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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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対峙――決着



 攻勢へ出たものの、出鼻をくじかれるかたちになった前線は、防御の優れたものが前でアンデットを押し返しながら、丈二とヒルダが、代わる代わるアルケリウスの欠片を使って、何とか黒い光を防ぐその盾の後ろで、黄昏の星輝銃の引き金を引きながら、その効果を試していたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が、かすかに息を吐いた。あれこれと属性を試してみたが、決定打と思われる属性は把握できないようだ。
「あのバリアみたいなのが厄介なんだよ。これじゃ、バリアに属性が無いのか、ナッシング本体に属性が無いのかがはっきりしないや」
 そのぼやくような声に、欠片をバトンタッチしたヒルダの回復を行っていたミア・マハ(みあ・まは)が「弱音を吐くでない」と叱咤した。
「それならば、順番に確かめれば良いだけじゃ」
「そうですね」
 ミアの言葉に、同意したのは真人が頷き、「少なくとも」とナッシングの行動をじっと観察していた誌穂が続けた。
「弱点、とまでは行かなくても、光輝属性に警戒してる感じがあるよ」
 黒い光を生み、アンデットを操る能力から考えれば、ナラカに近い性質なのかも、と言うのに、肩を竦めたのはセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)
だ。
「確かめてみるのが手っ取り早いわ」
「そうね……こうなれば、強引にでも道を開くしかないわ」
 その言葉に、祥子も頷く。ぽん、とセルウスの頭を叩いて、ずいっと前へと出る。そして、息を吸い込むと、眼前をぎっと睨みつけた。
「そこをどきなさい!!」
 祥子の一声で怯んだように、アンデットたちが一瞬動きを止める。瞬間、その隙を突いてその中へと阿修羅のごとく飛び込んだ祥子がそのままアンデットを蹴散らし、出来た隙間にコハクとセルファが、真人の援護を受けながら中央に切り込み、一直線に道を作った。
「行くぜええ……!」
 その道を、一直線に駆け抜け、その勢いそのままにナッシングの間合いに飛び込んだのはラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)だ。
「おらおらおら……!」
 勢いにあかせて連続攻撃を叩き込むが、やはりそれも薄いガラスのようなものにぶつかって、拳が届かない。ちっと舌打ちして、一歩引き、地面を強く踏み込んで、その完成された肉体の全精力を集中させて、強烈な蹴撃をナッシングの胴めがけて放った。
「……これなら、どうだ!」
 凄まじい勢いで激突した脚は、ナッシングの盾らしきものをぶち抜き、その胴体へと食い込んだ。が。
「……ッ!?」
 めり、と手ごたえを感じた瞬間、ぞわりと走った危険信号に、ラルクはとびずさって距離を取った。触れた所から染み込んでくるようなマイナスの感覚。それは、黒い光に触れるのと似た感覚だ。だが、その説明しようの無い感覚がラルクの口をつくまえに、スイッチするように、二人同時にナッシングの懐へ飛び込んだのは赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)だ。
「拳が駄目なら……こちらはどうです」
 ひゅう、ん、と、放たれた居合いが空を切る音がするが、ギャリン、とガラスを削るような音が響いた。続けざまクコの脚がナッシングの頭を狙うが、それも同様だ。
「またバリア……っ」
 ちっと舌打ちしながらも、二人は間隙入れず、刀と足技というリーチの違う攻撃を巧みに入れ替え、ナッシングを翻弄する。だが、ナッシングの方は、バリアによって受身を取るばかりで、最初の一撃以降、黒い光を吹き出させる以外で攻撃してくる気配は無い。暫し、ラルクやセルファが戦闘を交代したりと、回復を交えて近接攻撃を絶え間なく続けていたが「キリがない」とララが呟いた。
「近接にも、遠距離にも、決定打がない……あれは一体、何だ?」
「手……だと言っていたのだよ」
 まさかローブの下に手が連なった姿があるとも思えないが、リリは「今こそ暴く必要があるのだよ」と、ララに庇われながら前へ進み出た。
「皆、目を瞑るのだよ! ピラミッドアイよ、闇を暴け!」
 咄嗟に前線が目を閉じた瞬間、強烈な光が、ナッシングのローブの影すらも突き抜けるように放たれた。だが、そこに見えたのは。
「――空っ……ぽ?」
 思わず、と言った様子でリリが呟く。光に晒されたローブの中には、何の姿も窺えなかったのだ。かといって、ダメージらしきものが無いところを見れば、ゴーストの類でもない筈である。得体の知れなさに、そわりと首の裏がむず痒い心地を覚える中、かまわずに前へ出たのは樹月 刀真(きづき・とうま)だ。
「空っぽだろうがなんだろうが、関係ない。奴は俺の白花を傷付けた」
 得体の知れなさや不気味さより、刀真の中ではその怒りの方が勝っているのだ。後ろの方で一人拗ねている様子の漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)のことはひとまずとして、超獣の欠片の力で自分の腕と同化させた光条兵器、黒の剣の切っ先を、真っ直ぐにナッシングへと向ける。
「このまま放って置くつもりは無い…ここで討つ!」
 一声と同時、刀真は蹂躙飛空艇の最高速でナッシングへと突撃した。勢いを殺そうとして襲い掛かる黒い光は、超獣の欠片が持つ同調の力が、僅かではあるが流れを乱して逸らしているようだ。そして、ナッシングへと肉薄する寸前。
「光よ!」
 月夜の無量光が、刀真と、共に白虎の背に乗って飛び込んだ封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)の上に降り注ぐ。光に包まれた白花は、更に刀真の上に護国の聖域を発動させた。
「喰らえ……ッ!」
 二人の援護を受け、光条兵器に自身の精神力を上乗せした黒の剣はガギンとガラスの砕ける音と共に、やはり初撃を阻まれる。が、刀真の剣戟はそこで終わりではなかった。留まらず振り下ろされる2撃目は、ナッシングの首を刎ねるような軌道で、そのローブを引き裂いた。覗き込めば呑まれそうな虚ろが露になったが、怯まず刀真がその腕を首の辺りへと、黒の剣ごと突き込んだ。そのまま、超獣の欠片の力で吸収しようとしたのだ。が。
「―――……ッ!?」
 触れただけで、フィアナやラルクに危険を感じさせたものの「本体」である。僅かに取り込んだだけで、刀真は身を蝕むようなマイナスのエネルギーに膝を突いた。
「刀真さん……っ!」
 白花と月夜が慌てて駆け寄ったが、その隙を突くようにして、ナッシングは暴かれた部分を隠すようにローブを引き寄せ、これまでのナッシングたち同様に、その場から掻き消えようとした、が。
「させんぞ……アルティマ・トゥーレ!」
 それを阻んだのは、刹那とアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)だ。刹那が袖口から取り出した短刀から放たれた冷気は、ローブを気にしたらしいナッシングの一瞬の隙を突いてその裾を凍りつかせた。と同時、アルミナが重ねて氷術でその体を凍りつかせていく。体の無い相手だ、効果は恐らく一瞬。だが、それで十分だった。
「今だよ……!」
 声と同時、飛び出したのはララだ。ペガサス、ヴァンドールがその距離を一速に詰めると、その機動力をのせた槍の一撃が、ナッシングに向けて突き出された。
「魂までも切り裂け!ライトブリンガー!!」
 実体のない敵をも討つその技をもって貫かれたナッシングは、悲鳴すらもあげることも無く、ぶわりとその影に溶けるようにして形を失い、ローブだけをそこに残して消滅したのだった。