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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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【4】 Re:NOAH【3】


「目を覚ましてください、皆さん!」
 魔法少女アンジェリーナことセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は、信者たちに見かね声を上げた。
「彼らは未来人。海京消滅と言う予め約束された歴史を再現し、あなた達に見せつけることで、支持を取り付けようとしているのです。あなた達は布教の種蒔きに利用されているにすぎません!」
「適当なことを言うな!」
「お前達なんかに騙されないぞ!」
「こうなったら……」
 アンジェリーナはアルティメットフォームで究極変身を遂げる。今まで隠していた翼があらわになり、神々しい雰囲気を纏う。
「目を覚まして……!」
 オープンユアハートを信者に放った。だが、彼女の願いも虚しく、信者たちの信仰は揺るがなかった。そもそも、信仰とは状態異常ではない。よってオープンユアハートで戻すことは出来ないのだ。
「ど、どうしましょう、詩穂様……?」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はニガムシを潰した顔で、ジッと自分の胸元を見つめている。
 アルティメットフォームで魔法少女の究極形態となった彼女は外見年齢20歳、花の女盛りにして、彼女の全盛期である姿になっている。ところが、そこに彼女の期待するものはなかった。
「なん……だと……!?」
 ぱんぱんと胸を叩く。そこにはあってしかるべき柔らかな感触は皆無だった。
「ふ、ふふふ。ふふふ……」
「し、詩穂様?」
 不気味に笑いながら、メルキオールに憎悪を向ける。
「私をここまで絶望させるとはなんという愚かな方なんでしょうか……!」
「そ、それ、あの方は関係ないと思います!」
 それから、詩穂はまじかる☆すぴあで、威嚇するようにメルキオールを指す。
「ともかく、あなたの好きにはさせないからね!」
「アナタも我々の邪魔をするのデスネ。超国家神の治める未来こそ、人類の辿り着くべき場所、幸福が約束された世界だと言うノニ。何故、それをわかって頂けないのデショウ」
「違う。約束された未来なんかいらないよ」
 彼女は言った。
「ましてや海京の……、誰かの犠牲の上に誰かが幸せになれるはずなんてないよ! 世界の未来はこれから作っていくもの、例えどんな困難がこの先待ち受けていようとも、みんなで乗り越えてみせる!」

「そう。本当の未来を指し示せるのは、本当の超国家神だけだ!」
 礼拝堂の二階、ちょうどメルキオールと詩穂たちが対峙する側から、吹き抜けを挟んで向かい側に、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は現れた。
 魔法少女シリウス・リリカルコスチュームに身を包んだ彼女は、堂々と手摺の上に立ち、信者たちの注目を集める。
「アナタは教会で一度お会いした……」
「覚えていてくれて嬉しいぜ、司教様……そうオレの名は魔法少女シ……いや」
 シリウスは考え、今、最も相応しい名前を口にする。「オレは超国家神・シリウスだっ!」
 信者達にどよめきが走る。
「ちょ、超国家神様……ってあんなんだっけ?」
「俺も写真でしか見たことねーからなんとも……。や、でも、ありゃねーだろーよぉー」
「うん。あんまり品とか無さそうだもんな」
「うるせぇ!」
 シリウスは怒鳴った。
「皆サマ、落ち着いてクダサイ」
 メルキオールが片手を挙げると、信者達は一斉に口を閉じた。
「あの者は超国家神サマの名を騙る邪教の徒、いえ、邪悪なる神の類いデス。悪しき言葉に惑わされぬよう信仰を強く持ってクダサイ」
「人を邪神呼ばわりたぁご挨拶だな。だったらお前の言う神とはなんなんだ? 万能の超国家神の名を唱えながら、お前のやろうとしていることは実に小物だ。神の名を騙って都合のいい世界を創ろうなんざ、それはカルト宗教の所業なんだよ!」
 指を突き付ける。
「聖書に曰く、黙示録の世には龍の顔で羊のように物を言う、偽の救世主が出現するという。お前がそうでないというなら、お前の信じる超国家神を片鱗でも見せてみろ!」
「では、あなたはその片鱗を見せられると?」
「今すぐ見せてやるさ。オレと仲間が、この馬鹿げた黙示録を終わらせるって形でな」
「!?」
 シリウスの身体が強烈な光に包まれた。彼女の信念に呼応してアルティメットフォームが発動し、ヴァンガードコスチュームに進化を遂げる。
「見せてやるぜ。超国家神、渾身のステージをな……!」
 マジカルステージのパフォーマンスを披露すると、信者達はその姿に魅了された。
「な、なんだろ。凄く輝いて見える……」
「さっきまで品がない女だと思ってたけど、何だか神々しく見える……」
「見たか。これが超国家神のカリスマだ……ん?」
 クルセイダーはまったく魅了されず、冷静にアシュケロンを接続させたライフルを構え、一斉掃射をかけてきた。シリウスは慌てて手摺から飛び降り、柱の影に身を潜める。
「馬鹿野郎! 人のステージを妨害するなんて、普通のライブなら出禁だぞ、出禁!」
 クルセイダーに精神を揺さぶるような攻撃は一切通用しないのだ。
「……まぁ、汚名返上の心意気は買ってあげるよ」
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は、シリウスのステージに気をとられている隙に回廊をまわり、メルキオールとクルセイダー達に迫る。
 武器を聖化させ、女王の剣を放つ。主を守るため立ちはだかったクルセイダーは、長剣状になったアシュケロンで繰り出される剣技をいなした。
「そのようなかよわき光など、我等を照らす曙光の前に消えゆく定め」
「……ふぅん。光輝属性はさほど効果的ではないか」
 効果が望めないことを悟ると、サビクは聖化を解き、目の前の敵と斬り結んだ。
「流石、教団の暗部を司る”剣”なだけはある……」
「ぐ……っ!」
 サビクは敵の一撃を弾くと同時に切り返し、両手の剣で回転しながら斬り捨てる。
「けど、ボクも”国家神”の刃なんでね……! 余所の”剣”に負けるわけにはいかないのさ」

「……また会えたな!」
 パラ実の喧嘩番長姫宮 和希(ひめみや・かずき)こと夜露死苦魔法少女☆バンハールは、フリフリの魔法少女衣装の背中に踊る『天上天下唯我独尊』の物騒な文字を見せ付けながら、メルキオールの前に現れた。
「……アナタも見覚えのある顔デスネ」
 武器を向けようとする彼を、バンハールは手を挙げて制す。
「やめろ。お前とは殺し合いはしたくねぇ」
「?」
「人間ってのは目を見れば大抵のことはわかるんだ。教会で会ったお前の目には嘘がなかった。てめぇの正義を信じてる奴の目だ。どんな犠牲を払っても教義に身を捧げる覚悟がバシバシ伝わってきたぜ。人殺しは許せねぇが大した根性だ」
「お褒めに預かり光栄デス」
「だからこそ、お前のやり方が気に入らねぇ。本当に世界の救済を望むなら、グランツ教が本当に正しいなら、その教えをもっと人の心に届けなきゃならねぇだろ。意にそぐわねぇ奴らは皆殺しで、教団を信じねぇ奴らは見殺しとか、癇癪起したガキじゃねぇんだぞ。
 お前だったらもっと沢山の人を救えるはずだ。俺と、俺たちと力を合わせればその倍の事だってできる。お前たちの助けを必要としてる奴らは沢山いるんだ。手ぇ貸してくれ、メルキオール……こんな事してる場合じゃねぇだろ!」
 心に響く熱い言葉に、メルキオールも少し戸惑った。
「……この時代にも激しくも清らかな魂を持った方がいらっしゃるのデスネ……」
「メルキオール……」
「アナタのような方が存在する事を、ワタシはとても嬉しく思いマス。ただ、それだけにアナタを葬らなくてはならないことが残念でなりマセン。ワタシはこの悲しみを胸に強く生きていくことを誓いマス」
「……なっ」
 合図とともに、クルセイダーの一団が彼女を取り囲んだ。
「ちっ……。しょうがねぇ、まずはお前らをブチのめしてやるぜ!」
 流派・万勇拳の構えを取り、全身から圧倒する闘気を放つ。
「三度のメシより喧嘩が大好き! うるせぇ奴には即飛び蹴り! 夜露死苦魔法少女バンハール!!」

「あなたの相手は詩穂がする……!」
 サビクとバンハールがクルセイダーを引き付ける間に、詩穂はメルキオールに挑む。彼の放つ得体のしれない気配を肌で感じ、気合いを込めてまじかる☆すぴあを握りしめた。
「……先生の純粋な夢を盗用した罪は重いんだから!」
「先生? ドナタのことデス?」
 彼は首を傾げる。
「でも、あなたの作ったメギドファイアにはホーミング機能がなかった。きっとまだ未来は変えられる。そう、未来の詩穂の胸の大きさもね……!」
 その瞬間、まじかる☆すぴあを複数の杖に分割させた。
「分身! 古代シャンバラ式杖術☆」
「ほう、素晴らしい攻撃デス」
 乱れ飛ぶ杖を、メルキオールはアシュケロンで迎撃する。彼の操る光の刃はまるで生きているかのように杖に食らいつき、全ての杖を一瞬で叩き落とす。
 そのまま詩穂にも斬撃が飛んでくるかと思われたが、一度に放てる斬撃の限界だったのか、そこで攻撃は止んだ。
「技は互角みたいね……!」
 詩穂はゴクリと息を飲む。
「おお。大変申し上げにくいのデスガ、それは大いなる勘違いと言うものデス」
「え?」
「神よ、ワタシの前に道をお示しクダサイ……教会剣術『剣の黄金律』」
 メルキオールの腕が閃くと同時に、しなる光の刃がそれぞれの軌道を描き、迫った。これまでにも何度か見せた、彼が得意とする六つの剣を同時に操る技だ。
 詩穂も古代シャンバラ式杖術で迎え撃つが、こちらの技は攻めに特化した必殺技、よって防御には向いていなかった。
「きゃああああっ!!」
 杖の防壁を打ち破り、斬撃が彼女の肩を斬り裂く。
「安らかにお眠りクダサイ。良き夢を」
 次撃で仕留めようとその手を構えた、その刹那、凄まじい打撃音とともにクルセイダーが上空に吹き飛ばされた。
「メルキオーーーールッ!!」
 彼らが吹き飛ばされた中心、その爆心地に闘気全開のバンハールが立っている。
「……流石、ワタシの認めた魂の持ち主デス」
「目ぇ覚ませ! お前はこんなことしてちゃダメだぁーーーっ!!」
 メルキオールの斬撃が襲い掛かる。一撃目、二撃目、三撃目を拳法仕込みの体捌きで躱し、四撃目は左腕を犠牲にして防御する。続く五撃目、六撃目はあえて食らう。頬をかすめ血がにじもうとも、脇腹を貫かれ血飛沫が舞おうとも、退くことなく、顔面に目覚めの鉄拳を叩き込む。
「――――――――っ!」
 吹き飛ばされたメルキオールは床に転がった。
「はぁはぁ……はぁ……、どうだ、目が覚めたかよ?」
 腫れ上がった頬と、流れ落ちる鼻血を拭いながら、彼はゆっくりと身体を起こした。
「信念と愛と魂が込められた凄まじい拳デス……」
「へへっ、効くだろ……。う、ぐ……」
 血のしたたる傷口を押さえ、バンハールは膝を突いた。
「何故、本気で殺す気で拳を打たなかったのデス?」
「バレバレか。流石、俺の認めた男だ……」
 微笑を浮かべる。
「そりゃお前、決まってんじゃねぇか。俺はお前を殺しに来たんじゃなくて、目を覚まさせに来たんだからよ……」
 彼は悲しそうにバンハールを見つめた。
「違うかたちで出会っていれば……、同じ信仰を持っていれば、アナタとは良き友となれたのかもしれマセン」
「道は違えど、わかりあえるさ。だから、もう意味のねぇ破壊はやめようぜ……」
「それは出来マセン」
「ど、どうしてだよ……?」
「それは、全てにおいて神のお与えになった使命が優先されるからデス」
 彼はトドメを刺そうとはせず、この場をクルセイダーに任せ、どこかへ立ち去った。