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リアクション
(・ベルゼブブ)
「翔、見ろ!」
「あれは、シュバルツ・フリーゲ……いや、違う」
アリサ・ダリン(ありさ・だりん)がその機体に気付き、辻永 翔(つじなが・しょう)に伝えた。
戦闘域よりも上空から飛来した、黒い機影。
シュバルツ・フリーゲの面影を残し、それでいてクルキアータの装甲をさらに厚くしたかのような姿だ。
右腕にはランス、左腕には機関銃を装備している。
「それに、あの装備――アリサ、通信を繋いでくれ」
勘が当たっていれば、おそらくヤツだ。
『久しぶりだな、少年』
『カミロ……!』
『それが君達の新しい機体か。私の【ベルゼブブ】とどこまで戦えるかな』
相変わらず自信に満ちた物言いだ。
『お前もF.R.A.G.と一緒に武力制裁か?』
『そうしたいところだが、生憎やるべきことがあるのでな。子供の相手をしている暇などないのだよ』
『何を!』
「落ち着け、翔。ただでさえF.R.A.Gは手強い。戦う意思が相手にないなら、無理に戦う必要はない」
そんなアリサの言葉も虚しく、カミロの【ベルゼブブ】に肉薄している機体があった。
「その機体、オレにはよく分かるぜ。カミロ、てめぇだなあああああ!!!」
天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)とリョーシカ・マト(りょーしか・まと)が搭乗するイーグリット・ネクストだ。
その剣と、【ベルゼブブ】のランスが激突する。
『相変わらず威勢のいい奴だ。だが、甘い!』
ガッと弾かれたかと思うと、機関銃をイーグリット・ネクストに向かって撃ってくる。
『は、新しい機体か! オレもこの新しい力を手に入れた!』
『互角、だとでも言いたいのか。ならばちょうどいい。【ベルゼブブ】の試運転に付き合ってもらおうか!』
カミロの新型【ベルゼブブ】との戦いが始まる。
「き、鬼羅ちゃん。来るで!」
「ああ。そんじゃ、ヤツの性根を叩き直すとするか!」
新式プラズマライフルをショットガンモードにセット。エナジーウィングを展開し、速度を上げていく。
『援護する』
「助かるぜ、翔」
翔達が後方からプラズマライフルの照準を【ベルゼブブ】に合わせる。反動が大きい分、動きながら正確に狙うのは難しいが、イーグリット・ネクスト同士で連携すれば十分可能だ。
鬼羅がトリガーを引くタイミングに合わせ、翔がプラズマ弾を放つ。
その威力は、他の小隊が既に実証済みだ。
『効かん!』
【ベルゼブブ】前方にシールドが展開された。彼が元々乗っていたシュバルツ・フリーゲ・オリジナルのシールドの発展型のようだ。
プラズマ弾のエネルギーを拡散させてしまうのだろう。おそらく、ビーム兵器の類はあのシールドの前では役に立たない。
『そんなものか。君達の新型の性能とやらは』
カミロの自信に満ちたどや顔が目に浮かぶようだった。実際、あのシールドをどうにかしない限り、イーグリット・ネクストとの相性は最悪だ。
今度は【ベルゼブブ】の番だ。
縦横無尽に飛び交う鬼羅の機体に向かって、機関銃を放ってくる。
「はん、遅いぜ!」
機体の機動力の高さを最大限に引き出し、それを避けながら接近する。当然、今はもう覚醒状態になっている。
【ベルゼブブ】のスペック自体は、クルキアータ指揮官機と同程度だろう。実際、イーグリット・ネクストの速さにはついてこれないらしく、離脱すると必要以上に追っては来ない。
問題は武装だ。
シールド以外にランスと機関銃は確認出来るが、まだ他にも何か仕込まれているかもしれない。
『翔くん、鬼羅さん、援護するよ!』
彼らと同じくイーグリット・ネクストを駆る桐生 理知(きりゅう・りち)と北月 智緒(きげつ・ちお)は、新式プラズマライフルを構える。
正面は例のシールドに阻まれてしまう。狙うなら背後、あるいは横からだ。
(カミロさんが来てるってことは、近くにあの「暴君」がいるのかもしれない。だけど、今はこの状況をどうにかしないと)
しかし、そのためには何とか話せる状態にしなければならない。
(大丈夫、なんとかやってみせる!)
ポケットに入れたお守りを強く握り締める。
これは相手を倒すためではなく、大切なものを守る戦いだ。それを忘れてはいけない。
「理知、距離を詰めるよ」
「うん。分かった」
エナジーウィングを開き、一気に加速する。新式プラズマライフルのモードはショットガンに切り替える。
『翔くん、横から挟み込むよ!』
鬼羅がカミロの注意を引きつけている間に、翔とカミロを挟み込む。【ベルゼブブ】からの攻撃を、智緒が先の先と殺気看破で予測しながら避けていく。また、ヴェロニカの【ナイチンゲール】が広域にわたってレーダーを広げているため、エナジーウィングへの干渉が行われている。
そのため、避けきれない分はそれを盾として使うことでダメージを軽減する。
『今だよ!』
ビームサーベルを構え、翔とタイミングをずらしながら切りかかろうとする。
次の瞬間、【ベルゼブブ】からミサイルが放たれた。
「――――!!」
それによって、攻撃のタイミングを見失う。
【ベルゼブブ】がランスを翔の機体に向かって突き出した。それを、エナジーウィングで受け止める。
しかし、そこでカミロの攻撃が終わったわけではなかった。
ランスがドリルのように回転している。一度肘を引き、再び突いた。
イーグリット・ネクストはそれをエナジーウィングで受け止めようとはせず、すぐに補助スラスターを使って回避した。おそらく、エナジーウィングやエネルギーシールドを破るだけの力があると、翔が判断したのだろう。
『こんなものか、カミロ』
押されているのは鬼羅達だ。だが、負けている気はしない。
『強がりを』
『違うぜ。今のてめぇは弱ぇ。機体の性能にかまけず、シュバルツ・フリーゲでオレ達何人もの天学生を圧倒していたときのてめぇはどこにいった?』
鬼羅は続ける。
『何が試運転だ。本当は、また「暴君」に負けるが怖ぇんじゃないか』
そうじゃなければ、昔のカミロだったら自分達を適当にあしらって「暴君」を探しに行くだろう。そうはせず、自らの力を必要以上に誇示しようとしている。
『てめぇは今何を思って戦っている? 手柄か? 地位か? くだらねぇ! ジェイダスとの話は聞いた! てめぇはそんな後ろ向きなことばっかして肝心なことはしねぇ! 想いは表現するもの! 伝えるものだ!! 今のオレのように!』
『私の何を知ってるというのだ……!』
動揺しているのか、わずかに声が震えていた。
『ああ、知らねぇ。だが、それがなんだってんだ。オレも芸術家の端くれ。ジェイダス風に言えば今のてめぇは美しくねぇな!! プライドを、無駄な装飾を捨てもっと自分を曝け出せ! 解き放て! 想いを伝え表現するために! そうやって他人に自分のことなんて分かるはずがねぇって、自分の殻に引きこもってんじゃねぇ!』
思いっきり叫ぶ。
『今の想いを伝えたい奴に伝えずに燻るのか?
来いよ。オレもそんときは手伝おう! だから今はやることをやろうぜ!!』
そのとき、戦場の空気が一変した。
鬼羅は殺気看破でそのおぞましいまでの気配を感じ取った。
「来やがったか……!」
そして、【ベルゼブブ】は静かに動き出した。
『シャンバラへの制裁は後回しだ。「暴君」を破壊する』
そのまま速度を上げ、「暴君」の気配を追っていく。
『おい、カミロ!』
『私は今やるべきことをやりに行くだけだ。子供の相手をしている場合ではない』
冷静な口調で告げてきた。
(素直じゃねぇな)
* * *
(空気が変わった?)
【アイビス・エクステンド】と激しい戦いを繰り広げていたダリアは、戦場の変化に気付いた。
そして、それが青い未確認機のせいだと知る。
『ダリア、君も分かっているはずだ』
智宏からの暗号通信を受ける。
『ああ。もう争っていられる状況ではない』
だが、このまま自分達だけ撤退するのは、それこそ都合が良すぎるのではないか。
そこへ、あの元F.R.A.G.メンバーを称する少女から通信が入る。
「何だって……」
その青い機体に乗っているのは、
エヴァン・ロッテンマイヤーだという。それを知ったダリアは、覚悟を決めた。
『F.R.A.G.第一部隊全機に告ぐ。即時撤退せよ』
だが、自分はまだ行くわけにはいかない。
『どうした、カール。お前達も早く……』
前衛部隊は撤退を始めるが、彼女とカールの小隊合わせて十機は戦場に留まり続けた。
『隊長達だけ残していくわけにはいきませんよ。あの青い機体に、何かあるんでしょう?』
何かは聞かない。
『付き合いますよ。もちろん、死ぬつもりもありませんが、ね』
だが、いくらシャンバラもあれと戦うとはいえ、下手すれば死ぬかもしれない。それに、ここで共闘を持ちかけるのはそれこそ勝手だ。
『シャンバラへ告ぐ。我々は一時撤退する。だが、未確認機が地球を脅かす可能性を考慮し、残存戦力十機二小隊は残留する。シャンバラとの継戦の意思はないが、未確認機がこちらへ危害を加えた場合、機体の迎撃に移らせてもらう。繰り返す――』