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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【1】SCHOOL【2】


(一連の殺人・破壊事件、シャドウレイヤー、それにクルセイダーか……)
 たくさんの生徒のいるカフェテリアだが、そういう場所だからこそ闇が紛れ易くもある。
 テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)に憑依する奈落人マーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)も見た目こそ大人しく、数ある生徒のひとりに見えるが、こう前置きした以上見た目通りの人物ではない。
 マーツェカは喧噪に混じるアイリ達の話に聞き耳を立てている。
(それで、お前はどうしたいんだ?)
(………………)
 頭の中のテレサに問う。
(はっ、相変わらず甘くて反吐が出る……。だが、いいだろう。この件からは血の匂いがする。我好みの事件だ)
(………………)
(ん? 別に肝っ玉なんぞ持っちゃいない。下らねぇことを下らねぇまま楽しめる。そういう性分なだけさ)
(………………)
(まぁ結果どうなるかはわからねぇが、収まるところに、すべては収まる。天地流転して陰陽を成す、てぇやつさ)
 誰にも聞こえない相談が片付き、マーツェカはアイリに声をかけた。
「よぉ、お前らが風紀に睨まれてるブラックリストコンビだな」
「ええと、あなたは……?」
 一般の生徒とは異なる雰囲気のマーツェカに、アイリも流石に気付いたのか、警戒している。
「そう気ぃ張る必要はねぇ。名乗るほどのもんじゃねぇが、まじかる★アサシンとでも呼んでくれ」
「か、かわいい名前……」
「お前らの魔法少女活動の事は知ってる。手ぇ貸してやるから、仮契約書をよこしな」
「わ、ありがとうございます!」
「海京には我の身体が勤務する病院もあるんでな。そいつの頼みとあれば、我もこの件に一枚噛むしかねぇさ」
 だが、彼女は仮契約書だけ受け取り、同好会の入会希望書は受け取らなかった。
「あ、あの。良かったらこっちも……」
「悪いが、大勢でつるむのは苦手なんだ。我は我でやらせてもらう。心配するな、仕事はきっちり遂行するさ」
「あ……」
 呼び止める間もなく、既に彼女は人波に紛れ、どこかに姿を消していた。
「……口をぽかんと開けて、無様な姿だな、愚民」
 ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)は呆気にとられているアイリを小馬鹿にしたように見つめた。
「……で、その同好会に入るにはどれに名前を書けばいいのだ? 我にもわかるよう懇切丁寧に教えるがいい」
 小馬鹿にはしているが同好会には入ってくれるらしい。レオナルドは不思議そうに見ている。
「お前がクラブ活動に興味を示すとは珍しい事もあるものだ」
「今回、とくにやる事がないのでな。仕方なく興味もないが、幽霊部員なるものになってやる」
「幽霊部員……って、わざわざ宣言するもんじゃないと思うけど」
 寿子は頬を掻いた。
「悪魔なのに、幽霊……。くくく……ブッホ! アッハッハッハ! ヒー、悪魔なのに幽霊! これは傑作だ!」
「すっごい笑ってるこの人」
「気にするな。ほら、必要箇所に丸しておいたから、この紙に書いてもってこい」
「ヒーヒーッ! アッハッハッハ! こ、これか? アッハッハッ!」
「やかましいな、向こうで書け」
 ひとりで笑って気味の悪いダミアンを、レオナルドは虫でも払うように、別のテーブルに移動させた。

「……鈴蘭ちゃん、未来から来たとか、そんな簡単に信じちゃっていいの?」
「同じ時間を繰り返し体験してた人もいたくらいだし、何が起きてもおかしくないわよ」
 不安気な顔の霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)を諭すように、館下 鈴蘭(たてした・すずらん)は言った。
「でも風紀委員にも睨まれてるみたいだし、あんまりお近づきにならないほうがいいような……」
「それは近付いてみなくちゃわからないものだよ、沙霧くん」
 鈴蘭はカフェで買ったピロシキを抱えて、アイリたちをお昼ごはんに誘った。
「こんにちは。アイリちゃんが海京の事件の事を知ってるって聞いて来たんだけど……もしかして忙しい感じかな?」
「いえ、そんな事ないですよ。それに、そう言えばお昼もまだでしたし」
「はうー、本当だよー」
 テーブルに顔をくっ付けて、寿子はグッタリしている。
「良かったら、寿子ちゃんも一緒に」
「うん、食べる。アイリちゃんに付き合ってたら、もうお腹ペコペコだもん……」
「ふふ、ロシア料理のメニューは食べた? ここのピロシキはとっても美味しいのよ」
「へぇ〜〜」
 揚げたてアツアツのピロシキを、アイリと寿子ははむはむとほうばる。
「お、美味しい〜〜!!」
「本当に。カレーパンの仲間なのかと思ってたけど、全然違うんですねぇ。とても美味しいです」
「でしょう?」
 美味しそうに食べてくれる二人に、鈴蘭もピロシキを持ってきた甲斐があった。
「でも私にしてみたら、この魔法少女仮契約書のほうがビックリだよ。サインするだけで魔法少女になれるんだもの」
「実はそれ、元は未来の女の子が遊ぶ玩具なんですよ」
「おもちゃ?」
「一日だけ魔法少女に変身出来るって言う。五歳児向けの商品なんです」
「へぇ〜〜、未来の子供達いいなぁ……」
 アイリの言うとおり、まじまじと契約書を見ると紙に、メーカーの名前がプリントされている。
「へぇ、”大勇玩具店”……よし、じゃあ早速変身してみよっか、狭霧くん」
「ええっ、僕?」
「男は度胸だよ!」
「う、うーん……」
 しぶしぶサインすると、ぽふんと煙を上げて、狭霧はピンクのフリフリドレスの魔法少女に変身した。
「ひええええーーーっ!! ま、マスコットのほうじゃないの!?」
 公衆の面前で女装出来るほどのナイス度胸はなく、彼は悲鳴を上げてテーブルの下に隠れた。
 よく契約書を見ると、魔法少女・マスコットの欄の、魔法少女のほうに丸が付けてある。
「だって、私はもう魔法少女っていう年でもないし、どちらかといえば、まだ学生の狭霧くんの方が良いかなって」
「うう、もう学内を歩けないよ……」
「じゃあ、私も書いてみようっと……、マスコットの妖精さんなんていいかな」
「え、妖精さん……?」
 ハートをくすぐるラブリーな響きに、狭霧の胸はどきんと高鳴った。
 ところが、ぽふんと煙を上げて、変身した鈴蘭は緑のリボンの付いた狐の着ぐるみだった。
「………………」
「狭霧くん、どうしてそんなにガッカリするの? もふもふで可愛いでしょ?」
「妖精さんって言ってたから、トンボ羽の可愛いのを想像してたのに……」
「狭霧くんも似合ってるわよ」
「酷いよ……、こんなのってないよ……」
 狭霧はゴロゴロと床を転がった。
「よしよし……。それはまぁともかくアイリちゃん。そろそろ海京の事件について聞かせて貰ってもいいかな?」
「ええ、勿論」
「その話、オレにも詳しく訊かせてくれ」
 振り返ると、裄人とサイファスが立っていた。生徒会役員の登場にアイリと寿子は顔を見合わせ警戒している。
「心配しなくてもいいよ。オレは別に君のことを目の敵にしてるわけじゃない。ただ、不穏な動きが学校の周りで起こっている以上、少しでも情報が知りたいんだ。学院を守るために、君の知っていることを教えてほしい」
「ですから、そのまま落ち着いて、食事をしながら結構です」
 サイファスは警戒を解けるよう爽やかな笑顔を見せた。
「……わかりました」