リアクション
* * * 連れ込まれたのは四人。 管理棟の尋問部屋には媛花、黒川、マキナ イドメネオ(まきな・いどめねお)の三人がいる。捕らえられた者達は仮面を取られ、拘束具によって四肢の自由を奪われている。 「まず、お前達は何者だ?」 尋問は一人ずつ順番に行う。相手の素性を確認しようとするが、口を割ろうとはしない。 「まあこれは無理に答える必要もない。天学生ならばお前達の顔と指紋、DNAでも採取し、行方不明になっている生徒のリストから照合すれば分かることだ」 それでも、黙秘を続けている。 「ここからは自発的に吐露して頂きたい。サイオドロップ……と我々はそちらを呼んでいるが、その規模、学院上層部を襲う理由、組織を指揮しているリーダー格の人物とその目的だ」 「馬鹿正直に教えるとでも?」 「残念ながらここは強化人間管理棟だ。ある意味野蛮な、拷問を味わう以上の苦痛を伴うような、科学的な処方で口を割らせることも出来るのだぞ」 そんなことは分かっている、とでも言いたげな顔でエキスパート側の者達を睨みつけてくる。 「どうするかはお前達の判断に任せよう。そこの統轄役が痺れを切らして動くまで、熟考したまえ」 しばらくすると、サイオドロップのメンバーが口を開いた。 「組織の規模は、俺達みたいな下っ端には分からない。ボスしか把握してないんじゃないか。上層部の役員を消すのは、あの腐った連中が邪魔だからだ。こうしている間にも、また一人殺されてるかもしれないぜ?」 天御柱学院を、海京を立て直すには、今の上層部が邪魔になるという。特に役員会という邪悪な組織には潰れてもらわなければならないと。 「ボスは何者だ?」 「さあな。お前達のトップ、風間を誰よりも憎んでいるということ以外は知らない」 「風間さんを憎んでいる、ねぇ……」 「心当たりがあるのか、黒川?」 媛花は黒川と目を合わせた。 「なくはない、かな。とはいえ風間さん、恨みはたくさん買ってるから一人には絞れないよ」 「お前達は、あの男を分かっていない!」 サイオドロップのメンバーが叫ぶ。 「風間さんは、あえて恨まれ役を買ってるんだよ。僕達強化人間の自由のために、ね」 「違う!」 様子を見るに、役員連続襲撃の最終目標は風間である可能性が高い。 「で、リーダー。多分この調子だと答えてくれなそうだから、強硬手段に出ていいかな?」 「構わない。それで情報が得られるのなら」 威圧感のあるマキナを前にして口を割らないなら、普通の尋問ではこれ以上効き出せないだろう。 黒川がサイオドロップの一人に近付き、その頭に手を乗せた。 「あああああああああ!!!!!!」 直後、手を置かれた人物が悲鳴を上げる。 「……読み取り完了。後は余計な記憶を消して、と」 黒川の能力だ。 テレパシーとサイコメトリの応用だと本人は言うが、彼は他者の記憶を操作出来る。情報を読み取ったり、別人格へと書き換えたりと。 なんでも、強化人間管理課で行われている記憶消去と人格操作の仕上げは彼が行っているらしい。 加えて優れた幻影の使い手でもあり、それらの能力を使うことで彼は「過去に記憶を読み取った人間」になりきることが出来るという。エキスパート部隊設立前は、風間の指示の下、諜報活動をしていたと媛花は聞いている。 「うん、大体分かったよ。彼らは上層部全員を消した上で、風間さんを消すつもりらしい。先に風間さんを殺したら、上層部は強化人間の処分を再開する。だから、強化人間を助けるためにも風間は最後だってね」 「学院と海京の解放ならば、何も風間さんを殺す必要はないのでは?」 「結局連中は、理想論を唱えながらも自分達でこの海京を支配したいだけなのさ。現に、彼らは強化人間をほとんど味方に引き込んではいない。まあ、何人かは使い捨てで利用するために、抱えてるみたいだけどね。レイヴン暴走でパートナーが植物人間になってしまい、リミッターを外した風間さんを逆恨みしている桐山 早紀とかね」 記憶を読み取った黒川が、それらを媛花のノートパソコンに打ち込み、記録として残す。 「つまり、彼らは僕達強化人間管理課の敵に違いはない、ってことだよ」 * * * その頃。 海京西地区の一角。高層ビルの空きテナントの中。 (来たわよ) 仮面を被った人影が現れる。 枝来と衡吾は物陰に姿を隠して、様子を窺っていた。海京のデータベースに、自由にアクセス出来る役員の協力で、偽情報を流すことに成功した。 おそらく、襲撃者は情報網を敷いていたのだろう。それに食いついからこそ、ここにやってきたのだ。 枝来がトラッパーを発動し、入口を封鎖する。 その直後、衡吾がハンドガンで牽制しながら、ワイヤークローを繰り出す。が、それらをかわされてしまう。 ならば、と奈落の鉄鎖を繰り出し、相手の動きを封じようとする。 それだけでなく、アシッドミストを発生させ、ただでさえ仮面のせいで悪いであろう視界を、さらに悪化させる。 が、直後ガラスの割れる音が響いた。 「この高さから……!」 窓ガラスを割って、仮面の人物は飛び降りたのだ。 サイコキネシスを使ってビルの壁面に足をつけ、そのまま駆け下りていく。 「く……逃げられた!」 そしてほとんど同じ頃、枝来達を雇った役員が襲撃者によって殺された。 油断しきっていた彼は、護衛をつけずに自宅でくつろいでいたらしい。 (やっぱり、あっちは囮だったみたい……だね) 役員を抹殺し終えた早紀だったが、身体は限界に達していた。 レイヴン暴走でパートナーが深刻なダメージを負い、彼女自身は薬で無理矢身体を動かしているのである。 今の彼女は、学院上層部と風間への復讐心でもっているようなものだ。それは逆恨みでしかないが、そうしないといけないほど早紀の精神は蝕まれていた。 (もう少しだけ……もって) だが、地下へ潜る途中で、早紀は力尽きてしまった。 そして倒れていた彼女は、エキスパート部隊によって回収された。 |
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