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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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●イルミンスール:校長室

「これはまあ……こちらの予想以上に豪華な顔ぶれとなったものですね」
 鉄心が顔を向ける、そこにはエリザベート、話を終えて降りてきたニーズヘッグに加え、そのニーズヘッグに呼ばれたという理由で校長室を訪れたアメイアの姿まであった。
「アメイア様の処遇につきまして、こちらでも確認いたしました。正式に許可は下りているとのことです」
 ルーレンが補足し、エリザベートの隣に腰掛ける。アメイアがそういうことだ、と視線で答える。
「ま、こいつがヘンな真似しやがったら、そん時はオレが抑えつけといてやるぜ」
「ふん、抑えつけられるのはお前の間違いだろう?」
 アメイアとニーズヘッグ、二人の視線が交錯したところで、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の手がスッ、と二人の間に伸びる。そこには、彼女が調理した冷たい桃が皿に載せられていた。
「喧嘩はよくありませんわ。……たとえ戯れであったとしても、今は場が場ですもの」
 二人にとっては冗談のつもりでも、いらぬ不安を与えるのは得策ではない。雰囲気を読んだ上でのイコナの対応に、アメイアとニーズヘッグは反省の色を浮かべつつ桃を戴く。
「……では、こちらから話させていただきます。
 今までの話から、イルミンスールはイナンナさんからの情報を的確に取得されていると思いますので、その辺りに関しては割愛します。
 それら情報と、現在までの敵の動向から、敵の目標がイナンナさん捕縛、という推測は成り立つと思われます」
 個々の狙いはともかくとして、ザナドゥとしての狙いはイナンナの捕縛。イルミンスールはその際、邪魔を入れられぬように抑えつける程度、という認識が確立されつつあった。
「イナンナさんの言が真実であった場合、彼女が捕われれば、アーデルハイトさん奪還の手掛かりは失われる可能性が高い。
 ……ですので、自分としてはアーデルハイトさんの奪還を目標の一つに設定し、本戦役におけるカナンとの共闘・連携を提案したいと思います」
「カナンとの共闘につきましては構いませんが、具体的にはどのようにすればよろしいでしょうか。
 カナンとは違い、イルミンスールは軍という組織を持っていません。……アメイアさんの団は視覚としては十分でしょうけど、それでもすぐに他国へ援軍を、というような真似は難しいでしょうし」
「確かにな。私の団はせいぜい100名前後。個人の装備はともかく、竜なくしては行動範囲が限られるだろう」
 ルーレンとアメイアの意見を受け、鉄心がふむ、と考え込む。
「……可能なら、コーラルネットワーク経由の会談など出来ないでしょうか? イルミンスール側が防御主体でなるべく多く戦力を拘束しておき、カナン側の攻め手を間接的に援護するような関係は望めると思いますし」
「それは出来ますけどぉ……イルミンスールとセフィロトが何か話してるのは、クリフォトにもバレてしまいますし、こっそり聞くことだって出来ちゃいますぅ」
 コーラルネットワークの上位にいるクリフォトは、聞こうとすれば両者のやり取りを聞くことが出来るのだという。そうでなくとも、コーラルネットワークを人が利用するというのは、何かと都合よくいかないことの方が多いようである。無論、人のために作られたシステムでないのだから当たり前と言えば当たり前だし、イルミンスールが関わっているとはいえ、序列は未だ最下位なのも関係していた。
「また、魔族とは言え流血を望まない生徒も多いでしょうから、イルミンスールは限定的な攻撃目標としてクリフォトを設定し、機動打撃部隊を編成して、逆襲可能な体制をとってはどうでしょう。これには、ユグドラシルに長くお住まわれていたニーズヘッグさんのご協力を、と思ったのですが」
「害樹退治、ってところか。まぁ、色んなヤツがいるからな。オレからすりゃなんでそんなこと、と思うときもあっけど……ま、それでオレもこいつも助けられたって話じゃあ、口出しは出来ねぇな。オレに出来ることなら力、貸すぜ」
「……言いたいことがないわけでもないが、ここは同感、としておこう」
 ニーズヘッグとアメイアが頷く。
「いずれにしても、正面からぶつかれば此方も被害は避けられません。滅敵ではなく屈敵……敵の戦闘継続の意思を挫くにはどのようにすべきか。
 戦闘は目標を達成する為の、上手くない手段の一つでしかない事を念頭に置いて頂き、最後はご自分で考え、決断して頂ければと思います」
「うぅ……涼しそうな顔で言ってくれますねぇ……」
 エリザベートが頭を抱えて言う。カナンとの共闘を検討しつつ、クリフォトへの対応をしつつ、さらには今現在侵攻が行われているジャタの森へも気を使わねばならず、なのだから、エリザベートでなくても呻きたくはなる。
「鉄心みたいに難しい言い方じゃなくても、例えば、刃物を持って脅してくる人と握手するのは難しいです。
 それでも自分が刺されるだけなら自分の責任と言えるかもしれないけど……」
 鉄心の後を受けて、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が発言する。
「そうしたら隣人が危険な目に会うのを分かっていながら。
 たくさんの傷ついた者たちを目の当たりにしながら。
 それをただ受け入れるのは、違うんじゃないかと思います。
 新しい隣人として迎えたいとしても、改めるべき点は改めて頂かないと。

 なので、一方的な暴力は無駄で駄目な事だと分からせ、
 とても、たくさん、深ーく反省していただいて、
 ごめんなさいしていただきたいと思います……」
「ちょ、ちょっとティー、怖いですわよ。これを食べて落ち着きなさい」
 何やら不穏な雰囲気を醸し出すティーへ、それを感じ取ったイコナがやはり桃を差し出す。
「……ハッ! ご、ごめんなさいイコナちゃん」
 正気に戻ったティーが、とりあえずイコナからもらった桃で気を落ち着けて、言葉を締めくくる。
「私もお手伝いしますから。
 ……大事なもの取られた人も居るし、返してもらわないと……」
 そう話すティーの脳裏には、先の戦いで攻撃を受け、“大事なもの”を奪われた者の姿が浮かんでいた――。


「……ああっ! ど、どうしてこんなことに!?
 ちょっと知的でカッコいい俺の口上は!? 」
 ……そして、扉を開けてからというもの、生徒たちの次々と放たれる言葉と想いに入り込む余地のなかったクロセルは、結局今の今になるまで言葉を挟むことが出来ず、その間にイルミンスールの道は大筋が固まろうとしていた。
(うぅむ、クロセルには悪いが、クロセルが言葉を挟む余地はなかったように思うぞ?
 私もとても、口を挟める雰囲気ではないと感じたしな。私は空気が読めるドラゴニュートであるからな)
 ふふん、と胸を張るマナを横目に、歯がゆい思いのクロセルがルーレンへ視線を向けると――。


「……本当に校長は、ザナドゥに対し徹底抗戦を行おうというのか?
 確かに現状では外交材料もなく、EMUの動きも危うい。しかし一度剣を交えれば、もう後には引けなくなるぞ」
 校長室にて、それまでの会話に耳を傾けていた四条 輪廻(しじょう・りんね)の指摘に、話を続けているエリザベートに代わってルーレンが答える。
「輪廻さんの言う通りです。今でも外交の重要性は理解しているつもりです。
 ……しかし、ザナドゥの目的がイナンナ様の奪取である確証が強まった今、まずはその目的を挫かないことには、外交の道は固く閉ざされたままであると思うのです。最終的な決着は交渉の場でつけられるべきですが、そこに至る過程の一つに、抗戦という手段は据えられるものと私は思います」
 話し合いで解決できれば、それに越したことはない。しかし、相手がどうやっても止まらない場合、止めなければ滅ぶというのなら、止めるための“力”は必要になってくる。
「簡単なことではないだろう。容易に泥沼に陥り、いたずらに損害を増やすばかりになることもあるのだぞ」
「……戦いで解決は出来ません。ですが戦わねば、解決することは出来ません」
 戦いとは結局、そういうものである。多くの者が無駄なものと知りつつ、今日まで存在し続けている手法。
「……EMUの動きが気になるな。そちらから押さえ、後方を信頼できる状態にはしておきたいものだな。
 EMUにはイルミンスールの生徒が向かっていると聞いたが、こちらでも脅しの意味で、『我々は現在のイルミンスールについていく人間であり、新たな校長を持ちだされても付いていくことは出来ない』という意思表示を行うのは如何だろうか。……あまり褒められた手ではないが」
 抗戦の流れを止められぬと悟った輪廻が、それには触れずに必要性のある部分の対策を講じる。
「あるいは、可能ならばという話で進めるが、ノルベルト殿に手配をして、『EMU内部に裏切り者がいる』という“噂話”を流してもらう、というのもある。あくまで噂話だが、この状況だ、全く信憑性がないわけではない以上、EMUとしても動きが取りづらくなるだろう。
 ……やはり、褒められた方法ではないがな」
 要は、EMUに何かされる前に、EMUを混乱させてしまえという話である。こういう時には足枷にしかならないEMUにでしゃばられるくらいなら封じてしまえ、というものである。……そのどちらの方法も、“薬”となれば効果が高いが、“毒”になる可能性も高い、容易に「やりましょう」と頷けない案件であった。
「……お伝えはしておきます」
 当のルーレンも、そう答えるのが精一杯であった。


(なんと、ルーレンさんがお悩みになっていらっしゃる!
 ここは是非、俺の優しさで包み込んであげる時! 吊り橋効果第二弾、発動ですよ!)
 神はまだ見捨てていなかった、そんな思いでクロセルがルーレンに歩み寄ろうとした矢先、通信用の水晶の一つが着信を告げる。取り込み中のエリザベートに代わり応答に出たルーレンの表情が、驚き、そして沈痛なものへと変わっていく。
「……ルーレンさん、いったい何が?」
 思わず、クロセルはルーレンに駆け寄り、聞き出していた。流石にシャレでどうにかなるような事態でないことに、クロセルも気付いたようだ。
「……分かりません。いえ、状況は理解しているのですが、その状況がどういう事態をもたらすのかが分からないのです」
 分かるような分からないような回答を受けて、立ち止まるクロセルを横目に、ルーレンはエリザベートへ耳打ちする。
「……ええぇ!! ど、どうするんですかぁ」
「分かりませんが……ともかく、皆さんにありのまま報告をするしかないのではないでしょうか」
 ルーレンの助言を受け、エリザベートが自らの椅子の前に行き、何事かざわめく生徒たちへ事態を話す。


「この学校に、教頭先生が来ることになりましたぁ」