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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

リアクション


【3】燃えよマナミン!……4


「百勝激烈、またあの技ですか……!」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は戦慄していた。
 愛美、隼人と優斗、菫や未沙、大佐にゲブーに佳奈子、そして鬼羅と手練たちは敗れ去り、もはやあとがない。
 万勇拳一派が態勢を立て直すまでしばしの時間が必要だ。
(百勝激烈、威力は凄まじいですが、それに見合った分の体力、精神力、そして気を消耗する技のはず……)
「おそらく覇王のスペックを持ってしても撃てるのはせいぜい2〜3発……」
 陽太は意を決し、マリエルに戦いを挑む。
「凄まじい技ですが、万勇拳には1度見た技は通用しません。百勝激烈は既に見切らせて頂きました」
「ほう、貴様如き雑兵が覇王の技を見切っただと?」
「気になるならご自分の目で確かめてみればいいでしょう」
「くくく、まだ虚しい戦いを挑むか……」
 覇王は笑った。
「いいだろう」
 陽太の思惑を知ってか知らずか、マリエルは再び膨大な闘気を自身に集束させ、両手を前方に突き出した。
 その途端、陽太の後方にいる門弟たちが悲鳴を上げて逃げ出した。
「万物を滅する我が究極! 覇道拳最大奥義『百勝激烈』!!」
 両手から放出された気功破が、超極太の粒子砲となって目の前の全てを飲み込んだ。
 道場の壁を貫き、その向こうの宿舎も破壊し、敷地の外にまで破滅の閃光は伸びた。
 通ったあとに残ったのは塵残骸、直撃を食らった陽太は真っ白になって、転がっていた。
「ふん、貴様など我が闘気の前では、津波の前の木の葉も同然。形が残っただけでも天に感謝するがいい」
 しかし、陽太は死んでいなかった。
 ズタボロになりながらも、よろよろと立ち上がった。
「ど、どうしました……。こんなもんじゃないでしょう……。げほっげほっ、雑魚と思ってナメてるんですか……?」
「馬鹿な……。ならば今一度、覇の洗礼を受けるがいい」
 マリエルは再び百勝激烈を放つ。
 ところが、また陽太は更にスタボロになって立ち上がった。
 これぞ、何度倒れても立ち上がる不屈のスペランカー魂、ギリギリのところで持ちこたえている。
「おのれ、雑兵! まだ覇の前に立ちはだかるか!」
「ま、まだまだ……」
 とは言え、復活は出来るものの、一発あたりのダメージがマジ半端ない。
 マリエルの気も大分消耗しているようだが、陽太は全身を走る激痛にふらふらだった。
 しかもスペランカー魂はそう何度も使える技ではなく、いずれマジな感じの『死』が待っている。
(お願いです。もう一度立ち上がってください、マナミン……!)


「ううう、うう……」
 道場の隅に叩き付けられた愛美は、崩れた壁の残骸に埋もれながら呻いていた。
 身体中傷だらけ、桃色のチャイナドレスもスタボロだが、幸いにも大きなダメージは負っていない。
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は倒れる彼女に、そっと手を差し伸べた。
「なんだ、生きてるじゃん。絶対、あの一発で死んだと思ったけど、意外と頑張るのね」
「ま、マリエルを助けるまでは倒れるわけにはいかないもん……」
 その目に燃える炎は消えていなかった。
「ふぅん。ところでさ、肉まん……いや、餡まんちゃん。マリエルちゃんが正気に戻ったら、貴方はどうするの?」
「どうするって……」
 愛美は唇を噛み締めた。
「何も変わらないよ。いつもどおり、友達として接するよ」
「友達ねぇ。だったら、マリエルちゃんを慰めるより、もっとする事あると思うけど」
「え?」
「事情は知ったこっちゃないけど、マリエルちゃんが世間に超迷惑かけたの忘れてんじゃないの?」
「あ……」
「そこシカトして友情とか、ほんとどうなの、それ?」
 リナの言葉に、愛美は目を伏せた。
「……そうだね、リナさんの言うとおりだ。こんなんだからマリエルがあんなんなっちゃったんだよね……」
 例えそれが、相手を傷付けることになっても、向き合うべき時には向き合わなければならない。
 それが友だち、そうして傷付いた分だけ、友情は深まるのだ。
「ちゃんとマリエルの話を聞く。それから、一緒に迷惑かけた人に謝りに行くよ」
「……ま、関係ないし、好きにすれば」
 愛美はリナにニッコリ微笑んだ。
「ありがとう。正直、ちょっと誤解してたけど、リナさんっていい人だね」
「はぁ? 私が?」
「うん、だってこんなに私たちのこと気にかけてくれるんだもん」
「だって、最近はゆる〜い百合が流行ってるから」
「え?」
「可愛い女の子とセクシーなお姉さんの健気で純情な絡み、これはね、世の男達を虜にすること間違いなしよ!」
「え、ええと……」
「だから、餡まんちゃんとは仲良くしとこうと思って」
 やっぱり、この人は何考えてるんだかわからない。愛美は複雑な表情でそんな事を思った。
「まーなーみーーーん!!」
 とその時、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がわたわたと黒楼館の門弟をかき分けて走ってきた。
「わぁ! マナミン、ボロボロになってるよ、怪我してないの? 大丈夫?」
「ごめん、心配かけちゃって。私は大丈夫だから」
「……そっか。良かった。頑張ってね、マナミン、応援してるから……」
 安堵するノーンだったが、すぐはっとなった。
「ああっ、そうだ。陽太が大変なんだよ。今、ひとりでマリエルと戦ってるの!」
「ええ!?」
「このままじゃ本当に死んじゃう! 早く助けてあげて!」
「うん、わかった!」
 愛美はリナと顔を見合わせ、力強く頷いた。
「各々方、ちょっと待たれ」
「?」
「たった2人で挑もうとは水臭いではないか。同じ釜の飯を食った仲、我輩にも力を貸させてほしいのだ」
 木之本 瑠璃(きのもと・るり)は言った。
 隣りには、相田 なぶら(あいだ・なぶら)もいる。
 ふと、女子たちに怪訝な顔で見られてるのに気付き、なぶらは慌てて首を振った。
「言っておくけど、俺は今回は何もしないぞ。女子の胸触って社会的に抹殺されたくないからな」
「だ、だよね。ビックリしちゃった。なぶらさん、真面目そうなのに秘孔突きたいんだと思って……」
「どえらい誤解だ……。まぁ今回は、この猪娘が代わりに頑張るから、よろしく頼む」
「むぅ、乙女に向かって猪は酷いのだ」
 そこに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)もやってきた。
「ちょっとちょっと、愛美。この美羽ちゃんを除け者にして、マリエルに挑もうなんて、許さないよっ!」
「美羽!」
「頑張ろうね、愛美。とっととマリエルを元に戻して、中華街で食べ歩きにでも行こう。ね?」
「……うん、ありがとう」
「美羽」
 拘束したカソを連れ、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、ふと声をかけた。
 傍らのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は不安な表情で美羽を見ている。
「カソさん? 何をする気なの、美羽?」
「生半可な方法じゃ、マリエルは止められない。だから、私も覇王になろうと思って
「ええ!?」
「……くそ、ガキどもが偉そうに」
 ポツリとカソがこぼした瞬間、コハクはバリバリとワイヤーに電撃を流した。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーーっ!!」
「そう言う態度はよくない思うんだ。もう少し自分の置かれてる状況を考えて、喋ったほうがいいと思うよ」
「そ、そうアルね……」
「じゃあ、美羽の覇王孔をお願いするよ。言っておくけど、妙な真似したら即電撃だからね」
「わ、わかってるアル。ほんと最近の子は怖いアル……」
 とんとんとカソが秘孔を突くと、その途端、美羽から凄まじい闘気が噴き上がった。
「ふははははーーっ!! 身体の奥底から覇気が湧いてきおるわ! 今ここに王者降臨! 覇王は我だー!!」
「……だ、大丈夫?」


「……そろそろ、復活も限界だろう」
「うぐ、ぐぐぐ……」
 生まれたての子鹿のようにガクブルの陽太に、マリエルは容赦なく何度めかになる百勝激烈の構えをとった。
 既にスペランカー魂も限界に達している、次の一撃を貰えば、彼にとっては懐かしきナラカに落ちる事になるだろう。
 だが、覇王はすぐさまその構えを解くことになった。
 何故なら、凄まじい気の塊が、目の前に飛び込んで来たからである。
「貴様が覇王の名を騙る愚拳の使い手か。覇道の王は2人もいらぬ」
「なんだ、貴様は?」
我は覇王美羽。この都市に恐怖の時代を築く、天に選ばれし剛拳の持ち主よ」
「戯言を。ポッと出の覇王が何を言う」
 とポッと出の覇王は怒りに任せ、美羽に拳を放った。
 美羽も反撃に拳を繰り出すと、技と技とが生み出す衝撃波が、ぶつかり合うたびに道場をぐらぐら揺らした。
「……このマリエルと同等に打ち合うとは、覇王の名を騙るだけの事はある。だが覇気にまだ身体が慣れぬようだな」
「ぬううう……!!」
 同じく打ち合ったはずだが、無傷のマリエルの拳に対し、美羽の拳からはとめどなく血が流れていた。
 一見すると互角の拳気を放つ両者だが、覇王として修練を積んだ者と、即席の覇王とでは拳の重みが違うのだ。
「既に勝負は見えた。見えるか、貴様の頭上に輝く死兆星が」
「認めぬ……」
「!?」
「万人が認めても 、この美羽だけは敗北を認めぬ!!」
 美羽の身体を白光する闘気が覆う。
「この闘気……!」
「覇を制するは我ぞ。見よ、万勇を納めし我が拳、万勇拳最大奥義『壊人拳』!!」
「ならばこちらも迎え撃とう。覇道拳最大奥義『百勝激烈』!!」
 最大奥義同士の勝負。
 雌雄を決したのは、なんと壊人拳だった。
 百勝激烈の気功波を切り裂き、万勇の乱舞が、マリエルの身体に突き刺さった。
「な、何故だ! 何故、我の技が……」
 何度となく陽太が誘った百勝激烈、彼の捨て身の策は無駄ではなかった。
 奥義を連発し過ぎた結果、今、マリエルには完全な百勝激烈を放つだけの気が残されていなかったのだ。
「ぬおおおおおおおおおっ!!」
「ぐああああああああああああっ!!!」
 壊人拳はマリエルを打ちのめし、床に叩き付ける。
 しかし、不完全とは言え、百勝激烈の直撃を食らった美羽も無事ではすまない。
 本来の半分ほど技を叩き込んだところで、彼女も大きく後ろに吹き飛ばされた。
「こ、ここまでか……!」
 ぷすぷすと身を焼く黒煙に包まれながら、美羽はマリエルを見た。
「ぐ、ぐおおお……。う、腕が覇王の腕が動かぬ……!
 半身の経絡を破壊され、マリエルは右半身の自由が利かなくなっていた。
 そこに瑠璃が飛び込んだ。
 練気鋼体によって気を帯びた肉体と、持ち前の素早さを活かし、神速の速さで間合いを詰めた。
「こ、こやつ……!」
「我が拳は神速を尊び、拳の連撃で敵を駆逐する事を、良しとするのだ!」
 正々堂々を信条とする彼女は、小細工抜きの真っ向勝負に出た。
 その拳は稲妻の如し。雷嵐を思わせる怒濤の連打が、左腕だけの覇王の防御を突破し、その胸に突き刺さる。
「ぬおおおおおっ!!」
「威力? 防御? 回避? 燃費? そんなの……知らないのだーーっ!!
 ただひたすらに速く、ただひたすらに絶え間なく、ただひたすらに圧倒する事だけを考えて、技を放つ。
「ええい、鬱陶しいっ!!」
「のわっ!」
 拳のひと薙ぎが、瑠璃を掠めた。
 防御を捨てた彼女にとって、覇王の拳はひと掠りでも命取りとなる。
 幸いにもダメージはなかったが、態勢を崩したところへ、マリエルは拳を振り上げ、覇道轟衝波の構えをとった。
「!?」
 大分気を消耗しているとは言え、今の瑠璃が直撃を食らえば即死は間違いない。
「し、しま……!」
「我が覇の時代の藻屑となれ!!」
 その刹那、拳を振り下ろす覇王の目に、ふと拳型『初見淫剥糖』を構えるリナの姿が飛び込んだ。
「万勇拳奥義『露出拳』!!」
 次の瞬間、リナの纏うチャイナドレスが、膨れ上がった筋肉によって弾けた。
 一瞬にして上半身裸、揺れる大きな果実を前に、流石のマリエルも驚きのあまり拳をピタッと止めてしまった。
「今よ! マナミン、平凡孔を突きなさい!」
「なんだと!?」
 瑠璃の後ろから、愛美とベアトリーチェが間合いを詰める。
「愛美さん、マリエルさんは任せましたよ!」
「!」
 先行するベアトリーチェは不意に立ち止まり、愛美に向かって防御の構えをとった。
 目と目で全てを察した愛美は、彼女の身体を駆け上がり跳躍。マリエルの頭上を飛び越え、背後に回り込んだ。
「よし、行くぞ、愛美殿!」
「瑠璃さん!」
「……はっ!?」
 マリエルは自分の頭上に輝く死兆星を見た。
はああああああああああっ!!!
 胸に1つ、尻に2つ、人体に宿る平凡孔を突くと、マリエルを纏っていた闘気がスッと消えた。
「ふははははっ! 覇王は天下に一人、やはりこの覇王美羽こそ、真の覇お……」
「はい、あなたも元に戻りましょうね」
 手に負えなくなる前に、とん、とん、とベアトリーチェは美羽の平凡孔を突き、元に戻す。
「はれ……?」
 美羽はきょとんとして、辺りを見回した。
 平凡孔は覇王孔の効果を全て打ち消す、覇王だった時の記憶もろともに。
 マリエルもまた自分に何が起こったのかわからない様子で、きょろきょろと不思議そうにしていた。
「……あ、あれ。ここ、黒楼館の……あたし、どうしちゃったんだろう。なんかぼんやりする……」
「マリエル!」
 愛美はマリエルを抱きしめた。
「マナ?」
 その途端、ふと記憶が蘇った。
「そうだ、あたし……マナが拳法習うって聞いて、自分もこっそり習おうとして黒楼館に来たんだ……」
「良かったぁ、元に戻って良かったよぉ〜、ほんとに良かったぁ〜」
「……くすぐったいよぉ、マナ」