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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第1回/全3回)

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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第1回/全3回)

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    エピローグ    






「結界完成の報告がありました。ですが、同時に超獣の形態が変化したようです」
「アルケリウスの出現が報告されました。交戦を開始したようです」
  超獣の結界が完成するのと、時を同じくして、イルミンスールの校長室では、ザカコと浩一がそれぞれの情報を持ち寄り、卓上の地図の上に載せたデータを書き換えながら、難しい顔で唸った。戦況は未だ一進一退で、予断を許さない状態だ。
「しかし、収穫もあります。超獣に有効な対抗手段が、見つかりつつあるようです」
 自らを鼓舞するように、浩一が言い、ザカコも頷いた。
「エールヴァントさんたちの調べで、超獣を鎮めていた町の詳細も判明しています」
「そうじゃの……どうやら、遺跡でも幾つか発見もあったようじゃしな」
 望からの報告を開示しながら、アーデルハイトも頷く。
 望や、クローディス達遺跡の調査に向った面々からは、超獣の呪詛を祓い、大地へ返せる可能性についての報告が集まり始めているし、結界も完成している以上、少なくともその足止めには成功しているのだ。
「情報と手段は集まってきておる。じゃが……」
 アーデルハイトは苦々しい顔で、散らかった魔法具を眺めてため息を吐き出した。
「駄目じゃな」
 色々と手を尽くして封印を解除しようと試みたものの、結局、そのどれも封印を破るにはいたらなかったのである。
「じゃあ、どうするんですかぁ?」
 不安そうにエリザベートが眉を寄せた。
 アーデルハイトの記憶に、直接かけられたらしい封印だ。アーデルハイト自身の強力な魔力のせいもあって、外からでは手を出せない。その上、本人にすら解けないとなると、その解除は絶望的だ。だが、難しい顔をしていたアーデルハイトは、ひとつだけ、とぽつりと呟いた。
「ひとつだけ、方法がある。記憶を封印ごと移してしまうのじゃ」
 そう言って取り出したのは、相当な年代ものの懐中時計だ。魔法がかかっているのか、今でも健在に動いているようである。
「こんなこともあろうかと、持ち歩いておったのじゃが、こんな形で役に立つとはのう」
 それは、アーデルハイトが封印された記憶のある時代から使っている懐中時計だ。その時間と記憶をリンクさせ、記憶を封印ごと強引に引っ張り出して写し取ろうというのである。
「一旦外部へ出してしまえば、干渉することも出来るじゃろう」
 そう言って、アーデルハイトが呪文を唱えると、懐中時計の針が、くるくると反時計回りに回転し始めた。カチカチと時を刻む音がどんどん早くなり、淡い燐光が、その針の回転数が進むごとに強い光を帯びていく。そして――……
「――……ッ」
 強烈な光が迸り、アーデルハイトごと包み込んだかと思うと、それは時計に収束し、カチン、と音を立てて時計の蓋が閉じた。
「……どうやら、うまくいったようじゃの」
 アーデルハイトは息をついたが、問題はまだ残っていた。記憶を移し変えることはうまくいったものの、封印の影響か、懐中時計の蓋はきつく閉じられ、触れようとすれば鋭い痛みが指先に走った。てこでも封印を解かせまいとする執念を感じて、エリザベートは眉を寄せた。
「どうやら、無理やり入り口を開くしかないようですがぁ、そうすると入り口を固定するために、中までは入れないですぅ」
 肝心の記憶は懐中時計の中だが、封印の力は恐ろしく協力で、入り口をこじ開けるのは、エリザベート以外の人間には難しいようだ。だが、入れたからといって安全なはずは無い。寧ろその中こそ、封印の本体が存在しているはずだ。
「大ババ様が、蓋をあけることは出来ないんですか?」
 ザカコが問うと、アーデルハイトは首を振った。
「この封印は、本来わしにかけられたものじゃ。今はこちらに移っておっても、わしが触れれば本来の場所に戻ってしまうじゃろう」
「ということは……俺達が向うしかない、ということだな」
 強盗 ヘル(ごうとう・へる)が難しい顔で唸る。口で言うのは容易いが、それが酷く危険であることは、ヘルにも判っている。同時に、危険であっても、飛び込まなければならない状況なのだ、ということも。
「出来れば最後まで見届けたいが……わしはまだ、ザナドゥでやらねばならんことがある」
 超獣の影響が、地上だけに留まっていないとも限らない。
「後は任せるぞ、よいな?」
「はいですぅ」
 エリザベートは強く頷くと、ぎゅうっと小さな手を決意に握り締めた。

「大ババさまが戻ってくるまで、イルミンスールは必ず守ってみせますですぅ」




 一方、その頃の遺跡では、愚者の場違いな高笑いが、ドームの中を木霊していた。
『面白い奴だな、お前……本気でそれ、言ってるのか?』
「当然だ」
 クローディスが言うのに、愚者はくつくつと喉を鳴らしたが、逆にディミトリアスは何ともいえない複雑な顔だ。
「……俺は、反対だ。危険すぎる」
「危険じゃない場所なんて、どこにも無いさ」
 ディミトリアスの言葉に、クローディスは不敵に笑った。
 アルケリウスが、クローディスの名前に目をつけた以上、恐らくどこにいても危険はついて回る。それならばいっそ、最前線へ向ったほうが、無駄がなくていいだろう、とクローディスは言うのだ。
「最悪の場合、あいつが利用しようとするのを、逆に利用してやればいい」
 私は簡単に操られはしないぞ、と笑うのに、ツライッツは物言いたげに口を開き、結局は何も言わずに閉じた。こういう時のクローディスが、何を言っても無駄なのは判っているからだ。
『先手を取るってのもありだぜ。あいつがお前を使う前に、こっちがお前を使えばいい』
 対象と対象を結びつける術は、異界を繋ごうとする愚者の専門のようで『その位なら、やってやらなくもない』と愚者は明らかに面白がっている様子だ。ディミトリアスは、きつく愚者の接触する端末を睨みつけたが、ややして大きなため息を吐き出して、ディミトリアスは首を振った。
「……あんたが、そんなことをする必要は無い。俺のかけた封印だ、俺自身の手で解く」
 だがそのためには、ディミトリアスが直接超獣の中に取り込まれた巫女に、”触れ”なければならないのである。その危険故にこそ、クローディスが自分を使う、と言っているのだが、いずれにしても危険なことには違いない。
 押し問答の無駄を悟って、ディミトリアスは苦い顔で息を吐き出した。

「……兎も角、どうするのが一番いいのか、俺たちだけでは判断できない」

 一旦帰還しよう、というディミトリアスの言葉に、一同は頷く。
 様々な思惑の入り混じるそれぞれの舞台で、事態は大きく動き始めていたのだった。



担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

皆さま大変お疲れ様でした
幕開けだというのに、最初からフルスピードとなりましたが
何とか超獣の足止めは成功し、ザンスカールへの到着は阻止されました
これも皆さまのアクションのおかげです、ありがとうございます

今回は、情報開示という意味もあり
ディミトリアスたちがかなりでしゃばって喋り倒す結果となってしまいました
そのため、一部の質問アクションについては
特に同質問の多かったものは、リアクションの地文にての回答とさせていただいてます
すみません

さて、超獣が足止めできたとはいえ、まだまだ危機は去ったわけではありません
色々と出てまいりました道具や概念、歌の欠片たちは
皆さまのアイディア次第で武器にも防具にもなるものです
出揃ったヒントを持って、超獣や新たな謎に、是非挑んでみていただければと思います


それではまた次回にて、お会いできれば幸いです