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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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錯綜――砲火の中で



「射撃準備完了、射線上に味方機影無し、クリア」
「荷電粒子砲、第一射、撃ッ!」

 
 一声と同時に、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)伊勢の放った荷電粒子砲によって、地鳴りのような轟音を上げた。巻き上がる爆風と爆煙に一瞬遺跡の周囲が隠れたが、流石にその一撃で沈むほど、易しい相手ではない。雲海の龍よろしく姿を見せた巨大な遺跡に、コルセアがモニター越しにその状態を確認して息をついた。
「被弾確認。しかし直撃はしていないようで、表面に多少の損傷しか確認できません」
「巨体の割りに、案外素早いようでありますな」
 吹雪も目を細めるようにして、目視で遺跡を確認し、眉を寄せる。
 距離があったこともあってか、遺跡はその体をうねらせて避けたようだが、流石に大出力の砲撃だ。直撃でなくとも、その表面を幾らか削ってはいる。
「荷電粒子砲による機体への影響はありません。再度エネルギー充填開始。第二射に備えます」
 コルセアの報告に「了解」と母艦であるテレメーアのローザマリアが応えた。
「伊勢はそのまま高度を維持。敵遺跡の攻撃範囲外にて、エネルギーの充填を最優先としてください」
「了解」
 その指示に吹雪が応えると、続けてホレーショが、戦域全体へチャンネルを開いた。
「遺跡龍をこの一帯から逃さぬため、定期的攻撃により周遊を固定化させる」
 そのための退避要請を受けて、指定された射線上から友軍が一時退避したのを確認して、ホレーショはその手を振った。
「グラビティキャノン、撃ッ!」
 号令と同時、発射されたグラビティキャノンが遺跡を襲ったが、これも同じく事前に察知していたのか、その身を捩って直撃は避けたようだった。だが、ホレーショの狙い通り、遺跡の注意はテレメーアへと移り、その進路が引き返すかのように曲がってテレメーアへと向ってくる。
「敵機接近。全速で九時の方向へ後退」
 ホレーショが指示を出したが、遺跡龍が口を開く方が早かった。ゴウッ、と炎を纏った岩がテレメーアへ向けて発射されようとした、が。その瞬間。
「させないよ!」
 叫ぶようにして一機、双方の間に飛び込む影があった。
 キャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)が乗り込むアウクトール・ブラキウムだ。岩の射線上に踊り出たアウクトールは、エネルギーシールドを展開してテレメーアへの直撃を遮った。当然、機体が大きく振動したが、構わずに続けざま、ヴリトラ砲を放って第二射を牽制すると、その間にテレメーアが一端上空へ退避するのに付き添うと、トーマスはふうっと汗拭いながら息をついた。
「無茶をさせますわね……」
 機体が破損したらどうするつもりなんですの、とトーマスは口を尖らせたが、キャロラインは「そんなの」と軽く笑う。
「これで艦隊が守れるなら、安い買い物だよ」
「有難いけど、無理は禁物よ」
 そんなキャロラインに、ローザマリアが苦笑するようにして言った。
「簡単にはいかない相手だわ。総攻撃のタイミングまで、ダメージは最低限に抑えて」
「了解」




 同時刻、第一部隊の面々よりやや高度を下げた、巨大遺跡群直上の領空では、遺跡へ相対する者達への影響を与えないため、群れを成す小型龍達と応戦していた。

「よし、何時でも行けるぜ」
 アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が操縦するウィスタリアの整備ドッグで、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の乗るゼノガイストの整備を行っていた柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)がが、ぐっと親指を突き出した。
「了解。情報管制、機体制御、全て問題ありません」
 その言葉に、ヴェルリアが答えて、ゼノガイストを起動させ、ヴウン、と両肩のビームシールドがまばゆい光を放ち始めた。
「ゼノガイスト――出る」
 合図と同時、ウィスタリアの中央胴体部分の脇から、カタパルトを使って射出されたゼノガイストは、その勢いにエナジーバーストを加味させると、一気に小型龍との間合いを詰め、ガトリングシールドで一体屠るとすぐさま反転して離脱し、小型龍の群れを眺めた。
「数が多いな……とは言え、一対多数でやりあえる相手ではない、か」
 呟いた真司に「そうですね」とアルマが答えた。
「かといって、長引かせれば調査団達への影響が出ないとも限りません。出来れば、一網打尽にしたいところですね」
 その言葉の意図を悟って「やってみるか」と頷いた真司に「要するに」と声をかけたのは、魂剛を駆る紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。
「あいつらをおびき寄せればいいんだろう?」
 そういうことなら力を貸すぜ、と続けると、それならばと{ICN0004907#【剣の女帝】キシオムバーグ}の操縦席からも声が上がった。
「協力するついでだ。この機体の性能調査を兼ねて、暴れさせてもらうとしよう。まずは……耐久度テスト、だったか?」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が尋ねるのに、ユリエラ・ジル(ゆりえら・じる)が頷いた。
「はい。多数の敵からの遠距離攻撃に対する耐久性テストです」
「それは好都合」
 言うが早いか、真司達が「おい」と声をかけるより先に、その機体を小型龍の群れの傍へと躍らせた。
 当然、小型龍達は一斉にその口をキシオムバーグへと向けたが、その状況こそテストには丁度良い、とばかりに機体は停止すると、小型龍達が発射する炎を纏った岩石にその身を晒した。ビーッとモニターにダメージを告げる赤い文字が点滅するが、ユリエラの目は冷静なままだ。
「物理によるダメージ、測定、終了。装甲の損傷率、計測……完了」
 データを事細かに保存し、そのダメージ率が30%を超えたところで、ユリエラは「さあ、次です」とモニターを切り替えた。
「では、セリス様……接近戦での性能のデータ収集に移行します」
「了解だ」
 その言葉を合図に、自分をターゲットした小型龍が近付いて来るのに、剣を構えて迎え撃った。


「無茶するぜ……」
 その戦いぶりに唯斗は息をついたが、ぼんやり見学していたわけではない。セリス等とは別に、小型龍の群れに接近すると、その機動力を生かして、その間を縦横無尽に駆け回っていた。
「四十度右から二体、真後に一体、続けて左右から同時に各一体……来るぞ」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の声に従い、その軌道の丁度隙間に入るように体を捌かせ、すれ違いざまに二刀がその胴を抉る。ひとつ振るうごとに一機、二機、とを斬り、それらが反転するときには飛び離れて距離を取り、次の獲物へと狙いを付けていく。
「は。大層な数よ……此奴らの統制が取れていたら面倒であったな……次、後ろ」
 エクスの言葉に頷き、その間に接近した小型龍の頭部を、腕だけを後ろへ突き出して貫きながら、その刀を起点に魂剛を反転させて、胴を中心から叩き斬った。
「いずれにしても、この数じゃあ面倒は面倒だぜ」
「なあに、一騎当千を体現して見るのも良かろ?」
 エクスはくつりと笑ったが、唯斗は肩を竦めてモニターを見やった。そこには、彼らとは又別方向で飛び回るひとつの機影がある。ゼノガイストだ。こちらは、攻撃より回避に主体を置いたまま、何かを図るように小型龍の群れの間を飛び回っている。
「三体目、接近、距離20……砲撃、来ます」
 回避の合間にもパターンを掴んだヴェルリアに応え、真司は機体の軌道を僅かに変えてそれをかわし、僅かに距離を取った。見回せば、いつの間にかゼノガイストの周囲は小型龍が密集するように集まってきている。絶対絶命、とも呼べる状況だった、が。
「誘導完了。全員、離脱してくれ!」
 それを合図に、三機は一斉に全速でその場を離れた。直後。
「チャージ完了。グラビティキャノン発射します」
 アルマの一声と同時に、ウィスタリアのグラビティキャノンが、小型龍の群れを飲み込むようにして放たれたのだった。




「よさんかい、その装備では流石に危険じゃ」
 そうやって激しい火花が戦場のいたるところで上がっている中、小型飛空艇で、突っ込んで行こうとする笠置 生駒(かさぎ・いこま)に、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は呆れと焦りの両方で諌めるように声を上げた。相手は、遺跡と比べれば確かに「小型の龍」だが、生身と比べればそれでも巨大な相手である。その密集地に飛び込むのはあまりに無謀だと諭すが、生駒は眉を寄せた。
「倒しにいくわけじゃないよ、撹乱しに行くだけ」
 味方の援護だから大丈夫、とは言うが、ジョージは「いかん」と首を振った。
「撹乱まで行かなくても、群れに隙間を作ることは出来ないか?」
 見かねたように声をかけたのは、フォレストドラゴンカトゥスに乗った鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。
「どうするの?」
「群れが乱れたところを、一体ずつ引き離して、倒す」
 そう言って、尋人は右往左往と統制の無い様子で遺跡龍に群がる、小型龍達を見下ろした。
「例え倒せなくても、一匹でも多く遺跡から引き剥がせば、黒崎……突入組も行動し易くなるはずだ 」
 つい口走った名前を飲み込んで修正したが、生駒にはその辺りは聞こえていなかったようで「わかった」と頷いた。
「私たちも協力するわ」
 そんな二人の通信を拾って、申し出たのは成田 樹彦(なりた・たつひこ)と共に{ICN0004965クルキアータ(天御柱仕様)}に搭乗する仁科 姫月(にしな・ひめき)だ。
「遺跡から引き離すんあら、手は多いほうがいいよね」
「助かる」
 尋人は素直に頷いた。相手が小型とは言え、それはあくまで「遺跡龍と比べれば」の話だ。カトゥスに余り無理をさせないためにも、火力を持つイコンの協力は有難い。互いに合図を交わし、小型龍の群れの中に、視線をばらけさせるように生駒が銃弾を撃ち込んで、そこへ姫月がウィッチクラフトピストルで更に混乱を誘発させて、一体一体の進路を狂わせると、その間をカトゥスがすり抜けるようにして龍をおびき寄せ、細かく千切るように群れを分断していく。
「散開させる時は、方向に注意して」
 そんな中、清泉 北都(いずみ・ほくと)アシュラムで応戦し、クナイ・アヤシ(くない・あやし)がモニターに拡げた戦況マップを確認しながら、同じように調査団の護衛として立ち回る面々へと声をかけた。
「特に、エリュシオン側へ流れるのは絶対防がないと。荒野の王のイコンがどれほど強力かは判らないけど……」
 その言葉に、尋人は「「ドージェの再来」……かふざけてるな」と小さく言って僅かに眉を寄せた。
 ドージェの弟、ウゲンと同じ学舎での縁があり、ドージェ自身へも信頼を抱く尋人は、その再来、という肩書きに複雑な思いがあるようだ。
 そんな尋人に「実情はどうあれ、彼が今のエリュシオンの代表のつもりでここに来ているのは間違いない」と北都は続ける。

「手を煩わせるわけには行かないよ。シャンバラのイコンはこんな物か、なんて思われたくないからね」






 地上で小型龍の掃討戦が行われている中、上空でその様子をモニタリングしていたローザマリアは、情報を各通信担当者へと送っていたが、自身の表示させているデータの違和感に、思わず眉を寄せた。

「小型龍の散開を確認……でも気のせいかしら、討伐数に対して、残機が減っていない気がするわね」
「詳細を報告して頂戴」
 思わずと言った調子で漏れた、その呟き拾ってのスカーレッドの通信に、応えたのは後方寄りに、調査団の護衛に回るマルコキアス源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。
「掃討部隊、小型龍群との交戦を継続中。ですが、少々、妙ですね」
 そう報告して、鉄心は小型龍の移動ルートをマップ上に表示させた。
「数が一定数から増加した気配はありませんが、上がってきている撃墜情報に対して、減少が見られません」
 味方イコンの絶対数が少ない、というのもあるが、入ってくるデータを見る限りでは、攻撃力、防御力共に優勢なのはこちら側であるのに、小型龍の数は減っていない。無機物であるが故に、多少の破損はダメージとならないのだとすれば厄介だ。
「また、小型龍は、遺跡本体とは別に、各体ばらばらの進路を取っているようです」
「狂ってるっていて見境ない、っていっても、遺跡を守る守護者なんじゃないの?」
 生駒が首を傾げると、
「何者かが操っているのかもしれん」
 と尋人のパートナーである呀 雷號(が・らいごう)が言うのに「あるいは」と鉄心が引き取る。
「こちらはこちらの、別の優先事項があるのかもしれません」
「サンプルが取れれば、調べることは出来ると思いますが」
 ツライッツが口を挟む。
「判りました」
 その言葉に頷いて、鉄心はモニターにマップを表示させると、その上へ時機のマーカーと、小型龍達の移動予測ルートを表示させた。内、一体にターゲティングされた機体マークが、遺跡群の通路の間を通り抜ける。そこに明滅しているのは、足止め用の電磁ネットだ。
「このポイントまで誘い込んで、可能であれば捕獲します」
「出来れば、余り破壊したくないですものね」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が同意する。本体と思われる遺跡龍に比べて、小型龍は暴走している、というよりはもっと機械的だ。今は何であれ、元々は遺跡なのだ。残せるものなら残したい、という言葉に頷いて、サブパイロット席を見やる北都の目線を受け、クナイは自機のモニターにマップを広げる。
「それから、突入の邪魔にもならないようにね」
 頷き、クナイは、上空から戦線を把握しているだろう、ローザマリアのテレメーアに向けて通信のチャンネルを開いた。




「あの子たち、ちゃんとお留守番してるのかしら?」
 一方、自慢のドライビングテクニックを駆使して大型輸送用トラックで遺跡たちの隙間を走り回るニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)が思わず呟くのに、タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)が「多分」と小さく呟いた。ヒラニプラ商店街の精 ニプラ(ひらにぷらしょうてんがいのせい・にぷら)三毛猫 タマ(みけねこ・たま)は、発進前にそれぞれ「わかったアルよー」「ニャーゴ」と応えて、拠点に残ったのだ。今頃は永谷達の手伝いをしているところだろう。
「挨拶は、出来た?」
 その問いにも、こくん、とタマーラは頷く。お互いが急いでいたために余り時間は無かったが、遺跡の中へ向うディミトリアス・ディオン(でぃみとりあす・でぃおん)と、その傍にいたプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)と、直前に挨拶は出来たらしい。
「それと、これは……反応はしなかった。けど、繋がっている、感じがする」
 タマーラの持つアルケリウスの欠片は、ディミトリアスの魂を繋いでいるそれと同じものだ。それが、彼らの繋がりを示しているようで、タマーラはアルケリウスの欠片をぎゅっと握り締めた。
 そんなタマーラの横顔をちらりと見やって目を細めたものの、ニキータはバックミラーに視線をやって、眉を寄せた。
「それにしても……追って来ないわねぇ」
 遺跡へと急接近し、視認されたところで離脱するという方法を取っているのだが、最初は追ってくるものの、ある程度まで距離が開くと、関心を失ったようにターゲットから外してしまうのだ。
「追いかけっこに乗ってきてくれないなんてつれないわね」
 呟いたが、その表情はやや険しい。とりあえずは目視によって対象を認識していることや、戦力と判るもの、接近するものに反応を示すことは判ったが、その判断基準がまだはっきりしない。接近する者が最優先なのか、それとも攻撃者が最優先なのか、あるいは優先事項がそもそも無いか。
「それが判らない限り、道は見つからないわね……」
「それなら、確かめてみるまでです」
 そんなニキータの呟きにも似た言葉に、遠野 歌菜(とおの・かな)が答えた。
「道が無ければ作るのみ、ってな」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)も頷き、二人が乗るセタレは遺跡へと接近を試みた。幸いと言うべきか、遺跡は目を使って動いている。増設スモークディスチャージャーによって吹き出された煙に紛れ、その足元まで近付くことに成功すると、改めてその巨大さに息をついた。
「……足は四本……か。何も知らなければ、ただの龍だと思ったろうな」
 羽純の呟きに頷きながら、その横腹にそってセタレを飛行させていた歌菜は、そういえば、と呟いた。
「見た目が龍だからあんまり気にしていなかったけど……どうやって飛んでるのかな」
 その言葉に、接近した際に観察した遺跡の全体図を思い出して、確かに、と羽純も首を捻った。
「羽も無いようだし、重力装置みたいなものもなかったな……まあ、こんなデカブツが”生きて飛んでる”のがもう、規格外だが」
 最もな感想に、歌菜も少し笑いつつ「とにかく」と思考を切り替えた。
「まずは、あの巨大な尾や腕の動きを止めないと……近寄れないわ」
 そう言い、接近した前足を狙って、セタレはマジックカノンによる砲撃を開始した。的が大きい分、当てるのに苦労は無かったが、問題はその後だ。流石に攻撃を受ければ、身を隠していても敵に気付く。遺跡龍は、身を捩るようにしてその足を、水をかくような力強さで足元で暴れる敵めがけて振りぬいた。
「っ、危なかった」
 歌菜がとっさに機体を急発進させ直撃を避けた中、羽純はその攻撃にふと気付いたように目を細めた。
「……水を泳ぐ魚と、原理は同じか? なら……」



 一方。
 オプスキュリテに搭乗するフィサリス・アルケケンジ(ふぃさりす・あるけけんじ)は、やや離れたままの位置から、緊張を押し殺すように遺跡を眺めていた。
「……敵は動く要塞って考えればいいのかな? えっと、動くって事は当てるのが難しいって事だよね?」
「そうやね」
 確認とも独り言ともつかない言葉に、拾志祀 惹鐘(じゅうしまつ・ひきがね)が相槌を打った。それに背中を押される形で、フィサリスは続ける。
「オプスキュリテの装備は遠距離というより中距離が基本だから、えっと……もうちょっと間合いを詰めるしかない、よね」
 言いながら、その顔はあまり冴えない。自分の力量では、それが難しいだろうと言うことを、フィサリスは良く理解しているのだ。だがそれでも、とこの場に立っているのは少しでも皆の役に立ちたいからだ。
「……攻撃を当てられないなら、せめて足止めするしか……ない、よね」
「それでいいんやね?」
 うん、と頷いてから、フィサリスは眉根を下げた。
「フィサリスは駄目な子だから……このくらいしか出来ないし。惹鐘を巻きこんじゃうのは……気が引けるけど」
 その言葉に、はあ、と惹鐘は溜息を吐き出した。
「自分の事駄目とか言っちゃあかんで。そういうとなんもかも駄目になってしまうん」
 そう説教してから、眉根を下げたままのフィサリスに笑いかけた。
「大丈夫や、フィサリス。ボクは最後まで付き合ったるわ♪」

 そんな彼女等とは対照的なのは、カリプテ・ヘレナを駆る関谷 未憂(せきや・みゆう)リン・リーファ(りん・りーふぁ)の二人だ。
「久々にー、マジックカノンがー火をふくぜー♪」
「うう……不安だわ……」
 嬉々として操縦桿を握るリンに対して、サブパイロット席で顔色が優れないのは未憂だ。何しろ、このパイロットはアルカンシェルに突撃したり、アンサラーに向かって特攻したりと、何かとよく言って大胆なことをしでかすきらいがあるため、共に搭乗する未憂にしてみれば、乗るたび寿命が縮む思いを味わされているのだ。今回もどうせそうだろう、とは思いつつも、放っておけないので、不安と諦めの半々で、未憂は息をついた。
「ね、判ってる? 目的は、突破口を開くことだからね」
「判ってるって」
 にっこり笑ったリンに、今度こそはと思った未憂だった、が。
「要するに、遺跡をぶっつぶして止めちゃえばいいんだよねー♪」
 案の定と言えば案の定の回答に、未憂はがっくりと項垂れた。だが、そんな二人にローザマリアが苦笑と共に割り込んだ。
「余り深入りはしないでください。必要なのはデータですから……今のところは」
 その通信を天の助けと、未憂は嬉々として「了解っ」と答えると、リンを見やって、言い含めようとするようにじっと見つめた。
「わかった? 深入りはダメよリン」
「はいはい、わかってるよ――今のところは、ね」