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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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第八章 桜下の再会5

「扶桑は助かったの……? よかった……」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)は、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)とともに一部始終を見ていた。
「さあな、完全ではないようだが……希望はある」
「それでもいいの。おねえちゃんが助かったのなら」
「……」
 正悟は二人の肩を軽くたたいた。
「さて、行こうか」
 コトノハと夜魅はマホロバの奉行所に差し出された。
 彼女たちは蒼空学園の生徒であり、先日のシャンバラ政府とマホロバの条約によって、正式に蒼空学園へ申し入れを行うことになった。
 回答は、放校処分は後に決定するだろうとのことである。

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「……驚いた。正直、この世にそんな方法があるとは思いもよらなかった。この時代の者もなかなかやるにゃ!」
 マホロバ城西の丸で鬼城 貞康(きじょう・さだやす)は夜中、ごりごりと野草を石鉢で磨っていた。
 影月 銀(かげつき・しろがね)ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)がそれを手伝っている。
 貞康(さだやす)の目となったというミシェルは、扶桑の都で自分が見てきたことを話した。
「世界樹イルミンスールの力を借りて、扶桑を回復させたみたいですよ。そのために、イルミンスールの樹があやうく枯れかけたっていう情報もあるわ」
「ふむ、問題は三つだにゃ。一つは、世界樹同士でもおそらく禁じ手だったのだろう。同じ手は使えまいな。二つに、これでマホロバはシャンバラ……とくにイルミンスールに借りを作ったということになる。攘夷派が黙っていないかもしれん。三つめは、天子様は今まで、こんな方法があるとはおっしゃっていなかったはず。つまり、天子様にとっても望んでいなかった、もしくは、ギリギリまで避けたかった事情があったのだろうな」
「それはどういうこと? 貞康様は天子様のことをよく知っているんでしょう?」
 貞康は自らが煎じた薬草を水とともに口に流し込んだ。
 自作の強壮剤という。
 口をぬぐいながら苦そうな顔をした。
「わしが存じ上げているあの方は、二千五百年前のお姿だからな。あの時は乱世で、マホロバが荒れていた。あの方もボロボロに傷ついていた。マホロバの姿は、あの方ご自身であった……」
 貞康は湯のみを放り上げ、刀を持って庭に出た。
「わしはマホロバを戦のない、平和な御世にすると。そのためにいかなる手段を持っても、何かを犠牲にしてでも、全力で泰平のための社会を築き上げ、栄えさせると誓ったのだ。天子様に『人間』にしていただいた瞬間から……!」
 月下の明かりを頼りに、貞康が刀を振っている。
 銀は良い太刀筋だと思った。
「所詮、噴花は誰にも止められん……誰にもな!」
「それで、あなたは、その噴花をみたんだな? 人々が沢山死んでいくのも。それでもなお、マホロバには、扶桑には噴花しかないと言うのか?」
「……ない。人が生まれ、死んでいくのは理。国もまた同じ」と、貞康。
「だが、わしはそのための復興にあらゆる手を尽くしたつもりだ。そして二千年経って栄えたこの地を見て、それは誤りではなかったのだと思うておる」
「じゃあ、貞康様は昔の人なのに、とっくに亡くなってるはずなのに、何で、今ここにいるんですか?」
 ミシェルが聞いてみたいと思っていた事を口にする。
 貞康は冷笑した。
「わしはただの……貞康公の『記憶の一部』にすぎん。予備のためのな。そしてこの身体も借り物……」
「え、記憶って? 予備って?」
「天子様にお願いして、鬼の力と記憶の欠片をいくつかに分散しておいた。万が一の時のために。しかし、あの瑞穂藩主は、いったいどこでそれを知ったのやら!」
 貞康は大きく息をしながら、刀を振りあげた。
「貞継(さだつぐ)の身体、若くて軽いのはいいんだが、力がないな。もっと鍛えてやるか……!」