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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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「イーリは、ゴアドー島沖の雲海に固定。このままゲートの警備を行う」
 ゴアドー島到着後、艦隊を離れたアイランド・イーリでユーベル・キャリバーンが言った。
「残留艦隊の連絡は、イーリで纏めるね」
 リネン・エルフトが言った。残留艦隊と言っても、アトラスの傷跡に残った修理艦艇と、各地に索敵に行った艦艇が中心だ。現時点では、ゲートの守りは駐留しているプラヴァー・ギャラクシーが中心となっている。
「現時点では、アトラスの傷跡にシグルドリーヴァと鶺鴒とグリムロックとオリュンポス・パレスが滞在していますね。ゴールデン・キャッツとかぐやは、ちょっと損傷が大きすぎて動けないでしょう」
 ユーベル・キャリバーンが、パラミタに残った艦艇を纏めた。その他にも、イコンが何機か残っている。また、何かあれば別の艦艇やイコンも集まっては来るだろう。
「有事には、イーリをニルヴァーナへとむかわせることも考えておかないとね。その場合は、あたしはパラミタに残るとして、イーリはリネンに任せるよ」
「えっ、私!?」
 ヘイリー・ウェイクの言葉に、リネン・エルフトが目を丸くして驚いた。
 そこへ、イコナ・ユア・クックブックからヘイリー・ウェイクに連絡が入る。連絡網は、ちゃんと機能しているようだ。
 だが、そこでもたらされたのは、マスドライバーが攻撃されたという報せであった。
 
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 空港のVIPラウンジで休息していたエステル・シャンフロウの許を、カル・カルカーが訪れていた。
「少し、進言があるんですが」
 カル・カルカーが切り出す。
 その提案は、フリングホルニからの人員の乗り降りにハーポ・マルクスを使った方が、フリングホルニがいちいち着陸するよりも効率がいいのではないかということと、ニルヴァーナでの艦隊の集結地として、水上の町アイールはどうかというものであった。
「提案はありがたいが、それらの案は現状では必要ないな」
 エステル・シャンフロウに変わって応対したデュランドール・ロンバスが言った。
「乗降に関しては、フリングホルニには揚陸用のシャトルがあるので、大型飛空艇を着艦させて人員を移動させるよりも数段早い。時間の節約という意味では、形状にもよるが、着地を想定していない大型飛空艇はもともと不向きだな。それから、アイールであるが、供与してもらった地図をすでに検討してあるのだが、本艦が到着する場所は再廻の大地のかなり南寄りになる。最終目的地がどこになるかにもよるが、アイールは再廻の大地を越えてかなり北に位置する町ではないのかな。そこに移動した場合、かなりの時間的ロスになるのは明白だ。最終目的地が北であればそれでもいいのだが、もしも、南や東西の地点であれば、敵に対して致命的な後れをとることになりかねん。その責任をとれるというのであれば、貴艦とそれに随伴する艦はアイールにむかうことは許可するが、フリングホルニは再廻の大地のゲートにて待機とする。すでにアイールへとむかった先行艦もあるようだが、集結に時間がかかるのはあまり望ましくないな。最終目的地での合流に間にあえばいいのだが……」
 艦隊が分散していることを懸念するようにデュランドール・ロンバスが言った。超音速で飛行できるイコンであればさほど問題でもないが、足の遅い地上機や機動要塞では、合流したときにはすでにすべて終わっていたということもありえる。
 フリングホルニを始めとする多くの艦艇が、出発が遅れるのを承知でアトラスの傷跡の宇宙港で修理を行ったのも、時間の関係からだ。資材や設備の関係上、宇宙港であればアルカンシェル用の設備を使って相応の修理ができる。ニルヴァーナでは、アイールや中継基地まで移動するのは、距離的にも時間的にも得策ではなかった。再組み立ての必要なHMS・テメレーアや土佐であれば仕方ないが、それ以外の艦はメリットがなかった。
 
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 ゴアドー島の空港に、大型の巡洋戦艦 アルザスが到着した。乗っていたのは、黒乃 音子(くろの・ねこ)フランソワ・ポール・ブリュイ(ふらんそわ・ぽーるぶりゅい)である。
 すぐに、黒乃音子がエステル・シャンフロウに会いに行った。フランソワ・ポール・ブリュイは、巡洋戦艦アルザスの最終調整のために艦に残った。
 カル・カルカーと入れ替わるようにラウンジに入ってきた黒乃音子が、エステル・シャンフロウにぞんざいに一礼した。
「ボクたちは、シャンバラ王国軍として、正式に出動してきたものである」
 えへんと、黒乃音子が言った。だが、その言葉に、エステル・シャンフロウとデュランドール・ロンバスがちょっと顔を見合わせて戸惑う。
「そのような連絡は受けていないが……」
「問い合わせてみてください」
 エステル・シャンフロウに言われて、デュランドール・ロンバスがシャンバラ国軍に問い合わせた。
「やはり、出撃命令は出ていないということだが、貴官は、正式な命令書はお持ちか?」
 デュランドール・ロンバスが問い質した。正規の軍事行動であれば、金 鋭峰(じん・るいふぉん)署名の命令書が存在するはずである。
「いや、ボクの判断で新造戦艦を持ってきた」
「それは……」
 まずいと、デュランドール・ロンバスが言葉を呑み込んだ。完全な越権行為であり、軍規違反だ。そもそも、エリュシオン帝国がシャンバラ国内で正規の軍事行動を起こせないために、わざわざ傭兵という方便を使っているのだ。同様に、シャンバラ国軍によって事件を解決されては、エステル・シャンフロウは独力ではこの程度の事件も解決できないと見なされて領主の資格を失ってしまう。それを理解するからこそ、蒼空学園もイルミンスール魔法学校も、個人が勝手に協力しているというスタンスを貫き通している。いかなる組織も、戦力的な支援は行ってはいない。政治的な交渉による後方支援のみである。
「今の話は聞かなかったことにしよう」
 デュランドール・ロンバスが話を打ち切った。
「だが、マスドライバーを攻撃された。これは、シャンバラ王国に対する敵対行為である。それに関して、我々も黙っているわけにはいかない」
 黒乃音子が食い下がった。
「だが、それであれば、なおさら、我らと同行してニルヴァーナへ渡るのはまずいのではないのか? 国軍がシャンバラの守りを薄くしてどうするのか。ゆえに、ニルヴァーナへの出動命令は出ていないはずなのだが」
 当然のように、綿密にシャンバラ国軍と政治的交渉を行ってあるデュランドール・ロンバスが言った。そうでなければ、他国内で戦闘行為など起こせない。
 だいたいにして、すでに敵艦隊は撃破ずみである。ソルビトール・シャンフロウ個人を追跡するには、正規艦隊を率いていくのはあまりに非常識な戦力の投入だ。軍としては、考えられないだろう。だからこそ、傭兵団であれば、そんな非効率も私兵ゆえとこじつけができるわけである。
「たまさか、同じ目的地に貴艦がむかったというのは我々は黙認するが、それは、我々の関知するところではないことを承知してもらいたい。シャンバラ国軍とは、我々の作戦行動はあくまでも無関係である」
 きっぱりと、デュランドール・ロンバスが言い放った。そのとおりだと、エステル・シャンフロウや側近の者たちが一様にうなずく。
「であれば、せめて出発式をして、各員の士気を高めたいのだ」
 黒乃音子が別の提案をした。
「心情や、意味は理解するが、先に言ったように国としての軍事行動ではない。それに、すでにかなり時間を無駄にしてしまっている。この上、儀式的なことで時間を割くのは得策でないと考える。ゆえに、それは丁重にお断りさせていただく。ただし、我々の知らないところで、それが行われたとしても、関知しないことであるから問題にはならぬがな」
 勝手にやるのは大丈夫だと、デュランドール・ロンバスが言外に許可した。