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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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第七章 奇襲作戦6

 瑞穂藩内に侵入した篠宮 真奈(しのみや・まな)は、瑞穂城の見張りの人数や配置を探っていた。
「……ええと、ティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)の所在も確認しておかないと。居るとすればどの辺りに居るか、目星つけておかないとね!」
 正識はティファニーを同行させてはいない、その情報は早くから掴んでいた。
 しかし、彼女を探し、救い出すとすれば、かなりの困難が伴う。
「どんなに危険でも、俺は行くで! 俺が必ず助けたる! ティファニーちゃん待っとれよ〜!」
 846プロダクション社長日下部 社(くさかべ・やしろ)が、胡散くさいサングラスのしたから目を光らせている。
 彼なりに本気なのだ。
「そうはいっても、敵の本城よ。どう考えても突破できそうにないわ……」
 その時、城内にはいろうとする行商の集団を見つけた。
「あの人、見た事あるよーな、ないような……でもちょうどいいわ。あの人達に紛れて、私たちもおじゃましちゃいましょうよ」
「え、ほんまか? 見つかったら打首や……」
「他に方法あるの?」
「……よっしゃ。俺も男だ。覚悟決めたる!」
 真奈と社は行商人に近づき、彼が諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)であることに気がついた。
「真奈殿……? あなたは確か、偵察に出たのではなかったですか?」と、孔明。
「ええ、そういう孔明ちゃんはどうしてここに?」
「孔明ちゃん……? ま、まあ瑞穂藩内の兵糧や武器を買占めようとしたのですが、さすがに戦ともなれば、藩内の食料を見知らぬ人間には売ってくれませんでした。なので、作戦を変えて、瑞穂藩内の情報を出来る限り集めることにしたんです」
「そいつは渡りに船や! 俺ら、ティファニーちゃんを助けに来たんや。協力したって!」
 孔明は不承不承(ふしょうぶしょう)引き受け、瑞穂藩の台所を預かっているという家臣に会うことになった。
「私が交渉している間に、探してください。時間はありませんから。はやく!」
 と、孔明。
 真奈と社が手分けして探す。
 真奈がノートパソコンを駆使する中、社は直感(!)であたっていた。
「さ〜て、かくれんぼは得意なんやけど、早よぉティファニーちゃんを見つけん事には……(キョロキョロ)……んー、ここかな?」
 社が扉を開けたとたん、悲鳴が上がった。
 彼らは慌てて中に飛び込み、扉をしめた。
「た、頼むわ。大きな声出さんといて。白馬の王子やないけど、男前の社長が助けに来たで〜……ぐふっ!」
 今のは真奈の肘鉄の音である。
 真奈は声を上げた主に話しかけた。
「ごめんね……えーと、ティファニーちゃん?」
「は、はい……デス」
 ティファニーは湯浴みの途中で、突然の訪問者に怯えていた。
 社の恐るべき野生の勘である。いや、嗅覚か。
 社が助けに来たというと、彼女はこれまでの経緯を簡単に語った。
「ふーん、すると。ティファニーちゃんは、正識の妹代わりに連れてこられたんか? あの男シスコンなんか?」
「それはワカリマセンけど、十字架(ロザリオ)探してマシタ。とても大事なモノみたいデス」
「もしかして、それって正識の弱点……だったりしてなあ、ハハハッ!」
 社は適当に言ったが、真奈は案外本当かもしれないと思った。
「ねえ、ティファニーちゃん。もっと正識から詳しく聞き出せないかしら。なんだったら、私があなたの身代わりになるわ」
「無理ですヨ。真奈サンは金髪じゃナイですヨ」
 そういう問題でもないのだが……と思った社を、ティファニーはじっと見つめている。
「え、俺? お、俺はあかんて! 男は無理だからっ……て、ティファニーちゃんもこのまま置いてくのはあかん。俺は、ここからキミを助けに来たんや!」
 しかし、ティファニーは残るといった。
「大丈夫デスヨ。変なことされてませんから」
「いや……しかしな」
「必ず、助けに来てくださいネ」
「う……」
 無邪気に笑い、彼女はやる気になってるようだ。
 ティファニーはいっこうに動こうとしない。
「どうするの? 時間がないわ、はやく逃げないと」
「分かった。それほど言うんなら、また助けにきたるからな。その前に……」
 社は重くて仕方がなかった袋を開け、中身をばらまいた。
 以前に正識が、ティファニーの身請代と言ってばらまいていった金だ。
「これはちゃんとしとかなあかんから。あんな男の金、のしつけて返したる!」


 正識が瑞穂城に戻ったとき、相変わらず彼女はそこにいた。
 正識は「胡蝶(てふ)いたのか……」といい、少し安堵した表情だった。
「なぜ、まだここにいる。領外へ送らせるといったが……?」
「ミーはまだここにいますヨ。行くところがないですからネ」
 正識はそういうティファニーの足元に、たくさんの大判小判がばらまかれているのに気がついた。
 ティファニーはにっこり笑っていった。
「季節外れのサンタさんが置いていったデス! プレゼントですよ!」
 正識は始終、怪訝な顔をしていた。

卍卍卍


 マホロバ城では奇襲が功を奏し、第四龍騎士団と瑞穂軍の足止めに成功したとの報にわいていた。
 しかし、相手のふいを突いたものであり、敵を追い払ったという訳ではない。
 単なる時間稼ぎであり、それどころか龍騎士団を本気にさせてしまったのではないかと危惧する声もあった。
 マホロバ人両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)は、暁津藩士としてマホロバ城へ登城していた。
 かつてマホロバで幕府転覆を狙った悪役商会の一味ではなかったかと騒がれたが、証拠もなく、悪路も自分はあくまでも暁津の名代であると主張した。
「一度国賊の誹りを受け、処刑された筈の三道 六黒(みどう・むくろ)という男をご存知でしょうか。ええ、あの悪名高き大悪党が、戦端に立ち、護国の鬼として戦っているのです。悪だろうと国の存亡には立ち上がる。そんな彼を率いる暁津藩こそが、今、マホロバに必要な護国となりうるのです!」
 悪路はまた、葦原・瑞穂・暁津が国の危機に団結する切っ掛けを作ると称して、瑞穂残党を探した。
 彼らが表舞台に、再び返り咲く機会を与えようというのである。
 悪路ははひとり呟く。
「私の真の目的は、葦原の独裁を、そしてシャンバラの侵略を食い止めることですがね……」
 また、新たな風が巻き起ころうとしていた。