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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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「……まったく遺留品の調査がしたいなんざ、最近の女子は好奇心はマジやべぇな」
 海京警察署内、死体安置施設。
 山葉聡の口利きによって海京警察への出入りを許可されたルカルカ・ルー(るかるか・るー)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は、殺害された海京警察副署長、海条保安氏の遺留品調査に来ていた。
 二人を案内するのは、金髪グラサン、小麦色に焼けた肌、常に海パン。むせ返るようなココナッツの臭い。そして小脇に抱えたサーフィンボード(屋内用と書かれた)がトレードマークの海京警察の名物刑事、サーファー刑事(デカ)。およそ警官らしくない男だが、どんな難事件も大波を乗り越えるようにクールに解決してきた敏腕刑事である。
「どうも、教導団中尉のルーです。お忙しいところ、我々のためにお時間を頂き、ありがとうございます」
 それから相棒のカルキノスを紹介する。
「へぇ、コイツが大陸にいるドラゴニュート族か、マジすげぇ強面なドラゴン君だな、マジやべぇ本気でマジで」
「こう見えても、人を食べるのは我慢してるから怖くないですよ」
「え、マジ?」
「人間は食わないから。ルカの冗談だから」
 カルキノスは慌ててサーファー刑事に言った。
 夏だと言うのに冷めたい地下2階へ下り、白熱灯の薄暗い通路を抜けた先に、死体安置施設はある。
「ん、誰か立ってるな?」
「おまえが波野刑事か。遺留品の調査を願い出たらここで波野刑事を待つよう言われたのだが……」
 扉の前に居たのはザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)だった。ルカルカと同じ海京警察の協力者だ。
「馬鹿、おまえ、マジ馬鹿。俺を本名で呼ぶんじゃねぇつーの。サーファー刑事だよ、馬鹿野郎」
 サーファー刑事。本名、波野利夫(なみの・としお)
 部屋の中は一面がガラス張りになっていた。ガラスの前には数名の警官。ガラスの向こう側では検死官が海条保安氏の検死解剖を行っている。
 その部屋を通り過ぎ奥に入ると、壁一面に金属製の棚が並んだ部屋に出た。
「お前達が調べたいのは副署長の遺留品だったな」
「ああ、彼が事件当時着ていた衣服と警察手帳を見せてほしい。他に所持していた物もあればそれも頼む」
 ザミエルが言うと、サーファー刑事は遺留品をテーブルの上に並べた。
「しっかしもう鑑識が調べ尽くした後だぜ。犯人の手がかりになるようなもんはマジ何一つ付着しちゃいねぇ」
「別に警察の手落ちを疑ってるわけじゃない。だが、警察は”サイコメトリ”まではしちゃいないだろう?」
「物言わぬ死体。けれど死体は雄弁に語るものよ」
 ルカルカの言葉に、ザミエルは不敵に笑った。
「考える事は同じらしいな」
「みたいね」
 ルカルカは血痕の付着した警察手帳に手を重ねた。次の瞬間、脳裏にビジョンが浮かんだ。
 夜の街並。目の前に黒尽くめの集団。その手に握られている書類。
「この計画書は……!」
 精神を集中し書類を読み取ろうとする……だが、当の海条氏本人が重傷を負って意識が盲爆としているのだろう、焦点が定まらず、読み取る事が出来たのはたったの一文字だけだった。
「……”G計画”
 彼らの持つ古ぼけた書類には、G計画と書かれていた。
「カルキ、今のは……」
「ああ、大丈夫だ。ソートグラフィーで画像はおさえておいた」
 ノートPCに先ほどの映像を出力する。画面にサイコメトリで読み取ったビジョンが表示された。
「……さて、これからどうする?」
「私はこの”G計画”について調べてみる。この計画に関わった人が狙われてるのかもしれないし……保護しないと!」
「ふん、面白くなってきたな……。私もG計画の調査に協力してやろう」
 ザミエルの申し出に頷き、ルカルカはカルキノスに目を向けた。
「カルキには海条氏の担当していた案件を洗ってほしいの。どんな事件を手がけ何に関わってたかを調べて」
「いいだろう。波……いや、サーファー刑事、協力を頼めるか?」
「OKだ。ドラゴン君、資料室に案内してやる。付いてきな」

 警察署資料室はところ狭しと書棚が立ち、埃っぽく息の詰まる空間だ。
 ここでレン・オズワルド(れん・おずわるど)メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)七枷 陣(ななかせ・じん)は、ここ2ヶ月の間に発生した未解決事件の情報を洗い出すため警察資料と睨み合っていた。
「ご飯はちゃんと食べて下さいね。あまり根を詰め過ぎると身体によくないですよ」
 雑務を買って出たノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、テーブルの上にどっさりのおにぎりを用意した。
「ああ、すまないな。助かる。ところで……その花はなんだ?」
「あ、これですか。今回の一件で亡くなった警察官の方の机にあった花です。皆さんお忙しそうだったので、私が代わりに水の入れ替えをしようと思って。お花は誰かが世話をしないと枯れてしまいますから……」
「……亡くなった方も喜んでくれるだろう」
「あ、レンさん。宿直室のほうに布団用意しておきましたから、お疲れになったら自由に使ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
「それから、陣さんも!」
「握り飯に布団たぁ至れり尽くせりやな。おおきに。後で使わせてもらうわ」
 陣はひらひらと手を振った。
「それでは皆さん、捜査のほうよろしくお願いします! 頑張って犯人を捕まえましょう!」
 ノアが部屋を出て行くと、レンは立ち上がり、ホワイトボードに被害者のプロフィールと写真を貼付けていった。
「……さて、日が暮れる前に、ここまで洗い出した情報をまとめてみよう」
 巻き込まれた人間を除いて、殺人事件のターゲットとなった被害者は全部で8人。

 海条保安(かいじょうもりやす)
 53歳 A型 海京警察署副署長
 東区路上で刺殺体で発見。全身に無数の刺し傷。拷問の形跡有り。護衛の警察官8名も殺害されている。

 敷島順志(しきしま・じゅんじ)
 50歳 A型 株式会社『玉鋼』(イコン関連資材の開発企業)支社長
 東区にある自宅で絞殺死体で発見。自室に荒らされた形跡、会社の資料が一部紛失している可能性有り。

 三郷正太郎(さんごう・しょうたろう)
 56歳 AB型 ダイバンインダストリアル(イコン関連資材の開発企業)支社長
 北区倉庫地区で刺殺体で発見。一撃で頸動脈を絶たれ即死。

 ブルーク・スクルスカラ
 40歳 O型 天御柱学院講師(整備科・イコン装甲学)
 西区のラボラトリーで発見。全身に鈍器で殴られた痕。自室に荒らされた形跡有り、研究データに盗難の可能性。

 ニコラス・C・エーテルマン
 65歳 AB型 機晶エネルギー研究所所長
 西区、機晶エネルギー研究所内で斬殺死体で発見。職員6名も同様の手段で殺害されている。

 紺野耕造(こんの・こうぞう)
 37歳 B型 イコン設計学博士
 南区、イコンデッキ付近で斬殺死体で発見。イコンデッキの警備が5名、同様の死体で発見されている。
 
 ロベルト・スタークス
 42歳 O型 イコン武器開発部門主任開発者
 西区の自身が経営する研究施設内で発見。全身に無数の刺し傷。拷問の形跡有り。開発データに紛失有り。

 矢野歳幸甚(やのとし・こうじん)
 32歳 A型 光学兵器設計部門部長
 北区、海に浮かんでいるのを発見される。全身に無数の殴打の痕。拷問の形跡有り。開発データに紛失有り。

「いずれも目撃者は無し。殺害方法も刺殺、撲殺、絞殺と多岐に渡る」
「警察のお偉いさんに大企業の重役か。研究者はイコン関係が多いな……。それぞれ面識はあったんか?」
「資料を見る限り、直接の面識はないな。被害者の前職の件はどうなった?」
「ああ、何か接点があるかと思って調べたんや。海条は前職なし。敷島と三郷は、以前はイコンと無関係の企業に勤めとったけど、もう20年も前の話や。ブルークはEUの民間企業出身。矢野歳と紺野は日本、ニコラスはロシアの元大学教授。ロベルトは元アメリカ空軍の軍人……まぁ事件と関わりのある接点はないなぁ」