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リアクション
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「そろそろ出発だな」
合流する予定のセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)がまだこないので、無限大吾がちょっと心配そうに時計をのぞき込んだ。
すでにゲートの開放許可はででいる。空港で思い思いに休んでいた者たちも、そろそろフリングホルニや他の艦船に乗船しつつあった。
「はーい、来ましたよー」
「セイル、こっちだよー」
ちょこまかとかけてくるセイル・ウィルテンバーグを見つけて、西表アリカが大きく手を振った。
「よかった、間にあったか」
ほっと安堵の息をつくと、無限大吾はセイル・ウィルテンバーグと西表アリカを伴ってフリングホルニに乗船していった。
★ ★ ★
「きたきた。これで勝てるわね」
「ええ。最新の2.5世代機でござるからな」
フリングホルニの甲板で、天貴彩羽とスベシア・エリシクスは、夜愚 素十素(よぐ・そとうす)の運んできたマスティマを出迎えていた。
クルキアータをベースに、新規開発された2.5世代の最新鋭機だ。漆黒の細いボディに、左右のバインダーが特徴的である。BMIを搭載して、高いステルス性能も併せ持った電子線特化機である。
続いて、トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)とキャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)の乗るアウクトール・ブラキウムがフリングホルニに着艦する。
こちらはドゥルガーをベースにしてはいるが、巨大な複合型連装バインダーキャノンと、それをささえる強化された脚部が特徴的だ。
マスティマとアウクトール・ブラキウムがリフトでイコンデッキに降りていくのを待って、仁科 姫月(にしな・ひめき)と成田 樹彦(なりた・たつひこ)の乗るクルキアータ(天御柱仕様)が着艦してイコンデッキへとむかった。
最後に、ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)、フルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)、ユーノ・フェルクレーフ(ゆーの・ふぇるくれーふ)の乗る応龍弐式【爆撃型】が、フリングホルニの甲板に着艦してそのまま固定された。
乗員の方は、アトラスの傷跡から乗っていた者たちに加えて、緋王輝夜、アーマード・レッド、ネームレス・ミストらが新たにフリングホルニに乗り込んでいる。
★ ★ ★
「ゲートの通過を許可できないって、どういうことなんだもん?」
空港では、黒乃音子がゲートの監理官に食ってかかっていた。
「規定サイズを超えています。安全上、ゲートの使用は許可できません」
きっぱりと監理官が言い放った。
巡洋戦艦アルザスは、公称で全長が500メートル、全幅が70メートルある。当然のように全高は100メートルを超えていた。
「これは、多少の改修作業が必要ですな。なんとかしてみましょう」
フランソワ・ポール・ブリュイが、黒乃音子をなだめた。
図面を元に、監理官と相談する。艦橋アンテナ部を取り外し、アストロラーベ号に極低速で曳航させ、細心の注意を払うということでなんとか許可を取りつけたようだ。
それでも、かなり強引な要求である。もしもゲートに損害を与えた場合は、全責任を負うという宣誓書つきとなっている。もっとも、もしそんなことになってしまったら、国軍を名乗っている以上、軍法会議どころの話ではなくなるであろうが。禁止されていることをあえて行うのであるから、最悪シャンバラ刑務所に無期限拘留されかねない。
だが、出発が大幅に遅れたため、当初予定していたフリングホルニらの艦船の見送りが実現できることとなった。
大急ぎで改修を進める巡洋戦艦アルザスのブリッジで、黒乃音子とフランソワ・ポール・ブリュイが敬礼しながらフリングホルニらを見送った。本来であれば、甲板に楽団の一つも用意したいところではあるが、回収作業中のためにそうもいかない。当然、空港が近いので空砲も御法度だ。
ゲート近くは、侵入する艦船だけが安全距離を保って待機している。ゴアドー島の空港からはかなりの距離があった。
随伴予定のアストロラーベ号でも、フラン・ロレーヌとフルリオー・ド・ラングルが艦隊を見送っている。同様に、パラミタ内海から駆けつけたジェニー・バール(じぇにー・ばーる)とジャン・バール(じゃん・ばーる)のル・アンタレス号もアストロラーベ号とならんでいた。
「それにしても、ゲートってどうやって発生しているんだろ。もっと拡大できる方法があれば、大型艦も楽に行き来できるのに」
フラン・ロレーヌがつぶやいたが、今のところその方法は明らかではない。
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『間もなくゲートが開放されます。周囲の飛空艇、イコンは、安全な位置にまで退避してください。ゲートに入る飛空艇は、プラヴァー・ギャラクシーの指示に従って、所定の位置についてください』
空港周辺にアナウンスが響き、各艦艇の動きがあわただしくなってきた。
速度差を考えて、先頭にフリングホルニが立ち、その後にエリシア・ボックのオクスペタルム号、閃崎 静麻(せんざき・しずま)のツインウイングが続き、不本意ながら鳴神裁らの乗った鬼頭翔のヒンデンブルク号とカル・カルカーのハーポ・マルクスを乗せたアルマ・ライラックのウィスタリアが続く。最後尾は、無茶なブロック変形をしたサツキ・シャルフリヒターのシュヴァルツガイストだ。
『ゲート開放します。一番艦から、順次進入してください』
管制指示と共に、ゲート内の空間がゆらめき始めた。ヴィムクティ回廊の境界面とパラミタ側の境界面の位相が時空間的に重なり合い同じ世界となる。二つの世界の重なった部分がゲートリング内の特殊な時空面だ。人の認識では漆黒の平面としか認識されないが、そこで異なる空間が接続している。そこを通り抜けて、異なる地点を別空間によってショートカットするわけだ。
この空間の接続が、ニルヴァーナによる超技術の産物であり、新幹線にも使われている魔法的な空間転移・召喚の術式も関係していると考えられているが、結局のこと検証はされてはいない。不可能だからだ。よくは分からないが、使えているというのが現状である。
すべての艦船を見送った後、かなり遅れてようやくアストロラーベ号に曳航された巡洋戦艦アルザスがゲートにむかった。
『位置調整、X軸+3、Y軸−2、Z軸+1。微速前進+1。ストーップ! 再度微調整を行う』
非常に細かく官制室からアストロラーベ号に指示が飛ぶ。そのたびに、巡洋戦艦アルザスに取りつけた姿勢制御装置が細かく噴射して位置を修正した。
風による誤差も生じ、修正は秒単位で発生する。なにしろ、ゲートと巡洋戦艦アルザスとの隙間が数メートルあるかないかなので、船体が風に流されただけで大惨事となってしまう。周囲に常にプラヴァー・ギャラクシーが待機し、不測の事態に備えている状態だ。
そのために、巡洋戦艦アルザスがゲートを通過するだけで、かなりの時間がかかってしまった。考え方としては、熟練の操舵手がガイドマーカーに沿って一定速度で通過するのが一番早くて安全ではあるのだが、なにぶん、巡洋戦艦アルザスは初めてゲートを通過する上にアストロラーベ号に曳航させているためにそれは不可能であった。
「なんとか、出発できたようだね。あたしたちも出発するよ」
巡洋戦艦アルザスを見送ったジェニー・バールが、ジャン・バールをうながした。
「ル・アンタレス号、発進!」
ジャン・バールが、空港から碇を上げた。
「アイランド・イーリに打電。我、パラミタ内海にて、敵要塞の探索に就く」
ジェニー・バールが、ゴアドー島に残るアイランド・イーリに連絡した。このまま、パラミタ内海の空賊を狩って、情報を収集つもりであった。