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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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第七章 奇襲作戦2

「ふーん。元々私欲のために勝手に龍騎士団と戦うつもりだったけど、意外なことに私に協力を求めてくれる人がいるんだね」
 ミーナから書簡を預かった霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が、ちらを目を通す。
 そこには悠の手書きで、『夜闇に紛れた奇襲と決行する。特に龍騎士の足たる龍と、軍を運営していく物資を潰す事で戦力を大幅に削ぐ事を目的とする』とあった。
 透乃が言う。
「とりあえず、その人の策にのって戦うことにしたよ。困ってるみたいだし」
「そうか、正直よかったぜ。これで胸を張ってマホロバのためだと言えそうだからなあ」
 透乃の弟分である霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)はほっとしたようだ。
 彼自身も、透乃たちの戦いという欲望の手伝いをし続けていくということに、迷いが無かったわけではない。
 透乃たちの身の上も心配だ。
 彼らは直ちに行動を開始し、西へと移動する。

 情報によれば、龍騎士団と瑞穂藩士は全軍が動いているわけではない。
 第四騎士団は、蒼の審問官 正識(あおのしんもんかん・せしる)を筆頭に、四人の千人隊長クラスの龍騎士がおり、以下龍騎士、従騎士、兵士と続く。
 同じように、瑞穂藩兵も総大将は正識であり、以下軍師、侍大将、足軽大将、鉄砲、弓、足軽と続く。
 総勢のうち、半数は瑞穂藩に残し、さらに四つの部隊に分け、まるで扶桑を四方から囲おうとばかりに進軍していた。

「いた……あれが第一の将かな」
 陽子は、小さな野営の明かりを見つける。
 眠っている龍の見張りが付いていることをみると、まず間違いないだろう。
「そのようですね。私が闇の化身となって後方から援護しますから、透乃ちゃんは思いっきりやってください」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が普段は封じている魔力を解放する。
「正直、幕府側として戦うのはどうかと思いましたが、実際のところマホロバの人々はどうしたいのでしょうね。偉い人たちではなく、一般の人々ですが」
 月美 芽美(つきみ・めいみ)は陽子の魔術で強化されるのを感じながら言った。
「さあ、この国の人達が何を思っていようが関係ないわ。また戦争をしてくれるんだもの。しかも今回は策の立案者が他人、つまりそいつに認められて殺れるなんて嬉しいわ。希望通り盛大にいくよ、せいぜい引っかきまわして上げる!」
 芽美が先陣を切って突撃した。


 敵襲を告げる早鐘が鳴る。
 龍騎士・瑞穂陣営は、まさか向こうから襲撃されるとは思ってなかったようだ。
 初動が遅れた。
 その間に芽美が飛び込み、兵の間を駆け巡った。
 透乃は追ってきた兵に向かって、鬼のように猛々しく叫ぶながら、彼らを撃ち足止めしていた。
「龍騎士なんて、飛んでなければどうということもない! ……陽子ちゃん、お願い!」
 すかさず陽子が範囲攻撃魔法を唱える。
 騎士や兵士は闇黒に覆われると、頭痛や吐き気などの不安に襲われた。
 一方で、泰宏は透乃たちの傷を回復していた。
 彼女たちの連携技である。
「この調子でどんどんいくよー!」
 陽子は龍騎士と兵士を混乱に陥れる。

卍卍卍


「悠から連絡が来たと思ったら、また面白そうな事を……」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が両手に剣を携え、その様子を伺っていた。
「よろしい。八咫烏(やたがらす)の諸君、これから宴と行こうか」
 恭司の頭の中では、すでに算段は付いている。
 これから、野営地に向けて鬼鎧が投入される作戦になっている。
 その前に――
「俺たちは龍に龍騎士を近づけないようにすることが目標だ。そして、瑞穂兵も。やつらは、藩内で訓練を行っていたと聞く。まともにやりあったんじゃ、分が悪い」
 兵士たちの注意が透乃たちに向けられているのを見計らって、恭司たちは忍びこむ。
 狙いは補給庫だ。
 さっそく八咫烏の忍者が場所を突き止めた。
「そんじゃ……派手にやるぞ野郎共!」
 恭司が意識を一箇所に集中する。
 イメージは激しく燃える『炎』だ。
 やがて、木でできた兵糧箱がくすぶり始めた。
 火がチロチロを舌をだす。
「貴様、そこで何をしている!?」
 龍騎士の一人が、恭司を発見した。
 片手に剣をを持って飛びっかかってきた。
「いきなり、龍騎士かよ!」
 恭司が火のついた箱を割り、投げつけた。
 龍騎士は木材を簡単に払い退ける。
「逃がすか!」
「はは、足元を明るくしてやろうかと思ってね!」
 恭司も両手に握られた剣で応戦する。
 さすがに龍騎士ともなれば、龍に乗っていなくとも強い。
「貴様、本気でかかってこんか!」
「俺は本気だよ、今の所はね」
「何!?」
 気がつけば、辺りは火の海である。
 恭司は攻撃をかわしながら、火が拡大する時間を稼いでいたのだ。
「早く消さないと、やばいんじゃないかな?」
 龍騎士は歯ぎしりし、消火のための仲間を呼びに向かった。
「さてと、今夜の俺の仕事はこれで終了!」
 恭司は暗闇に向かって影のように消える。

卍卍卍


「……第一襲はなんとかうまく行った、のか?」
 毛利 元就(もうり・もとなり)からの報告を聞いて、ホッとしつつも篠宮 悠(しのみや・ゆう)の表情は厳しいままだ。
 相手の不意をついた奇襲は成功の可能性が高いと踏んではいたが、本番はこれからである。
「次は鬼鎧だな。正直、他校の生徒からの協力がありがたい。明らかに戦力が足りてないからな。あとは、首尾よくやってくれるといいが……」
「ええ、精鋭鬼鎧部隊にも伝達してるわ。この夜襲で一斉に動いているはずよ」
「完成された分だけでも投入することにしよう。火車はまだ試作段階とのことだったが、背に腹は変えられん……」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)も、既に手を打っていた。
 諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)を瑞穂藩内へ潜入させたのだ。
「敵が混乱すればするほど、うまくいくはずですが……どうなるか」