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「アレナ、こっちこっち!」
 会場に現れたアレナに、真っ先に気付いて手を振ったのは、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)だった。
 今日はパートナーの匿名 某(とくな・なにがし)の姿はない。康之は一人でパーティに参加……というおり、彼女に会いにやってきた。
「この前はお茶サンキューな! すげぇ美味しかったぜ!」
「康之さん、大げさです……」
 康之の礼のことばに、アレナは淡い笑みを見せる。
 それから。
「私も、沢山康之さんにお礼を言わなければ、ならないです。今日は来てくださってありがとうございます。いつも、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げた後、アレナは康之の隣に腰かけた。
「レモン、よかったらどうぞ」
 アレナは輪切りしたレモンを持ってきていた。
「サンキュ。俺はミルク持ってきたんだ」
 康之はティーカップにレモンを入れて。
 アレナは康之が持ってきてくれたミルクを入れて、微笑み合いながら一緒に紅茶を飲んでいく。
「……ところでさ、百合園にしてはカジュアルなティーパーティなんだよな。それなのに、なんだか他校のお偉いさんっぽい人が結構いるような気がするんだけど?」
 ふと、康之は疑問を口にした。
「ええっと、人脈を深めるための会でもあるんです。こういう場でのんびりお話しすることで、普段の生徒の姿を見てもらうとかそういう意味があるみたいで……。上級生からすると、就職活動の場でもあるみたいです」
 更に、スカウト目的で訪れている他校の教職員もいるのだとアレナは康之に説明をした。
「なるほど……アレナ、というか優子さん目当ての人も多そうだよな」
「そうですね」
 アレナはいつもと変わらない微笑みを浮かべている。
「アレナは進路とか考えてる?」
「私は優子さんと一緒です。優子さんがどこかの学校に編入するのなら私も転校します! ヴァイシャリーで就職するのなら、私は百合園に残って、白百合団員として百合園を護っていきたいです」
 アレナは特に迷いはないようだった。
「百合園の子達が噂してたんだけど、アレナを次期白百合団団長へって声もあるんだって?」
「そうみたいですね……。でも、無理ですからそうはならないと思いますよ。ただ……」
 アレナは少し、戸惑いのような表情を浮かべる。
「なんだ? 何か困ってるんなら、聞かせてくれ」
 こくりと頷いて、アレナは小さな声で話し始める。
「私は……何も凄くはないんです、けど。凄いように思われてしまっていて。なんかこう……憧れのような目や、好奇な目で見られたり、そんな時、どうすればいいのかわからなくなります。団長の件もそうです。私は鈴子さんや優子さんのような『皆をまとめる力』は全くないですから。誤解、なんです」
「そっか」
 康之は穏やかな目で、アレナを見詰めて彼女に優しく語りかける。
「確かにアレナはヴァイシャリーを救った英雄として、他の人から尊敬の念などを集めているけど、だからといってアレナが『他人が考える理想のアレナ』を演じなくてもいい」
「理想の私……」
「アレナが本当に進みたい道を自分で選んで進めばいい。百合園に残ったとして、そして団長になるという道を、アレナが進みたいと思うのなら、それはそれでかまわない。そうして選んだアレナの決断を反対したり非難したり失望する権利なんて、誰にもないんだから」
 こくり、とアレナは頷いた。
 康之は微笑みながら言葉を続けていく。
「俺だって自分がやりたい道を選んでどんどん進んできた。そのおかげで失敗したり痛い思いしたりもしたけど、後悔なんて一度もしてない……アレナを助けたあの時だって同じだ」
「……はい」
「それに、アレナがどんな道を選ぼうと支えてくれる人がいる。導いてくれる人がいる……もちろん、俺もその一人だって思ってる。だから、アレナは自分の信じる道を進んでほしい」
「自分の信じる、道……」
 その言葉に、アレナが考え込む。
「私は、優子さんの剣の花嫁として生きていくことが『自分の信じる道』です。だから、優子さん次第です。優子さんが望むのなら、団長に立候補する可能性もあるかと思います」
「ったく……」
 康之が明るい笑みを浮かべる。
「アレナの心の中は、今日も『優子さん』でいっぱいなんだな!」
「はいっ。でも私自身も、百合園に好きな人沢山います、から。守りたいと思っています。でも……そう、思う人は、百合園の人、だけじゃないんです」
 言って、アレナは康之の目をじっと見て、微笑んだ。