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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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 内部でそのような事態が展開されている、その外ではアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が、マホロバから持ってきた扶桑の花びらをイルミンスールに捧げるように撒いていた。

「貞継ーコラー知ってるかコノヤロー」
 アキラとルシェイメアはここに来る前、鬼城将軍家を訪れ、かつて扶桑を助けてくれたイルミンスールが危機にさらされていること、借りを返すなら今なんじゃないか、ということを話した。マホロバは扶桑が噴花し、エリュシオンの第四龍騎士団は退けられたものの、蒼の審問官・正識は生死不明、第七龍騎士団も実質上の活動停止、と状況が悲惨であったものの、「自分たちが大変だからこそ他人事じゃないよね?」と訴えはしたのだが――。

「何が『状況は把握した、今後の対応は状況を鑑み、独自に決定するものとする』だよ。
 そりゃ、オレがどーのこーの出来るとはあんまり思ってなかったけどよ」

 ありていに言えば、『状況を報告してくれたことは感謝するけど、動くかどうかはこっちで決めるよ』であった。
「世界樹研究機関についても、どうであろうな。伝えはした以上、何らかの結論は出してくれるものと思いたいが」
 ルシェイメアが呟く、世界樹研究機関が設立されたこと、今は扶桑は研究対象に入っていないが、いずれ追加される可能性もあるからその時どうするか考えといて、と伝えはした。だが扶桑が現状あのようになっている今、果たして誰が検討するのであろうか。

 結局の所、アキラたちに出来たことはと言えば、こうして扶桑の花びらをイルミンスールに捧げることだけであった。
 せめてもの、扶桑の気持ちが、マホロバの気持ちがイルミンスールに届いて、イルミンスールがこの未曾有の危機を乗り越えてくれる、そう願うしか今はなかった。


「ふむ……貴公らとこうして大図書館に往くのも暫くぶりであるな。
 今日は以前より深くへ往くつもりなのであろう?」
「はい。求める情報は、その辺りまで行かないと手に入らないでしょうから」
「探し物は主に、古代シャンバラ王国崩壊前後頃の詳しい歴史書と、ザナドゥ・魔族に関する書でございますわね」
「心得た。貴公らは我が守るのだよ」

 大図書館を、近遠、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が進む。その途中で、校長室に申請に訪れていたユーリカから連絡が入り、情報収集と情報の共有化は既に他の生徒たちによって組織が形成され、生徒も望めば自由に情報にアクセスできるようになっている、とのことであった。……とはいえ、一行はHCや端末といったものを持っていないので、この時点で望む情報を得ることは出来なかったのだが。
「……なるほど、アーデルハイト先生は、ザナドゥの大魔王、ルシファーさんに操られている可能性が高い、と」
『そうおっしゃっていましたわ。この際ですから、近遠ちゃんが気になっていることを全部お尋ねしてしまうというのはいかがでしょう。
 既に調べられた情報があるのでしたら、改めて調べる必要はございませんし』
「じゃあ……」
 近遠が、不可解・分からないと思っている内容をユーリカを通じて尋ねていく。

・古代シャンバラ王国が滅びたのが5000年前。
・ルシファーがクリフォトに封じられたのも同じ頃。
・魔族は千年に一度、だから今回の侵攻は5回目? →千年に一度の災いが魔族によるものなのかの確証はないが、それらしいと思われる。ちなみに侵攻はこれより前にもあったらしい。

・結局の所、魔族って何? →現時点では、ザナドゥに住んでいる生物、という情報以外に目立つものがない。

・ルシファーは何故封じられた? →ザナドゥを地上に顕現させようとしたから。
・アーデルハイト先生とイナンナさんと、ルシファーさんの関係は? →アーデルハイトとイナンナは姉妹。アーデルハイトとルシファーは、一時的ではあるが関係を持っていたらしい。それによって生まれたのがザナドゥの現魔王、パイモンではないかという推測が立っている。

 集められた情報は、大図書館を漁って見つけたものも含まれるという話を最後に耳にして、近遠がうーん、と頷く。
「つまり……これ以上の情報は大図書館にはない、ということになるんですかね。
 アーデルハイト先生に話が聞ければ、もっと分かることがあるんでしょうけど……先生は今、クリフォトですか」
『そうですわね。生徒が何名か、接触を持とうとしているようですわ。もしかしたらその方々が、新たな情報を持ってくるかも知れませんわね』
 通話を切った近遠が、結局は待つしか無いのかなと思いながら、ここまで来たついでにと、手近にあった本をめくり始める――。


「うえぇ……ヒドイ目にあったぞ……まさか本が束になって襲いかかって来るなんて、思いもしなかったのだ」
 別の場所では、犬養 進一(いぬかい・しんいち)に「ここにメモした書物を探して持って来てくれ。なるべく早くな!」と頼まれて大図書館を訪れたトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)が、うっかり一冊の怪しげな本を触ってしまったばっかりに、危うく命の危険にさらされそうだったのを辛うじて回避してきた直後であった。
「っていうか、こんなとこで本読んでいていいのか? みんな森で戦っているぞ!
 余も、かつての軍勢があれば戦いに出るのに!」
 憤慨したところで、何かが変わるわけでもない。はぁ、と息をついたトゥトゥは、なるべく早く用事を済ませようと懸命に本を探す。

「むぅ……『世界樹およびザナドゥの人格変容』に関する記録は見当たらないか……。
 あまりに特異な事例であるということだろうか」
 山と積まれた本の中で、進一が眼鏡に指をかけながら呟く。ザナドゥが最後にシャンバラを危機に陥れたのは、5000年前。その時は『強大な力を持ったザナドゥの魔王、ルシファーがクリフォトを操り、ザナドゥを地上に顕現させようとしたのを、アーデルハイトとイナンナが力を合わせて封じた』という記述が僅かに残るのみであり、今回の事例の参考になるようなものは見当たらない。
「だが、俺にできることはこれくらいしかない。図書館引きこもりの意地を見せてやる。
 ここで成果を上げれば、校長から研究費が出るはず!」
 今すぐには役に立たなくとも、こうして少しずつでも資料を集めることは、いずれ誰かの、何かの役に立つはず。
 『明日死ぬとしても、学問を怠ってはいけない。今生で賢者になれなくとも、来世のために学問を積め』
 その思いを胸に、進一は自ら為すべきことを続ける――。


「ザナドゥ侵攻に際し、目下最大の敵はアーデルハイト。そのアーデルハイトを憂いなく倒すことが出来るようにすれば、効率的に問題を解決することが出来るはずでは?」
 そんな考えの下、エリザベートとアーデルハイトの契約を強制解除する策を講じるべく上層部に話を持ちかけたザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)だが、その上層部から返ってきたのは、要約すると以下であった。
『貴官の意見は一理ある、が、実際の行動はこちらで決定する。貴官はこれまで通り所務に励め』