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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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【4】中華街公園に陽は落ちて……1


 日暮れ。
 中華街の人々もすこし慌ただしくなるそんな時間。
 万勇拳も夕ご飯の準備に門下生たちは勤しむ。皆でご飯の準備すると言うのは林間学校みたいでどことなく楽しい。
 中でも御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の振る舞うカレーが門下生に大人気だった。
 相棒が弟子として面倒を見てもらっているお礼も兼ねて、腕によりをかけて作った特製カレーである。
「寸胴鍋にたっぷりありますから、たくさん召し上がってください」
 家事の多くは彼がこなしているだけあって、料理の手際も素人とは思えないほど熟れたものだった。
「おーい、カレーよそってないでおまえもこっちで飯食おうぜ」
「いえ、自分はその……」
「そうそう、嫁とホテルに滞在してんだろ。コイバナ聞かせてくれよ、コイバナ!」
「え、ええー……」
 困惑する彼を横目に見るのは、相棒のノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)
「なんかお兄ちゃんがコイバナするってー」
「へー、コイバナかぁ……。でももう結婚してるんだよね、コイバナってなんか変な感じするね」
 愛美の分のカレーを持ってくると、ビニールシートに寝そべったまま彼女は応えた。
「ねぇお腹減ったよー。もうそろそろ……」
「まだダメだって。ちゃんとマッサージしないと筋肉痛になっちゃうんだよ」
 朝野 未沙(あさの・みさ)はピシャリと言った。
「もう充分したでしょお?」
「ううん全然足りないわ。筋肉を酷使したあとはちゃんとほぐさないと大変なんだから」
 未沙は旗袍越しに背中に手を触れる。締まった愛美の背中をさすり、丁寧に硬くなった筋肉をほぐしていく。
 しっかり背中をほぐしたあとは、すらりと伸びた太ももに。
 今日は足技を重点的に練習したせいか、大分筋肉が張っているようだ。
「やっぱりマナの肌奇麗だね。身体もすごく柔らかいし……」
 未沙は太ももを丹念に揉み揉み……それからお尻のほうへ。
「ふああああああ、ありがと……」
 愛美は気持ち良さそうに声を上げた。うつ伏せになりながらノーンの持ってきたカレーをパクリ。
「うー……おいし。幸せ」
「良かった、お兄ちゃん、料理上手なんだよ」
「へぇー、マナミンもそんなお兄ちゃんほしいなぁ……」
「ねぇねぇ」
「ん?」
「マナミンはドラゴンになりたいの?」
「そうだねぇ、それぐらい強くなれたらいいなぁ。そしたら、バトル系のシナリオにもオファー来るんだろうなぁ」
「バトルに出たいんだ、うん、ホアチャーって叫ぶの楽しいもんね」
「うんうん、そうなの。一度言ってみたかったんだよねぇ、ホアチャーって」
 ゆるーいガールズトークを花を咲かせるマナミンたちであった。
 そこから少し離れたところでは、老師と朝霧 垂(あさぎり・しづり)が焚き火を囲んでいる。
 コンロン在住の垂は実は老師とも顔なじみ、日本酒で簡単に乾杯すると、シャンバラに来た老師を労う。
「まさか老師がこっちに来てるとは思わなかったぜ」
「おぬしもシャンバラ出身とは聞いていたがこんなところでバッタリ会うとは。世間は狭いもんじゃのぅ」
 垂はちらりと愛美に視線を向ける。
「……ぶっちゃけ、マナミンはどうだ? 格闘家として万勇拳をやっていく素質はあるのか?」
「あまり武術の才能は感じん。人を殴ったりするような人間ではないのだろう」
「まぁ荒っぽいことが得意なタイプじゃないよな」
「しかしそれでも強くなりたいと言う意志をわしは買っておる。やる気がある者には教えがいがあるしな」
「本人がその気なら、他人がどうこう言うことじゃないか。まぁ悪い娘じゃないし最後まで面倒みてやってくれよ」
 それから話題を変えた。
「でも、街に弟子を募集に来るなんて、根性あるよなぁ……」
「む?」
「だってさ、めちゃくちゃ『フラグ』じゃないか? それも『死亡フラグ』だろ、これ」
 弟子を探しに街へ→(出来の悪い)弟子誕生→悪者を退治する→悪者のボスが逆襲に来る→
 弟子を庇って師匠が倒れる→弟子が覚醒し猛特訓→悪者のボスを倒す

「ほら、最後までフラグが立ちまくってるじゃん」
「え、なに、わし死ぬの……?」
 しょぼんとする老師の肩を叩いた。
「冗談だよ冗談。万が一、そうなっても俺達が力を貸すから老師もマナミンも守って見せるぜ」
「その話はマスター的な存在が渋い顔してるからその辺で……」
 筆者からの声無き声を代弁してルカルカ・ルー(るかるか・るー)は言った。
「それよりもっと重要なことがあるじゃないですか……」
 息をひそめる。
「マナミンは履いてるのかどうかってことですよ」
「…………」
「下着のラインが分かるとか女の子は結構気にするよ?」
「俺は何も言ってないぞ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は眉を寄せた。
「目は口ほどに物を食うのです」
「物を言う、だろ。やれやれ」
 ルカルカの配るチョコバーを受けとりながら、ダリルはふとさっきのことを思い出した。
「そう言えば、着替えで一緒になったとか言ってなかったか?」
「うーん、それとなく聞いてみたんだけど、なんだかその辺はグレーゾーンらしくてはぐらかされちゃったのよねぇ」
「俺はどーでもいいが、拳法着の着こなしに関しては老師のほうが詳しいんじゃないか?」
「……弟子のパンツ事情は指導の管轄外じゃ」
「あら、気にならないんですか?」
「発情期は過ぎてしまったのでな、女子のパンツにかける情熱はないのじゃ」
「なんとも寂しい発言ですな。しかし、若い頃(発情期の頃)は相当な武勇伝があるんじゃないですか?」
「そりゃ今でこそ可愛い子猫のようじゃが、昔は身長180のイケメン、天宝陵の若大将とよばれたもんじゃ」
「身長180……」
 なんかそれはそれで気味が悪い。
「廃都に巣食う怪物退治で武勲を上げ、武術大会での優勝、かつては天宝陵で五指に入る拳士とよばれたこともある」
「それは見事な経歴ですね」
「思えばあの頃は万勇拳にも活気があった。それがわしが師範となり、仲間もそれぞれ独立してしまうとだんだんと弟子もいなくなり……、天宝陵全体にもなんとなく勢いがなくなった。おかげで黒楼館なんてもんが台頭してくる始末……」
「……なんか急に思い出の没落が始まったな」
「くそぅ、暗殺拳の癖に生意気なのじゃ! 暗殺拳の癖に! 暗殺拳の癖に!」
 ぐいっと酒を煽ると、ボスボスと地面を殴った。