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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「というわけで、目的地は西にある遺跡だそうです。位置データを送りますよ」
『了解。むこうで会おうぜ』
 今後の方針が発表になってすぐ、紫月唯斗がニルヴァーナにいる朝霧 垂(あさぎり・しづり)に連絡を入れた。
「さて、行くぞ、ライゼ」
 返信をした朝霧垂が、サブパイロットシートのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)に言った。
「どうぞ」
 ライゼ・エンブが答える。
「走れ、黒麒麟!」
 武者ケンタウロスをベースとした炎の鬣の漆黒の巨馬が、ニルヴァーナの大地に蹄の音を轟かせながら疾走していった。
 
    ★    ★    ★
 
「よう。ちゃんと連れてきてやったぜ」
 滑走路近くに停泊した簡易移動ラボから降りてきた猿渡剛利が、出迎えた鳴神裁たちと鬼頭翔たちに言った。
「おお、すまなかったな。なんとか、特訓の完了は間にあったか。では、さっそくだが、特訓の成果を見せてもらおうか。……どうした?」
 猿渡剛利に礼を言った鬼頭翔が、さっそくポントー・カタナブレードツルギに言った。だが、バニーガールならぬタヌキガール姿のポントー・カタナブレードツルギは、何やら内股でもじもじしている。
「そんな、いきなりだなんて……。初めてだからやさしくしてくださ……ぶべら!」
 皆まで言わせず、鬼頭翔がポントー・カタナブレードツルギにパンチを入れて吹っ飛ばした。容赦ない。
「ちょっと待て、いったいどんな特訓をしてくれたんだ!?」
「ちゃんとした、女の特訓だが、何か?」
 問題でもあるのかと、佐倉薫が飄々と答えた。
「ええっと……。とにかく、馬鹿なこと言ってねえでとっとと変身してみろや、ポン太」
「ポン太って男の名前じゃないですか。やだー! せめてぽん娘って……いたいいたいいたい。こめかみぐりぐりするのはやーめーてー」
 いきなりポン太と呼ばれてへそを曲げかけたポントー・カタナブレードツルギが、鬼頭翔に頭をぐりぐりされて悲鳴をあげた。
「おお、そうかそうか、ではポンコツとっとと変身しろっての!」
 仕方なさそうに、ポントー・カタナブレードツルギがひょいとバク転して、煙と共に長ドス型に変化する。
「ふむ。持った感じは、なかなか……」
「あん♪」
 変なポントー・カタナブレードツルギの反応に、鬼頭翔が、つかつかと滑走路脇の野生生物のうんちに近づいていく。そのまま、無言でポントー・カタナブレードツルギの切っ先をうんちに近づけた。
「やーめーてー。しくしくしく……」
 勘弁してくださいと、ポントー・カタナブレードツルギが泣きだした。刀身が、しっとりと涙に濡れる。
「うん、抜けば玉散る氷の刃……。そういうことにしておこう」
 そう言うと、鬼頭翔はポントー・カタナブレードツルギを引っ込めて元の人間体に戻した。
「にっしし、よう裁、お前さんに頼まれてたこれできたぜー」
 三船甲斐が、黒子アヴァターラマーシャルアーツと何やら巨大なつつみを前にして鳴神裁に話しかけてきた。
「おっ、甲斐ちー、ブラックさんの訓練も終わったんだね。じゃ、さっそくさっそく装着っと……」
 ニコニコしながら、鳴神裁が黒子アヴァターラマーシャルアーツに言う。
「あわわわ、もうですか。ええっと、えい!」
 かしゃこんかしゃこんと黒子アヴァターラマーシャルアーツが変形していき、とりあえずブーツを形成する。今のところまでの特訓では、まだこれが精一杯らしい。本来は、手足を被う格闘武装になる予定だ。
「装着♪」
 鳴神裁が、パワードスーツの足の部分を外して黒子アヴァターラマーシャルアーツを装着した。
「そうそう、これもだったな」
 そう言って三船甲斐が渡したパワードスーツ用特化格闘セットを、鳴神裁がその上から装着する。形状は、完全に猫パンチグローブと猫足ブーツだ。
「可愛い♪ でも、せっかくのブラックさんが見えなくなっちゃうのが難点かにゃあ〜」
 軽く身体を動かしてみて、違和感のなさを確認しながら鳴神裁が言った。
「ところで、その後ろの荷物は何?」
「何って、頼まれてた荷電粒子砲だが、何か?」
 いい物だろうと、三船甲斐が巨大なコンテナをポンポンと叩いた。
「へっ、粒子砲!? まーちーがーえーたー……」
 鳴神裁が頭をかかえた。撃針を買ったはずなのに……。仕方ない、これはあれにでも積み込むしかないだろう。
「まったく、よく確認しないで通販なんか頼むからだ」
 自分が運んできたことは棚に上げて、猿渡剛利が言った。
 
    ★    ★    ★
 
「ここか。こちらバルムング。着艦許可をくれ」
 ニルヴァーナでのイコンの演習中に話を聞きつけた猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が、ゲートに停泊しているフリングホルニを見下ろして言った。バルムンクは、スフィーダタイプのイコンである。
「着艦許可でました。右滑走路でございます」
 フリングホルニからリカイン・フェルマータに指示されて、セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)が言った。
「よし、着艦するぞ」
 猪川勇平が、バルムンクを右滑走路へと着艦させる。初めて見るフィールドカタパルトが、スムーズにイコンを停止させる。
 出港に合わせて、周囲を警戒していた斎賀昌毅のフレスヴェルグが、空いている左滑走路に着艦した。土佐がアディティラーヤへ行ってしまったので、母艦をフリングホルニに変更したのだ。
 リフトで下に降りたバルムンクと入れ替わるようにして右滑走路に現れた佐野和輝のブラックバードが、高高度に位置するために発進していく。
 続いて、仁科姫月のクルキアータがフリングホルニから発進する。さらに、十七夜リオのメイクリヒカイトが発進して艦隊の護衛として上空に着く。
「さあ、行きますよ。四人での初仕事です」
 滑走路に止めてあったE.L.A.E.N.A.I.を、非不未予異無亡病近遠たちが発進させた。人数の増えた分、ブラックバードと連携して周囲の索敵に着く。
 イコンが展開したところで、満を持したように夜刀神甚五郎のバロウズとローグ・キャストの応龍弐式の二機の応龍タイプが、艦隊に先行して発進した。先頭に立って、露払いとなる位置だ。
 続いて、最初の艦船としてアルマ・ライラックのウィスタリアが発進する。すでに通常形態に戻っており、曳航していた大型飛空艇も分離している。
 その次に、フリングホルニが発進した。ウィスタリアの後方、最終的な艦隊の中央になるような位置につける。
 それを合図にして、大型飛空艇が次々に空港を発進した。警備としての高崎朋美のウインダムを甲板に立たせたカル・カルカーのハーポ・マルクス、三船甲斐の簡易移動ラボ、閃崎静麻のツインウイング、エリシア・ボックのオクスペタルム号がフリングホルニを環状に囲むようにしてフォーメーションを組む。
「先に行くからな、すぐに追いついてこいよ〜」
 サツキ・シャルフリヒターに、新風燕馬が言った。
「じゃあ、出発するのだよ」
 ロイヒテン・フェアレーターに新風燕馬を乗せると、ザーフィア・ノイヴィントが、シュヴァルツガイストから発進した。
 それを確認してから、シュヴァルツガイストが最後尾に着く形で空港を後にする。
 未だ黒乃音子の巡洋戦艦アルザスとフラン・ロレーヌのアストロラーベ号が到着していなかったが、これ以上時間をかけているわけにもいかない。前回の会戦では、全艦船の集結を待っていたために、敵に後れをとっていることもある。目的地のデータなどを、後に残ったブルタ・バルチャに託して、艦隊は遺跡へと急いだ。