているかのようだった。
(心配いらなそうね)
 そこから、ハンガーにある【ナイチンゲール】へと視線を移す。
 どんな力を持っているのか、その全てはまだベールに包まれたままである。けれども、一緒にみんなを守ってくれるのであれば、それは頼もしいことだ。
 そして、ヴェロニカ達のもとを離れた。
「どうしたの?」
 霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)は、鈴蘭がある程度ヴェロニカから離れたときに口を開いた。
「君が誰も傷付けないなんて、嘘だ。いきなり原初のイコンのパイロットだなんて……
必死に頑張ってきた人達の心はズタズタだろうね」
「っ! 私は――」
 彼女の意思がどうであろうと、彼女は正規のパイロットとなった。否、なってしまったと言うべきか。
 学院のパイロット科の生徒全員が、実機に乗って戦場に出れるわけではない。だが、操縦スキル自体は初心者そのものであるにも関わらず、契約者となって一ヶ月もしないうちに実戦に出ることになった。
 沙霧の言葉も、もっともだ。
「君がそうと思わなくても、周囲の人を傷付ける事だってあるんだ。それを忘れない方がいい」
 それだけ言い残し、沙霧もヴェロニカから離れた。

「シュルツ君」
 しばし立ち尽くしていたヴェロニカに、アルテッツァは近付いた。
「先生……」
 初の実戦を前に不安を抱えているのだろうか。少なくとも、その前のやり取りを知らない彼には、そう見えた。
「シュルツ君はそういえば、見学会の折に『パイロットに憧れて』と言っていましたね。どうですか、実際にパイロットになった気持ちは?」
「最初は、これで私も『兄さん』に近付けるんだって思いました。けど……素直に嬉しいとは思えないんです」
 どこか心にもやがかかっている、そんな印象だ。
「……そうですか。それにしても、この【ナイチンゲール】。力を欲するものにはそれを与えない、そう言われていた機体でしたね。シュルツ君、それが君に与えられたと言うことは、『戦いを抑えたい』。そう思っている人だと考えるべきなのでしょうね?」
「昔、言われたんです。弱さを否定して力を手に入れても、それはいい結果をもたらさない、って。それに、一度『過ち』を犯しそうになりましたから」
 だから守るためであっても、それが誰かを傷つける力であるならばいらない。
「世界には色んな考えがあって、相容れないものもある。争いがなくならないのは、もしかしたら仕方のないことなのかもしれない。でも、私は少しでも争いがなくなればいいな、って思っています。そのために、重荷を背負ってでも戦い続けた人達を知っていますから」
 先生はどうですか、と尋ねてくる。
「ボクですか? ボクは『生き残りたい』、ただそれだけを考えています。それでは、失礼します」

 ヴェロニカと話し終え、ミーティングへと向かう前に、アルテッツァは今一度自分の機体を確認する。
「アルー! 今回もオプションパーツは実弾式の機関銃だぎゃ?」
「いえ、今回は違いますよ」
 親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)に聞かれ、今回の武装を伝える。
「実弾式スナイパーライフルだぎゃ? エラソーにしているヤツを、片っ端から落とすのに使うぎゃね。出鼻をくじくってヤツだぎゃ。楽しそうぎゃね」
 大型ビームライフルのエネルギー節約という意図もある。
「あ、そーだ。レイブンの整備に回されたから、中身見てきたぎゃ。アルのと見た目変わらないんだぎゃ……なんか厄介なシステム入ってるぎゃ。模擬戦では最高でも20%程の出力調整だったらしいぎゃが、それ以上で出ようとしているヤツがいるみたいだぎゃ。そっちの機体は他の連中がいじってたから分からないぎゃが……もし本当なら、暴走して落ちるのが目に見えてるぎゃ」
「……弱さを否定して力を手に入れても、それはいい結果をもたらさない。ですか」
「何か言ったぎゃ?」
「いえ、何でもありませんよ」
 レイヴンという機体への懸念は一層強くなった。

* * *


 天沼矛内、ミーティングルーム。
 その室内からは、出撃待機中のハンガー内の機体をガラス越しに見渡せる。
「御空、少し良いですか?」
 白滝 奏音(しらたき・かのん)が不機嫌そうな様子で、天司 御空(あまつかさ・みそら)を呼ぶ。
「どうしたの、奏音?」
「…レイヴンの件です。御空は何かおかしいと感じませんでしたか?」
 公開試運転以降、テストパイロットとしてレイヴンでの訓練を二人は受けている。だが、しばらく彼らも言い知れぬ違和感を覚えていた。
「私は、セルフモニタリングによる感情制御に自分を慣らして来ました……なので客観的に言ってしまいますが」
 じっ、と御空の目を見据える奏音。
「御空、私に引っ張られていませんか? 私はあの子より優れている事を証明する為戦っていますが……貴方の戦う理由は何ですか?
 もう一度、良く考えてみて下さい」
 レイヴンの全てを、まだ引き出したわけではない。
 この力には何か落とし穴がある、そう考えるのもやぶさかではない。
「風間先生」
 レイヴンの実戦投入ということもあり、風間もこの場に来ていた。
「念のため、各テストパイロットのバイタルチェックをお願いします。それと、烏丸、桐山両名をコルヴス小隊へ誘っても宜しいですか?」
「なるほど、より効率的な『実戦データ採集』のため、ですか」
 レイヴンのみで構成された小隊ならば、既存小隊との違いもはっきりする。そう考えてのことだ。
 ただ、奏音にとってはそれだけではない。
「先生が……その方が喜ぶかと思いまして」
 風間は自分のことを認めてくれている。ならば、その期待に応えたい。
「では、宜しくお願いします。それと、『無理』はしないように」

 そしてミーティングが始まり、五月田教官により小隊編成が発表された。
「申請のあった者達はそれに応じて編成してある。それ以外の者も、便宜的に割り振ってあるが、必ず小隊行動しろというわけではない。状況に応じて、各自で判断してくれ。そのくらいのことは出来るものだと、お前達のことは評価している」
 これまでの戦いを潜り抜け生徒達も成長したのだと、五月田は見ているようだ。そういった「先輩」が転入生や今回が初の実戦だという者達を引っ張っていってくれればいい、とも思ってることだろう。
「お、昇ちゃんとデビットちゃんも一緒みたいだな」
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)は編成表を見た。
 そこから視線を烏丸 勇輝に移す。彼も彼で、時折ヴェロニカが気になる様子で、ちら見している。もっともそれは、気になる異性の女の子に送るものでは決してない。
(ありゃあ、ちっとやべーんじゃねぇかな)
 レイヴンのことは試運転の日にテストパイロットの一人から聞いている。搭乗者の精神状態、特に安定性が操縦に影響するということも。
 勇輝はヴェロニカをずっと敵視している。パートナーの桐山 早紀は彼ほどヴェロニカを悪く思ってなさそうにしろ、勇輝にそこそこ依存しているように見受けられる。レイヴンの特性も考えると、あまりいい状況ではないだろう。
 五月田の説明が終わったところで、勇輝に声を掛ける。
「おい、勇輝ちゃん。あんまりヴェロニカちゃんを意識しないようになぁ。もっと大事なことあるよな? 早紀ちゃんと無事に帰りつくとかさぁ」
 戦場も別だ。現地で必要以上に意識する心配はないだろう。
「桐生先輩、あんたは何とも思わないのか?」
「先輩はやめろぉ! 一応、同級生なんだぜぇ? 
 あの顔見てみろよ。学院に期待押し付けられて、戸惑ってる感じだぜぇ。変にこっちまで上に煽られる必要なんてねぇさ」
 一瞬だけ俯き、勇輝は答えることなく景勝から離れた。
「しかし、明らかに気負いすぎだろ、あれ」
 彼の様子は、デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)も見ていたようだ。
「それはそうとレイヴンってのはどんな機体なんだ、景勝?」
 問われ、デビットと笹井 昇(ささい・のぼる)にレイヴンのことを伝える。
「情報に飲み込まれる、か。よく意味は分からないが、危険な機体であることに変わりはなさそうだ」
 それは、実際に搭乗している者にしか分からないことだろう。

 勇輝が今回一緒に組むコルヴス小隊と合流すると、シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は軽く言葉を交わした。
「烏丸さん、同型機に乗る者同士、よろしくお願いします。
 ……BMIは搭乗者に負荷もかかりますし、お互いに無理はしないようにしましょうね」
「無理なんてしないさ。ただ、あの『特別枠』より戦果は上げねーとな」
 それだけ告げて、バイタルチェックに入った。
 彼がシフの前から去った後、早紀が言う。
「ユーキは、家族を三年前……いや、四年前の寺院のテロで殺されてね。それから強くなろうと頑張ってたんだよ。そりゃー、前線で戦ってたキミ達よりはずっと弱いよ? でも、試運転の後風間さんに頼み込んで、テストパイロットにしてもらって、この短期間で必死に訓練を受けてきた」
「家族、ね。でも、ワタシ達にはその家族を失うって悲しみは分からないよ。シフにもワタシにもそんなものはいなかったしそのシアワセなんて知らないからね。それに、世界では常に生きるか死ぬかの中で生きてる人だっている。
 まーつまりは、そんな平和ボケした自分勝手でヒト殺すってのはどーかな? ってことだよ」
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が冷ややかな視線を送る。
「そりゃ、復讐のためじゃないって言えば嘘かもしれない。でもそれ以上に『自分が強くなったと証明したい』ってのが一番の動機。これ以上、周りの人間を死なせないくらいに、強くなったってね。ユーキは基本的に負けず嫌いなんだよ。まあ、そんな人だってことであたしからも宜しく頼むよ。あたしもちゃんとフォローするけどね」
 勇輝に比べ、早紀の方は随分と大人びていた。
 まあ、彼女がついていれば大丈夫だろう。


(なるほど、あの子が噂の転入生ね)
 勇輝達の近くにいた蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)は、ヴェロニカの顔を知った。勇輝みたいに嫉妬するようなことはない。とはいえ、やはり彼女のことは気になる。
(今回は戦場が違うけど……帰ってきたら、色々と話は聞きたいわね)
 【ナイチンゲール】についても、原初のイコンの片割れであるということと「防御特化」ということ以外はまだ明かされていない。
 その機体を直に見るのは、次の機会になりそうだ。
 ちょうど、そんな彼女に声を掛ける生徒の姿があった。オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)である。
「天御柱学院に来たのであれば、もうお友達なのです。だから、怖がらないで、でも危険だと思ったらすぐに逃げて構いません。一緒に頑張りましょう」
「怖くはないけど……うん、頑張る」
 不安そうな顔をしているヴェロニカを励ましているようだ。
 彼女のことを快く思ってない人もいるが、心配して気に掛けている人の方が多いのかな、という印象を雪香は受けた。

* * *


(覚醒……恐ろしい能力を発揮する代わりに、どうやら消耗も激しいようですね)
 機体を整備し終え、神楽坂 緋翠(かぐらざか・ひすい)は溜息を吐いた。
 覚醒状態では機体のコントロールも難しくなる。通常時よりも機体に負担がかかるのも、無理のない話だ。
 特に駆動部に関しては著しいため、重点的に行っておいた。
「和葉、ルアーク。頼みますから、もう少し丁寧に扱ってください」
 ミーティングを終え、最終確認へとやってきた水鏡 和葉(みかがみ・かずは)ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)を見やる。
「そうは言っても、まだコントロールが難しくてね」
 ルアークの声が聞こえてくる。その間も仕上げの作業を行っており、迷彩塗装が終わった。
「あれは……」
 和葉が御空の人影に気付いた。
「御空先輩っ!」
 そして彼のもとに駆けていく。二人は顔を合わせ、神妙な面持ちで話し始めた。
「緋翠。いいの、あれ?」
「……和葉自身、自覚は無い様なので。取りあえず、まだ静観しておきますよ」

 どこか罰の悪そうな笑顔を浮かべている御空に、和葉は言った。
「……正直に言わせて貰うなら、ボクは御空先輩がレイヴンに乗るのは反対だよ。覚醒によって実用化されたとはいえ、BMIシステムも……。風間とかいう博士も……あまり、信用できないから」
 不吉な予感がする。
 だが、御空の方も覚悟は決まっているようだ。
「大丈夫。俺は自分のしてる事分かってるつもりです憎しみで引き金を引けば更なる憎しみを生む。それでも、守りたい物が有るなら戦うしかない。だから……」
 微笑を浮かべたまま悪戯っぽく片目を閉じ、
「だから、和葉さんが待っててくれるならちゃんと戻って来ます。きちんと守れたか、確認したいですし」
と、告げてきた。
 それに対し、和葉は御空の瞳をじっと見つめ応じる。
「……それが御空先輩達の決意だっていうなら、ボクにこれ以上止める事はできない。だから……約束しよ? 絶対に無理はしないこと。それから……お互いに無事だったら、また一緒に遊ぼう、ねっ?」
 ぎゅっと彼の手を握りしめる。その温もりを忘れないように。
 
* * *


「街の安全を守るため、無事故無違反で頑張ろうねっ」
「勝とうね! じゃないの? なんか交通安全の標語みたい……」
 機体に乗り込む前に意気込む桐生 理知(きりゅう・りち)に、北月 智緒(きげつ・ちお)が突っ込みを入れた。
 ふと、ハンガーの中を見渡すと辻永 翔(つじなが・しょう)の姿が目に入る。今回は同じ小隊での出撃だ。
 「お守り」を両手で包み込みながら、彼女は決意する。大切なもの全てを守るために、戦うと。
 
 そして、各々の戦場へと向かうため、天御柱学院の生徒達は機体へと乗り込んだ。