リアクション
* * * 「エリー」 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)と共に、授業を終えたばかりのエリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)の元へやってきた。 「テストまで少しだけ時間あるから、学院内を散策しないか?」 特に断る理由もないため、二人についていった。 「でも、煉が風紀委員に入るって言い出すなんてね。でも、エヴァまでなんて……煉の足を引っ張ったりしないでよね」 「は、んなことするわけねぇだろ。大体、普段から引っ張ってんのはおまえだろ?」 「何をー!」 言い合い、喧嘩をし出すが、いつものことだ。風紀委員には自分も志願することを考えたが、まだリハビリ中でもあるため見送った。 煉、エヴァと共にこの学院に移ってきたが、まだ日が浅い。そのため、未だに分からないことの方が多かった。 6月事件を含め、戦時中の出来事は人伝に聞いた程度だ。当時の超能力科長が強化人間達を率いて起こしたクーデター。彼は強化人間管理課で非人道的な実験も厭わなかった管理課長、風間を殺害し、強化人間達に刷り込まれた「オーダー13」というプログラムを発動させた。 しかしそれは、シャンバラ国軍が身を呈して陽動したことで首謀者に付け入る隙が出来、秘密裏に動いていた鎮圧部隊が彼を仕留めた。そのため、北地区と駐屯地にいた国軍の軍人は9割が犠牲になったものの、他の被害は軽微だった。 だが、それは表向きの情報だ。真実を知る人間はほとんどいない。唯一分かっていることは、当時の超能力科長など存在せず、全ては風間による自作自演だったということだ。海京を乗っ取り、シャンバラ政府を潰すための。彼はそのために、利権にどっぷりだった天学や海京の上層部を潰したとされている。今の新体制は、それによって旧体制が完全に機能を失ったために構築されたものであった。 と、いうような話を、エリスは散策しながら煉から聞いた。どうやら、彼が風紀委員に立候補したのは、強化人間が虐げられ、利用されないよう守りたいと思ったからであるらしい。 「ここがテスト会場か」 戦闘は、一対一で行うことになった。 「風紀委員長代理ってくらいだから、それなりにはやるんだろうな?」 テストは、原則としてルージュが全て行うことになっていた。わざわざ日程をこまめに設定したのも、ちゃんと同じ基準で相手の力量を測れるように、ということのようだ。 最初はエヴァからだ。なお、テストを受けない者は立ち会って応援しても問題ないが、受験者は見学禁止だ。 「生憎、俺はそこまで強くない。だが、弱い奴には弱い奴の戦い方がある」 テストが始まった。 開幕直後、エヴァはサンダークラップを繰り出した。 「温いな。俺の知ってる雷は、こんなものじゃなかったぞ」 炎で電撃を消し飛ばした。 だが、それ自体は問題ではない。エヴァはアクセルギアを起動し、一気に接近した。 ルージュが眼前に炎を展開し、シールド代わりにする。今度はそれに、カタクリズムを放った。突破するためだ。 「力とは、不用意に拡散させるものではない」 カタクリズムは、強力な念力であるが、一種の暴発である。あたり一面にサイコキネシスがほとばしるものの、普通のサイコキネシスのようにコントロールすることは出来ない。 「舐めるなッ!」 アクセルギアを最高の三十倍にし、パイルバンカーを突き出した。ルージュはその杭の部分を受け流し、前に飛び出したエヴァの横から平手で彼女を押し出した。 「――ッ!」 その際、強い衝撃に見舞われる。アクセルギアにより感覚が引き伸ばされているため、痛みが長く続くような錯覚に襲われた。 「それがどこで作られたものだと思ってる? 対策を考えないほど、俺も馬鹿じゃない」 こちらの攻撃が完全に読まれていたということだろう。見てから反応して間に合う速さではない。 「力の使い方は未熟だ。だが、基本的な能力の高さは目を見張るものがある」 ルージュに負けはしたが、エヴァは合格だった。 そして、煉の番だ。 開始直後、クラウ・ソラスで牽制を行いながら、ルージュに接近していた。だが、放たれる光の弾丸では、ルージュの炎の壁は突破出来ない。そして、いかに炎に対し耐性があろうと、彼女の炎は相手を侵食する。それは、パイロキネシスを行使するルージュ自身が解除するか、相手が骨になるまで続くものだ。 だから、正面突破はリスクが大きい。氷雪比翼とグレイシャルハザードで完全に防ぎ切れるかが分からない。 「……フェアじゃないな。やり方を変えよう」 炎の壁が消え、それらが無数の屋の形となって煉を襲う。 「全て防ぎ切って見せろ」 氷雪比翼の氷を撒き散らし、矢の炎をかき消した。それでも残ったものを、クラウ・ソラスによるグレイシャルハザードによって防いだ。相手の攻撃が拡散していたからこそ、やりようがあった。 「とりあえず、最低限の力は分かった」 煉もまた、合格だ。 テスト終了後、彼女を呼び止めた。ど今日は彼でテスト終了ということで、時間はあるとのことだ。 「今も風紀委員としているのはなぜだ?」 「むしろ、以前は風紀委員という名称は表向きで、実際は強化人間エキスパート部隊だった。今は、名実共に天御柱学院風紀委員会が正式なものだ。それに、やることは変わってないからな」 ルージュが軽く微笑む。 「俺は人殺しの技術くらいしかとりえのない壊れた人間だ。こんな俺でも、君やエヴァって達強化人間を守るために力を振るうことくらいは出来るさ」 ふと、物音がした方を見ると、エヴァの姿があった。 「聞いてたか?」 「き、聞いてない。何も!」 エヴァは赤面していた。が、その顔を確認する前に、煉はルージュに向き直っていた。 「ところで呼び方なんだけど、ルルっていうのはどうだ? かわいい響きだと思うんだけど」 「そう呼びたければ、呼べばいい。以前は、ベルって呼ばれてた」 「以前?」 「一人だけだったからな、そう呼んでたのは。俺の親友だ」 その人物は6月事件で死んだとルージュは告げた。彼女によれば、当時学院最強クラスの戦闘力を誇っていたらしい。 「まあ、今後とも宜しく頼む」 |
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