天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

リアクション公開中!

続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回) 続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

リアクション


第4章 魔将君臨【4】


「鉄心石腸にして震天動地! 奴隷都市より時空を超えて、白猿大将ハヌマーン、ここに、あ、参上ぅ!!」
 巨木の先端によじのぼったハヌマーンは、ガルーダに大見得を切ってみせた。
 ガルーダは突如あらわれた彼を見てもなんら動じることなく、冷ややかな視線をただただ向けるのだった。
「ふん、貴様も現世の連中に肩入れか。所詮は猿よ、誰かに回されるのが好きと見える」
「な、な、なんだとぉ……!! 俺様が誰に回され……」
ハヌー! やっつけるのよ、ハヌー!
「うるせー! 話しかけんな、緊迫感が削がれるだろが、このクソチビ!」
 木の下でわいわい言ってる授受を怒鳴りつける。緊迫感がダイエットコークばりにカロリーオフされた瞬間である。
 このドサクサにガルーダの前にコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)の飛空艇が飛び出した。
「あなたに一言言いたいことがある……!」
「?」
「他人を使って恋人を探すのではなく自力で探しなさい!」
 コトノハは言い放った。
「それに世界を支配しなくても探す方法はいくらでもあります。現世ではネットやTVというメディアを使って探すことも出来ます。力で押さえつけなくても、進んであなたに協力したいという人もきっと出てきます。私もその一人です」
「……現世の人間の考えそうな戯れ言だ。所詮、貴様らにナラカに生きる我らの論理など理解できまい」
「ガルーダ……」
「力こそすべて! それを超える理(ことわり)は現世にもナラカにも存在しない! 消え失せろ!」
「や、やめなさい! 巨大化は死にフラグなのよ! こんなことはやめ……」
 その魂が、肉体が、トリシューラの闇に飲み込まれつつある彼に、コトノハの言葉は届くことはなかった。
 苦痛も、恐怖も、不安も、トリシューラが麻痺させる。ただ残るのは、闘争と歓喜と享楽。
 破壊を司る槍は使い手にもそれを求める。そうなるように使い手の精神を蝕んでいくのだ。
「だめ……、呼びかけてもガルーダの心が遠ざかっていく……」
「ママ! 危ないっ!」
 禁猟区に殺気。蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)の駆る飛空艇がコトノハの前に飛び出す。
 刹那、上空から降ってきた影の不意打ちを間一髪防御することが出来た。
「あなたは……!」
「おのれ……、神をも恐れぬ異端者め! どこまでも私の邪魔をすると言うのか!!」
 影の正体は破壊神の崇拝者たる伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)、重傷の身体でなおも狂気に憑かれ武器を振るう。
「ああ、ガルーダ様……、その絶大なる破壊の奇跡……。何故大きくなっているのかは分かりませんが、貴方様こそ破壊神ジャガンナート様に違いありません……。貴方様のため私めも共に戦い……破壊の限りを尽くしましょう……!」
「やめて! ママは闇に飲まれかけていたあたしを救ってくれた。だからガルーダも闇からきっと救える!」
「黙れ! 戯れ言はやめろ!」
 額に光る第三の目『覇の眼』を見開き、『神遺物:斬業剣斧ジャガンナート』を振り回して迫る藤乃。
 しかし、やはり重傷を負った身体は追いつかない。反撃のルミナスワンドで殴られ、よろよろとその場に崩れる。
「こ、こんなところで……! 私はジャガンナート様の忠実なる僕なのだ……!」
 もはや満身創痍だったが、ボロボロの身体を引きずり、夜魅にしがみつく。
「が、ガルーダ様……私ごとこの娘を滅ぼし下さいませ!」
「な、なにを! あなただって無事じゃすまないのよ!」
「死など恐れません……! 死してジャガンナート様とひとつになるのです……、それこそ無上の喜びです!」
「いい加減にしてっ!!」
 漆黒化した翼を広げて魔力を解放。その身を蝕む妄執を放ち、ただでさえ蝕まれている藤乃の精神を蝕む。
「ああああ……ぐああああああああ!!!!」
 過去の記憶が彼女の頭を乱気流のように飛び交った。
 両親の殺害……、スラムでの生活……、そして歪な形でのジャガンナートへの信仰の目覚め……!
 吹き飛びそうになる意識の中、彼女は最後にガルーダを見た。
 ただの狂人だと見なしているのだろう……攻撃を加えるそぶりもなく、ひどく冷ややかな目で彼女を見下していた。
「わ、私には死ぬことさえ許してくださらないのですね……」
 藤乃は力尽き落ちていく。
 空気の読めない正義漢青葉 旭(あおば・あきら)は顔をしかめ、飛空艇ヘリファルテを加速させた。
「ジャスティス! ガルーダ、やはりキミがいるかぎり争いの火種はなくならないようだ……!」
「ほう、ならばどうする?」
「知れたこと……、如何なる手段を用いても倒すっ!!」
 最大速力で間合いを詰め、旭はガルーダの顔面に迫る。
 前回、アガスティアの根に撒こうと持ってきたが結局使わなかった塩を、目を狙ってぶちまけた。
「喰らえ! 必殺のジャスティス・ソルト! たっぷりミネラル補給するがいい!!」
 出会い頭の目つぶし攻撃……正義の定義について一般のそれとは大分剥離した旭の正義である。
 だが、ガルーダの『天眼』を忘れてはならない。真正面から挑めば、そりゃ行動を予知されるのも当然中の当然。
 繰り出された巨大な平手打ちが、塩ごとヘリファルテを払いのけた。
「うおおおっ!!」
 制御不能に陥った飛空艇……、ガルーダはすかさず鷲掴みにした。
「消えろ」
「や、やめて……!」
 止めようとするコトノハ、するとその瞬間、一条の閃光がその身体を貫いた。
 閃光は彼女を傷つけはしなかったが、彼女ごしに眉間を撃ち抜かれたガルーダは呻いて膝をついた。
 旭はニヤリと笑って、親指を立てた。遠方から相棒の山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)に狙撃を行わせたのである。
 マハースリスティの全能属性でガルーダ以外を貫通するよう設定されていたため、コトノハは無事だったのだ。
 と言うか、なんならコトノハのように説得を行う人間がいると見越して囮に使ったぐらいである。
「私を隠れ蓑にするなんて、なんて卑怯な……」
「言ったはずだ、如何なる手段も使う、と。それに卑怯とは悪のすること、正義であるオレの行動は知略と呼べ!」
 と旭が吠えた途端、飛空艇ごと握りつぶされた。
「じゃすてぃすッ!!」
「舐めた真似をしてくれる……!」
 残骸とともにこぼれ落ちていく旭を忌々しく見つめ、炎の魔将はダメージを乗り越え再び立ち上がった。
 そして……そんな光景を呆然と、登場から長らく待たされているハヌマーンが見ていた。
「俺様の貴重な登場シーンにちゃちゃ入れやがって……、くそ」
 しかし、邪魔者はあらかた片付いた模様、気を取り直し攻撃を宣言する。
「コメディパートはここまでだ! 行くぞ、焼き鳥野郎! 壊人拳改訂……『壊神拳』!!」
 放った全能弾を壊人拳で叩く。
 光。そして轟音とともに空間に亀裂が走った。衝撃が拳の形となり、ガルーダ目がけ一直線に飛んだ。
 ところが、直撃直前でコトノハの夫ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)が妨害を行った。
 全力防御で威力を殺す。ルオシンの飛空艇は爆散し、衝撃は突き抜けてガルーダに命中するが……ダメージは浅い。
「な……、て、てめぇ! 何故俺様の邪魔をする!!」
「彼はやり方が下手なだけだ。我はガルーダもルミーナも救いたい。それに古王国時代の女王を探すには彼が必要だ」
 コトノハに助け出され、ルオシンは言った。
「ば、馬鹿野郎が……! そんな甘い考えで勝てる相手だと思ってんのか!!」
「遠路はるばるご苦労だったな、ハヌマーン。だがお別れだ。所詮、貴様とオレでは格が違う」
 はっとガルーダを見る。その身体はさらなる神気で包まれていた。
「神気を受けし我が闘技……その目で見るがいい。『業火奈落掌……紅蓮葬送』!!」
「……っ!? やべぇ! てめぇら、とっととこの区域が逃げろっ!!」
 ハヌマーンは慌てて付近の生徒たちに退避を呼びかけた。
 次の瞬間、ガルーダの拳が空に向かって突き出され……その途端、前方の巨大な空間が球状にひしゃげた。
 それは空気の乱れ、瞬間的に熱された空気が渦を巻き、一気に灼熱する……!
 ゴォッと空間が紫炎を吐き出し、前方数キロメートルが一瞬にして焦土と化した。