リアクション
* * * 『こちらスター1。準備はオーケーだ』 敵機の位置情報を受け取ったシリウス・バイナリスタは小隊に通信を行う。 『星小隊各機へ。向こうがこちらの機体性能を把握してくる前に撹乱する。スター4は敵レーダーへのジャミングを頼む』 F.R.A.G.へ急襲を仕掛けるには、相手に悟られずに接近するのが吉だ。イーグリット・ネクスト三機、レイヴンTYPE―E一機が前衛で、そのサポートをブルースロートが務めるといった構図だ。 「サビク……なるたけ殺すなよ」 「うん、了解」 可能な限り無力化で留める。まだ向こうはゾディアックの事情を知らないはずだ。優先すべきは相手を殺すことではなく、止めることだ。 互いに地球を守る意志があるなら、戦争の泥沼化を防ぐ方向に持っていけるかもしれない。 エナジーウィングを展開し、機体を安定させた状態で加速する。もちろん、ブルースロートのサポート範囲からは離れない程度の距離は保つ。うっかりエネルギーシールドの有効範囲外に出たら被弾する危険があるからだ。レーダーからは目を離さないようにする。 敵機の姿が目視でも確認出来るところまでやってきた。 『よし、状況開始だ』 【オルタナティブ13】は新式プラズマライフルのトリガーを引く。最初は牽制だ。 「射程は従来のビームライフルより若干短いみたいだね」 サビク・オルタナティブが言う。 F.R.A.G.第一部隊が星小隊の急襲に気付いたのは、【オルタナティブ13】が新式ビームサーベルで斬り込んだときだった。 ブルースロートのジャミングによるレーダーの撹乱、加えてイーグリット・ネクストの加速性能も相まって、敵に反応させる隙を与えなかったのだ。 【オルタナティブ13】は初撃で一般機のシールドを腕ごと切断。そこから再び上昇、他の機体からの追撃をかわす。至近距離でなければ、エネルギーシールドによって機体が守られる。 エナジーウィングを稼働させ、敵の銃弾をそれで受け流す。 「いいね、このネクストは。この性能で、まだ全力じゃないなんて」 サビクが笑みを浮かべた。 星小隊の先制攻撃によって、F.R.A.G.第一部隊の前衛部隊は大きく乱されることになった。 「ミネシア、シンクロ率50%からいきますよ」 「50%!? シフが大丈夫ならいいんだけど……」 【コキュートス】に搭乗するシフ・リンクスクロウは、最初から危険域とされているシンクロ率50%を出そうとしていた。 「……大丈夫、私は自分もあなたも信じています。今の私達ならば扱いこなせます」 「ワタシ? ワタシはだいじょーぶっ! シフも一緒だし、このコ達もいるしねっ!」 ミネシア・スィンセラフィはフラワシを呼び出せる。シフには見えないため、それを認識出来るかどうかで互いに自分を見失わずにすむ。同じテストパイロットにはそうやって自己を認識している者もいるのだ。 BMIにおいて必要なこと。それは、「信じること」だ。自分を、パートナーを、イコンを、それら全てを信じることが出来れば、強制的な精神感応も、暴走に至る心の弱さも克服出来る。 ――自分達の「絆」とも言えるそれが、彼女の見つけた答えだ。共に戦ってきた自分達の絆は、そんなに脆いものなんかではない。 敵の足並みは乱れている。【オルタナティブ13】と入れ替わるようにして、今度は【コキュートス】が飛び込んでいく。 サイコキネシスによって速度を底上げしたことで、イーグリット・ネクストにも引けを取らない。 (レイヴンだからって、第二世代機には負けないよーっ!) 敵のアサルトライフルによる銃撃を、シールドでガードする。レイヴンはブルースロートの補助なしでも超能力によるシールドが展開可能だが、今はブルースロートによって強度が増している。 (これはどうですか……!) サンダークラップで電磁シールド化を行う。実体弾をそこで受け止めた状態を維持し、「覚醒」へと移行する。 サイコキネシスによって、敵の銃弾をクルキアータに向かって跳ね返す。そこから間髪入れずにビームライフルを放った。 弾を銃口から弾きながら加速させ発射角をずらすことで、射線を読まれるのを防ぐ。そして、【オルタナティブ13】によってシールドを破壊されたクルキアータの、今度はアサルトライフルを破壊して無力化した。 (覚醒、一時解除。シンクロ率を上げていきますよ) 50%を超え、「ノイズ」が混じっていく。自分に向かって囁く声。 (そんなものに、私は惑わされませんよ) 60%。ここまで来ると、覚醒なしでもカメラの映像が肉眼で見ているかのような状態になる。イコンが受ける「風」を身体で感じ取れる。 だが、彼女達はその先を目指す。 「援護してくぜ」 ミューレリア・ラングウェイはプラズマライフルの照準をクルキアータに合わせる。射程距離は相手のアサルトライフルの方が、わずかに長い。 「生憎、こっちも負けられないんだ。倒させてもらうぜ!」 F.R.A.G.の言い分も分かるが、地球とシャンバラの繋がりを大切にしたい。それだけ、彼女がシャンバラで得たものは大きいからだ。 「敵機、こっちに狙いを合わせてるです!」 リリウム・ホワイトの声で敵機からの攻撃に反応する。サブスラスターを起動し、銃弾を回避する。そこからはメインスラスターで旋回、その際エナジーウィング展開で機体を安定させる。 「距離は十分――頼むぜ!」 新式プラズマライフルのトリガーを引く。その速度は、射程範囲内であればクルキアータの機動性をもってしても避けるのは困難だ。 だが、射線を読んでいたらしく銃口から放たれる瞬間、相手はシールドを構えた。だが、それを受けたシールドは大破する。鏖殺寺院イコンの機関銃ではびくともしないクルキアータのシールドを、一発で破ったのだ。 プラズマは膨大な熱エネルギーを持つ。プラズマを電磁的に封じ込めたプラズマ弾は、ローレンツ力によって高速で射出され、目標に衝突した時点で炸裂する。散弾式に切り換えた場合は、そのプラズマ弾を閉じ込める際の電磁力が弱まり、着弾時に拡散。威力は弱まるが、これにより近距離でも使用可能な銃器となっている。 開発に携わった技術者曰く、「投射するものをプラズマから電荷した粒子に変えれば荷電粒子砲に、実弾にすればレールガンになる」らしい。 しかし、プラズマは大気中ではエネルギーが逃げてしまうため、それを防ぐプラズマ制御機構が必要だった。新式プラズマライフルは、それを内部に組み込むことに成功したのである。 「すごい威力ですけど、反動も大きいのです」 この武器もまた、機体と同じくまだ試作段階らしい。サブスラスターの推力がなければ、機体は後方に弾け飛ぶだろう。また、その性質上連射が出来ない。加えて、エネルギーの消費量も多いため、予備のエネルギーカートリッジがない場合の弾数は十発だ。 「牽制するにも、無駄撃ちにはならないようにしないとな」 一応、予備が一つ支給されている。 相手も今のでどれほどの威力か分かったはずだ。撃たないまでも、銃口を向けるだけで牽制になるだろう。 そうやって上手く隙を作り、仲間の攻撃のチャンスを作ろうとする。 「さあ、風になろうか、シルフィード」 鳴神 裁もまた、イーグリット・ネクストの【シルフィード】を駆り、乱れた敵陣へと飛び込んでいた。 「いい具合に敵機の連携が乱れてる」 アリス・セカンドカラーがレーダーを見ながら裁に伝えてくる。とはいえ、旧世代機では覚醒を使わなければならないほどの相手であることに変わりはない。 敵機よりも高い位置をイーグリット並みの速度で飛行する。敵のアサルトライフルからの攻撃をかわす際に、サブスラスターを起動する。 「いいね。これならギリギリでも避けられる」 一対一で集中出来るのであれば、クルキアータの一般機と互角以上に戦えそうだ。だが、そうはいかない。 「来る!」 相手が【シルフィード】の死角から狙ってきていた。 (姉さん、シールドを!) 裁の纏う魔鎧であるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)がブルースロートのカミーユ・ゴールドにテレパシーを送る。 (座標計算は大丈夫ですわ。エナジーウィング、展開させますわよ) エナジーウィングへ干渉し、さらにシールドとして展開させる。それによって、アサルトライフルを完全にガードする。 『今からまたジャミングするぜ。今度はこっちが死角から仕掛けてやれ』 鬼頭 翔からの通信が入った。 【シルフィード】は一旦高度を上げ、敵小隊と距離を取る。その上で、ジャミングをしてもらい、レーダーで彼女達の正確な位置を掴ませないようにした。 「ボクは風、風の動きを捉えきれるかな?」 エナジーウィングで機体を安定させながら、速度を維持して再びクルキアータに向かっていく。エナジーウィングがあるおかげで、補助スラスターによる急激な回避を行っても、機体が不安定にならずに済んでいる。とはいえ、集中していなければバランスを崩してしまうのだが。それだけ操縦技術が求められる機体なのだ。 新式プラズマライフルをショットガンモードに設定し、牽制を行う。こちらの方が反動は少ないとはいえ、移動しながら撃つのは難しい。そのため、撃ったらすぐにメインスラスターを起動し、一気に間合いを詰めた。 敵機のシールドはそれを受けて大きくへこんでいる。相当な衝撃がきたらしく、次の対応が遅れていた。 接近した【シルフィード】は新式ビームサーベルでその盾を両断し、離脱した。 「いける。これなら……!」 |
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