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サンサーラ ~輪廻の記憶~ #3『遥かなる呼び声 前編』

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サンサーラ ~輪廻の記憶~ #3『遥かなる呼び声 前編』

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▽ ▽


 ルクミリーが目を開けると、安堵した表情のグリフィンがいた。
「……あら?」
 私、どうしていたのかしらと首を傾げる。
 ベッドから起き上がったルクミリーは、グリフィンの優しい手に支えられた。
「大丈夫かい?」
「私、いつの間に寝ていたのかしら? 確か……」
「ルクミリー……」

 グリフィンが帰宅した時、ルクミリーは家の中で倒れていた。
 傍らには、グリフィンが贈ったペンダントが粉々に砕けている。
 ツェアライセンに襲撃された時、彼の魔力が込められていたペンダントが分身を作り出し、ルクミリーの身代わりになったのだ。
 無事でよかった、と、グリフィンはルクミリーを抱きしめる。
 ルクミリーは、少し何かを考えるようにした後で、自分もグリフィンを抱きしめ返した。
「おかえりなさい、グリフィン。すぐに食事にするわね」

 グリフィンは、この事件を機に旅をやめた。
 助かったとはいえ、倒れているルクミリーを見た時は心臓が凍った。
 何よりもまずは、彼女を守ることが第一だった。
 これまでの活動が、未来に繋がって行くことを信じて、グリフィンは、最後の時までルクミリーと共に過ごすことを決めたのだった。


△ △


「書より恋人を優先してたから奪われたんじゃないの、でしたっけ」
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)の呟きに、リンネが振り向いた。
「……まだ気にしてるの? 今度は護れたんだもん、次だって大丈夫だよ」
 リンネの言葉に、博季は笑う。
「気にしてはいませんよ。ですが、優先するのは当然でしょう。
 僕はいつだって、愛するリンネさんが最優先です」
 何を投げ捨ててでも、リンネを護れるのは自分だけ。
 その為だったら、汚名だろうが泥だろうが岩だろうが、歓迎する。
 博季の言葉に、リンネは少し、困ったように微笑んだ。
「……そっか。リンネちゃんが一緒の時は、博季くんに大事なものを任せたら、駄目だったんだね」
 それから、気を取り直すように、笑顔を見せた。
「でも、リンネちゃんは絶対安心だね! いつもありがとう。頼りにしてる!」



 持ち直した、と思っていた。けれどそれは錯覚だった。
「また来るって言ってたよな、あの野郎……。『書』の方で待ち伏せてみるか」
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、イデアと、彼の仲間の再来に備え、その近くに待機していようか、と考える。
「奴が連れてた連中は……『覚醒』した人、なのかな……」
 眠る度に夢を見て、夢を見る度に、自分ではなくなって行く気がしていた。
 安らかでない眠りが続いて、疲れる。

「……ま、燕馬、聞いていますか!?」
 パートナーのサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)の声に、意識が引き戻された。
 今は精神感応による定時連絡の真っ最中だった。
「うるさいですわね、もう……寝起きにそんなギャーギャー騒がないでくださいな」
「――!」
「ん、どうしたサツキ、何かあったか?」
「もう騙されてはいられません。すぐそちらに向かいますので」
 焦ったような怒ったような、有無を言わせないそんな口調で、一方的に通信が切れた。
「は? え、ちょっと、オイ!?」
 何を怒っているんだろう、と、燕馬は首を傾げる。
「俺、何か変なこと言いましたかしら」


▽ ▽


「此処は……」
 ヤミーは目を見開いた。
 今日も今日とて、最も重要なお昼寝を堪能すべく、マストポイントを探してフラフラしていたヤミーは、謎の施設を発見したのだった。
 ふと興に乗って潜入し、数々の警備兵や警備システムを、かいくぐったり破壊したりして探索し、ついには中枢まで辿り着いてしまった。

「アーカーシャシステム……?」
 それは、世界そのものを一個の生命と捉え、その意識にアクセスし、命令を書き込むことで世界を改変する、というシステムだった。
「何ですの、このトンデモシステム」
 しかし調べを進めてみて、この機能が起動可能であることに、ヤミーは気付く。
「……ふふ」
 思わずほくそ笑んだ。
 野望を叶える、これは絶好の機会だった。今こそ、実現の時である。
「そう、『昼寝帝国』の誕生ですわ!」
 そうそれは、誰も悲しまず、争わず、殺さず殺されず、ただ皆が笑って昼寝そていればそれでいい世界。
「ああ我ながら、なんとも素敵な思い付き。
 戦争に飽いた皆様も、きっと同意してくださいますわね」
 自分が働きたくないからなどでは決してないようなあるような。
 とにかくそう確信し、システムを起動させ――ようとした、ヤミーの身体を、背後から剣が貫いた。
「――っ!?」
「探したぜ」
 更にその剣を根元まで突き刺し、背後から、そう声をかけたのは、ジョウヤだった。

 ヤミーに殺されかけ、瀕死のジョウヤは、此処が戦場であることを利用し、周囲の、今や死にそうな者達を、敵味方問わずにとどめを刺し、生命力を吸収して、何とか命を繋いだのだった。
 そうして、自分を後ろから攻撃したヤミーへの恨みを晴らすべく、彼女を捜し続けていたのだ。

 思い切り引き抜かれた剣に、ヤミーはぐらりと体勢を崩し、何とか振り返る。
「借りは返すけえ」
「いい所で、邪魔をなさいますのね……」
 急所への攻撃。既にヤミーの目はかすんでいる。
「ふ、ふふ……目が覚めていても、どうせ皆殺しあうだけですのに……こんなクソったれな世界が、そんなに大事ですの?」
 どさ、と倒れて、息絶える。
「知らんわ」
 その死骸に向けて、ジョウヤは言った。
「ワシがしたいんは、その殺し合いじゃけえ」


△ △


 世界が滅亡する。
 偶然出会ったタスクから、その事実を聞いたアマデウスは、ひとつの決心をする。

「と、まあこんな感じで、前世の世界は大変な危機に瀕していたのですわ」
「うんまあ……前世の話は信じるけどさ」
 ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)の、主に前世の自分の容姿を事細かく語りながらの説明に、パートナーの十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、曖昧に頷く。
 今年の夏は暑かったからなあ、などと考えていることはヨルディアは知る由もない。
「別に前世の姿に戻らなくても、ナイスバディーにはなれるんじゃない?」
「どうやってですの?」
「例えば、胸パッ――グフッ!?」
 右アッパーによる気合(物理)が綺麗に入り、相変わらず乗り気でない宵一と共に、ヨルディアは『書』を護る為の作戦に入る。
 勿論、全て話し合い(物理)によって、前世の姿に戻れる方法を聞き出す為だ。

 最も、すぐにヨルディアは、前世の自分との同調によって、前世のアマデウスがこの世界に甦るという事実を知るのだが。
 だがそれは、現世のヨルディアの死と引き換えという、もうひとつの事実と共に、だった。


▽ ▽


 ガエルの死に、ケヌトは戦場から撤退した。
 親友を、戦場に打ち捨てて行くことはできなかったからだ。
 死んだガエルは、魔剣の姿に戻って砕けた。
 その戦場から程近い荒野の一角に、ケヌトはガエルの墓を作り、弔う。
「一人になっちゃったじゃんか……」
 何にでも首を突っ込みたがり、立場が悪くなると大蛇に変身して逃げるような、後先考えないじゃじゃ馬娘だったが、実は寂しがりやだった。
 そんなケヌトが一人でいると、必ずガエルが何処からかのそりと現れて、無言で側に佇んでいるのだ。
 墓の前で、ケヌトは暫く動くことが出来ず、ただひたすらに泣いた。


△ △


 龍王の卵の採掘場で、東 朱鷺(あずま・とき)は、足元の卵岩に呪符をぺたぺたと貼り付けていた。
 貼り付けた呪符を見渡して、ふむ、と呟く。
 それは、朱鷺の名前の形に貼りつけられていた。

「何なんだ、これは?」
 イルダーナが現れ、呪符だらけの足元を見て言った。
「【結界】を施しました。これで、遠隔呪法の類は防げます」
 ついでに八卦術のアピールも完璧だ。
 惜しむらくは、この大アピールを見てくれる人がいないということか。
 採掘場には現在、街の者の立ち入りが禁じられているし、他の契約者達は、皆『書』の護衛とイデアを迎え撃つ為に崖の上の宮殿に集まっているのである。
「卵をサイコメトリしてみましたが、何だかよく解りませんでした」
 視えたのは、一人の女を含めた数人の怪しげな者達が、卵の上を歩き回り、魔法で何かの紋様を書き込んでいる様子だ。
 他愛ない会話はしていたが、事件に関わりのありそうなことは何も言っていなかった。
「仕方がありません。朱鷺はこのまま、ここで待機します。その内向こうからやってくるでしょう」
「俺もそうは思うが」
 イルダーナはそう言いつつも、何やら難しい顔で考え込んでいる。
「……来ることは解ってる。問題は……」