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星影さやかな夜に 第二回

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星影さやかな夜に 第二回
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リアクション

 まず、初めに動いたのはレンだった。
 《魔銃ケルベロス》の焦点を素早く定め、早撃ち。三つの銃口から弾が飛び出し、ヴィータに飛翔。
 ヴィータは薄ら笑いを浮かべながら、<行動予測>で弾の軌道を予測。最小限の行動で回避し、そのままレンに向けて疾走。
 しかし、そこで《魔銃ケルベロス》から放たれた弾の一つが爆発した。
 それは、事前に三つの銃口のうちの一つに仕込んでいた照明弾。眩い閃光が室内を埋め尽くし、ヴィータの視力を一時的に奪う。

「あらあら、小細工がお上手なのねぇ」
「言ってろ」

 レンはそう吐き捨てると、《アクセルギア》で体感時間を引き伸ばす。
 三十倍に加速された肉体は、本来の物理法則を切り裂いて、疾走を開始。
 レンの目が驚愕で見開く。
 予想よりも反応が早い。知覚速度と運動速度が伴っていないはずなのに、彼女は迎撃するように凶刃を振るった。
 袈裟切りの一閃。狙われたのはレンの腕。
 レンは刃の軌道上にあった腕を引き、左に跳んだ。丁度、《アクセルギア》の効用時間が切れる。

「きゃは♪ その加速はさっき見たから、もう対策済みよ」

 ヴィータは振り切る寸前で、右足に力を込めた。
 まだ回避運動中のレンに向かって切り上げるように一閃。
 レンは首を僅かに傾けることで、辛うじて回避。頬に一筋の傷が出来、少量の血が噴き出た。
 構わず、レンは一歩踏み込んだ。
 《魔銃ケルベロス》を腰のホルスターに素早く収め、脇腹へ強靭な蹴りを放つ。
 ヴィータは剣を持たない反対の腕で防御。
 しかし、《不死者のコイン》の加護で威力を増したその蹴撃に、ブロックした腕ごと弾き飛ばされた。
 今までの戦いで出来た傷が一斉に開き、ヴィータの顔が激痛で歪む。
 レンは休む暇も与えず、追撃。無呼吸の連打。踏み込み、強固な拳がヴィータの鳩尾目掛けて振るわれる。

「……ッ!?」

 レンの拳が空を切る。
 それはヴィータの<実践的錯覚>により、レンの目測に狂いが生じたからだ。

「ばぁっ。残念!」

 ヴィータ本体は既にレンの横へと回り込んでいた。
 彼女は素早く身体を捻り、強烈無比な回し蹴りを放つ。反応がわずかに遅れたレンは直撃し、吹き飛ばされた。
 ヴィータは《暴食之剣》を手に追撃を開始。
 が、突然目前に立ち塞がってきた誠一を見て、足を止めた。

「まぁ、めんどくさいけど、お相手願うよ」
「あらら。めんどくさいんだったら、別に戦わなかったらいいのに。わたしは一向に構わないわよ?」
「いや、この街がなくなると辺りの治安が悪くなる。
 そうなると、貿易物資の値段が上がる。結果として、僕の財布が痛くなる。それだけは避けたいんでねぇ」
「ふーん、つまんない理由ね。もっと、こう……ドラマチックな理由で戦えないの?」
「無理だねぇ。正直、平和やらなんやらはどうでも良いから」

 誠一は《飛燕》をかちゃり、と強く握りなおした。

「さて、あんたの主催するお祭りは、このダンスパーティでお開きにさせてもらうよ」
「いやぁん、ご招待ありがと。でも、お開きにはまだまだ早いわよ――!」

 ヴィータが駆けて、誠一も駆けた。
 一瞬の思考の空白が、死を招く刹那の世界。二人は互いに<行動予測>をし、先の先を読んで剣を振るった。
 激突する二つの刃は金属の悲鳴をあげ、青白い火花を咲かせる。同時に弾かれるやいな、ヴィータは笑い声をあげた。

「きゃははは……♪」

 それは、自分の身体に力が湧き上がってきたからだ。
 今までの戦闘により高められた生存本能による高揚。
 それが、今、極限に達して、ヴィータに過去の戦いの記憶を完全に思い出させた。

「最っ高よ、あなた達!」

 ヴィータの手元から迸り、下から跳ね上がる刃、横からの斬光、眉間への突きが放たれる。
 誠一は《歴戦の立ち回り》により、辛うじてその全てを《飛燕》で受け、跳ね返し、捌いた。
 百花繚乱の火花が咲き乱れる。
 その剣の暴風の中、ヴィータは誠一との間合いを零に詰める。
 《暴食之剣》を持たない手で、速度を乗せた一撃を顔面に放つ。モロに入り、誠一は吹っ飛ぶ。
 ヴィータはトドメを刺そうと走り、

「……かかったねぇ」

 誠一は自分を追撃しようとするヴィータの足運びを予測し、《飛燕》の能力で<インビジブルトラップ>を彼女の足元に顕現。
 彼女の足運びを予測するのは容易い。そのために、瓶入りの瞬間接着剤に細工して罠とし、あちこちに設置したのだから。
 ヴィータは<インビジブルトラップ>に気づくが、急に足を止められず、思い切り踏んづけた。
 大気を震わす轟音。
 無属性の魔法が炸裂し、床を粉砕し、爆煙を巻き上げる。
 轟々と渦巻く爆煙の中から、パチンと指を鳴らす音が聞こえた。

「ヴぉぉぉォォォぉおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 瞬間、煙を掻き分け、モルスが誠一に飛び掛った。
 継人類である彼でなければ、即死だっただろう。
 誠一が飛び退き、モルスの剛腕が振り下ろされる。床が大きな鉄球が落ちたようにへこんだ。
 彼は口の端を僅かに持ち上げる。作戦通りに進んでいることを感じて。

(よし、予定通り、モルスを引き出したねぇ。後は――)

 ――――――――――

「なるほど、わたしとモルスの分断ねぇ。よく対策を練ってるじゃない」

 渦巻く爆煙が晴れ、視界が良好となったヴィータの前には二人の契約者が立っていた。
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)

「隻腕さんと刑事さんかぁ。
 またまた厄介な人達がお相手なことね。嫌だなぁ」

 言葉とは裏腹に、ヴィータの表情はとても嬉しそうだった。
 そんな彼女に、皐月が言い放つ。

「関わったからにはキッチリと解決させてもらう。
 途中で物事を投げだすのは柄じゃねーんだよ、生憎な」
「へぇ、そりゃまた律儀なことで」

 ヴィータはクスクスと笑う。
 対照的な面持ちで、マイトが硬い声で口にした。

「済まないな。
 この都市で色々起きているのは把握してるが……俺のホシはあくまで君「達」だ。諸々すっ飛ばして王手を掛けさせて貰う」
「君達ねぇ……。
 まだこの身体の前の持ち主に拘っているんだ。しつこい男は嫌われちゃうわよ?」

 ヴィータの軽口に、マイトは奥歯を噛み締めた。
 その様子を見て、彼女はニヤニヤと笑みを浮かべる。
 挑発的な態度。しかし、乗せられてはいけない。マイトは冷静さを取り戻し、拳を握った。

「……君達を刑事として放っておく訳にはいかない。行くぞ」
「ええ、かかってきなさいな。壊してあげるから」

 ヴィータが動き出す前に、皐月が《魔装『ラウルス・ノビリス』》で投射刀を放った。
 彼女は横に跳躍して回避。マイトが<行動予測>で先読み、先回りして組み付きにかかる。
 が、ヴィータはそれを許さない。
 自分に掴みかかられるより先に、マイト目掛けて刃を振るう。頭部目掛けた即死の一閃。
 マイトは避けるしかなく、回避するためにしゃがみこむ。
 屈んだマイトの腹部が、サッカーボールのように蹴り飛ばされた。身体が浮いて、床に落ち、二・三メートルも転がされる。
 激痛によって動きが止まったマイトに、天井を背にヴィータが飛び掛る。

「やらせねーよ」

 皐月が素早く身を割り込み、《氷蒼白蓮》で氷の盾を精製。
 しかし、ヴィータは目前に立ちはだかるその巨大な盾を見て、口の端を吊り上げた。

「そんなもの、わたしの障害にはならないわよ?」

 ヴィータが《暴食之剣》の切っ先を氷の盾に突き刺す。
 瞬間、まるで霧散するかのように、氷の盾は全て消え去った。
 キィ……ンと刃に刻まれた魔術式が輝き始める。

「きゃは、きゃはははは……♪」

 ヴィータが落下する重力を乗せて、皐月に凶刃を振り下ろした。
 皐月が《魔装『カランコエ』》の先端を拳状に変え、殴りかかる。
 刃と拳が空中で激突した。

 ――――――――――

 誠一はモルスと戦闘を繰り広げながら、<行動予測>で誘導していく。

(よし、このままいけば……)

 誘導する地点は、ロウが<迷彩塗装>を施した、誠一のとびっきりの罠――《テロルチョコおもち》で作った簡易クレイモア地雷。
 やがて、モルスはその罠を踏み抜いた。びっしりと貼り付けたベアリングの弾が弾け、モルスに大打撃。

「ワンッ!」

 乗じて、今まで息を潜めていたロウが《六連ミサイルポッド》の全段を発射。
 モルスに着弾し、巨大な機関室を埋め尽くすほどの爆発が起こった。

「がぁぁぁあああああああああアアアアアアア!!」

 苦しそうな叫び声を、モルスが上げる。
 その隙に、誠一が<ポイントシフト>で肉迫。《影衣》の裾を鋭利な刃に変化。
 鋼のような肉体が切り刻まれていく。
 そして、《飛燕》の<<疾風突き>で始末しようとし――。

「……!?」

 モルスの巨大な拳が、目前まで迫っていた。
 そのフラワシは傷を負いながらも、決して攻める手を止めはしなかったのだ。
 誠一は咄嗟に両腕を交差し、防御。
 しかし、それは何の意味も為さなかった。

「が……っ!」

 誠一の口から呻きが洩れる。
 腕の肉を潰し、骨を砕き、それでもまだ威力は衰えず、壁の役割を為している歯車の群れに衝突させた。

 ――――――――――

 モルスのダメージは、ヴィータにも降りかかる。
 簡易クレイモア地雷、《六連ミサイルポッド》、《影衣》による負傷は、ヴィータの動きを止めるには十分すぎた。

「今しかねーな……!」

 好機と見た皐月は投射刀をヴィータの身体の二点に突き立て、持ち上げる。
 そして、自分は上に跳躍。《魔装『カランコエ』》を螺旋状に変え、天井につけて発条にし、勢いを付けた蹴り下ろしをヴィータに放つ。
 上向きと下向きのベクトルそれぞれによる梃子の原理を利用した、噛み砕くためのその攻撃の名は、

「あぎと――!」

 強靭な蹴りが、ヴィータに迫る。
 ヴィータは《暴食之剣》を持たない手を犠牲にし、その蹴りを防御。鈍い音が鳴り響く。

「痛ぁいわね。骨にヒビが入っちゃたじゃないの」

 ヴィータは激痛に耐え、皐月の足を掴み、真下に投げ捨てた。
 皐月は勢い良く背中から床に落ちる。遅れて、落下してきたヴィータが剣を突き下ろす。
 《暴食之剣》が、皐月の脇腹を貫いた。

「ッ、――睦月!!」

 皐月は痛みに耐え、<召喚>を発動。
 どこからともなく、五十嵐 睦月(いがらし・むつき)が姿を現した。

「隠れていた七人目ってわけね……!」

 ヴィータは素早く剣を抜き、皐月を思い切り蹴り飛ばす。
 と、ほぼ同時。睦月は《煙幕ファンデーション》を使用。煙幕が機関室に充満した。

(やれやれ、皐月のヤツはまた無茶をして)

 その煙で身を隠し、睦月は《さざれ石の短刀》を取り出す。
 それを<サイコキネシス>でヴィータに向けて飛ばし、それに<ミラージュ>の幻影を被せた。
 視覚的に睦月が体当たりを仕掛けたように見せかけて、短刀による石化を狙う作戦だ。

(……いやはや、幻影とは言え腹の中に短刀を仕込むとか、実にぞっとしない話だね)

 《さざれ石の短刀》がヴィータに飛来する。

(でも、石にした女の子のパンツは覗き放題だ。実に良い話だね)

 睦月の邪な思いと共に飛ばされた短刀は、ヴィータに肉迫。

「そこ――!」

 ヴィータは煙幕の中、それを素早く察知して、幻影である睦月に向けて刃を奔らせた。
 トン、と。
 やけに軽い音立て、ヴィータの左手に《さざれ石の短刀》が突き刺さる。

「……うわっ、まんまとやられちゃった」

 ヴィータが短刀を抜き、左手を見た。
 左手全体が灰色の物質になっていた。見ている間にも、石は増殖を続け、左腕へと侵食していく。
 ヴィータは数秒間考えて、

「まぁ、仕方ないか。こんなところで止まっている暇もないし」

 そう呟き、《暴食之剣》を奔らせた。
 自分の左腕の肘を断ち切り、石化を無理やり止める。
 ヴィータは石化した左腕を左脇に挟み、煙幕の晴れた室内で、契約者を見つめた。