天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション公開中!

聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション


第十六曲 〜The Seven Derdly Sins〜


(・ルシファー)


「やっぱり敵が速いー……でも頑張るー!」
 セレナイトの中で、ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)は機体を駆っていた。
 敵は速いが、セレナイトもイーグリットだ。敵の射線に注意していれば、避けられないことはない。
 幸いにも第二世代機が奮闘していたおかげで、第一世代機でも付け入る隙は生じている。また、ブルースロートによるエネルギーシールド支援もここまで届いていた。そのため、一発で撃墜される危険は大分減っている。
(ユメミ、覚醒するよ)
 端守 秋穂(はなもり・あいお)からの精神感応を受け取る。出撃前の様子を考えると心配だが、今は何とか大丈夫そうだ。
 覚醒。
 この状態での機動力なら、敵の攻撃も避けやすい。
(どのみち覚醒が終われば戦えなくなる、今の内に動くよー……!)
 主に敵の前衛部隊と戦う。
 交戦中の敵機に向かって射出型ワイヤーを放つ。イーグリット・ネクストに対処しようと背中を向けた瞬間に、だ。
 武器には絡みつかなかったものの、右腕に巻きついたため、自身の武器では撃ち抜けない。
「第一世代機だからって、舐めないで下さい!」
 ワイヤーで機体を引き寄せ、銃剣付きアサルトライフルを放つ。ワイヤーが巻きついた状態でも相手はシールドで何とか受け切った。
「まだっ!」
 そこから距離を詰め、今度はクレイモアで敵の右腕を叩きつけるようにして振り下ろす。ちょうど装甲の弱い関節部だ。
 それによってワイヤーも敵機の腕から離れるが、それを巻き取る。
 が、別の敵機が援護に入ってきた。咄嗟にそれを回避し、高度を上げて離脱する。

 狙われた【セレナイト】に対し、ブルースロートに搭乗している笹井 昇(ささい・のぼる)はエネルギーシールドを展開し、援護する。
 ネクストのサポートも大事だが、この状況では性能的に不利な第一世代機のフォローも重要になる。
「覚醒すれば旧世代機でもいけるが、あまり無理をする姿は見たくない」
 例え敵を退けたとしても、死んでしまっては元も子もない。死んだ英雄よりも、生きた人間の方が貴重だ。未来を作れるのは、常に生きている人間だけだからである。
 捨て身でも敵を滅ぼすのではなく、生きて帰るための戦い。今すべきなのはそれだ。
「直接の戦果は得られないのが残念だが、仲間が目の前でやられちまうよりは、がっちりガードしてやる方が性に合ってるしな」
 デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)が言う。
「これが終わって帰れたら、ちょっとゆっくり羽を伸ばしたいぜ。地球に来たのに、まだまともに観光も出来てねぇしな。けど、その前に――オレ達の目の届く場所では、誰も落とさせねぇ」
「ああ、もう誰も欠けさせたりはしない」
 ウクライナでの烏丸 勇輝、桐山 早紀の悲劇を経験しているがゆえに、もうあんな場面は見たくないと強く想う。
 勇輝は未だ昏睡、早紀に至っては病院から姿を消した後、今も行方不明のままだ。レイヴンにも注視しつつ、ブルースロートでの援護を行っていく。

* * *


(敵もこっちの動きに慣れてきた……こっからは仕掛けてくぜ)
 ミューレリア・ラングウェイは覚醒を行う。敵機がイーグリット・ネクストと戦う際、常に連携してくるようになったからだ。
 相手の動きが読めるようになったのはこちらも同じだ。敵は二機でイーグリット・ネクストの動きを阻害したところで、フリーになっている指揮官機が一気に接近してくる。
 プラズマライフルを撃つ際のわずかなタイムラグさえも敵は読んできた。そこはさすが小隊長と言ったところか。
『こちらスター1。連携に対抗するなら、こっちも連携していこうぜ。いい作戦がある』
 その作戦を聞く。
『それ、大丈夫なのか?』
『前にブルースロートで試したとき、大丈夫だったんだ。それより高い強度を持つこの機体なら大丈夫だろ』
 ブルースロートの位置を確認する。シールドの援護は問題なさそうだ。シリウス・ヴァイナリスタ達の【オルタナティブ13】も覚醒を行う。
 まずは、ミューレリア達が前に出ていく。エナジーウィングを盾として使いながら、クルキアータ一般機の攻撃を防ぐ。
 メインスラスターを全開にし、敵の動きにはサブスラスターを上手く使って追随。プラズマライフルをショットガンモードにして、牽制を行う。
『今だぜ!』
 一般機を引きつけた今がチャンスだ。
 【オルタナティブ13】が一直線に指揮官機へと突撃していく。相手は盾とランスだ。射撃支援がなければ相手が近付くのを待つしかない。
 が、武装の相性の悪さを悟ったらしく、単機で挑んでくることはない。そのため、当然後退する。
 しかし、イーグリット・ネクストの速度を振り切るのは難しい。それに、今は覚醒状態にある。
 エナジーウィングで機体を包み込むようにして、【オルタナティブ13】は――体当たりを仕掛けた。
 バジィ、とクルキアータのシールドとエナジーウィングが激突する。フルスピードの体当たりを何とか押しとどめたものの、クルキアータのシールドは粉々に砕け散った。
 だが、敵は諦めない。そこからランスを突き出そうとする。
「隙あり、だぜ」
 指揮官機の真上から新式ビームサーベルで敵機の右肩を斬り落とす。エナジーウィングを盾にして一般機を引きつけながら、指揮官機が隙を見せる瞬間を窺っていたのだ。
 体当たりでもかなりのダメージを受けていたせいか、そのまま機体は太平洋へと墜ちていった。

(そろそろいい頃合かしら)
 イーグリット・ネクスト以外はF.R.A.G.に対して真正面から戦うのは厳しい。だが、小隊間の動きを見た限り、「奇策」は十分通じると伏見 明子は見込んでいた。
 S−01の機動を生かし、クルキアータの一般機からの攻撃を回避する。
 敵が警戒しているのは、あくまでイーグリット・ネクストとレイヴンであることが見て取れる。他の機体に対しては単機で挑んでくることからも明らかだ。
 だからこそ、【ラストホープ】に単機で挑んでこようとしたこのタイミングが最大のチャンスだった。
 敵が引鉄を引こうとした瞬間に、ツァールの長き触腕を召喚。それを敵にぶつける。
「はっはー! パラミタの野放図具合をなめるなよ!」
 これこそ敵にとっては予想外の攻撃だろう。まさか可変戦闘機が異世界から魔物の触腕を呼び出すなどとは。
 しかも、その締め付け具合はクルキアータの出力をもってしても振り切れないほどのものである。
 シールドごと左腕が粉砕される。
 だが、残った武器で即座に撃ってくる。
 しかし、敵は気付いていなかった。
「誰が一本だけだって言ったかしら?」
 今度は機体そのものが巻かれる。パイロットは機体が締め壊される前にコックピットから脱出した。
 隙を生じぬ二段構え。そして、地球サイドが持っていないであろうパラミタの知識を生かしたことで、敵を撃破することに成功した。

* * *


 F.R.A.G.とシャンバラが激戦を繰り広げている戦場に、その機体は突然現れた。
「何あれ、新型?」
 葛葉 杏はその機体を見る。
 シルエットはクルキアータに似ているが、異質さを漂わせていた。杖を携えたその姿は、クルキアータが騎士であるのに対し、司教(ビショップ)を彷彿とさせるものがある。
「まずは先制攻撃!」
 手始めに牽制がてらミサイルポッドを放つ。
 が、それは炎の壁によって阻まれた。
「今、炎を……一体、どうやって?」
 例え魔法使いであっても、イコンに乗った状態で魔法を使うことは出来ない。いや、厳密に言えば機体の外に放出出来ない。これは超能力だって同じだ。それを可能とするために、BMIが開発されたのである。
(早苗、30%から行くわよ)
 ルシファーは一機、高高度を浮遊している。何かを探している素振りを見せていた。
(まずは……)
 相手よりもさらに高度を上げ、実践的錯覚で距離感を狂わせようとする。機体のブースターを噴かせて周囲の温度を上げれば、位置がずれて見えるだろう。
 が、相手は杏の予想しなかった攻撃を仕掛けてくる。
(今度はブリザード!?)
 シールドを展開。サイコキネシスではなくフォースフィールドとして行使することによって、ブリザードを防ぐ。
(一体何なのよ)
 行動予測で次に何が来るかを読む。相手は距離を詰めようとはしない。否、距離を詰める必要がないのだ。
 咄嗟に機体のブースターを吹かせる。直後、【ポーラスター】がいた位置に天のいかづちが降ってきた。
 BMI30%、覚醒なしで戦うのは危険だ。
(私は夢を叶えるんだ、だから私は、こんな所で終わらない)
 シンクロ率を上げる。50%。ここまでならなんとかなる。
 実弾式のアサルトライフルを構え、魔法を使う機体に向かって狙い撃つ。しかし、ファイアストームの前に銃器が役に立たない。
『シールドの援護を行います』
 そこへ、アルテッツァ・ゾディアックの搭乗するブルースロートからのエネルギーシールドが展開される。覚醒した機体からのシールドということもあり、これならさっきの天のいかずちも完全にカット出来るだろう。
 本当に目の前の機体がF.R.A.G.の増援かは分からない。だが、一瞬クルキアータが戸惑いを見せたものの、攻撃を取り止めたことから、F.R.A.G.の敵ではないのだろう。地球サイドの新しい差し金かもしれない。
 ブルースロートの支援を受けられるとはいえ、【ポーラスター】単機では厳しいものがある。かといって、他の機体はクルキアータと拮抗している。
(早苗、レイヴン、私に力を貸して頂戴!)
 覚醒。
 そこからさらにシンクロ率の上昇を図る。
(杏さんが私達を信頼しているように、私も杏さんを信頼している。あなたも杏さんを信頼して)
 橘 早苗がレイヴンに話しかける。
 50%を超えたあたりから、頭痛が激しくなってくる。
(私は、私……負けない!)
 なんとか自我を保つ。とはいえ、ここまでの負担が来るとは思っていなかった。
 そこへ、テレパシーが来る。小隊のもう一機のブルースロート【イゾルデ】からだ。
(今から……レイヴンに……干渉をかけます)
 出撃前にも、機体干渉でBMIによるパイロットの負荷を軽減出来ないかということは話している。確証はないが、やるなら今しかない。
(大丈夫……レイヴンを信じて……身を任せて……その力を……受け入れて)
 超能力で機体のエネルギー補助が出来るということは、動力炉と繋がっているということである。それによって、高シンクロ率における負荷の軽減を図る。
「うぉぉぉ!!」
 そこからの杏はもう、無我夢中だった。
 その分、機体の制御を早苗が行う。
 大型ビームキャノンを敵に向かって放つ。それは回避されるが、次の瞬間にはランスを構えて飛び込んでいた。
 霧が立ち込めてくる。アシッドミストによるものだ。そこからブリザード、サンダーブラストと続けざまに繰り出してくる。
 フォースフィールドを展開、それによって止まることをしらずに肉薄した。
 突き刺そうとしたところで、杖によって受け止められる。そこに、天のいかづちが繰り出されるが、機体には当たらない。
 残像だ。【ポーラスター】のシンクロ率は90%に達しており、ミラージュによる幻影を生み出して回避していたのだ。
 再び突撃を試みるが、そこまでだった。
 謎の機体は何かを感知し、そこへ向かっていく。
(待ちなさい……まだ、終わっては……)
 それまでほとんど無意識で戦っていた杏は我に返った。だが、あまりにも強い疲労感に襲われる。
(杏さん、これ以上は危険です!)
 パートナーでありBMIで繋がっているから、早苗にはこれ以上BMIで脳を酷使すると危ないことが分かった。
 一旦覚醒を解きシンクロ率も安全圏まで下げる。
(あと少し、だったのに……)

* * *


 全能の書 『アールマハト』(ぜんのうのしょ・あーるまはと)がディテクトエビルにより、おぞましいまでの敵意を感じたため、メニエス・レイン(めにえす・れいん)は黒いコームラントとの戦闘から【ルシファー】を離脱させた。
 最初こそ戦場でF.R.A.G.にも訝しまれたが、「シャンバラの敵」であると告げたところ、あっさりと通してもらえた。
 カミロ・ベックマンとは途中で別れ、どちらかが【サタン】の存在を察知したところで合流、ということで示し合わせている。
「ふふ、あははは! いいわ、思ってたのと全然違う! あたしに相応しい素晴らしいものだわ! ここまで思い通りに魔法が使えるなんて!」
 本来は【サタン】と接触するまで極力戦わないようにしようと考えていたが、あの黒い機体が「超能力」らしきものを使って攻撃を防いだことで気が変わった。
 結果、超能力相手でも十二分に戦えることを実感した。今、自分が乗っているのはただの鉄クズではない。
「行くわよ、アールマハト。サタンとかいうのを破壊してやりましょう」
「はい、マスター」