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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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リアクション


終章


「オレの負けだ、殺せ」
 先ほどまでの激しさは彼方に。どこか落ち着き、どこか諦めの表情で、ガルーダは言った。
 葛葉 翔(くずのは・しょう)は前まで行くと、静かに首を横に振った。
「決着はついた。何も奪う必要はない。俺たちの探しものは取り戻したんだ。それでいい」
「それにここはあなた達の世界でしょ。部外者のあたし達にあんたを裁く権利なんてないと思うけど?」
 先ほどハヌーを連れてきた少女神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)もそう言った。
「それに、ここで死ぬとまた何千年も復活出来なくなるんだろ。そうなったら、誰が彼女が探すんだよ?」
 翔と授受は顔を見合わせ、全能弾を発動させた。
 空間に、ひとりの女性のビジョンが浮かんだ。ガルーダの恋人と言うかつてのシャンバラ女王の姿が。
 古城にあった肖像画のとおりの色褪せたビジョン。けれどガルーダは凍ったように視線が釘付けとなった。

 むかし、むかーし。
 古の王国に、女王様とその恋人がいました。
 女王様は、死んでしまった彼に逢うため、不思議な列車で冥界までやってきました。
 しかし年月が過ぎ、女王様は冥界まで来なくなりました。
 そして2人は離れ離れになってしまいました。
 どうして女王様は来れなくなったのでしょうか?
 女王様は今でも、彼を待っているかもしれません。
 彼を探しているのかもしれません……。

 授受のパートナーエマ・ルビィ(えま・るびぃ)は語りかけるように静かに読んだ。
 それからしばらくして、ビジョンは霧のようにゆっくりと消えて行った。
「まぁ俺たちがイメージしたものだから、あそこの古城の肖像画レベルでしか再現出来ないけどな……」
「とか言ってロマンチックじゃのう」
 クタート・アクアディンゲン(くたーと・あくあでぃんげん)が茶化すように見た。
「一体何冊漫画を読んだらそんなにロマンチックな発想が生まれるのか。にひひ」
「お前みたいに家で食っちゃ寝して昼ドラ見てる奴とは違うんだよ」
 翔は肩をすくめる。
「そりゃ悪うござんしたな。その昼ドラを見るためにも早く帰りたいわ」
「そうだな……、ふっ、ナラカか、色々あったな」


「ガルーダ様!よくぞご無事で!主君の戦に間に合わぬとは武人として一生の不覚!」
「かくなる上はいかなる処罰も覚悟しております!」
 息を切らせ、ガルーダの忠臣【羅刹兄弟のラーヴァナとクベーラ】が駆けつけた。
 一緒に来たのは緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)
「貴様ら……」
「あんたと共に戦いたいって言ってたんだが……ちょっと遅かったな。あんたは自分の手足となる数万数億の兵を求めていたようだが……そんな有象無象よりも、コイツらみたいな仲間がいることの方がずっと大事なことじゃないか?」
 ケイは全能弾をガルーダに向ける。
「コイツは俺とそこの二人からのプレゼントだ」
 閃光。ガルーダの身体に光が吸い込まれる……一見すると何も変わらない。
 しかし、ガルーダには分かった。自分の身体に起こった異変。これは霊体ではなく肉体だった。
「あんたの肉体を再現してみた。空っぽの身体だが、奈落人のあんたなら自由に使うことが出来るだろ?」
「ガルーダ様……あなた様の悲願に我らも尽力させて頂きました」
「肉体があれば現世にも行けます。あのお方の生まれ変わりを捜しに行きましょうぞ……!」
 その時ざわめきが起こった。生徒達の人垣が分かれ、ルミーナがあらわれた。
 ガルーダはその姿に一瞬固まった。が、すぐに目をそらした。
「眠っている間……、怖い夢を見ていました。悲しくて辛くて……でも、もう悪夢は去ったのですね。ガルーダさん」
「現世の連中は本当におめでたいヤツらだな……」
 微笑みかけるルミーナに背を向けて、ガルーダは焼け焦げた荒野へ歩き出した。
 二人の姿を見守るケイに、カナタは小さな声で言った。
「不思議に思っていたことがある。ルミーナが意識を失ったのは、パートナーロストの影響だ。環菜が生き返った今、その影響がまだ残っておるとは思えぬ。なのにどうしてルミーナの意識は眠ったままだったのか……」
「本当は目覚めてもおかしくなかったって?」
「それでも身体の自由を渡しておるのは、自分の姿に亡き想い人を重ね、今もなお、愛する者を必死に追い求めておるガルーダの強い想いに引きずられて……そう考えるのは、些かロマンチシズムに過ぎるであろうか?」
「さあ、そう考える分には自由だろ」
 と、二人の横を抜け、授受がガルーダの元に走った。
「……ガルーダ、きっと女王様が会いに来れなくなったのは何か理由があったんだよ」
 足が止まる。
「だから、会いに行こう! 探しに行こうよ! 今は昔と違って契約者がいるもの。できることだって、ずーっとずーっと広がってるわ。あたしも手伝う! 現世に行けば女王様のこときっと何か分かるよ! その女王様の名前を教えて!」
 振り返り、授受と、そのうしろにいる生徒達を見つめた。
オレは誇り高き冥界の魔将ガルーダ・ガルトマーン。負けてなお、貴様らの手など借りるものか……!」 
 ガルーダは往く。その背中に羅刹兄弟が付き従う。
「さらばだ、人間。いづれまたこの地で会う日も来よう」
「我らはまた我らの道を行く。貴様らも貴様らの道を進むがいい……」


『お客様に申し上げます。間もなくナラカエクスプレス最終便が発車いたします。お客様に……』
 トリニティはアナウンスを行った。
 全てはパルメーラの引き起こした事件からはじまった。世界の理を修復させるため、世界の理を歪めることになった。
 しかし、それも終わりである。パルメーラが戻った今、世界を正常なかたちに戻す時だ。
 超えてはならない生と死の間に、再び垣根に下ろす時が来たのだ。

「なんとなくこうなると思っていたわ。戻ったら死人の谷の駅も消えてしまうの?」
 環菜は言った。
「ええ、本来あの場所には遺跡などはありません。はるか昔にはありましたが、現代はその痕跡は残っていません」
「ブラフマーストラで遺跡を創造したのね?」
「はい。失われたナラカエクスプレスの駅を創造したのです。ですが、もう使う必要はないでしょう。ナラカ〜現世間の運行を止め、ナラカエクスプレスは名前のとおり、これからナラカのローカル線として運営していこうと思います」
 トリニティは机の上に、環菜の才能のパスコードが入ったUSBメモリを並べた。
 既にダリル・ガイザックによって解析済み、複合化してある。
この才能を戻すのが、ここでの最後の仕事でございます。現世に着くまでに才能を回復して差し上げましょう
 その時、勢いよく扉が空き、トライブ・ロックスターが入ってきた。
「と、トリニティ……! これでお別れって本当なのか!?」
「はい。あなたにはお世話になりましたね。ロックスター販売員」
 トリニティはトライブの手をとり、握手をかわす。
「もう……会えないのか?」
「それは私にもわかりません。ですが、私の介入する事態と言うのはきっと皆様にとって良くない事態の時です」
「そうかもしんねーけど、やっぱりその……寂しくなるぜ」
「私もでございます」
 相変わらずの無表情だったが、トライブにはわかった。これは悲しい時の顔だ。
「でも、俺は事件とかじゃなくてさ……、いつか普通に笑って会える日が来ることを信じてる」
「……では、別れの挨拶はこうしておきましょう」
 トリニティはマイクを手に、今一度アナウンスを行った。
『本日はナラカエクスプレスをご利用頂き、ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております』





 The End

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村象山です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございます。
公開が遅れてしまったことをここにお詫びします。もうしわけありません。

ガルーダ戦について思ったことを書きます。
皆さんがどんなものを創造してくるのか、楽しく読ませて頂きました。
ただ、ガルーダの攻撃を防ぐ的なアクションがちらほらあったのが、気になりました。
火弾とかなら防御も出来ますけど、トリシューラは振るわれたら一撃でアウトのレベルです。
展開上そういう場面はありませんでしたが、ちょっと危険なアクションだったかな、と思った次第です。

東園寺雄軒さんとのPVPについてです。
力押しのアクションが多かったの対し、東園寺さんのそれを見越した上でのアクションがなかなかに戦慄でした。
環菜側が全滅しかねない状況でしたが、結果は首の皮一枚で奪還成功とあいなりました。
力押しの通じるNPCとは違って、PCの場合は判定基準が複雑化します。
その意味では、今回の東園寺さんはガルーダ以上の強敵だったのかもしれません。

これで蒼空学園キャンペーン『ナラカエクスプレス』シリーズは終了となります。
お付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。

さて、今後のシナリオ公開ですが、内容は既に決定しています。
ただまだガイド公開日が未定ですので、決まり次第マスターページでご報告しようと思います。
それではまた、別のシナリオでお会い出来る事を楽しみにしております。