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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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撤退



「も……もう少しで出口です、ハデス様」

 ブリアレオスが遺跡から離れたのと、殆ど同じ頃。
 オリュンポスの一同は、死霊騎士団長のナッシングの手引きによって、出口まで辿り着こうとしていた。だが。
「……あれ、ナッちゃんがついて来てないみたいだよ?」
「何……?」
 ヘルの言葉に呼雪が振り返ると、確かに先程まで一緒にいたはずのナッシングの姿は無い。神出鬼没な相手らしいとは思うが、それにしては今回は唐突ではないか、と思った矢先だった。
「うわっ!?」
 足元で弾けたライフルの弾丸に、咄嗟にハデスがのけぞった。呼雪たちも思わず足を止めると、そんな彼らにライフルの銃口を向けたまま笑ったのはニキータだ。暴れる遺跡たちの間を、その卓越したドライビングスキルで掻い潜って、ずっと遺跡の唯一の出口を張っていたのだ。
「あぁら、ごめんなさい、手が滑っちゃったわぁ〜」
 わざとらしい物言いをしながらも、その眼光は鋭い。
「突入班になかった顔だけど……こそこそと何処へ行くつもりなのかしら?」
 何か、特に秘宝を持ち逃げしていないかと警戒しての物言いだったが、逆にハデスは胸を張った。
「こそこそではない! 堂々と戦術的撤退を行っているところだ!」
 堂々と言われてしまったことで、逆にツッコミのタイミングを失ったニキータの袖を、くい、とタマーラが引っ張った。見れば、遺跡を見る目が険しくなっている。ニキータが「どうしたの?」と問いかけるよりも、早く、ゴゴゴ、と地響きのような低い咆哮のような不吉な音が、遺跡の入り口から聞こえてきた。
 遺跡の、崩壊の音だ。

「ちょっとちょっと……これって、かなり不味いんじゃない?」




 同じ頃、遺跡内部では、悔しげに唇を噛み締めながらも、セルウス達は遺跡の出口を目指して、全速力で脱出中だった。
 だが、行きに完全に倒しきれていなかったアンデットたちは今だ顕在で、ララが機動力で蹴散らし、敬一達がパワードスーツの頑丈さを生かして強引に蹴散らしてはいるが、足の速度は否応無く鈍ってしまう。その上、先ほどのナッシングとの対戦のあとということもあり、体力的に皆の疲弊も大きいのが、撤退が遅れている理由のひとつだった。
「トロッコまで辿り着ければ、外まで一気に行けるってのに……!」
 ドミトリエが歯噛みするが、マップで確認してみるとその地点までの道のりは長く、行きと違ってアンデットを避ける道を選んでいる余裕も無い。それに対して、心臓部だった台座からの崩壊は思いのほか早く、崩壊の足音は段々と背中に忍び寄ってきている。
「このままじゃあ、間に合わんぞ……!」
 翔一朗が警戒の声を上げたが「いや」とレンは強い否定の声を上げた。
「諦めるな、あと少しでポイントに到着する!」
「え……?」
 どういうこと、とセルウスが首を傾げると、レンは力強く笑いかけた。
「誰もここで終わらせたりはしない……俺”たち”が必ず皆を脱出させる」
 その意味を問うより早く、「彼女たち」は近付いていた。



「さあて、ようやくの出番ですわよ!」
 同時刻、遺跡上空のシグルドリーヴァは、レンからの救助要請を受け取って、行動を開始していた。
「突入班の要請を確認、マップとの連動開始……突入位置を算出、モニタに出します」
 モニタに表示されるマップとレンの位置情報、そして突入班それぞれのHCの移動速度、そしてシグルドリーヴァの速度等がそれぞれ数値化されていく。最適な突入位置を算出した望がそれをモニタに表示したのを見て、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)は好戦的に目を細める。
「では、ご指示を……お嬢様」
 その横顔に、望はくすりと笑みを湛えて、同じように目を細めて見やると、頷いてノートは算出されたポイントを目視で確認をとり、全艦員に指示を出すと、最後に「ギュルヴィ、腕の見せ所ですわよ」と操舵手の肩を叩いた。
「全速で遺跡龍の背へ接近。ポイントの天井を砕き、強制着陸を敢行しますわ!」
「了解」
 大胆な指示にも、皆から不満の声は出ない。
「当艦は遺跡へ救出へ向います。援護をお願いします」
『了解しました』
 リカインやハーティオン達が応え、シグドリーヴァのルート上に居る小型龍を引きつけて、遺跡から引き剥がしていく。そうして、ルートがクリアになった瞬間。
「今ですわ、全速前進!」
 合図と共に、操舵手ギュルヴィは器用に周辺の遺跡を縫いながら、フルスロットルで遺跡龍の背中に急襲した。暴れていた頃の遺跡とは違い、足を奪われて身動きの取れない遺跡は格好の的だ。望むの算出したポイントに到着すると同時、ノートは次々と支持を飛ばす。
「突入角調整! アルキメディアン・スクリューを前方へスライド完了と共に起動!」
 指示と共に、船体前部に設置された2基のドリルが前方へと突き出されると、ギュルギュルと凄まじい回転音が二重に響際たる。角度をあわせ、ポイントへその先端を向けたのを確認して、ノートがその手を振り下ろした。

「さぁ、噛み砕きなさい!シグルドリーヴァ!」

 


「わあっ!?」
 セルウス達は、突然頭上から聞こえてきた轟音に、驚いて足を止めた。
 内部から聞こえている振動とは違って、その音は外から聞こえてくる。天井を震わせ、みしみしと聞こえてくるそれに不安を抱くなという方が無理な話だ。危険を感じて、何名かが駆け出そうとするのを、レンが押し留めた。
「進むな。危険だ、下がれ……!」
 その声と殆ど同時。何かの砕かれていくような轟音が暫し続いたかと思うと、ゴギャっという音と共に、巨大なドリルの先端が、一同の前に姿を現した。ギュルギュルと回転するドリルが、天井から突き出してくるという唐突な状況に、皆一瞬声を失った。
「な、なんだあれ……」
 呆然と声を漏らす者のいる中、遺跡龍の背中を突き破ったシグルドリーヴァは、そのまま遺跡の中へと船体を入るだけ突入させると、セルウスたちの前へと着陸した。
「お待たせいたしました」
 甲板から姿を現した望に、レンがこくんと頷いて感謝を示す中「さあ、急いでくださいませ!」とノートの声が響く。
「突入の衝撃で崩壊が進んでいるようですの。全員早く、中へ!」
 振り返れば、ドリルの音でかき消されていた背後の轟音は、すぐ傍まで迫って来ている。崩れていく天井を避けながら、全員が飛び込むようにシグルドリーヴァへ乗り込んで急発進させると、殆ど同時。
「見て、崩れる……」
 美羽が独り言のように零した。

 離脱するシグルドリーヴァから見えたのは、遺跡の龍が、心臓であった場所から、まるで皮がはがれていくかのうようにガラガラと崩れて、石塊へと成り果てようとしている姿だった。