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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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予期せぬ戦い/ミカヅキジマ
 
「負傷者は居ませんかーっ!?」
 薄暗がりの中、クゥサァ率いる部隊を撃退した後の海岸で、天海 護(あまみ・まもる)と、パートナーの機晶姫天海 北斗(あまみ・ほくと)は、負傷者の探索と保護、手当てに当たっていた。
「暗くなって来たし、このあたりは一通り探し終えたし、そろそろ戻らねえか? だいたいオレ、防水加工じゃないから、あんまりこういう海岸とか居たくねぇんだよな」
 医薬品や医療器具、修理用の工具など、必要そうなものを持てるだけ担いだ北斗が護に声をかけた。
「そうだね、そろそろ……あれ?」
 何気なくクレセントベースがある方を振り返った護は、何かが空を飛んで来るのに気付いた。
「鳥? ……いや、そうじゃない?」
「どうした?」
 北斗も、護が見ているものに気付いた。
「あれ、鳥じゃない、よな……」
「敵が戻って来たのか? 北斗、無線機、無線機!」
 護は北斗が担いでいた荷物の中から無線機を引っ張り出し、スイッチを入れた。
「海岸で負傷者探索中の後方支援部隊、天海です! 北の方から、敵らしき飛行物体多数が接近して来るのを発見しました!」
 
 
「本当……? 天海候補生。よく見つけましたわ。すぐに、基地へ戻って!」
『は、はい!』
 護からの連絡を受けたクレセントベースは、再び蜂の巣をつついたような騒ぎになった。敵を撃退した、と思ってほっとしていた……悪く言えば、少々気が抜けていたところである。
「再度、迎撃用意! 湊川とユーナのイコンを、大至急島の北側に向かわせて! 港周辺の守備隊も、戦車が無理でもその他の兵員だけでも移動を! たとえ探照灯があっても、完全に暗くなってから上陸を許したら面倒なことになりますわ。一分一秒でも早く決着をつけてください!」
 司令部では、沙鈴が矢継ぎ早に指示を出していた。地下洞窟の中に戻って休息や食事を取っていた生徒たちが、配置につくために大慌てで駆けて行く。
 
 
「え、また敵が現れた!?」
 間もなくクレセントベースに帰還する、というあたりで、『シーパンツァー』の湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)、『Thunderbird』のユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)は沙鈴からの連絡を受けた。
「おい、あれ、そうじゃねえか!?」
 いち早くそれらしき姿を見つけたシンシアが叫んだ。明らかにミカヅキジマに向かって飛行して来る生物の群れ。その中で、二頭だけが群を抜いて早く、こちらへ向かって来る。最初はどんな生物だか良く判らなかったものが、あっという間に龍の姿だと確認できるようになった。
「……速い……!」
 その飛行速度の速さに、ユーナは目をみはる。
「さっきの龍騎士とは、ぜんぜん違うわ」
「まさか、神龍騎士?」
 湊川が呟いた。後席で、梓が息を飲む。
「……でも、敵が何者だろうと、戦うしかないわよね!」
 ユーナは飛んで来る龍に向かって身構えた。
「おう!」
 『シーパンツァー』も、スナイパーライフルを構える。だが、既にあたりは宵闇が迫っており、敵は大きな黒い影にしか見えない。
「く……どうにかして急所に当てたいんだが……」
「どんどん近付いて来ますわ!」
 梓が悲鳴を上げた。
「ええい、ままよ!」
 時間が経てば経つだけ自分たちの不利になる、と判断した湊川はとにかく数を当てればいい、とスナイパーライフルを乱射し始めた。暗がりに火花を散らしながら、弾丸が飛龍に向かって飛ぶ。
「下手な鉄砲も、数を撃てば当たるわよね!」
 『Thunderbird』も、アサルトライフルを撃つ。
 
 
「おのれ、教導団……!」
 湊川とユーナに向かって突っ込んで来る神龍騎士は、もちろんラスタルテであった。龍のブレスで弾丸を吹き飛ばし、槍を構えて突っ込んで来るその姿は、鬼気迫るものがあった。
「くそ、弾丸が切れた!」
 湊川は持っていたスナイパーライフルを捨て、予備に切り替えた。
「こっちも弾切れ……っ」
 予備を持っていない『Thunderbird』には、もう遠距離攻撃の手段がない。ユーナは捨て身の戦法に出た。
「シンシア、ちょっと荒っぽく行くわよ!」
 後席に叫んで、突っ込んで来るラスタルテと湊川の間に入る。
「うわっ!?」
 慌てて銃口を上げる湊川の前で、ユーナは『Thunderbird』の腕を伸ばし、龍のブレスを浴びながらもその首を捕まえた。
「えええええいッ!!」
 そのまま突っ込んで来る勢いを無理に殺さず、レスリングの投げ技の要領で後ろへ振る。さすがに真上には上がらなかったが、龍の体は『Thunderbird』を支点にぶぅんと弧を描き、一瞬、無防備な横腹が『シーパンツァー』の前に晒されることになった。
「今だ!」
 湊川は至近距離から、その横腹を狙い撃った。
 龍の悲鳴、そして、『Thunderbird』が尻餅をつく音と地響き。
 龍は、手を離してしまった『Thunderbird』から離れ、もがくように上空へ退避する。その離れ際、ラスタルテが槍を一閃した。後ろへ飛び退る『シーパンツァー』が持っていたスナイパーライフルの銃身がすっぱりと切り落とされて、中ほどから先が地面に落ちる。
「無事か!」
 追いついて来たジャジラッドが、上空からバルバロイのブレスでラスタルテの離脱を援護する。
「まだまだ、もう一撃!」
 ラスタルテはなお、傷ついた龍を二機のイコンに向けようとした。
 だが、その時、イコンの後方で探照灯が点灯し、闇にすっかり慣れたラスタルテとジャジラッドの目を焼いた。
「はぁ……はぁ……追いつきました……間に合いました、ね……」
「大丈夫、問題ありませんわ」
 息を切らすアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)の後ろで、無表情に探照灯を敵に向けているのはソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)だ。その後ろから、クレセントベースから駆けつけた生徒たちも現れる。
「……龍も傷ついた。ここまで、か……」
 光を避けて高度を取ったラスタルテに、ジャジラッドは苦い表情で言った。
「口惜しいが、ここはいったん帝国本土まで撤退して、再起を図ろう」
 ラスタルテはすぐには返答しなかった。が、至近距離で撃たれた龍のダメージは大きく、このままでは長い時間飛び続けることは出来ないだろうと思われた。
「後日、必ずこの汚名は雪ぐ!」
 吐き捨てるように叫んで、ラスタルテはジャジラッドと共に飛び去って行った。
「うわー、た、立てない……」
 尻餅をついたままの『Thunderbird』の中で、ユーナは呻いた。駆動系がどこかいかれたらしく、尻餅をついた状態から立ち上がれないのだ。
「無茶をしたよなぁ。まあ、そのおかげで勝てたわけだけど」
 良く命があったもんだ、とシンシアがため息をつく。
「お二人ともお怪我はありませんか? 今、基地から応急修理が出来る方を呼びますので、ちょっと我慢してくださいませね!」
 梓が慌ててクレセントベースに連絡を取る。