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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第1回/全3回)

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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第1回/全3回)

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「光が無い世界で生きやすそうな姿なのに、なにを求めて地上へ現れたんだろう?」

 最前線から僅かに離れたポイントから超獣を見やり、リン・リーファ(りん・りーふぁ)が言うのに、未憂はわからない、と首を振った。目を背けたくなるほどグロテスクな見た目でありながら、何故か泣きたくなる様な気分にさせられるその姿を見やり、ぎゅっと掌を握り締めた未憂に、「詮索は後だ」と瓜生 コウ(うりゅう・こう)が声をかけた。
「まずは情報を集め、あれが「なんであるか」を捉えることだ。そうすれば、自ずと答えは出よう」
 その言葉に「そうね……」と頷いたのは、九十九 昴(つくも・すばる)だ。
「それに今は、その目的よりも……止めることを、考えないと」
 言いながら、昴は傍らのツァルト・ブルーメ(つぁると・ぶるーめ)を見やった。ザンスカールは彼女の故郷であり、先日のザナドゥとの戦争でツァルトは家族の全てを失ったのだ。その悲しみがようやく癒えようとしているというのに、再びその場所に悲劇を迎えるわけにはいかない。
 そんな熱意を露にする昴とは逆に、コウはあくまで冷静だ。
「教導団からの情報によれば、あれ……超獣は、自身もエネルギーであり、周囲のエネルギーを吸収して回復しつつ、荒ぶる存在だという。例えるなら「火」の性質を持つと言える」
 淡々と、魔術的な視野からそう分析し、コウは目を細めた。
「イルミンスールに近づくのも、火が燃え広がるように、森の生命エネルギーを吸収しように見えなくもない」
「まるで山火事みたいですね〜……」
 コウの分析をそう喩えた明日香に、コウも頷いて肯定する。
「あれを火だとすると、冷気で勢いを弱められませんかねぇ?」
「超獣は熱を感知しているそうだから、可能性はあるだろう」



「なるほどね、山火事かあ。面白い喩えだわ」
 イルミンスールならではの対象の捉え方に感心しながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がふふ、と強気に笑った。
「それならこちらも、郷に従って”風向き”と”拡大方向”を確かめるとしましょう」
「森が蹂躙されるのを、黙って見てるわけにゃいかねぇからな」
 その言葉に、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が追従したのに頷き、ザカコから送られた地理データを展開すると、ざっと目を走らせていく。超獣は現在、直線を描く軌道で侵攻を続けている。それは、通過地点に大きな障害物が存在しないからであり、ただ真っ直ぐ突き進む軌道上にイルミンスールがあるのか、それともイルミンスールを目指して直進をしているのかは確定できていない。
「もし万が一前者だったら、結界の設置ポイントを変更しなくてはならなくなるわ」
 だから森に入る前にやっておかないと、と、ルカルカは理想的なポイントを割り出すと、足止めに集まった者達へと向けて”作戦”を開示し、協力を募ると共に、小型飛空艇ヴォルケーノで先行した。
 数えること、数秒。
「準備はいい?」
『いつでも』
 応えたのは、その手に芭蕉扇を構えた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。皆の応答がそれに続くと、ルカルカはよし、と頷いて一声を放った。
「状況開始!」
「行くぞ……!」
 瞬間、弾かれたように飛び出したなぶらが、体を運ぶ足を、クレアが腹部から伸びる腕を攻撃し、それによって本体から切り離されたエネルギーが霧散した瞬間。小次郎の振り下ろした芭蕉扇が、山火事をも消すと言う強風を作りだし、霧散したエネルギーを後方へと一気に吹き飛ばすことで、超獣の回復を阻害すると、そこに一瞬の空白が生まれた。
「今よ!」
「食らえ、怒りの煙火っ!」
 それを逃さず、ルカルカの合図と同時に、カルキノスとルカルカの飛空艇からミサイルが放たれ、同時に超獣の侵攻ルート正面に、横線を引くように走った地面の亀裂に潜り込んで、爆音と共に地面を抉った。それによって斜めに傾いて空いた大穴が岩壁となり、更にそこへ複数人のブリザードを放って壁を強化すると、傾斜こそ緩いが大型のスロープのようになって、超獣の進路を強引に傾けた。
「今だ、天地!」
 九十九 刃夜(つくも・じんや)が、九十九 天地(つくも・あまつち)へ合図を送ると、クリムゾンブレードドラゴンの火炎ブレスと、刃夜の怒りの煙火による噴火の炎が、イルミンスール側を除く方角へと撒き散らされる。同時に、未憂の氷術がイルミンスール側の空気を冷やした。熱源を探知する超獣の性質を利用して、進路を変えさせようというのだ。
 だが。
「な……っ」
 上空からその動きを観察していたルカルカは、表情を険しくした。
 周囲に撒き散らされた炎に、一瞬気を取られたかのように足を止めた超獣だったが、直ぐにその頭をぐるりとイルミンスールの方へと向けたかと思うと、重たげな体をずるりと引きずって、岩壁の上を乗り越え、再びイルミンスールに向けて侵攻を開始したのだ。
「熱を感知するんじゃなかったの……?」
 ルカルカは思わず訝しげに呟いたが、通信からその声を拾ってクレアが、「いや」と応えた。
『熱の感知で間違いないはずだ。事実一瞬は目標を見失っているからな』
 そうは言いつつ、クレアも難しい顔だ。
『……熱以外に、目標を認識できる何かがあるのか、それとも……操っている誰かがいるのかもしれない』
 その言葉に、いまだ姿の見えない「敵」のことを思い出し、ルカルカは眉を寄せた。
「……アルケリウス、あるいは、真の王……」

 自分で呟いたその名に、ルカルカはぞわりと肌を撫でる不吉な予感に、無意識の内に腕を撫でたのだった。