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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第4章 魔将君臨【3】


「ガルーダの動きが止まった……!」
 前蒼空学園校長御神楽 環菜(みかぐら・かんな)双眼鏡で様子を窺っていた。
 遠目に状況を確認すると、手にした懐中電灯を明滅させ、ほろびの森各所に伝令を発信する。
 怪盗(になれたらいいな、と思ってる)ゲー・オルコット(げー・おるこっと)は遠くの光に身を震わせた。
「『第二部隊、行動セヨ』……か。よし、大将の許可が出た。行くぞ、ドロシー」
「了解しました。飛ばしますよ」
 相棒のドロシー・レッドフード(どろしー・れっどふーど)は大型騎狼を走らせ、ガルーダに接近を試みる。
 流石、狼と縁深い彼女だけあってその扱いもなれたもの、大きく迂回して背後をとった。
「さあ蘇れ……安らかに眠る魂よ。今一度その存在を歴史に刻め……!」
 全能弾の光。顕在化したのは……前回大破した『冥界装甲急行ナラカエクスプレス・ターボタイプT』
 ちなみに制作者は彼ではなく、ナラカエクスプレス車掌兼……その他諸々見習いのトライブだ。
 光を散らしながら走るターボタイプTはドゴドゴとガルーダの後頭部に叩き込まれる。
「き、貴様……!」
「覚えておけ、ガルーダ……! 夢を叶えるのは力じゃない! 愛だ! 愛とピッキングが世界を救うんだ!」
「…………」
 確実に余計なものも混じっていたような気もするが、ドロシーは面倒なのでスルーした。
「それにしても……、埋まっててくれて良かったぜ……」
「はい?」
「いや、うっかり股下からターボタイプTを放ってたらと思うとコーフン……あ、いや、大変だなぁと」
「また不謹慎なことを……、そんなことしても●●●、■■■になって自主規制されるだけですよ」
「……い、今されなかった?」
 とその時、後退するゲー達と入れ替わりに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が飛び出した。
 ガルーダの周辺を小型飛空艇オイレで飛び回りながら凄まじい早さで距離を縮めていく。
「悪いが今日は名乗ってるひまはない。速攻で行かせてもらう」
 今回は派手な名乗りも特製コスチュームもなく、真剣な雰囲気をたもったまま跳躍。
 そして、全能弾に込めるのは攻撃力。想像力に自信のない彼がとったのはとてもシンプルな行動だった。
 手にした弾丸をガルーダの胸元に押し付け、ソニックブレードを応用した貫手で雷管を叩く。
 ドォンと言う血を揺るがしてしまうほどの衝撃とともに、創造しうる最高の一撃がガルーダの身体を沼の中に沈めた。
 しかし、素手でそんな威力のものを起動させたのだから、その代償は大きい。
「ぐわあああああああ!!」
 右腕の骨がバキバキに砕けたエヴァルトはさらに衝撃波で、気が付けば付近の森に吹き飛ばされていた。
 全身に走る苦痛に意識が途絶えそうになる瞬間、彼は見た。
「あのビジョンが……、ヤツの本当の姿か……」
 ガルーダの姿……すなわちルミーナの姿の上にもうひとつ、深紅の髪を持つ青年の姿が重なって見えたのだ。
「おのれ……、よくもこのオレに……!」
 憤怒をそのまま炎に変え、ガルーダは灼熱の空間を周囲に創り出した。
 あまりの高熱に保たれた周辺区域は、樹々が自然発火するレベルで、次から次に火の手が上がった。
 拘束していた沼もあっという間に干上がり、ガルーダは落とし穴から飛び出した。
「くそ、逃がさないぜ、ガルーダ! 渋井の……いや、麺屋渋井ののれんにかけて……!
 ラーメン大好き渋井 誠治(しぶい・せいじ)は飛空艇を飛ばし灼熱の戦場へ突入する。
 立ち上る火柱を紙一重で回避しながら、光条兵器の銃を発現し応戦。
 そんな彼を援護するのはもうひとつの機影、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)の駆る飛空艇だ。
「光条兵器の特性ならあるいは……」
 標的を取捨選択できる特性、その効果でガルーダの魂を狙うが……やはりそこまでの精度は期待できないらしい。
 と言うか、通常の物理法則の外にいる奈落人の能力に挑むのは厳しい。
「ダメか……」とヒルデガルトは相棒に目を向け「私が弾幕を張るわ。誠治はその隙に……!」
「ああ、わかってる」と誠治は全能弾を弾倉に紛れ込ませる。
「これが終わったら、またナラカのカレーを食べたいわね。なんだかクセになる味なのよね、あれ」
「おいおい……そんなこと言ってると死亡フラグが立っちまうぜ?」
「あら? ラーメン死亡フラグを立てたあなたがまだ生きてるんだから、カレーでも平気なんじゃないかしら?」
「……そう言われるとそうかも」
 構え、誠治は銃を連射する。全能弾を弾倉に紛れさせたのは発動のタイミングを予測不能にするため、未来を予知すると言う『天眼』は対象が次に起こすアクションを察知するもの、その対象にすら予測不能なら予知することはできない。
 と、全能弾が発射され上空に閃光が生じる。
 閃光が消失するや上空は巨大な黒い影によって覆い尽くされた。
「なんだ、あれは……?」
 見上げるガルーダ目がけ、その巨大な……『ラーメンどんぶり』は垂直落下し、しとどに脳天を打ち付けた。
 声にならない悲鳴を上げて、ガルーダは頭を抱えうずくまった。
 しかも、あまりにも巨大過ぎるどんぶりはガルーダを含め、周辺数キロを完全に覆ってしまった。
「ふふっ……、この風、この肌触り、この匂いこそラーメンよ
 誠治はビシィとガルーダに指を突きつける。
「炎ってのは酸素を燃焼させて生み出すもんだ。なら蓋をしちまえばこれまでどおりにゃ使えなくなるよな!」
 理屈としては正しい。が、ひとつ懸念があるとすれば、どんぶり内に彼もまたいると言うことだ。
 閉じ込められ幾分ガルーダの纏う紫炎は弱まったが、同時にどんぶり内に残された酸素も加速度的に減少していた。
「う……なんか空気が薄くなってきた、かも……」
「うう……」とヒルデガルトはよろめいた。
「だ、大丈夫か?」
「いえ、なんだかこのどんぶりの中、豚骨スープの匂いがして臭いものだから……
「あ、ああ……そう」
 とは言え、このまま行けば死は確実。ラーメンを注文したら同時に餃子も食べたくなるぐらい確実だ。
「くそ……、こんな時、アイツがいてくれたら……! 助けれくれ、ハヌマーンッ!!」
 その叫びと同時に、どんぶりの底に亀裂が走った。
 露になる灰色のナラカの空、そこにくるくると回転して飛翔するのは……、紛れもないあの男……!
 猿面人身の奈落人。三千世界に名を轟かす剛力無双の拳王、白猿大将【ハヌマーン・ヴァーユ】だ。
「オラオラァ! なにをチンタラやってんだ、てめぇらァ!!」
「ハヌマーン……! 来てくれると思ったぜ、なんたってラーメン仲間だもんな!」
 誠治の傍に着地を決めたハヌマーンはギロリと一瞥。
「勝手に珍奇な同好会に加えてんじゃねぇ! 俺様はヤツに借りを返しにきただけだ!!」
「またまたァ、全部終わったら皆でラーメン食いに行こうぜっ!」
「……あのクソうざいチビと言い、現世のヤツらってマジで人の話し聞く姿勢がなってねぇよな……」
「チビ?」
 ハヌマーンは崩れたどんぶりの隙間からこっちにやってくる授受を指差した。
ハヌー! 戦うのよ、ハヌー!」とか言ってる。
「うるせぇ! ハヌーって言うな!!」