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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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コンロン山の攻防/コンロン山
 
 ゴゴゴゴ……。
 山が震えて黒煙が吹き上がる。
 鳴動とともに山の中腹から楕円形の形をした何かが転がり出て、麓へと落ちてゆく。
 それは、卵だ。
 山から天へと登り来る死者を喰らい続ける化け物――巨大化した女王蟻――が産み落とした。
 ビキビキッ――黒く禍々しい顎が濁った乳白色を突き破って、産声を上げる。
 一つ、二つ、三つ、四つ――数は際限なく増えてゆく。
 土地と同じ名を冠する山は蝕まれ、病んでいた。
 守りの力がないわけではなかった。
 だが、その守護者たる軍閥の力は年月を経て弱り、誰かに頼らざるを得なかった。
 そして、今、その願いとコンロン山があげる声なき声に導かれるように、力を持つ者たちが山に集いつつあった。
  
 
「さて――頼まれてしまったからには仕方がない」
 薄く靄が漂う岩肌と遠く霞む麓を見やり、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は呟いた。
 手にはセオボルト的ソウルフード“芋ケンピ”(未来の世界的ソウルフードとして展開…予定――多分)がある。
 足元には緑色の小さな生き物――八軍閥の一つ、コンロン山の軍閥――がわらわらと集っていた。
 数は100、といったところか。
 コンロン山の軍閥長たるコンロンサン・キング(仮称)から借り受けた兵たちだ。
 先行して、コンロン山へとやってきたセオボルトは八軍閥最後の一つと最初に接触を持ち、山に巣食う化け物の討伐を依頼されてしまったのだ。
「キングの護衛の部隊は残しました。まずは魔物の卵の流出ルートを探すとこからですな。では、みなさん!」
 セオボルトのよく通る声が小さくも勇敢な兵士たちに指示を出す。
「敵は無尽蔵に沸き続けているとのこと。まずはその流れを止めることが肝要。みなさんにはその流出ルートの特定をお願いしたい」
――チー! チチーッ!!
 人語にはならない、ざわめきのような音がそれに応じる。
「見敵撲滅。ただし、危険と判断した場合は速やかに退却。そして、報告を」
――ザワザワ ? ?
「卵ならば潰すはたやすい。ですが、孵化後、あるいは化け物と遭遇した際は各々の身の安全を優先ということですな」
――! ! コクコク
「化け物討伐は自分の役目。では、参りましょうかな。コンロン山の化け物退治へ!!」
 鬨の声なのだろう、ざわめきが波のように広がり、大きな音となる。が、
「――と、その前に。みなさんに補給物資を配布いたします。さ、芋ケンピをどうぞ」
 先ほどのものとは違う。だが、熱く高揚したざわめきがへと変わっていく。
 それを満足気に眺めると、セオボルトは今度こそ進軍の指示を出した。
「士気は十分。いざ!」
 
 
「急げ!! 一刻も早く山から魔物を駆除する」
 砂埃を上げながらコンロン山へと向う一群がある。
 【鋼鉄の獅子】の月島 悠(つきしま・ゆう)とそれに従うパワードアーマー部隊だ。
「報告によればコンロン川流域及び空域に巣食うの魔物の源はコンロン山。これより討伐行動に入る!!」
「悠くんと一緒に魔物退治です。みなさん頑張りましょうねー」
 前方を見据えたまま檄を飛ばす悠とは対照的に振り返って声をかけるのはパートナーの麻上 翼(まがみ・つばさ)だ。
 共にパワードスーツに身を包む二人だが周囲に与える印象は正反対だ。
 同じなのはどちらも華であるということか。
 凛々しい華と可憐な華――だが、戦うことを知っている。
 その期待に応えるように後続部隊は答えを返した。
「「「了解!!」」」
 
 
 コンロン山の麓より少しだけ上。
 平地になっているその場所で、かつて飛空挺だったものを組み上げ終えたリリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)が満面の笑顔で告げた。
「このコは“リサイクルエコー” 原料は廃材。そして、フラワシで動くとってもエコなイコンなのです!」
 えっへんと胸を張るリリウムの周囲では屈強な空の男たちが呆然と立ち尽くしている。
「わ、わしの船……」
「この前、装甲変えてよ……俺の三ヶ月分の稼ぎが……」
「……ミューレリアの嬢ちゃん、よ」
 空賊たちは自分達が協力を決めたミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)をジト目で睨んだ。
「「「……どうしてくれんだよぉぉぉぉぉ!?」」」
「……え、えーと。とりあえず、ごめん?」
「――ごめんで済めば警察はいらねーぜ。手を貸すとは言ったが、こりゃ想定外だ」
「――私もそう思う。……詫びは必ずさせてもらう。ところで――」
 空賊たちに頭を下げながらミューレリアは不適な笑みを見せた。
「最後まで私達に付き合わないか? 全員が退くには飛空艇の数が足りないはずだぜ」
 その言葉には空賊たちは顔を見合わせる。しばしの沈黙の後、答えがあった。
「詫びと礼は出るんだろうな?」
「――勿論だぜ」
「臆病風に吹かれたとあっちゃ空賊の名折れ。最後まで乗らせてもらおうじゃねーか」 
「そうこなくちゃだぜ!」
 とは言ったものの、ミューレリアには詫びと礼のあてはない。
(こうなりゃ、手柄ゲットして教導団と軍閥から報酬狙うとしますか)
 くい――服の裾を引かれた。
「ん?」
 見ると数匹のみずねことカカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)がいた。
「お前ら」
「ついてきておったようじゃにゃぁ。下の様子を見に行ったところで、ばったりにゃ」
 にゃーにゃーとなつくみずねこたちを撫でてやれば、にゃふーという気の抜けたような鳴き声が上がる。
 カカオは軽やかな動作で定位置であるミューレリアの肩の上に戻った。
「時にミュー殿。下から客が向ってきておるようじゃにゃ。おそらく教導団の後続部隊だろうにゃぁ」
「それはいい。報酬も請求しやすくなるってもんだ。先を越されないように――」
 と、その時。
「「「アリだー!」」」
 上方――山の中腹辺りから悲鳴のような声、続いて鉄と何かがぶつかる音が響いてきた。
「――アリ? ともかく、行くぜ!!」
 
 
 駆け上がるミューレリアに、空賊、リサイクルエコーを操るリリウムが続く。
 悠率いる部隊がそれを追う形で、山を登っていく。
 そして、もう一つ。
 山肌に落ちるいくつもの黒い影――それは空を行く龍騎士団。
 帝国はついにコンロン山へもその手を伸ばしたのだ。
 
 
「一歩遅かったか!! 隊列を維持!!」
 卵の排出ルートを探索していたセオボルトとコンロン・ソルジャー(仮称)たちは、孵化前の卵とそれが出てくる場所を見つけた。
 だが、卵の駆除と山の岩肌に空いた穴を塞ぐ直前にアリの一団と遭遇してしまったのだ。
 双方に敵意がある以上、衝突は避けられない。なし崩しに戦いの口火が開かれる。
「突出している者を援護し、後退!! 前には自分が出ます」
 と。
「やっふー!!」
「間に合ったか。パワードアーマー隊、突撃!」
 ミューレリアたち、そして悠の部隊が戦場に踊りこんできた。
 即座に攻撃に転じるかと思った援軍だが、眼前の敵に瞬間動きを止める。
 黒々とした硬質な皮膚。伸びた触角。鋭い顎。二対三本の手足。
 それは――正しく巨大な――
「「「「「アリだー!」」」」」
「やはり、お約束ですな。これは」
 正しい反応にセオボルトも感慨気に頷く。
 が、それも一瞬。
 次の瞬間には、各々攻勢に転じる。
「勝利の女神とは願ってもない援軍。この勝負、自分達がいただきます!!」
 
 
 セオボルトの鋭く重い槍が、ミューレリアの銃と刀の華麗な舞が、悠のガトリング砲が。
 次々と蟻の群れを蹴散らしてゆく。
 だが、どこから沸いてくるのか。その数はなかなか減らない。もしかしたら、増え続けているのかも知れない。
 消耗戦になるのは不味い。
 化け物蟻の母である女王蟻の姿を求め、三人の視線が戦場を忙しなく動く。
 だが、それらしき姿はなかった。
「く。女王蟻はどこだ?!」
「卵の近くにいるんじゃないのかよー!?」
「――奥だ。もっと奥。女王蟻は子供たちに守られて一番奥に」
 悠のその言葉に、一同の視線は孵化前の卵が転がり出た穴に向けられた。
 
 
 化け物蟻の群れと対峙するセオボルトたちを上空から窺う者たちがあった。
 帝国――エリュシオンの誇る龍騎士の一団だ。
「――いました! 教導団とコンロン山の軍閥です」
「ふん。どうやら魔物と交戦中、か。――かまわん。もろとも我等が槍と龍の牙の錆としてくれよう」
「ははっ」
 
 
 ド、ドドォォン――!!
 凄まじい爆音が天から降り注いだ。
 舞い上がる砂塵がおさまれば、見るも無残に抉られた地面がある。
 上空を仰ぎ見れば、龍に跨る騎士の姿。
「――帝国」
 山の魔物を倒すことだけを考えていたセオボルトたちには龍騎士に対する策がなかった。
 上空に龍騎士。
 地上には尽きることない化け物蟻の群。
 今の攻撃で味方に被害がでなかったことは奇跡に等しいだろう。
 だが、おそらく次は無理だ。
「まずいですな……」
 
 
 そこに――凛とした声と共に救いの一撃が放たれた。
 空を裂く光線が龍の翼を打ち抜いたのだ。
「く、何奴だ!?」
「援軍なのか?」
「おお。あれは――」
 その場にいた全員の視線の先には――高島 真理(たかしま・まり)源 明日葉(みなもと・あすは)が操るイーグリット『Meteor』の姿があった。
「龍騎士はボク達に任せて!!」
「それがしたちで時を稼ぐ。その間におぬし等は山に巣食う魔物を討ち取るがよい」
「おのれ小癪な!! イコンとはいえ一機で我等と渡り合うというか。えぇい。先にこのイコンを沈めてくれる!!」
 
 
 一方、地上でも動きがあった。
 誰もいないはずの空間から冷気を纏った斬撃が放たれ、蟻を切り裂く。
 いつの間に蟻たちの背後に回り込んだのか。
 三人の男女――恩義のあるヒクーロを魔物の脅威から救うべく駆けつけた死神の異名を持つ青年樹月 刀真(きづき・とうま)
 彼のパートナーである玉藻 前(たまもの・まえ)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の姿があった。
「ふむ。このブラックコートやらは役に立つの」
「地下だよ。刀真――声がする」
「あぁ。行くぞ」 
 続いて、バラバラと弾幕が撒かれ、上空の龍騎士と地上の蟻、そのどちらからともセオボルトたちを隠した。
「教導団の草薙 朱鷺子(くさなぎ・ときこ)、只今、到着いたしました。怪我人の治療はお任せ下さい」
「同じくミラベル・シュライア(みらべる・しゅらいあ)。援護します」
 そして、本営から先発した月島たちを追ってきた教導団の後続部隊の二人が駆け寄ってきた。
 新たな戦力を迎え、第二ラウンド。
 いや、ここからが本当の戦いの始まりであった。